モブでチートな令嬢はオークを二度焼く
微妙にメインタイトルをいじりました٩( 'ω' )و
時間戻って現在。
ニーナがオークのお腹に手を突っ込んでケーブルなどを引き抜いて食べ損なったローストポークに思いを馳せているとき――
「ここで一体何が……!?」
――学園の警備を任されている騎士たちがやってきた。
「来るのが遅いですわね」
それを見ながらニーナが小さく呟いた言葉を、リシアの耳が拾う。
だがニーナは呟いたことなどおくびにも出さずに、弄んでいたケーブルを手放しながら立ち上がった。
「ご機嫌よう警備の皆様。
見ての通り、この場にて戦闘が発生しただけですわ」
いやだけって――と、リシアが思った通り、警備の騎士たちの反応も似たようなものだ。
「ではそのオークが……いや、オークなのか……それは?」
そして、オークのお腹からこぼれでている内臓とは異なるモノに、騎士たちは訝しげな目を向ける。
「機械病。あるいは機械症。
正式な名称はありませんが、そう呼ばれるモノです。本当に病気であるかどうかも不明ですけれど」
さらりとニーナはそう答える。
先ほどコーザ教諭の時といい――やはりニーナは独自に工作員の在り方にたどり着いているようだ。
「一見すると月晶機関によって動く月晶人形のようですけれど、全く違います。
何故ならば、この機械症患者の体内には月晶結晶に限らず、大本のエネルギー供給機構が存在しません」
月晶機関とはこの世界の文明に根幹をなす技術だ。月晶結晶というエネルギーの結晶体ともいえる石をエネルギー源として動く機械や道具の全般を指す。
「では、このオークの動力は?」
「本人の生命力そのものかもしれませんわね。
何らかの要因によって体内――臓器、血管、筋肉、神経などなど……身体の内側が月晶機関のようなものに作り変わっていく。脳までも作り替えられてしまえば、それは本人と言えるかどうか……」
「……待ってくださいお嬢さん。身体が月晶機関のようなものに作り変わっていく……というコトは、このオークは元々は人形でも何でもなく魔物――生き物としてのオークそのものだったのですか?」
騎士の一人の質問に、ニーナはうなずいた。
「オークは群れを成すもの。このオークにも群れの仲間や家族がいたのかもしれません。
そんな身内にバレるコトなく、身体は機械へと変わっていく。
家族も群れの仲間も、彼に対してふつうに接し、彼もこれまで通りに接していく。
自分自身が変わっていくのを自覚しながらバレないように振る舞うのですよ。この病気の発症者は」
話を聞いていた騎士たちが青ざめていくのが見える。
当たり前だろう。ニーナの話を信じるのならば、こうやってともに仕事をしている仲間すらも、機械症を発症させているかもしれないのだ。
「発症者は何らかの特別な目的を持つようです。
その為ならば、身内や群れを売るコトもためらいがない。
このオークが――普段の自分ならばしても不思議でない提案を群れに対して行い、それに乗っかった群れを罠にハメて、全滅に導いたりしていても不思議ではありませんわ」
「お嬢さん。その病気……人間が発症するコトは?」
「ありますわ。まさに先ほど、発症された方に襲われたので返り討ちにしたところです。どうやら機械症オークの遺体を隠蔽したかったようで」
そこまで言ってしまうのか――と、リシアが驚いていると、背後のオークの死体がビクンビクンと激しく動き始めた。
「あら。まだ説明が終わってないのに、せっかちなコト」
面倒くさげにそう言うと、ニーナは右手の紫炎を灯し、左手で騎士たちに下がるよう示す。
「機械症患者の一番厄介なのはコレですわ。
脳、心臓、そして外付けされたような核らしき何か。その三つのすべてを潰さなければ、やがて再生する」
オークの腹部から無数のケーブルが飛び出してくると複雑に絡み合って巨大な手に変わる。
手の付け根に横たわるオークは、その背中から無数のケーブルやパーツが飛び出してきて蠢きだした。
背中からムカデの足が生えたかのようだ。
「もっとも。その再生は元の生物の形を無視するコトが多々あります。
自分を殺した相手に対して、反撃にするコトに特化した姿へと変化してしまうようですわね」
その姿からは、オークの尊厳など微塵も感じられない。
腹部と背中だけならまだしも、口から舌の形をした触手が伸びてくるし、目からは眼球を先端に付けたカタツムリを思わせる形の触手が伸びる。
「……おぞましい」
誰かが小さく呟く。
それについてはリシアも全力で同意したい。
前世でも似たような現象は何度か目撃することになり、戦闘も発生するのだが、リアルなそれを見ると嫌悪感が桁違いだ。
「反撃に特化した姿故に」
ニーナが手に灯した紫色の炎を投げる。
それが直撃して火柱になるも、オークだったモノは平然としている。
「グオオオオ!!」
異形化したオークは、機械合成されたオークの声を、勝ち誇ったようにあげた。
声だけはオークを保っていることが、かえって薄気味悪い。
「このように、自分の死因に対しての耐性がつきます。完全な耐性ではないので、同じ要因であっても威力を高めて攻撃すれば屠るのも容易いのですけれど」
そう告げて、ニーナがもう一度火の粉を投げる。
先ほどと同じようなモノと判断したのだろう。
異形化したオークは避ける素振りも見せず、背中から生えて無数の足を動かして近寄ってくる。
火の粉が、異形化したオークに触れる。
次の瞬間――
「堕天叢雲よ、ここに」
ニーナの言葉とともに、無数に火柱が大地から生えると、異形化オークを襲う。
「グオオオ……ッ!?」
やがて無数の火柱は異形化したオークを中心に一つになると、巨大化。
「滅」
小さく言葉を発し、ニーナがオークに向けて掲げていた手を握り拳に帰ると、火柱はひときわ激しく燃えさかり、爆発するように太くなる。
そうして、巨大な火柱は完全に異形化オークを飲み込んで、灰に変えていく。
オークの消滅とともに、火柱も細くなり、小さくなり、やがてろうそくの炎のようになると、自然にその姿を消していった。
「……とまぁこのように、発症した人間は灰に変えてしまいましたわ」
その光景に、騎士たちは言葉を失っている。
それでも警備の騎士として、勤めを果たさんとする人もいた。
どうして嘘をついたのか――とリシアは思ったが、コーザ教諭を従者に持ち帰らせたなどと言うとややこしいことになるからだろう。
「……それでお嬢様。あなたが灰に変えた人間は誰なのか、おわかりになっておりますか?」
「この学校の教師。コーザ教諭です」
「…………そう、ですか」
苦々しい表情をする騎士に、ニーナが告げる。
「どう判断なさるかは、騎士の皆様にお任せします。私を疑うのであればそれも結構。無論、相応に対応は致しますが、皆様の判断は尊重いたしますわ」
「モヴナンデス伯爵令嬢は相変わらずでいらっしゃいますね。ですが、だからこそ疑ったりはしません。信じましょう」
その様子を見ながら、リシアはかなり驚愕する。
(え? ニーナさんってめっちゃ信用ある人なの? この状況で警備騎士の方々が信じちゃうくらいに? どんな実績積んできたのよ……)
すでに味方サイドにとんでもない人がいるような気がして、リシアは何とも言えない気分になった。
だが、この上ないほど頼りになりそうな人でもある。
「ああ、それと――この倒れている令嬢たちを保健室までお願いしますわ。やむを得ず巻き込んでしまい、気絶してしまいましたの」
サラリと嘘をついたわね――と、一瞬思ったが、巻き込まれて気絶したという点においてはあながち嘘ではないかもしれない。
どちらにしろ嘘も方便である。
「かしこまりました。彼女たちは我々が責任を持ってお運びします」
敬礼をする騎士たちに、ニーナは大仰にうなずくと、リシアへと笑いかける。
「では参りましょうかリシア様。
ここにいては騎士の皆様の邪魔をしてしまいますので」
行っても構いませんわよね……とでも言うような視線を騎士たちに向けると、彼らは苦笑しながらもうなずいた。
リシアは黙ってニーナにうなずくと、騎士たちに会釈をしてから、その場を離れる。
ニーナとともに現場を離れてから、ふと訊ねた。
「ところでこの後はどうするんですか?」
「この時間でしたらまだ生徒会室にいると思いますので」
「えーっと、誰がですか?」
「エルケルーシャ様ですわ。勝手に取り巻きを気取っているような方々でしょうけれど、自分の周りに寄ってくる人の手綱を握るのも中心にいるモノの責務ですので。
あなたにも一緒に来ていただきますわ。リシア様」
リシアはどうして良いのか分からずに、とりあえずうなずくだけうなずいた。
逆らう気はない――というのもあるが。
(いやぁエルケちゃんに会いたいけどこのシチュエーションって、ニーナさん、エルケちゃんを燃やす気まんまんなのでは……ッ!?)
初日に見たニーナとエルケルーシャの仲睦まじい様子などすっかり忘れてしまっていたリシアは、内心で「逃げてー、エルケちゃん逃げてー」と叫びながら、ニーナと一緒に生徒会室へと向かうのだった。
なんとか10話目まで更新できました٩( 'ω' )و
続きが読みたい、応援したいという方がいましたら、評価やブクマなどして頂けるとうれしいです!