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下水道の掃除へ行こう

「下水掃除に行こう」

「イヤじゃ。そんなバッチいところ行きとう無い」

「じゃあ、河で洗濯しよう」

「武人たるもの、そのような些末事、するべきでは無いと」

「・・・・・・」

 明けて翌日。

 張り出されたクエスト一覧に目を通し、割の良さそうな依頼をいくつかチョイスしてみたが、このザマだ。

【ロッテンハイマー商工会依頼 市内地下下水道の清掃。スケルトンとの会敵あり。人数×金貨二枚】、【ガモー織物商会依頼 商品用布地の洗濯。簡単な仕事です。銀貨八枚】。

 これ以外の依頼となると銀貨二枚だとか銅貨云枚だとかで渋すぎる。


「もっと暴れられるほうが良いのじゃ」

「某も体が闘争を求めている故」

「分かります! ピンチのなかで活路を見出すのはロマンですよね!!」

「だまれアホども」

 現在の全財産は、金貨一枚だ。

 四人で一枚なのだ。

「じゃあ逆に聞くけど、何ならしたいの」

「そうじゃのう。次から次へと湧き出る敵をバッシバッシとシバキ倒したいのじゃ!」

「なるほど」

 椅子の上で立ち上がり、目を輝かせながらシャドーボクシングを始めるマウス。

「某は手強きものと拳を交えたくありますな。真の強者たるもの肉体こそ最強の―――」

「おまえはどこかの格闘家か」

 拳をぎゅっと握りこみながら闘志をみなぎらせるシチミ。

「私はそうですね・・・・・・。不浄な感じの卑わ、いえ下劣な感じの敵と一進一退の死闘を繰り広げてみたいですね」

「いま卑猥って言った?」

「いえ? 聞き間違いじゃないですか?」

 にっこりと笑うウリウリの額を一筋の冷や汗が流れ落ちるのを見逃さない。

 やっぱりHENTAIじゃないか。


「なるほど。それぞれの希望をまとめた結果を発表します!」

 三人の期待に満ちた視線が熱を帯びる。

 なんだかんだ言って、冒険だとかをしたいのだ、こいつらは。

「ドゥルルルルルル!」

 どこかのテレビ番組みたいな効果音を口ずさむとマウスが小首を傾げていた。

 うん、頭狂ったかとでも思ったのかな。

 文化の違いってヤツだ。


「下水掃除に決定しました!!」

「「「イヤ」じゃ」ですぞ」です!!」

 ほぼ同時に反論を口にする面々。

 そういうと思ってたわ。

 だから依頼書をじっくりと、これまで以上に読んだ。


「じゃあ、なぜ下水掃除をチョイスしたか答えよう」

 ここは大人の対応ってヤツだ。

「一つ目、スケルトンが徘徊している。元々地下墓地だった区画を改装して下水にしているワケだが、町が出来て300年余り。蓄積し、地下に垂れ流された家庭用の魔力残滓で遺骸が徘徊するようになっている」

「・・・・・・」

 神妙な面持ちで聞いているマウス。

 とは説明したが、意味が分からん。

 なんで骨格模型みたいな状態のものが徘徊するんだよ。


「つまり倒しても心が痛まないし、適度な強さで倒し放題ってことだ!!」

「ふむ。つまり気が済むまで湧き出るスケルトンを倒せると」

 ぽむと手を打ったシチミが目を輝かせる。

「某、下水掃除は経験が無い故、スケルトンをなぎ倒すだけで良いなら」

「良い良い。ひたすらなぎ倒しててくれ」

 元々、戦闘民族頼みなのだから計算通りである。

 こいつらが暴れている間に依頼の掃除を済ませてしまえば良い。


 まあ、俺自身も罪悪感が湧かないスケルトンで光剣の試し斬りをしてみたいっていうのはあるけど。

「心得た。マウス殿、某は賛成ですぞ」

「うー・・・・・・クサそうでばっちいのがイヤじゃ」

「じゃあ鼻栓したらいいじゃん」

 衣装のセンスは壊滅的な彼女は妙にキレイ好きだった。

 洗濯しているのかも分からないスク水を着ている割にである。


 ただ下水とかいう場所は、キレイ好きにとって最悪の場所だと思っているきらいがある。

 うん、分からんでもない。

 好んで突き進みたい場所じゃない。

「ユーマよ。ナイスアイディア、などと言わんぞ? よいか。誇り高きドラゴン族は熱線を撃てるのじゃ。鼻が詰まっておったら呼吸困難で死ぬわ!」

「なるほど。それは困るな」

「じゃからボツじゃ」

 ぷいとそっぽを向く幼女。

「熱線を撃たないと倒せないなんて、大人のレディにはまだ遠かったかあ」

 棒読みで煽る俺に顔を真っ赤にして振り向く。


「ふ、ふん! 骨の数体なんぞボキボキにへし折ってくれるわ! 見ておれ!!」

「じゃあ賛成と」

 ドカッと派手な音を立て、マウスが着席した。

 あとはウリウリだけだ。

 さて、こちらはどうしたものか。

 興味を惹けそうな要素が―――。

「じゃあ、私も同行させてもらいますね!」

「え、イヤとか言わなかったっけ?」

 さっき、三人仲良くハモッていた気がする。

 聞き間違いだったか?


「いえ、汚くてクサそうでイヤだなーって思ったんですよ。思ったんですけど、よくよく考えてみたら・・・・・・」

「なかなかそそるシチュエーションだなって!」

 怪しげな笑みを浮かべるシスター。

 おまえ、本当に聖職者か?

「というと」

「絵物語・・・・・・あ、いえ、逸話集に聖職者と不死者をテーマにしたものがあるんです。その中でピンチに陥りながらも迷える魂を昇天、というか浄化する場面があるんですね。それがとても刺激的だったことを思い出したんです」

「それって」

 出掛かった言葉を飲み込む。

 刺激的な絵物語な逸話集って、つまりそういうヤツでは?

 などと思わなくもないが、いくら変人じみているとはいえ疑うのは良くないな。

「まあ、そういうことにしておこう」

 触らぬ神に祟りなし。

 知らぬが仏って言うし。



 かくして下水掃除という名のクエストを受領した俺たちは、町中にある公園に集まった。

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