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知らない街で迷子になるなんて普通だよな?

 そうだ。

 目の前に大通りがあった。

 大通りを探せばいい。

 我ながらナイス自分などと思い歩き出した4時間くらい前の自分を張っ倒したい。


「迷子になった・・・・・・」

 見知らぬ家の前の石段に腰を下ろしたそがれる。

 ただ歩き回って分かったことがある。


 緩やかな斜面に築かれた町で南西側に向かって傾斜している。

 結構遠くに外壁があって、その先は黄金に輝く田畑が広がっていた。


 大通りと呼べるものが最低で14本存在していたが、たぶんもっとある。

 家々はほぼ等間隔に並んではいるものの、脇道に入ると行き止まりの連続だった。

 おかげで、似たような家の前を何度も通り、行き止まりに嘆息し、いまに至る。


 改めて、ため息をつく。

 なんだこれ。試練か。

 歩き回ったせいで足が棒のようだ。


「あー! いたぁ!」

 さて、日が暮れる前にどこか落ち着けるところに。と思った瞬間、凛とした声が頭上から降ってくる。

 思わず顔を上げるとそこには

「痴女の人だ」

「違います」

 先ほどの痴女もとい教会にいたシスターだった。

 途中で逃げ出したことがバレたか!

 こんなどこかも分からないところまで追いかけてくるなんて恐ろしい女だ。

「帰るところ、無いんでしょ! 行きますよ」

 前言撤回。

 まあ口に出していないから撤回しようがないけど。

 手を差し出すシスターは、地の果てまで追いかけてきてターゲットを仕留めるハンターではなかった。

 純粋に困っている人に手を差し伸べられるイイ人だった。

「行くってどこへ」

「教会に貸し出せるお部屋がありますから」

「金は無いぞ」

 そう、悲しいことに無一文だ。

「良いですよ。困っている人は助けなさいって教えです」

「そうか」

「そうです! 誰かが助けて、その誰かが別の誰かを助けていくと少しだけ世界が良くなるっていうのが教義ですから!」

 とんだお人好しだった。

 だけど

「いいな。それ」

「はい! 私はそんな教会でシスターをそしているマ・クワ・ウリウリと言います!

 痴女ではないので、と付け加えた。

 独創的な名前だな、などと思っても口には出さない。

 いくら思った事を口走りやすい俺でも分別くらいはしているつもりだ。

「マさんね。分かった。俺は―――」

 俺は、なんて名乗ればいいだろう?

 本名?

 それとも何か適当な偽名?


『せっかくだからファンタジーな名前にしてやろう。ユーマ、ユーマ・トワイライト。いい響きだろう?』


 どこかでそんなやり取りをした気がする。

 ああ、夢の中だったっけ?

 いい響き、なのか。


「俺はユーマ・トワイライトだ」

「ふむふむ。ユーマさまですね」

 特に違和感とかは感じないらしい。

 まあ、シスターの名前の方が独創的だしな。

「それともうひとつ!」

 歩きかけた彼女が踵を返す。

 夕日を受け、黄金に輝く髪が宙を舞う。

 かすかに花の香りが鼻孔をくすぐった。

 大事なことです! と前置きをした上で彼女がはにかんだ。

「マさんじゃ可愛くないので、ウリウリとお呼びください!」


 ◆◆◆


 カチャカチャカチャ


 木製のスプーンでクリーム煮をかきこむ。

 タダ飯を食らい、タダ宿に泊まる。

 こんなに楽しいことは無い。

 なんて親切な宗教なんだ。


 中世ヨーロッパにふかふかの布団付きのベッドは無かったと思う。

 だが、この世界にはベッドもあるし、ふかふかの布団もついていた。

「ファンタジー、最高だな!!」



 時計は見たことが無いので存在しないのかもしれない。

 俺の体内時計では、ざっと21時過ぎくらいだろう。


 普段ならこんなに早く寝ることは無い。

 しかし、見知らぬ場所で、歩き回ったりしてたまった疲労が睡魔を呼び寄せる。

 起き上がる気がせず、体勢を直すのもおっくうに感じ、まどろみの中に沈んでゆく。



 ―――。

 ――――――。


『起きよ』

「・・・・・・」

『起きよ。ユーマよ』

「・・・・・・」

 耳元、いや脳裏に響くような声が聞こえる。

 その声は幼い女の子っぽい感じの、そう一言でいうと少し耳障りな高音系ロリボイスだった。

『・・・・・・むむむ。起きよと言ってるの』

(悪夢か)

 まどろんで、そんなに経っていないはずだった。

 それなのに正体不明のヤツに叩き起こされそうなのだ。

 迷惑この上ない。

 どうせ起きても何もない。

『・・・・・・起きないなら仕方ないの』

 少しの間を置いて、ロリ声の主が諦めるようなセリフを吐き捨てる。

(さよなら悪夢・・・・・・グッナイ)

 心の中で呟き、寝姿勢を直し、少しだけ目を開ける。

 特に何も見当たらなかった。

(そうだろうさ・・・・・・)

 幻聴的なアレに違いない。

 そう思い返し、目をつむる。

 まだ寝れる。

 窓から見える庭も真っ暗だった。

 夜中なんだろう。



 スヤスヤと眠る。

 段々と体が軽くなってゆく。

 フワフワとした感覚が心地よい。

 意識を手放そうとした、その時。


『我が神名、ホマレイサナモリヤチヒロにおいて念ずる! タイシャクカシン!』

 唐突に脳裏に響くは高音系ロリボイス。

 ホマレイサナモリヤチヒロとかいうのが、安眠を妨げるヤツの名前らしい。

 かといって何か変化があるわけでも無く、部屋の隙間から吹き込む風の音だけが聞こえていた。


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