ゴブリンがあらわれた! ゴブリンを倒した!!
キラリ
月の光に照らされた数歩先の地面が光った気がした。
さっきは釘だった。
今回ははたして・・・・・・。
「お、おおおぉぉぉぉ???」
月の白い光に照らされて、キラリと光っていたのは
YU★BI★WA
「ゆ、ゆゆゆ指輪ではございませんか!!! 探したよ金貨5枚相当!!!」
赤い宝石がはまった金の指輪。
どうみても高級品で、パクって売り飛ばしたら結構な額になりそうなそれが目の前に落ちているのである。
引きちぎられた雑草の陰に隠れるように。
俺でなきゃ見逃しちゃうね、なんてな。
「やったぜッ!」
誰かにかっさらわれることなんて無いだろうけれど、ここは異世界。
何が横やりを入れてくるか分からない。
サッと手を伸ばして掴んだ。
と同時に作物を突っ切って脇から緑色の腕が伸びる。
「ひえッ!!?」
そのまま指輪を確保した俺の左腕をがっしりと掴んだ。
こう、ザラザラとした肌触りで低体温な手のひらはひんやりとしていた。
握力が物凄い。
こっわ!
緑色じゃん!!!
腕、緑じゃん!!!!?
どう見ても人間ではない。
マウスですら肌色だったのに緑色じゃん?!
俺の中で危険を知らせるサイレンがけたたましく鳴り響く。
いや、例えだけど心臓の鼓動が早くなり、引きつっているであろう顔のまま、腕の根本に視線を走らせる。
見えない。
腕だけだ。
もしかしたらキュウリの精霊とかピーマンの精霊なのかもしれない、なんて一瞬、夢見たこともありました。
ガサガサガサッ
左側の作物が揺れる。
何か黄色い実がなっているヤツだ。
そして、緑色の本体登場。
「ゴブリンだッ!!!!!!!!!」
実物は見たことが無い。
当たり前だけど。
だが直感というか見た目が、マンガやアニメに出てくる緑色のあいつだった。
ただし腹筋がキレイに六つに割れ、小顔でイケメン俳優張りの整ったご尊顔。
緑色だけど。
そのゴブリン(仮)の視線が俺を捉える。
鋭いツリ目に赤い眼球。
そして、
「いかにも。某、ゴブリン族が闘s―――」
「ゴブリンが喋った!!!!!!!!!!!」
半裸のゴブリンが渋めの声で喋りかけた。
のに驚き、素っ頓狂な声を張り上げる。
どうする? 逃げる? いやせっかく見つけた金貨5枚相当の指輪を捨てるなんてとんでもない!
「ゴブリンが何用だ!!!!!」
叫んだ勢いのまま質問を浴びせる。
そもそも、いきなり襲い掛かってこなかった事から意思疎通可能なヤツだ!
たぶんそう。
「某が先に見つけたのだ!!」
指さす先には、俺の左手の拳。
握っているのは、例の指輪だ。
「いや! 俺が先だ!!」
知らんけど。
「むう。証明のしようが無いな・・・・・・」
ゴブリンがうなる。
ん、ゴブリンってそんな理性的な感じなの?
もっと「オマエコロス、ユビワ、オレノモノ」みたいな蛮族チックな感じじゃないのか?
「ならば実力行使で貰い受ける!!!」
「やっぱり蛮族じゃねえか!!!」
よく尖った前歯がギラリと光る。
残忍な笑みを浮かべたゴブリンが正面に仁王立ち。
「貴殿!! ドンパパパドンパッパは存じているだろう!?」
「ドンパ・・・・・・なんて?!」
拳をポキポキ鳴らしながら肩をいからせ、ゴブリンが迫る。
格闘家みたいな筋肉ムキムキマッチョマンで、下半身のみワラで出来た腰ミノをつけていた。
「なにっ!? ドンパパパドンパッパをご存じないと!?」
150cmほどの小さな巨人が、さっきから意味不明なことを口走っている。
別の意味でヤバいヤツかもしれない。
「ドンパパパドンパッパとは、古来より伝わる決闘方法のひとつであろう!? それを存じないと?」
「なんだそれは。知らん」
「なんと!? 某はどうすれば・・・・・・」
勝手にイキって、勝手に落ち込む。
なんだこれ。
こっちこそどうすればいいのか分からない。
「じゃ、じゃあ、そういう事で」
「待たれよ! まだ勝敗がついておらん!」
「なんてメンドクサイんだ・・・・・・」
指輪探しに同業者が絡んでいるとか聞いてないぞ、アンディアス。
「メンドクサイでは済まぬのだ。某、三日三晩何も食べておらぬ。その赤い果実を食えぬと飢えてしまう」
なんて切実な理由。
だがしかし。
「これは食えんぞ」
そっと握っていた指輪を見せると残酷な一言を放った。
「な、なぜ・・・・・・?」
赤い宝石を凝視するゴブリン。
口の端からよだれが垂れる。
「これは指輪だ」
「・・・・・・」
「装飾品」
「・・・・・・」
よろよろとゴブリンが歩きだす。
そして、芸術的な曲線を描きながら、膝から崩れ落ち、腹、胸と地面に触れ、最後に頭が土にめり込んだ。
遅れてドサァという土からのレスポンスが返ってくる。
「ゴブリンが死んだ」




