1話 出会い
意識を取り戻すとベットに寝かされて布団で暖められていた。
暖かい。なんて温くて気持ちいいんだろう。どこの誰かは知らないけど、わたしを介抱しくれたのだろうか?
わたしはいつの間に故郷であるシルバーテイルに帰ってきたんだろう?
……
「こっ、こはどこ??知らない天井だ…」わたしは、ここがどこかも分からず、自分が見知らぬベットで寝かされていることに気付き、困惑する。ふとベットの横に知らない男性が心配そうにこちらを見ていることに気付く。わたしより一つか二つ歳上だろうか大人びた人だと思った。目鼻立ちは整っていて綺麗で凛とした佇まいで思わず見惚れてしまう。
「大丈夫か?なんでベランダで倒れてんだが、空から落ちてきたのか?大丈夫か?と怪我はしてないかと心配してくれる男性に「はい。大丈夫です。すいません、拠点に転移したはずが、よそ様の家に転移してしまったみたいです」
早くシルバーテイルに向けて転移しないと!だけど、体がゆうことをきいてくれない。
「いえ、なんでもないです、早く出ていきますから!」と言うもここでくぅーっと可愛いお腹の音が鳴ってしまう。恥ずかしさのあまり、顔から火が出そうだよ……
「腹が空いてるのか?菓子パンでよかったら食うか?」
「食べ物ありがとうございます。お腹空いてたんです……」わたしは、彼の耳元で囁くと、驚いてドキッとした表情を見せる。
「く、空腹で倒れていたのか?でもなんでベランダで?」と照れた様子で言う。
疑問は、残るような顔で今は彼からにパンを差し出された。
「ほら、菓子パンだ」
「えっ?仮死パン?」
「そうだぞ、甘くて美味しいぞ食べてみろ」
「なんですかその怪しい食べ物は!食べたら仮死するパンですか?!デッドフードを勧めないでください!」
「なんだその危ないパンは!お菓子のパンだよ。食べたら仮死状態になるパンってそんなもの勧めるわけがないだろ!」
「お菓子のパン?」
「そうだぞ、菓子パン知らないのか?変わってるな。甘いクリームパンやメロンの味がするメロンパンとかあるんだが、コロッケパンや焼きそばパンの惣菜パンの方が良かったか?」
「甘いパンですかー、食べて見たいです!」
「わかった。クリームパンとメロンパンのどっちがいい?」
実際に見せて選んで貰ったほうがいいと思い両方のパンを見せやる。
「それじゃあ、クリームパンでお願いします」
「丁寧な受け応えができてにいい子だな!」
「え?!そうですか?えへへっ嬉しいです!」
普通に対応しているだけなのに褒められた。なんだか嬉しいな。
「そうだぞ。最近の若い奴は初対面でも平気でタメ口で話すしでもお前は礼儀がちゃんとしているいい奴だな!」
「ほらよ、食ってみな」
クリームパンを手渡される。「ありがとうございます!」わたしは大事に両手で掴みクリームパンを手に取ると不思議そうに眺める。
「あの、普通のパンみたいですけど……」
簡素などこにでもあるようなパン生地。このパンのどこがクリームパンなんだろう?
「パンの中にクリームが入ってるんだぞ!クリームパン食べるの初めてか?」
わたしは不思議そうにキョトンとして尋ね、彼を見つめる。
「はい初めて食べます。ほんとうにありがとうございます」
「わっ、あんま見るな、目の毒だ!」
まじまじ見ると目鼻立ちも整っていることも相まって銀髪のロングヘアーは、キラキラ輝いていて碧眼の綺麗な瞳でそのあどけない童顔で見つめられると可愛い。正直、目の毒だ。
「すいません、見苦しい姿で……」
「いや、そこまでは言ってない。お前、物語に出てくる天使のようだな」
「え??だってさっき目の毒だって……そんなこと言われたことないです。」
普段はパーティーから雑用や荷物持ちといった雑務を押し付けられていて
そんなことを言ってくれる人は誰一人として居なかった。でもこの人はわたしを褒めてくれる。綺麗だと言ってくれるそれが嬉しかった。
「そ、そうなのか…まあ、万人受気するとは言い難いか。でも、俺は、いいと思うぞ!」
(同い年か、一つ下の年頃みたいだそれにしては整っている顔だよな。同年代の子を自宅に上げてしまい、大丈夫だっただろうか……)
「じゃあ、いただきますね…美味しい!こんなに美味しいパン初めて食べました!」
「え!本当か?!」
「はい。食べたことないです」
「今の時代、クリームパンを食べたことが無いって、金持ちのブルジョアでこんな低俗な食べ物を食べない富裕層か、クリームパンも買えない極貧の貧困層のどちらか?」
「いえ、わたしの世界には無い食べ物だったので……」
「そうか、こんな庶民的な食べ物はブルジョアの世界では食わないってことか。よーくわかった!」
わたしは、もう一口小口でパンを齧って「クリームがなめらかで優しい甘さで美味しいです!」と喜びのあまり食レポを披露してしまった。
「お世辞なのか?そうなんだな!」
「ち、違います……」
「こんな美味しいパンをご馳走してくれるあなたはどこかの貴族様ですか?大きなお屋敷に住んでいますし……」
「違うぞ、ここはマンションって言って大勢の人が各部屋で暮らす集合住宅施設なんだ」
「そうだったのですか。皆が暮らす家だったんですね……」
「まあ、だいたい合ってるからいいか」
「わたし、マシロ。休ませてくれて食事までご馳走になって頂いてありがとうございます」
「そんないいよ、ご丁寧に。」
「自己紹介が遅れたけど、俺は藤原零二。高一だ!」
「よろしくお願いします。藤原零二高一さん。少し長いお名前ですね……」
「ちがうちがう!「『高一』は名前じゃないから!」
「では、藤原零二さん、休ませて頂き、ありがとうございました。」
「そんな、いいよ。大したことはしていないんだからさあと、藤原でいからフルネームは呼びづらいだろ」
「じゃあ、藤原さん。わたしはこれで失礼しますね。少し、道に迷ってしまっただけですから」
「家出とかか?」
「家出ではありません。あるお務めをしていたのですけどお役目御免となって故郷に帰る途中だったのです。その途中で力尽きて……」
「だからって、ベランダで倒れることはないだろ……」
「その節はすみません……」
「まさかマシロ、お前もしかして天使だったりするのか?」
「え……天使、ですか?」
そ、それは違います。実はわたしは……
「悪い!何言ってるんだコイツって思ったよな!ダメだなー、マンガの読すぎだな」
「はい、少し……何を言っているのかと頭が少しアレな方なのかと……」
「正直!!なんだコイツ言うじゃないか……」
でも、天使と見間違うほどにわたしのことを可愛いと思ってくれたんですよね?
それは嬉しいな……
「あと、気になってたんだけど、その魔法使いのようなファンタジックな服装だけど、コスプレとかか?」
「こ、これは……お務めの正装です!」
「おい、それって、本職が、コスプレイヤーだったりするのか?」
「コス……?なんですかそれ?」
「知らないのかー。マンガやアニメの格好に仮装して観客を楽しませる人のことだ」
「そうなのですか…でも、わたしは違いますよ」
「家はこの辺り?どこから来たんだ?」
「え?それはちょっと……」
「悪い!そうだよな、初対面で住所とか聞くとかデリカシーが無かったな……」
「……かいです。」
「え?今、なんて?」
「はい、だから魔界から来ました」
「えっ?今なんて?聞き間違いか?愛知県の稲沢市祖父江町の馬飼か?」
「え?どこですか、そこ……」
「ずいぶん遠い所から来たんだな。他県から、わざわざ東京に?!なんでまた」
「いえ、違いますよ……」
「え?違うのか?!」
「はい、魔界の魔王城で魔王との最終決戦手前、勇者からパーティーを追放されてしまって…拠点へ転移しようと思ったんですが誤って貴方の屋敷に転移してしまったんです」
「あっ、聞き間違いじゃなかった。これよくあるWEB小説のハイファンタジーの追放モノみたいな設定だ。もしかしてお前、中二病か?」
「なんの病ですかそれは?」
「あ、中二病知らないんだ。世間一般ではマンガアニメのキャラの真似事をしたり奇抜なワードを口にするちちょっと痛い子のこと。だな?」
「違います。」
「それじゃあ、厨二病か?こっちはマンガアニメキャラに成り切る行動を指すんだけど」
「……」
「アレ?俺、何か可笑しなこと言ったか?」
この人は一体何を言っているんだろう?根は優しい人だと思うんですけど、少々頭のネジが……アレ?わたしヤバイ人のお屋敷に来ちゃった?
「ていうか今、言っていることが本当ならコイツ……」
まさかとは思うけど異世界転移してね?まさかな?異世界の美少女とかラノベやマンガの中だけの存在だろ!」
「すいません、お邪魔しました。それじゃあ、わたしはこれで失礼します。」
わたしは身の危険を感じて即座に退散することにした。
「え、大丈夫か?帰れるのか?」
「はい、お構いなく。でシルバーテイルまで、ひとっ飛びですよ」
「え?空飛べるのか?ファンタジーだな!」
「いえ、空は飛びません。その代わり……」
わたしは転移魔法の呪文を詠唱すると魔法陣が出現するそして、ヒュンっと姿を消す。
転移が成功した。やった!と思った矢先、次の瞬間、宙からベットの上にボフンと落る。
「え??何だこれ?!イリュージョン?!種も仕掛けもないのか?」
ただただ藤原さんが驚いていた。
「あれ?転移できない!」
わたしはは困惑してみるみる顔が青くなっていく。
「あの、帰れなくなったみたいです…。」
「え?!今、何をしようとしたの?」
「は、はい。転移魔法でシルバーテイルまで転移をしようとしたんですが発動しなかったみたいです……」
「え?転移魔法?!あのファンタジー小説やアニメの中に登場してくるあの伝説級の魔法が使えるのか?もしかして、コイツはほんとに…いや、まさかな!」
「すいません。そのまさかなんです。わたしは魔導師マシロ。魔法使いです」
「そ、そうなのか……」
「故郷に帰れるようになるまでわたしはどうしたらいいのですか?!」
「それなら、帰るまでここ居たらいい!」
「え?いいんですか?わたしここにいても?」
「帰る宛の無い奴ををこのまま外へ放り出すほど、俺は落ちぶれてない。別にお前のために言っているわけじゃ無いからな。勘違いするなよ。今、お前を放り出してそこいらで野垂れ死慣れたら寝覚めが悪いだけだからだ。他意は無い!」
「そ、そんないいんですか?」
「いつまでもとは言わないが、今日ぐらいは泊めてやってもいい有り難く思え。」
「え?いいんですか!?ありがとうございます……」
ちょっと頭はヤバイ人だけど、心優しくて悪い人ではなさそうだし大丈夫かな?ヤバイ人だけど。
「うん、いいぞ。お前さえ良かったらだけど」
「あの、迷惑じゃなければ故郷に帰るまでのしばらくの間、お世話になってもよろしいでしょうか?」
「勝手にしろ!」
「やった!」
「どうやら人の性善を疑わないみたいだし、危ない輩について行ったりしたら大変だからな」
「あなたが危ない輩なんですけどね。あっ……」つい本音が出てしまった。
「ありがとうございます。このご恩は必ずお返します!」
「今更、取り繕っても遅いんだが……」
最後の最後でヘマをしてしまいました、いけないいけない。
こうして、わたしと藤原さんとの新しい共同生活が始まったのでした。
読んでくれてありがとうございます。
異世界人と現代人のラブコメ小説、頑張ります。