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彼女には、シナリオ通りが通用しない

早速のブクマ、評価してくださった皆様

ありがとうございます٩( 'ω' )و

引き続き、紫炎のニーナをよろしくおねがいします!



 時間は戻って現在――     



 リシアとニーナは困っていた。

 お互いに軽く自己紹介をすませ、リシアがニーナにお礼を言ったところで会話が止まってしまったのだ。


 だが、別にそこが問題なのではない。


「さてと、どうしたものでしょうか」


 問題なのは、倒れた三人とオークの焼死体の扱いだ。

 

「抱えて運びます?」


 何ともなしに、リシアは訊ねる。

 一応、身体強化の月想技(アーツ)が使えるので、抱えることはできるのだ。


 その提案に、ニーナは困ったような顔をする。


「可能か不可能かで言えば可能ですが……」


 それはニーナも同じようではあるが――


「貴女――リシア様でしたか? お二方を抱えるコトは可能?」

「まぁ可能か不可能かで言えば可能です」


 リシアが素直にそう答えると、ニーナは一つうなずいた。


「では、お願いします。

 私は令嬢を一人と、オークを運びますので」

「わかりました。

 あ、二人目を持ち上げるのだけ手伝ってもらっていいですか?

 抱えるのはともかく、一人を抱えたままもう一人を拾うのはちょっと自信ないです」

「ええ。構わなくてよ」


 モヴナンデス伯爵令嬢は、なんとも規格外な変化をしてしまっているようだが、それでも人としてはそこまで悪い人ではなさそうだ。


 そうして、リシアは令嬢二人を両肩に――いわゆる俵様だっこで抱えた。


 ニーナも片側では令嬢を俵様抱っこで持ち上げ、もう片方の手でオークの頭部を鷲掴みし、引きずりだす。


「では参りましょうか」

「ええっと、はい」


 迫力美人とはいえ、伯爵家のご令嬢。

 そんな人物が意識を失った令嬢抱えてオークを引きずる姿というのは何ともいえないモノがある。


(まぁ、今は私も人のコト言えないかぁー……)


 何せ男爵令嬢である自分もまた、両肩に令嬢を携えているのである。


 ちなみに、正史(ゲーム)では乱入者はゴブリンだったし令嬢たちも腰を抜かさなかったし、失神もしなかった為、勝手にいなくなってしまうので令嬢を運ぶ必要はない。

 今回の一件も、そういう意味では完全にイレギュラーである。


(このあと、何があるんだっけ?)


 ゲームの流れを思い返す。

 ゴブリンの死体を放置できないからと、やむを得ずどこかに運ぼうとした時に、たまたまやってきた先生がいたはずだ。


 そこでゴブリンの死体は処分してもらえるので、こういう運ぶようなイベントは存在しなかった。


(あれ? でもその先生って……)


 遠巻きに好奇の視線が注がれる中、無言で令嬢たち+丸焼きオークを運んでいると、声をかけてくる奇特な――もとい親切な人が現れた。


「君たち、何をしているんだい?」

「あら、コーザ教諭。ごきげんよう」

「え? あ、はい。ごきげんよう、モヴナンデス嬢。

 改めて、二人で何をしているのか聞いていいかい?」


 その問いに、リシアがどう答えたものかと僅かに眉を顰める。

 コーザ教諭は正史(ゲーム)でもゴブリンの死体を回収してくれた教師だ。


 ただ、明言されていないがその死体は正しく処理されないどころか、先生が隠蔽したのではないかと、ゲームファンに考察されていた。


(コーザ先生は物語中盤に理性を失い化け物の姿となって襲いかかってくる……。

 いつの頃からそうなのかはわからないけど、黒幕(ラスボス)の能力の影響下にいたのは間違いないのよね)


 ここで素直に答えた方がいいのかダメなのか。

 なまじ正史(ゲーム)という形で未来を知っているリシアは悩むが、横にいる伯爵令嬢にそんな葛藤は関係なかった。


「校内にオークが現れたので退治しました。その際に、驚いて失神してしまった令嬢たちを運んでいます」


 失神の直接的原因はニーナなのだが、そこは言わぬが花だとリシアが口を(つぐ)む。


「それは大変だったね……よかったらオークは僕が処分しようか?」


 ゴブリンかオークかという違いはあれど、コーザ教諭の台詞は正史(ゲーム)と同じだ。

 さてどうする――などと考えているリシアだったが、ニーナにはそんなこと関係なかった。


「お気遣いありがとうございます。ですが、オークはお気にならないでください。焼き加減は悪くないはずですので、食堂に持って行って食べようかと想いまして」


 この世界のオークは食べられる。

 前世の影響もあってかリシアとしては、最初こそは二足歩行する豚に少々抵抗はあった。だけどスラムでの地獄を味わうくらいなら、そんな抵抗感など塵芥(ちりあくた)だ。

 今では、ちょっとお高めの美味しい豚肉感覚でパクパクである。


「むしろ、オークなどよりもリシアさんの抱えている片方を手伝って差し上げてくださいませんか?」


 それにちょっと困った顔をするコーザ教諭に、ニーナは続けた。


「紳士ではありませんわね、コーザ教諭。

 私に比べたら発汗が多い上に、うまく誤魔化してはいるものの、些か辛そうなリシアさんを無視して、オークが気になってしまうなんて」


 なにやらめっちゃ気にかけてくれていた。

 もしかしたら、後ですごい労われたのではないだろうか。


(ニーナさん、見た目や振る舞いが怖いだけで優しい?)


 などとリシアが想った直後だ。


「それとも、今すぐにでもオークを回収したい理由でもおありで?」

「……ッ!」


 コーザ教諭から穏やかな表情が抜け落ち、能面のような無表情へと変わった。


「あら? 表情を取り繕うのがお下手ですよ、コーザ教諭。

 学校内にオークを放ったのは、コーザ教諭だったのですか?」


 今度は能面から憤怒のような顔になる。作画崩壊レベルの顔面崩壊だ。完全に怒っている。


 どうやらニーナが先生の地雷を踏み抜いたようである。


(あー……この時点で黒幕の影響下にいたんですか……)


 その事実は少し残念だ。

 正史(ゲーム)を思い返すと、先生の穏やかな授業シーンは日常の象徴のようで好きだったのだが……。


「学校に魔獣だなんて、誰かの手引きを疑って当然ですわ。

 まさか、こうも簡単に尻尾をつかめるなんて思えませんでしたが。

 出現の状況やタイミングを想うに、私かリシアさんを試そうとしたのではありませんか?」


 ニーナの推理を聞いていた先生の表情が落ち着いていく。

 落ち着いていくが、いつもの穏やかな表情にとても黒いモノが混じっている。


「やれやれ。こうも簡単にバレてしまうとは……。

 仕方がない、ロゼスタ嬢や他のご令嬢を巻き込むのは心苦しいが」

「よくわかんないけど巻き込まないでください」


 どうにも怪しい雰囲気を放ち始めた先生に、リシアは即座にツッコミを入れるが無視される。


「モヴナンデス嬢、その聡明さを呪いながら――」


 先生の背中が大きく膨らみ弾けると、そこから金属製の巨大な腕が四本生えてきた。


 元々あった腕も、表面の塗装が剥げるように、内側を露出するかのように変化していく。

 そうして腕と手は鋭い刃物の集合体のように両手の五指は草刈り鎌(ククリ)のように変わってしまった。


「――ここで死んでくれないかな?」


(先生ッ、なんでいきなり異形化してるんですかッ!? その姿、中盤のボスですよねッ!?

 まだチュートリアルイベントの最中なんですけどッ!?

 あと、ふつうに理性残ってるぽいですよね? どうなってんのッ!?)


 そんな先生を見ながら、ニーナは好戦的な笑みを浮かべていた。



明日も更新しますよ٩( 'ω' )و

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