1話〜転生したけど捨てられた!?〜
突然、意識が浮上した。
気づけば、身体は赤子になっていた。
ぼんやりとしか見えない視界の先に、父親らしき人と母親らしき人の姿がある。
おそらく、俺を産んだ親なのだろう。
その2人は赤子のボクをじっくり見るように覗き込んだ。
「見て、あなた……この子の髪と目……黒いわ」
その声は、喜びに満ちてはいなかった。
なぜか、ひどく怯えているように聞こえる。
言われて初めて、自分の姿が黒髪に黒目なのだと理解した。
この色が、何か問題なのだろうか。
前世の記憶では、黒い髪や瞳はただの色だったはずだ。
「ああ……そうだな……」
父親らしき男の返答は、重く沈んでいた。
病室…じゃなかった、豪華な寝台のある部屋に、耐えがたい静寂が流れる。
この空気は、なんだ?
重厚な扉が開き、誰かが部屋に入ってくる。
「そいつを早く殺せ! その黒の髪と目は悪魔の象徴だ。シュタルク家の恥になる前に、産まれていなかったことにしろ!」
「ゼロス様、どうかこの子を殺さないでください!」
「ダメだ! 忌み子をこの世に残すわけにはいかない!もし、バレたらシュタルク家の終わりだ!」
「私が産んだのです。責任を取りますわ。どうか、この子を生かして……」
一族の長らしき男と、母親との間で激しいやり取りが交わされる。
「この子を殺すのは、かわいそうだと思います。望んでこのように生まれたわけでもないので…」
父親らしき人がそういうと、一族の長は懇願を渋々受け入れた。
「ううむ……分かった。だが、くれぐれも忌み子が生まれたと世間にバレないようにしろ」
「はい、わかりました…」
ボクが黒髪、黒目で悪魔の象徴?殺されはしない。けど、ボクの存在自体を隠蔽しようとしている。
そんな疑問と恐怖、そして悲しさを抱えながら、赤子の身体は抗うこともできず、眠りに落ちていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次に意識が戻ったとき、俺は静寂に包まれた森の中にいた。
辺りには、木々の太い幹と、深い影が広がり、太陽の光さえ届いていない。
そこには、父親らしき人と母親がいた。
母親に抱かれ、木の根元に横たえられている。
彼女はぼろぼろと涙を流していた。
「ごめんね……自分の子供を捨てるなんて、酷いことだと分かっているの。本当にごめんね……レイ。どうか、元気に育って……」
レイ。
それが、この世界で俺に与えられた名前。
「ごめんね……」
父親らしき人は言葉がでず、ただ母親の肩に手を置いた。
母はそう言うと、二度と振り返らず、森の奥へと走り去ってしまった。
転生前の自分は何者だったかの記憶はほとんどない。
だが、残った知識と感情が告げていた。
孤独だ、と。
前世も孤独だったらしい。
この世界に転生してまで、俺はまた孤独になってしまった。
悲しい、寂しい、辛い。
赤子の身体とは裏腹に、悲しい感情が胸にくる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
近くに魔物の気配がする。
赤子の身体では、もちろん何も抵抗できない。
もう一度死ぬのか
死ぬのは怖い
そう込み上げる恐怖に耐えられず、俺は反射的に泣き出してしまった。
赤子なのだから、仕方がない。
その泣き声に誘われるように、森の闇から一体の魔物が現れる。
これで、ボクの人生も終わりだと思った。
そう覚悟した、その瞬間。
魔物は、突然その場に倒れた。
何が起きた。
訳が分からず目を凝らしていると、倒れた魔物の向こうから、黒い影がゆっくりと現れた。
「大丈夫ですか?」
その影は、女の悪魔に見えた。




