迫力美人のモブ令嬢はこうして生まれた
昨日、今日の分は夜に更新すると言ったな
なんとなく更新したくなったから今してやったぜ٩( 'ω' )و
あ。夜にもちゃんと更新します
リシアとニーナが学園の敷地内でオークと遭遇した日より、およそ十年ほど前――
モヴナンデス伯爵令嬢ニーナが前世の記憶とやらに覚醒した時は、特別に何かあったわけでもなかった。
幼少の頃、どこだったかの高いところから王城を見た時にふと思ったのだ。
「なんか、雑誌の表紙で見たコトある」
――と。
その瞬間、彼女は前世の記憶という奴がわき出してきた。
とはいえ――それで彼女という存在が大きく変わったかというとそういうワケもなく、幼いニーナを軸に外付けの記憶媒体が接続されたような感覚だった。
もちろん、幼い少女に成人済み女性の記憶が流れてきたので、人格や精神面への影響がないわけでもない。
強く思い出したのは雑誌の表紙の記憶。
たぶんゲーム雑誌だったと思う。毎週木曜日発売のその雑誌を、内容関係なく毎週購読していたのだ。
格闘ゲームとRPGが好きだった前世の彼女は、表紙に新作RPGのイラストレーター書き下ろし表紙&紹介と書かれていたのに、心惹かれた記憶はある。
ただ雑誌の特集を読んでみると、確かにしっかりとRPGしているようだったのだが、メインストーリーはともかく、それを支えるシナリオとシステムはイケメンと仲良くなるタイプの女性向けに寄った感じだった為に、興味を無くして、それきりだ。いつ発売されたのかとか、人気はどうだったのかとか、全く気にしなかった。
それでも、表紙の主人公と王子の背景に描かれた王城と、白と黒の月の姿はカッコいいなと感じた為、印象に残っていたのかもしれない。
確か――タイトルは、光と闇のリンガーベル……だったはずだ。
(……で、前世の記憶を手に入れたとはいえ、どうしようかしら?)
正直、自分が登場人物に転生したのかどうかもわからない。
そもそも転生モノ自体、何となく流行っていたアニメがそれだった程度で、詳しくともなんともない。
(貴族の令嬢に転生するのは、結構スタンダードらしいけれど……)
前世の知識で、領地経営を手伝ったり、好き勝手したりやってるとなんか上手くいく感じの話……らしいのだがよく分からない。
現代日本の知をこのファンタジーな世界でどう生かせというのか。
それらの作品の主人公たちにしろ、それを描く作者にしろ、ちゃんと現代知識をファンタジーに生かせる知識と発想を持っていることがすごいと思う。
(とはいえ、剣と魔法のファンタジーな世界というのはちょっと楽しそうではあるわ)
シナリオはともかく、剣と魔法に魔獣との戦いのあるゲームだったはずだ。つまり、自分もそういう機会に恵まれるのであれば、楽しそうである。
(しかし、幼女の時点でこの顔……美人だけどちょっと悪役顔になりそうなのよね……)
WEB小説などでは悪役令嬢モノなるジャンルが隆盛していたらしいのだが、何となくアニメがやってるなぁと思った程度で舌先で舐める程度のこともしていない。
(悪役、悪役かぁ……悪役令嬢という役割のキャラが、あのゲームにもいるみたいだけど……)
そこで、ニーナのふと思う。
(もしかして、私?)
自分が悪役令嬢。
ゲーム雑誌を読んだ時の記憶を強引に呼び起こし、ぼんやりと見えてきたそれ。
ざっくりと思い出したのは、『光と闇の二つの月が王国に救いの鐘を鳴らす』なるキャッチコピー。
(つまり、悪役令嬢が悪役令嬢としての役割を全うし、ちゃんと主人公に倒されないと、国が滅びる……?)
それは一大事だ。
最悪、自分が悪役として倒されないと、大好きな両親まで国と一緒に滅んでしまうかもしれない。
この瞬間のニーナに誤算があるとすれば、肉体の年齢に思考が引っ張られていたことだろう。
転生者として大人の思考力を得ながらも、最終的な結論は幼めな内容になってしまう。
それはある種、純粋とも言える結論。
だが、それ故に強固。
その結論は間違いなく、彼女の中の芯となり軸となった。
原動力という絶えぬ炎となってうねりをあげる。
(私は例え私が死ぬ未来があるのだとしても、両親とこの国の為に、悪役令嬢とやらを貫くわッ!)
しかし、ニーナには悪役令嬢が分からない。
主人公のライバルポジションっぽいことくらいは何となく想像がつくが……。
(とりあえず、前世で良く読んでたバトルアクション系のマンガと格闘ゲームの悪役やライバルをモチーフに、立ち回ってみるとしましょうか!)
全ては、家族と国の為、彼女は悪役の道へと足を踏み入れるのだった。
(私の得意な属性は火……まずは、それを悪っぽくしてみましょう……ッ!)
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「お父様! 私、火の月想術や月想技を使うとき、その炎を紫色に変色させる方法を編み出しました!」
「すごいなニーナ! それで、火が紫色になると、どんな効果があるんだい?」
「特にありません!」
「え?」
「変色させる分だけ余分に月想力を消費するのでコスパが悪くなるというのが、効果と言えば効果です!」
「意味はあるのかい?」
「ふつうの炎を使うより悪役っぽくなります!」
「そうかそうか。ニーナは悪役が好きだな」
「はい! 立派な主人公のライバル、悪役令嬢になりたいですから!」
ニーナの成長課程に関して、一番問題があったとすれば――
それは彼女の行動原理や言動でもなく、それらに対するツッコミ役がほぼ不在だったからではないだろうか。
あるいは……そんな疑惑を抱く者すら、なかなか現れなかったことかもしれない。
夜も更新予定なのでよしなに٩( 'ω' )و




