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サイレント魔女リティ  作者: ゼットン
五章 静かなる魔女リティ
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復活の報せ


 その報せが王都を駆け巡ったのは、勇者一行を祀る式典から一ヶ月ほど後のことだった。


「た、大変だ! フランシスカ湖のある森林付近の魔障が拡大しているんだよ!」


 不穏な報告を轟かせたのは、とある冒険者だった。


 魔女の死後、王都郊外にある森林の魔障は自然的に消滅されると見込まれていた。しかし、万が一のこともありうる。予期せぬ非常事態を警戒して、週に一度、冒険者が森林の調査に赴いていたのだが、遂に恐れていたことが起こってしまった。


 すぐに勇者一行は招集された。


 元凶たる魔女は死んでいるうえに、魔障に侵された獣なども駆除している。魔女教の残党はいても、彼らは魔女ではないのだから、侵食が進むことはない。


 以上のことから、勇者一行の魔導士を務めるルーシー・メルブラッドはこう結論づけた。


「魔女は生きている。もしくは、新たに魔女が生まれた可能性があります」


「ば、バカいうなよ! オレたちはしっかりと魔女の死体を確認したし、燃やされてもいるんだぜ!? 魔女っつーのは死から蘇るほどに化け物なのかよ!」


「……いえ、いくら魔女といえどそこまでは……」


「ということは、新しく魔女が生まれたということなの? 魔女っていうのは、そうも簡単に生まれるものなの?」


「さぁ……そもそも、魔女が生まれる過程自体、解明されていないのでなんとも。私たちが仕留めた魔女を解剖しても結局判明したことはありませんし。考えられるとしたら、錯乱した魔女教の残党が魔晶を口にして、偶然魔女として覚醒したとしか」


「おいおい、冗談じゃねぇぞ。もう一回、オレたちに魔女狩りをしろってのかよ? しかも、あんときとは状況が違うんだぞ。もう、嬢ちゃんを潜入させることはできねぇ。つまり、魔女の呪文を知る手立てがねぇ。どうやって、魔女を殺すっていうんだよ」


「わかりませんよ、私にも。呪文は推測するほかありません」


「おいおい、ふざけてるだろ。魔女を相手にしながら、呪文のクイズをしろってか? 命懸けで? はっ、話になんねぇな」


「オルフェ、嫌味をいっても仕方ないでしょ。とにかく、なにか手を打たないと。クリフ、どうするの?」


 いずれにしても、今後の方針を決める決定権はクリフにある。


 ナナイが椅子に座ったまま静観するクリフを見やると、全員の注目が集まる。それでも、クリフはしばらく唇を引き結んでいたが、薄く溜息をつくと、口を開けた。


「打って出るしかないだろう。俺たちは勇者一行だ」


「そりゃそうだろうな。でもよ、勝算はあるのか?」


「限りなくないが……ゼロじゃない。幸い、うちには魔女教に精通する優秀な暗殺者がいるんだ」


 そう言って、クリフが視線を投げたのはシェスカだった。思わぬ形で白羽の矢が立ったシェスカは、動揺に目を白黒させる。


「私……ですか?」


「そうだ。魔女教の内部を知っている君なら、魔女になりうる者にも思い当たる節がないか?」


「そうですね……」


 顎に手を当てて、思案する。記憶を遡り、魔女教の面々を思い返す。


「これが私たちへの報復を意味するのなら、強い意志と信念を持った者が魔女になっていると思います。魔女教の人間の多くが該当しますが、感情を表に発露する激情型の者になら、心当たりが」


「アテがあるのですか?」


「はい。魔女教は互いを同胞とし、家族を模した組織体制を敷いていました。心当たりのある人物は、私の世話役を任された姉です」


「……ふぅん。ていうことは、シェスカとは親密である可能性が高い。加えて、激情型なら説得や揺さぶりにも弱い可能性もある。呪文についても、探れそうかな?」


「はっきりとは断言できません……が、やりますよ。私は、勇者一行の暗殺者ですから」


 もう、片田舎で暮らしていた頃の冴えない村娘ではない。王直々に栄誉を賜り、皆から認められた勇者一行の一員なのだ。その矜持を胸に、答えてみせるシェスカにクリフは満足したようだった。


 にやりと口の端を吊り上げて、頷く。


「頼もしいな、本当に。シェスカはやっぱり、生まれ変わったんだよ。俺はそれを心から嬉しく思う」


「ありがとう、ございます」


「さて、うちの暗殺者がそう言ってるんだ。情けない弱音ばかりを吐いていられないだろう、俺たちも。魔女教は一人も残さずに殲滅する。それが俺たちに課せられた使命だ」


「ちっ、やるしかねぇか」


「……承知しました」 


「そうね。恵まれない境遇に同情もしたけれど、人々を恐怖させる魔女が生まれ続けるというのなら、わたしたちのやるべきことは一つしかない」


 バラバラに散りかけた一行の結束が、クリフの一言で固まる。混乱に淀んでいた空気が引き締まり、一陣の風が吹き抜けていくような感覚があった。


「お、王都の兵も招集したほうがいいでしょうか?」


「いいや、相手は未知なうえに俺たちは敵地に乗り込む。奴らもバカじゃない。罠くらいは張ってるはずだ。王都の兵団には、俺たちにもしものことがあったときの砦を務めてもらいたい」 


「もしものこと……ですか」


「安心してくれ。俺たちはやられはしない。悪を倒して、必ず帰る。それが、勇者だからな」


 不安そうに眉を顰める王都の兵士の肩を叩き、クリフは外套を羽織る。


 その背に彫られたのは十字架の意匠。聖剣たるカリヴァーを模し、悪を滅する正義を顕すそれを背負って、王宮の扉を押し開けた。

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