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彼女には、高笑いがよく似合う


 気負いなどない足取りで、ニーナはオークと対峙する。

 オークも前に出てきたニーナをターゲットにしたようだ。


(名前のインパクトに霞んでたけど、紫色の炎ってどういう原理? あれって素直に火属性でいいの? 火と闇の属性組み合わせた複合属性に、煉獄ってあるけれど、あれも別に紫色の炎を出したりしないはずだし……)


 謎が謎を呼ぶ令嬢だ。

 マジでリシアのやらかして発生したバタフライは、どんなエフェクトでニーナに紫の炎を与えたのかが分からない。


(それにオーク相手に物怖じしない感じもそうだけど、足取りや間合いの取り方も、完全に戦闘経験者のソレよね?)


 伯爵令嬢がここまで戦い馴れているというのも謎である。


「まずは小手調べです。滑稽な踊りを見せてくださいませ!」


 完全に悪役なセリフを言い放ちながら、炎を灯した右手をオークに向けて掲げた。


「それッ!」


 小さなかけ声とともに、紫色の炎が衝撃波とともに発射される。


月想術(ブレス)!」

「無詠唱で!?」


 腰を抜かしながらもそういうところに驚ける令嬢たち。モブギャラリー適正は高そうだ。


 せっかく驚いているのだから――と、リシアは首を振りつつ解説役をしてみることにした。


「恐らく月想術(ブレス)のように見えるだけで月想技(アーツ)ですよ」


 ブレスというのはこの世界における魔術や魔法のようなモノだ。

 アーツは必殺技。ようするに、ブレス以外で武器や体術から繰り出す攻撃技がそう呼ばれている。


 ともあれ、ニーナの放った紫色の炎。

 それをオークは棍棒で払いのけた。


「あら?」


 不思議そうにするニーナ。

 それはリシアも同じだ。


 それなりに威力がありそうだったアレは、オークが棍棒を振るった程度で払えるとは思えない。


「ふふ……想定外ですが、面白いコトをしてくれますね!」


 だが、ニーナは笑う。

 その言葉の通り、とても楽しそうに。


「ブモォォォォォ!」


 今度はこちらの番だとばかりに突進してくるオーク。

 それを見据えながら、ニーナは炎を作り出した。


「これは、どうでしょう?」


 ニーナが地面を滑らせるように、炎を放つ。

 地面を舐めるように低速で進む炎を、オークは邪魔をするなとばかりに踏みつけた。

 先ほどの火球同様に、それで消し飛ばせると思ったのだろう。


「ああ――触れてしまいましたね?」


 次の瞬間、炎は弾けて細長い火柱となった。

 その火柱はさらに細く裂けると、まるで意志を持つ触手のようにオークへと絡みつく。


「ブ、ブモ……!?」


 絡みついた部分がじゅーじゅーと音を立てて煙を上げる。


「ブモォォォォォ……ッ?!」


 身悶えしながら叫ぶオーク。

 それはそうだろうと、リシアは顔をひきつらせる。


「ブモッ、ブモッ、ブモモモォォォ……!!」


 何ともエグい技だ。

 あの触手は、炎としての熱を保ったまま質量を伴い絡みついているように見える。


 焼きゴテで身体を拘束されているようなものだろう。

 熱と痛みに耐えきれず、オークは膝を折る。


「どうやって学園に入ってきたかどうか……あなたが人間であればお聞きしたのですけど、人語を使えぬ魔獣では処分するしかありませんね」


 ニーナは小さく嘆息すると、右手に紫炎(しえん)(まと)って駆けだした。


 オークの懐に入ると、炎を纏った右手で、下からすくい上げるようにオークの喉を鷲掴みにする。

 そのままオークを持ち上げるように掲げると、手に灯る炎が三日月のように弧を描きたなびく。そしてオークは地面に叩きつけられた。


 続くように、おおよそ令嬢がしてはいけないような悪役スマイルを浮かべて告げる。


(わたくし)紫焔(ほのお)で……その魂、虚月(ヴァ・クレス)に送って差し上げます」


 しかも内容は物騒だ。

 虚月(ヴァ・クレス)とは滅びの女神が住まうとされている月の名だ。


 この世界に浮かぶ二つの月。白い月と黒い月。その黒い方の名前でもある。

 生き物は死後、一度そこで生前の行いを滅びの女神によって裁定されると言われているのだ。


 ようするに、「死ね」の迂遠な言い回しの一つである。


「あーはっはっはっはっは――……ッッ!!」


 ニーナの高笑いとともに巨大な紫色の火柱が立ちのぼった。


 オークとともに火柱に飲み込まれるニーナ。だが、火柱にうつる陰を見るに、ニーナはオークの首を掴んだまま、高笑いを上げつつ火柱の中で何度も地面に叩きつけているようだ。


「終わりですッ!」


 最後に一際強くオークを地面に叩きつけた直後、強烈な爆発が起こり火柱と煙が晴れた。


 爆炎をバックに立ち上がり、楽しそうな顔で空を見上げるニーナ。

 その視線の先には、黒こげになって宙を舞うオークの姿があった。


 昼に太陽の横に鎮座する、黒い月――虚月(ヴァ・クレス)と黒こげのオークが空中で横並びになるのを見、ニーナは艶っぽい息を漏らしてから、嗜虐的な笑みを浮かべる。


「ふぅ……。

 この熱と恐怖を――何度生まれ変わろうとも、虚月(つき)を見るたび思い出すと良いでしょう」


 宙を舞うオークに背を向けると、ニーナは右手を掲げて指を鳴らす。

 直後、黒こげながらもまだ息がありそうだったオークが、紫色の炎に包まれた。


 火だるまとなったオークが地面に落ちると、徐々に火が収まる。

 煙の匂いに紛れて漂ってくるのは、美味しく焼けた豚肉の香り。


「ふふふふ、ははははは、あーっはっはっははっはっは!!

 オークにしては多少楽しめましたわ! オークにしては、ですけれど」


 オークを丸焼きにしながら三段笑いを決め、次いで出てくるセリフも完全に悪役だ。


(こんなモブ令嬢がいてたまるか……!)


 ゲームから逸脱したキャラと化しているニーナを見ながら、リシアは胸中で頭を抱える。


 令嬢三人も、怯えた表情を浮かべている。

 ゆっくりと近づいてくるニーナから逃げ出したいようだが、オークの出現で完全に腰を抜かしてしまっている三人は動けない。


「さて、邪魔は排除しましたし……お三方、改めてお話しましょうか?」


 迫力美人による、完全に相手を見下したかのような笑み。

 リシア含めた四人は完全に誤解しているが、この瞬間のニーナはふつうに笑ったつもりである。


 まぁ通じないなら意味がないが。


 ニーナの笑顔に恐怖を感じた三人は――その脳の処理が追いつかなくなったのか、三人まとめて失神してしまう。


 その様子を見ながら――


「あら? よほどオークが怖かったのでしょうか?」

「アナタの笑顔が怖かったのよッ!!」


 ――本気で首を傾げているっぽいニーナに、リシアは全力でツッコミを入れるのだった。



本日はここまでとなります!

次回更新は明日の夜の予定です٩( 'ω' )و


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本作、紫炎のニーナをよしなにお願いします!

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