「純文学やってる俺、カッコいいでしょ?」“The literary elite act”
『誰も応えぬ、勇者の国』 ――現代・幕末的ファンタジー録
「誰も返事をしない。いや、聞いていないだけか」
勇者は村の広場に立っていた。
大声で叫んだわけではない。
ただ少しだけ、世界に言葉を向けてみただけだ。
それなのに、空気のようにすり抜けていく。
この国では、「終わってる」と言うのが一種の挨拶だった。
夜の酒の肴。昼のつぶやき。朝の気分転換。
だが本当に終わっていると思っている者は、ほとんどいない。
むしろ「なんだかんだで続くだろう」と、誰もが甘く思っている。
勇者は笑った。
“魔王”などいない。
ただ静かに腐っていくこの空気こそが、本当の敵かもしれない。
彼は言葉を記す。
少し刺すように。少し笑えるように。
読まれるとは思っていない。
だが、どこかの誰かが火を拾うかもしれないから。
「仲間なんて、もういないのかもな」
そうつぶやいて、勇者はまた次の言葉を投げる。
返事はこない。
だがそれでも、語るしかない。
この国で唯一、まだ目が覚めているのが自分だけなら――
語ることをやめたら、本当に全てが終わる気がした。