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サイレント魔女リティ  作者: ゼットン
四章 悪辣たるマイノリティ
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魔女なんかよりも残酷な

カランカラーンと、大鐘が盛大に打ち鳴らされる。色鮮やかな紙吹雪が蒼穹に舞い、野太くも迫力のある管楽器の演奏が奏でられる。


 乾いた拍手が幾重にも重なり、人々の歓声と甲高い指笛が王都全土の熱を高めていく。


「……すごい」


 鞍に跨り、馬によって王都の道を闊歩するシェスカは完全に圧倒されていた。


 馬上から一望される光景には、大勢の人々の笑顔がある。年齢も性別も関係ない。魔女狩りと成し遂げ、世界に安寧をもたらした英雄たちをひと目でも見ようと押しかけた者たちが、絶え間ない祝福と賛辞を投げかける。


「勇者様ー、ありがとう!」


「ルーシー様こそ、偉大なる大賢者です!」


「ナナイ様の佇まいキレイ! てか、カッコいい! わたしもああなりたいな」


「オルフェ様はやっぱり渋いな! 漢って感じがするぜ」


 どれもこれも気恥ずかしさによがってしまいそうな言葉の数々だったが、勇者一行としては手慣れた様子で手を振っている。


 無論、シェスカとて例外ではない。


「あれが新しく勇者様のお仲間になったシェスカ様だ!」


「本当に髪が赤い……。それにしても、なんて美しいの」


「天然ものだもんな。色味も艶も違うっていうかね!」


 憧憬の的となり、いくつもの視線が集中する。居心地の悪さに身を捩ると、多くの人々の髪が真っ赤に染め上がっていて。 


 どうやら、王宮の侍女やルーシーが言っていたことは事実だったようだ。


「シェスカ様! こっちを向いてください!」


「シェスカ様の勇敢なる行動があって、我々の平和があります。ありがとうございます!」


「……そんな、大袈裟な」


 かつて、シェスカが夢見ていた妄想が現実となっている。本来なら、諸手を上げて喜ぶべきはずなのに、やはり違和感がつきまとう。


 否、これは単なる違和感などではない。腹の奥底で根深く巣食い、わだかまるこの感情は――罪悪感にも、似ていた。


「偉大なる勇者一行よ。魔女狩りという大儀を果たし、よくぞ帰還した。今後一切、貴公たちを超す冒険者は現れないだろうよ」


 そして、式典は凱旋から王直々による戴冠式へと移行する。


 赤いカーペットが敷かれた台座の上に設えられた玉座にふんぞり返るフリーゲン国王の眼前へと跪く勇者一行。こういった格式の式典に参加したことのないシェスカとしては見様見真似で倣うしかないが、おどおどと慌てふためくシェスカに、フリーゲン王が一瞥をくれる。


「シェスカ・フランシスカといったか。聞くには、貴公の働きなくば魔女狩りは成せなかったとか。よくぞ、やってくれたな」


「い、いえ……勿体なきお言葉……で、です」


「その赤い髪……さぞ、いらぬ苦労をしてきたことだろうよ。しかし、喜べ。神は貴公を見放さなかった。それは呪いではない。いずれ魔を打ち滅ぼすための布石に他ならなかったのだからな」


「……はい」


「さぁ、皆の者! 彼の絶大なる武勲を上げた者たちに大きな拍手を! 彼らこそが、真なる正義の使者よ!」


 フリーゲン王の高らかなる号令に、民衆がたちまち喝采を響かせる。


 その間、勇者一行たちは王より賜った冠を頭に被せられ、シェスカはその重さにつのめりそうになる。

 はじめて他人に認められ、授かった成果。金色の輝きを放つ冠に、複雑な感慨を抱いているときだった。


「さて、いよいよ式典も大詰めだ! 魔女の火炙りを執り行う!」


 にわかには信じ難いフリーゲン王の言葉が、鼓膜を劈いた。


「……え? 魔女の火炙りって……だって、魔女は……魔女様は死んだんじゃ……」


「シェスカ。これは魔女狩りを祝し、俺たちを讃えてもらう式だけどさ、一番はみんなが平穏を噛み締める意味合いがあるんだ。それにはさ、ちゃんと実感しないとダメだろ? 魔女は本当に死んだんだって」


「なにを……言っているん、ですか? 魔女様は死んでるんですよ。その遺体を火で燃やそうというんですか? いくらなんでも酷過ぎますよ!」


「? 君こそ何を言っているんだ。彼女は人間じゃなくて魔女なんだから、仕方ないだろ?」


 最低限の尊厳すらない。悪魔の所業としか形容できない暴挙を糾弾するが、クリフが相手にすることはない。どころか、ナナイもオルフェもルーシーも、民衆の一人だって困惑する者はいない。


 清々しさすらある晴れやかな表情をもって、大通りを眺めている。


「……あぁ、あぁああ!?」


 悲鳴が、溢れる。涙が流れて、声帯が痙攣する。


 煉瓦で作られた大通りでは、屈強な男たちが鎖を引っ張っている。


 チャラチャラ、チャラチャラと。金属音を奏でる鎖の先にはきつく締め付けられたアルテイシアの遺体があり、男たちは地べたに引きずりながらある場所へと連れていく。


 そこには、薪が組み上げられた処刑台があって。太い木で形作られた十字架に、アルテイシアの遺体が縛られる。


「……まって。いやだ。そんなこと……ゆるされて、いいはずがないのに。まちがっているのに」


 懇願がこぼれる。拒絶反応に吐き気がせり上がり、唾液が垂れる。


 しかし、事態が止まることはない。男たちがゆらゆらと揺らめく炎が灯る松明を掲げ――油を塗った薪へと放った。


 わっと民衆が沸いた。凄まじい光が爆ぜ、熱が空に駆け昇る。ぱちぱちと火花が弾け、肉が焼ける焦げ臭さが辺りに充満した。


「いや……いや、いやぁああああああ!?」


 ずっと、封じ込めていた。言い聞かせて、押し殺していた。


 自分がしてきたことはおかしくない。これは正義なんだ、と。呪文のように唱えて。


 けれど、すべてが決壊した。ひとりの人間を市中に引き回し、衆目に晒したうえで尊厳を踏みにじることを良しとする人々を守り、仲間としてしまった。

 

 魔女なんかよりも、よっぽど悪魔だというのに。


「――シェスカ!?」


「シェスカさん、どこに!」


「おい、嬢ちゃん!」


 内側で暴れ回る激情のやり場もなく、シェスカは駆け出す。仲間の制止も振り払い、真っ白なドレスを砂と泥で汚して。真っ赤に炎上するアルテイシアを背に、式典をあとにした。

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