6話〜四天王全員が家に来た〜
いつも通り、ボクが屋敷の図書室で静かに本を読んでいると、玄関からピ〜ンポ〜ンと、インターホンが鳴った。
ボクは「は〜い」と答えて開けに行った。
「あ、イリシアさんが帰ってきたんだ!」
ボクはすぐさま本を閉じ、いつも通り笑顔で帰ってきたイリシアさんに抱きつこうと玄関へ向かったが、途中で足が止まった。
なぜなら、そこにはイリシアさん以外に、威圧感に満ちた三体の魔族が立っていたからだ。男の魔族が一人、女の魔族が二人。彼らは、強いオーラを放ち、無言でボクに試すような厳しい視線を浴びせてきた。
彼らの視線は、圧迫感を感じる。この強大な魔力の波動は、イリシアさんと同格、つまり四天王だと直感した。
そのとき、イリシアさんが言った。
「やめなさい! レイ君はまだ五歳の子供よ。子ども相手に何という威圧をかけているの?」
イリシアさんの一喝に、彼らは威圧を放つことを止めた。
男の魔族は、大きな手で頭を掻きながら笑った。
「ごめんごめん、つい癖でな。初めて会う奴に力の挨拶をしてしまう」
一人の女の魔族も、妖艶に微笑んだ。
「ごめんなさい、ちょっとおふざけが過ぎましたね。可愛い子を驚かせてしまって」
しかし、もう片方の、フードを深く被った魔族は、何も言わず、ただ静かに佇んでいた。
「……」
ボクは、彼らの威圧に屈することなく、身体をまっすぐにして、最大限のマナーをもって礼をした。
「わざわざお越しいただき、誠にありがとうございます。どうぞ、お上がりください」
その場の全員が驚き、一瞬の静寂が流れた。
最初に口を開いたのは、イリシアさんだ。
「レイ君、凄い……! ちゃんと礼儀正しい… 」
男の魔族は目を丸くして言った。
「なんだと? 自分より遥かに格上だと察して、怯むどころか、完璧な礼儀を通すとは……ただの人間ではないな。肝が据わっている」
妖艶な女の魔族が、面白がるように笑った。
「あら、マナーもちゃんとできてんじゃん! さすがイリシアちゃんの子」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それからボクは、四人をリビングへ案内し、お茶を出しながらソファーに座って会話を始めた。
イリシアさんが、改めて彼らを紹介した。
「この三人が、これからレイ君の師匠になる方々ですよ。」
男の魔族が、自己紹介をした。
「俺は鬼族だぜ! 名はラセツマル。敬語はいらない。お前には剣術をビシバシ鍛えさせてやる! 覚悟しとけよ、レイ?」
うわぁ〜、ハズレな先生みたいだ。この手の脳筋タイプは、理論より気合を重視するだろう。
次に、妖艶な女の魔族が、グラス片手に優雅に語りかけた。
「私は吸血鬼。名前はラミアよ。私の担当は魔法。私に対しても敬語必要ないし、そこまでかしこまらなくてもいいわ。でも、修行をサボってたりしたら、その可愛い体に刻印魔法を刻んであげるからね!」
体に刻印……ペナルティが常軌を逸している。美しくも恐ろしい。魔法の師匠としては最高だが、サボりは厳禁だ。
最後に、あまり喋らない魔族が、静かに自己紹介をした。
「わたしは、幽霊族。名前はリィネ。担当は座学」
説明、短いが、座学担当は非常に重要だ。魔族の歴史、世界の構造、魔術の基礎理論。彼女から学べることが、ボクの魔力量を最大限に活かす鍵になるだろう。
イリシアさんは、満足そうに頷いた。
「そして、私が座学で学ばない常識やマナー、社会生活上で必要なことを教えるわね。人間社会と私だけが教えられる、魔王領での大切な生き方よ」
ボクは、この豪華すぎる師匠陣に頭を下げた。
「皆さん、どうぞよろしくお願いします!」
それから、ボクは一つの疑問を口にした。
「イリシアさんと、この方々はどのような関係なのですか? まさか皆さん、イリシアさんのお友達ですか?」
この質問に、四天王たちは笑みを浮かべた。
イリシアさんが答えた。
「ふふ。それはね、私と同じ四天王よ。彼らは私と最も任務を共にすることが多い信頼できる仲間。今回、私があなたを鍛えるようにお願いしたの。特別中の特別よ。条件付きだけどね」
ボクは驚きながら言った。
「えーっ、そうなんですか!? 四天王の皆さんが、そんなに忙しくないんですか?」
ラミアさんが、優雅に答えた。
「忙しいに決まってるでしょ? でも、休みがないわけではないから、こうしてここにいるの。四天王全員が同時に休みを取るなんて、本来なら魔王様が許可しないんだけど、イリシアが特例で頼み込んで、許可を取っているのよ」
ボクは感謝の気持ちでいっぱいになった。
「ありがとうございます。皆様に、本当に感謝します」
イリシアさん、ラセツマルさん、ラミアさんが、口々に笑った。
「大丈夫よ!」「問題ないぜ!」「いいの、いいの〜」「……」
リィネさんは相変わらず何も言わないが、静かに頭を下げたように見えた。
ボクはさっきの会話で気になったことを聞いた。
「それで、イリシアさんが言っていた条件とはなんですか?」
イリシアさんは、ふわりと微笑んだ。
「それはね、君の才能を、彼らが直接確かめさせてもらうことよ」




