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正岡家と妖怪  作者: 名城ゆうき
◆番外編:百鬼夜行~またの名をハロウィン~
9/12

◇3



「あっら~邦雄ちゃんしっかり大きくなっちゃって~。そろそろお姉さんとイイことしな~い?」

「悪いけど、錦以外は興味ナシ」

「もう~つれないわぁ~」

「兄ちゃんただいま……」

「おっせぇ」


 帰るなり兄ちゃんの一層不機嫌な声が響いた。そんな兄の腕には19歳くらいの美女がひっついていた。木のにおいがほのかにするからこいつ、カブソだ。兄ちゃんは丁重に彼女(?)に断って腕から手を外させると、俺に向き直った。


「5時までに帰ってこいっつっただろ」

「ごめん」


 言い訳を言えば余計不機嫌になるから、かわりに俺は急いで謝るしかない。錦ちゃんならともかくカブソに絡まれて兄ちゃん、超不機嫌だ。

 もっと早く帰るんだった。もう黄昏時だ、みんな来てる。急いで玄関を上がると俺は隣りで立つ一本ダタラを横目で見ながら素早く自分の部屋に上がった。化け狸の焚之助タノスケが勝手にベッドの上でくつろいでいたけど、遠慮なくカバンを放り投げてやる。「ほごっっ」という意味不明なうめきも聞こえてきたが、なかったことにして、瞬時に適当に引き出しから出したシャツとズボンという楽な格好に着替えた。


「ひでぇ!お前の兄貴、いやいや、親父、かくなるうえは一族の皆を見守ってきたわしになんてあつかい!」


 焚之助がベッドから起き上がって抗議を申し出た。今は人に化けているため、見た目は20代後半あたりのいい大人が駄々をこねているように見える。つか、人の部屋に勝手に上がりこんでくつろいでたくせに、これはないだろ。ちゃっかり漫画もぱっくって読んでんし。


「いや、ほんと急ぐから。黙ってろよ」

「まったく、正岡の皆はこういった行事になると騒がしいなぁ。楽しめばいいものを……」

「焚之助」


 俺は正面に向き直ると溜め息をついた。

 焚之助は俺の枕を肘置き変わりにしてこちらを見ていた。相変わらず1つにはくくっているものの、髪が長い。ちなみに身長も高い。狸のくせに192かよ……。まだ成長期に入ったばかりの俺にはうらやましい。


「お前ら妖怪どもがそうさせるんだよ。……祭りごとになるとうかれるのはわかんだけどさ、ほどほどにしとけってんだ。調子のんなよ?」


 ぶっきらぼうな言葉遣いをすると、焚之助はうろたえて一瞬、目を泳がすと手をついて頭を下げた。


「……す、すまん。妖が人とうまくやってくように、正岡は警邏の役目を担っているのだったな」


 素直に謝る彼。こういうところは好きなんだけどな。


「だから機嫌を直せ。その可愛い顔が台無しじゃないか」


 ……一言余計だ。


 所詮、彼にとって俺はまだまだ子ども……むしろ赤ちゃんといっても差しさわりのない。焚之助からすると曾じいちゃんでさえ可愛いんだ。……焚之助、九百歳超えてんだよな。とりあえず、すぐさま兄の元へ行った。キレたら怖いのは兄ちゃんだ。


五槻宮伊成いつきのみやいなりさんはいらっしゃいますか?」


 兄ちゃんの元へ行くと先ほどからんでた妖怪はいず、兄ちゃんは携帯で電話をかけていた。

「はい…………あ、久しぶり!今日、応援に来てくれない?やばいんですよ、多すぎて。……そうそう。え?無理?……デートぉぉぉ!?伊成さん!冗談言ってる場合じゃ………え?……日和ちゃんと?…いや、冗談は………………まじっすか。う……それは呼び出せないじゃん……。て……ことは祷さんも一緒か。……ですよね。あ、うん、ありがとう。じゃ……頑張ってください」

「……イナリさんもイノリさんもだめだって?」

「……ああ。あとから来れたら来るってさ」

「日和ちゃんとのデートの後?無理だな」

「十中八九」


 俺らは伊成さんの性格から結論を出した。頼みの綱の一つがなくなった。


「マサとユウ兄らも用事あるみたいだしなぁ……。安栖アンザイ家全滅!」


 いつもなら応援に来てくれる安栖のみんなまで来れないとは、なんて不運なんだ。最後の綱までなくなった。今年は厄年か?などと思いながら俺と兄貴は顔を見合わせると苦笑いした。とりあえず、なにがなんでも今日はのりきらなきゃならない。


「とりあえず、いくぞ。……焚之助!」

「はいはい。邦雄、落ち着けよ?」


 仕方ないなぁと幼い弟の面倒を見る羽目になった兄のようにつぶやきながら、焚之助は後ろからやってきた。

 そのまま、俺らは家に鍵をかけると外へ出た。父さんや母さんは先にパトロールに行ってるんだろう。

 妖怪のみんなは祭りごとが好きだ。基本的には妖怪は陽気で気さくな奴が多い。ただ、悪戯心が並大抵じゃないところが難点。そしてそんな彼らは行事があるとここぞとばかりに遊びだす。つまり、悪戯をしてしまう。

 普段から妖怪っていうのは存在はする。でも、普通の人らが妖怪らにあまり気づくことはない。死角にいたり、存在感が薄いっていうのもあるけど、まわりの物に同化しすぎて逆にわからないというのがある。まぁ、小さい子どもや子供心のある人、ようするに妖怪たちと波長が合う人はよく見かけるけど。あとはすっごく繊細で神経質の人も見える。どちらにしてもどんな人も妖怪は見ることができるけど、気づく人は少ない。

 それが普段の時。しかし、こういった行事や異界の扉が開くといわれる時期になると話は変わってくる。普段見えない人でも存在を認識しやすくなってしまうみたいだ。祭ってなんかそれだけで雰囲気が普段と違うだろ?きっと呼び寄せられんだろうな。大体祭って言うのはもともと儀式みたいなもんだったんだし。楽しいことならなおさら魅かれる。で、そういう時って人間でも浮かれるだろ?妖怪も同じ。あいつらちょっかいだしたくなるんだよなぁ。そこで俺らの一族の出番で、あまりな行動にでる妖怪に注意するということになっている。

 そんな感じで俺らは少し暗くなってきた夜道を歩いている。あちら側、妖怪の世界の祭は父さんらに任せて、兄貴と俺と焚之助はこちら側を見る。ある地点に来ると、兄ちゃんは立ち止まって俺と焚之助を見た。


「んじゃ、ここで別れよう。智紀、携帯もってんな?」

「もち」

「焚之助、妖力は?」

「心配無用」

「じゃ、なんかあったらお互い呼べよ。智紀はくれぐれも妖怪といる現場を見られないように」


 そう兄ちゃんが言うと俺らは三手に別れた。

 とりあえず、俺は妖怪が好きそうな、気配を感じる場所に足を向けることにした。もうすでに日は沈んでいて、あたりは真っ暗だ。あちこちに狐火、鬼火がういていたり、朱の盤やらぬらりひょん、河童らが闊歩しまくっている。


「あ゛~……こんにちわ」

 しばらく歩いて、まず声をかけられた知り合いは鎌鼬のキーさんと田村さん、人面犬だ。ちなみに田村さんは29歳の女の人。体がデカい。四つ足ついて俺と同じくらいの背丈というデカさ。これだけでたいていの人は気味が悪いと顔をしかめるかもしれないけど、俺はそんなことないと思う。実際会ってみれば皆も分かるだろう。別に綺麗な人の良さそうな顔だし、ゴールデンレトリバーの身体は大きけれど艶やかなな毛並で、可愛らしいと言っても語弊ではないくらいだった。

 外見は人面犬であったとしても田村さんはかなりかわいい、綺麗な人だ。


 そう、外見は。


 むしろ最初に会った時

 なんていうか……


「ごんにぢわ~、いい夜だすな~」


 柔らかな笑顔で話しかける田村さん。想像とはかけ離れたおっさんのような低い濁声とそれを助長する言葉使い。ここで一気にみんな迷わず引く。実際、大きな柿の木の枝の上にすわっていたタンコロリンが田村さんに驚いて、持っていた柿の種をばさぁっと地面に落としてしまっていた。

 ……なんていうか、非常に申し訳ないけどトラウマに近いものを感じてしまった。これさえなければといつも思う。


「そ、そうですねー」

「智紀ぐん、見回り頑張っでぐんなぁ」

「……はい、ありがとうございます、田村さん」


 俺が愛想笑いをする(頑張った)と田村さんはにこりと微笑み、幼馴染みのキーさんとともに去っていった。

 気を取り直して深呼吸をすると、通りすがりの手長足長に挨拶をして(内心悪戯好きな彼らに気を張っていたが幸運なことに機嫌がよかった)歩いて行った。

 すると垢舐めが団体様で汚いという噂の白木さん家に、毎月恒例で入っていくのを目撃した。俺は人が誰もいないか確かめ、しばらく白木さん宅の塀にもたれかかって彼らを待つ。

 彼らは白木さんを好いているのか、よくここにおとずれる。そして風呂と白木さんが経営する銭湯の掃除をするんだ。ちなみに銭湯のほうはまめに掃除をしてあるから結構綺麗らしい。

間もなくすぐに家から垢舐めは出てきた。


「お前ら、汚れを移す時は不特定多数の家に分散してなー?」

『……………』


 俺が言うと垢舐めはそろってうなづくと再びぞろぞろと次の目的地へおもむいていった。

 ここまではなんとかおとなしい妖怪ですんだな……

 ふと、安堵の溜め息をつく智紀。

 でも、油断は禁物だ。そろそろ誰かにからまれそう。むしろ誰も俺に絡まなかったのが不思議なんだ。女の子の飛頭蛮がゆらゆら宙をさ迷いながら飛んでいき、ブルブルの親子がこちらに手を振るのに答えながら、誰もいない公園のそばを通り過ぎた。

 ……というより、よくよく考えてみると妖怪たちがいるものの一般人にはあまり見えないわけで、つまり暗い夜道を一人で歩いている状態に等しいわけだから…今の俺、別の意味で危なくね?俺はふと、素朴な疑問を浮かびあげてしまっていた。最近誘拐事件とか殺人事件が起きているから、男でも結構危ないと思う。でも、いざとなれば妖怪たちにおどかしてもらうか、焚之助に来てもらうかしたらいいな。と、そんなことを思いながらかわず歩いていく。

 すると、前方でなにやら人だかりができているのが見えた。それも人通りの少ない狭い路地なのに何人もいる。なんだろうと近づいていくとそれは勘違いだったみたいだ。て言うか人じゃなかったんだ。

 お坊さんの格好をした鉄鼠、シングリマクリ、酒呑童子、かしゃぼ、一反もめん、アカマター、目くらべ、毛倡妓、牛鬼などが輪を組んで集まっていた。

 どうりで人の気配がしなかったと納得して、その妖怪だかりの前で立ち止まると彼らはなにか話し合っているようだった。妖怪達は俺に気づいていない。


 なんか、怖い、危ない系の妖怪が結構集まってね?


 やけに話している内容が気になった。






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