はじまり
真っ赤に燃え盛る炎が、ごうごうと逆巻く。積み上げられた薪が割れ、火花が爆ぜる。黒い煙が天高く立ち昇り、青空に浮かぶ太陽の光を曇らせる。
「ごほっ、ごほっ」
焦げ臭い黒煙が目に沁みて、噎せ返る。足元で燃える炎に爪先が炙られて、激痛が絶え間なく押し寄せる。
しかし、逃げることは叶わない。少女の身体は杭に縛られ、自由を奪われているのだから。
「悪魔の末裔が! はやく死ね!」
「なんておぞましい! とっとと消え去さってよ!」
立ち込める黒煙の向こう側で集まる群衆から、容赦のない罵声が飛んでくる。研いだナイフを彷彿とさせる鋭利な視線が、火炙りされる少女に突き刺さる。
「――っ」
懸命に反抗しようとしても、ひとたび口を開けば黒煙が喉を焼いてしまう。口内の水分は瞬時に蒸発し、舌がぴりりと痺れる。
もはや、言葉を発することすら許されない。人間としてのあらゆる権利を剥奪された少女は、迫りくる死を待つだけだ。
――ふざけてる。
少女は内に秘める魂から怨嗟を叫ぶ。
――よっぽどお前らのほうが悪魔だろうに。なにも知らないまま、自分たちが絶対的な正義であると信じて疑わない。それがどれほどに愚かなことか、こいつらは知らない。……でも。
激しく燃え盛る業火のなかで、少女は項垂れる。
――私だってそうだ。なにも知らないまま、取り返しのつかないことをしてしまった。結局、私も悪魔だってことだ。
死を目前にしているからだろうか。走馬灯さながらに駆け巡る自分の半生の罪深さに、少女は絶望する。
このまま、自分は悪魔として葬られるのだろうか。最低最悪ともいえる終幕に、吐き気を催す。
――嫌だ、死にたくない。私は悪魔じゃない。人間でもない。……私は、魔女だ!
俯いていた顔を上げる。
見据える先には、顔面を紅潮させて必死に喚き散らす民衆たちがいて。降り注ぐ幾千もの憎悪を真っ向から受け止めるように睨んで、かさつく唇をこじ開ける。
舌の感覚はないが、関係ない。あまりの炎の熱さによって意識が朦朧とするが、どうってことはない。胸の奥で滾る魂の熱が、冷めない限りは。
そして、延々と続く苦痛の連鎖のなかで少女――魔女は唱える。
「いたいのいたいの、とんでゆけ」