悪役令嬢よりオーラのあるモブ令嬢
新作欲が耐えきれなくなって、新作投稿です٩( 'ω' )و
お読み頂いた方々が、少しでも楽しんで頂ければ幸いです
初日なので今日のうちに3話まで投稿します
その日のディナーは豪勢だった。
カビが生えて廃棄されていたパンが丸々一個に、色が変色して捨てられたの野菜の数々。
泥と血の混じる水までもついてくる。
彼女ーーリシア・ロゼスタが、今生きている場所が、前世で好きだったRPG『光と闇のリンガーベル』の世界だと気づいたのは、そんな食生活が当たり前になっていた幼少期だ。
地獄じみたスラムの生活の中で、自分はもっと美味しいモノを食べた記憶があるとーーそう自覚した時に、前世の記憶という奴が急に現れたのだ。
そして、自分の名前が主人公のモノだと気づいた時は歓喜した。
芋蔓式にさまざま前世の記憶も湧き出てきたので、これで知識チートをすればスラム生活もおさらば! 何とかなる! なんて思ったものだ。
(……まぁ歓喜したの一瞬だったんだけどねぇ……)
前世の知識を使っても地獄からは抜け出せなかった。
主人公は幼少期に苦労したってプロフィールにあったけど、こんな地獄みたいな生活しているとか、スタッフ何考えてんだッ! などと思ったものである。
光と闇のリンガーベルは、一本筋のメインストーリーはあるものの、女性向けに寄ったシナリオとシステムだった。
だから、幼少期に苦労したーーというだけで特に語られなかった主人公の過去の境遇があれほどとは想像もしてなかったのだ。
シンデレラくらいのDV環境だったのかなぁ……程度に思っていたのだが、予想外の裏切られ方をしてしまった。もっと酷かった。
それでも賢明に生きてきたリシアは、ゲームの設定通りにロゼスタ男爵に拾われ、リシア・ロゼスタとなった。
正史では、貴族の生活に馴染めずに男爵との関係がギクシャクしてしまっていたようだが、転生者たる彼女はそんなヘマはするまいと気合いを入れた。
男爵にも、男爵夫人にも嫌われないよう立ち回り、時には知識チートを使って貴族としての仕事も手伝ったりもしてきた。
多少ゲームのシナリオに影響を与えてしまうような立ち回りをしてしまったが、それでもあの地獄に戻りたくなかったので、捨てられないように必死だった。
極端な話、知識チートを使って父の仕事を手伝ったことで、正史で語られることなく、シナリオの外で助からなかったモブが助かったり、あるいはその逆に死んだりしようと、リシアは自分の平穏が脅かされるよりはいいと、割り切っていた。
そもそもスラムの時点で、リシアを押し倒そうとしたり、リシアの儲けを奪おうとする不届き者を、やむを得ず殺めたりしたこともあるので今更だ。
正史のメインシナリオに関わってこないモブなら、多少生き死にの状況が変わったところで、大きな影響はないだろうーーそう自分に言い聞かせている。
それでも日本人的な良心や、ファン心理としての心は痛むのだが、そんな心の痛みに従っていては生きていけないのがスラムだった。
だからこそ、もう二度とあそこに戻らなくてすむように、男爵夫妻に気に入られようと必死だったのである。
そんなこんなで礼儀作法なんかも可能な限りマスターし、ようやく迎えた十五歳。
(ついにッ、ついに学園の入学式ッ! ゲーム本編の時間軸に到達よッ!!)
喜びが隠しきれず、学校の校門の前で両手の拳を掲げていると、周囲を通り過ぎる生徒たちがこちらを見ながらヒソヒソしていく。
ちょっと恥ずかしくなったリシアは手をおろして、気持ち小さくなりながら校門をくぐっていった。
そのまましばらく歩いていると、校門の方からざわめきが聞こえてくるのに気づいて顔を上げる。
(ああーー……! この感じ、ゲームを起動した時に流れるOPアニメの冒頭……ッ!!)
リシアはテンションをあげながら振り返る。
校門をくぐる、この国の王子。その脇には幼なじみでお目付役の気むずかしそうな少年と、同じく幼なじみで護衛の少年がいた。
(ふぉぉぉぉぉーー……OPと! 寸分違わぬ! 感じ良き!!)
今日も元気だ、推しがやばい!
ちなみに推し王子ではなく気むずかしそうなお目付け役の方である。
彼らが入ってきたあと、ゲームではカメラが彼らの背後にフォーカスするが、現実ではそんなことはない。
三人に遅れること数秒、美しい少女が門を潜ってくる。
公爵令嬢にして、不幸にも悪役令嬢の役割を背負わされた人物だ。
(いやーエルケちゃん美人だなーかわいいなーオーラあるなー……あの最悪の結末から救ってあげたいなー……)
そんなことを考えていると、公爵令嬢エルケルーシャは誰かと一緒に歩いているのだと気づいた。
(え、いや……ちょっと待って……)
鮮やかな赤い髪に、黒くて切れ長の瞳はどこか冷徹で。
強面ーーと言われればそうかもしれない。
だが、間違いなく美人だ。迫力のある美人というのだろうか。
美人が二人並んで歩いているのだ。それだけで絵になる。
しかも、公爵令嬢の美しくも冷たい銀髪と対となるような、美しくも熱く感じる赤髪だ。
目を引く二人は、周囲など気にせず談笑しながら歩いている。
(誰あれッ!? ゲームにあんな迫力美人いなかったんだけど……ッ!?)
敵か味方か。はたまた別の何なのか。
誰だか分からないが、あの赤髪の人物に、リシアが言えることはただ一つ!
(よくわかんないけどッ、あの人ーー本物の悪役令嬢よりッ、悪役のオーラ溢れてるじゃんッッ!!)
彼女には、悪の親玉的な貫禄がすでにある気がした。
準備が出来次第、次話も投稿します٩( 'ω' )و