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推しと仲良くなるのは難しい


 現在。


「――とまぁそんなワケで、それ以降オレはコトあるゴトにニーナにいじめられている」

「ふつうに、お説教じゃないですかね、それ全部。わりと自業自得な」


 学校の廊下を歩きながら、アンウォルフが悲壮感たっぷりに、ニーナに捕縛されて父親の元へ放り投げられたことを語たり終えた瞬間、リシアは思ったことを素直に口にした。


「……やはりリシアもエルケやニーナを支持するのか……」

「支持というか王侯貴族としてそこは押さえておきましょうよ――って話かと」

「むぅ」


 子供らしく口を尖らせる姿はどこか可愛らしい。

 リシアはそんな姿に微笑みを浮かべる。


「ことあるごとに二人と比べられるのはシンドいという話なんだがなぁ……」

「お説教される話と、そのシンドさは別枠だと思いますので、同列に語ってしまうと、誰も理解して貰えないかもですよ?」

「……なるほど?」


 とりあえず、この世界のアンウォルフも、出来る幼なじみへのコンプレックスはあるようだ。

 正史(ゲーム)と異なり、その幼なじみが二人いるというのがどういう影響となっているかは分からないが。


 そんなやりとりをしながら、リシアがアンウォルフと一緒に廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられる。


「殿下、リシアさん」

「ん?」


 二人で背後に振り返ると、そこには濃い灰髪のうねり髪を持つ、どこか気難しそうな顔の少年がいた。


(あ!? ランハート・バルドウィン! 推し~~~~!! 現実になってもビジュアル良き! しゅき~~~~!!)


 ランハートはメガネの下の茶色い瞳を細めて、こちらを見ている。


「無事にリシアと合流できたようですね。何よりです」

「ああ。勝手に走り出してすまなかった」


 咎めるというよりも、嫌味のような口調のランハート。

 それに対して、アンウォルフは素直に謝罪を口にする。


「ふむ。お説教は……エルケルーシャ様やニーナ様にされたようですね。ならば自分が何か言う必要はなさそうですね」

「その通りだ。今回も先走りすぎた」


 うなされるようなアンウォルフに、フッとランハートは笑う。


「わかってくだされば結構。次からは気をつけてくださいね」

「もちろんだ」


 アンウォルフとのやりとりを終えると、ランハートはリシアへと視線を向ける。


「リシアさん。エルケルーシャ様の取り巻きにいじめられたと聞きましたが大丈夫ですか?」

「はい。あの人たちはエルケ様の名を勝手に使って代弁者を気取っていただけなので」

「……そういうコトですか」

「ニーナ様に助けて頂きました」

「自称取り巻きを懲らしめるのに、火柱をあげて……ですか?」


 どうやらランハートもあの火柱を見ていたようだ。

 メガネの奥の瞳は、取り巻き以外に向けられているように見える。


「あ、それは違います」

「例の症状を発症したオークが学園に入り込んでいたそうだぞ」

「……なんと」


 機械症に関してはランハートも知っているようだ。


(原作開始直後から、どうして終盤の情報が広まってるんだろう……)


 バタフライエフェクトによるドミノ倒しはとどまることを知らないようである。


「発症オークが学園の敷地内に入り込むとなると、誰かの手引きがあったとしか思えませんが……ふむ」


 思考しながら独りごちるランハートの言葉に、リシアは思わず彼から目を逸らす。

 やましいことがあるワケではないのだが、コーザ教諭に関して、思うところはあるのだ。


「リシアさん。貴女、何か知っていますね?」


 真っ直ぐに向けられる推しからの視線に、どう答えたものかと悩んだ末にうなずいた。


「はい……とはいえ、わたしの口からは何とも。

 オークも手引きした人も、ニーナ様が対処しましたので」

「ふむ。彼女が情報を制しているというのであれば、無理に聞き出そうとはしません。怖がらせるように睨んでしまったコト、お詫びします」

「い、いえ……」


 メガネのブリッジを押し上げるようにしながら軽く頭を下げるランハートに、リシアはなんと答えて良いのか分からずに曖昧な返事を返す。


(推しと話ができるのは嬉しいんだけど、話す内容とかこんなのばっかりなのがさ~~!!)


 そもそもランハートは、正史(ゲーム)の時点で気難しく口うるさい嫌味メガネという扱いだった。

 他のキャラならデレはじめるくらいまで絆値を高めても、普段通りの嫌味を飛ばしているかのように感じるほどの人物である。


 もっとも、とても微妙な立ち絵差分によって、いつも通りのようので耳が赤くなっているとか、普段と違いメガネが少しズレているというような表現により、実はデレているというのが分かるキャラである。


(まぁ、それを思うと、まだ殿下のお気に入り程度の立ち位置のわたしにデレるコトはないよねぇ……)


 分かってはいるけど、それはそれで寂しいというのが人情だ。


(もっとも、ここで押せ押せで好感度稼ごうとしても、だいたい失敗するのが、前世で読んできた数多の転生モノのお約束! わたしはじっくりやるわよじっくりと!)


 先達と同じツテを踏んでなるものか――と、改めて気合いを入れるリシアである。


「リシアさんは、時々愉快な百面相をされますよね」

「何かを考えているかは分からんが、面白いくらい表情に出るよな」


 胸の(うち)で推しに関して一喜一憂したり作戦を立てたりしているリシアに、王子の主従がそんなやりとりをしていたのだが、リシアの耳には届いていなかった。


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