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畑と指輪と

「もうイヤじゃ―――――――――ッ!!!!!」

 どこまでも続く麦畑のどこかからマウスの大声が青い空を突き抜けていった。

 大気がビリビリ震えた気がする。

「これがドラゴンロアー」

 連なる麦の根元を掻き分けながら俺は唸った。

「見つかるわけが無いのじゃ―――――――――――――――ッ!!!!!!」

 絶叫再び。

 ロッテンハイマー南に位置する穀倉地帯。

 小麦畑は異常に広かった。


 さっきいた町の名前がロッテンハイマー。

 背後に大河を背負い、正面には大穀倉地帯を有する大都市だそうだ。

「大都市ね・・・・・・。まあ畑部分はクッソ広いけどな」

 ざっと東京ドーム約15個前後はある穀倉地帯に対して、町部分はその半分ほどだ。

「バチカン市国くらいの広さだっけ?」

 どうでもいい豆知識。

 当然知っていたって何の役にも立たない。


「で、このバカみたいな広さの畑のどこかに落としたらしい指輪を、ね」

 そりゃ金貨5枚も積むわな。

 労力というか絶望感がハンパないもの。

「しかも落とした【かもしれない】だからな・・・・・・。なかったらどうすんだよ」

 どうすんだよ、と呟いてみたものの現物を[持ち帰って初めて報酬が出る]らしいのだ。

 ってことはなにか?

 何も見つからない可能性だってあるわけだ。


「保障の適応がされるって言ってもな」

 冒険者登録から5回までは、成果の如何に関わらず、最低限の報酬が提供されるらしい。

 まあ、引き当てたクエストが過酷ですぐ辞めてしまうのを防ぐため、とかなんとか。



「え・・・・・・この場所から指輪を探すんですか?」

 正気ですか、という言葉こそ発しなかったものの、そういう顔をしていたのが忘れられない。

「赤いトマトのような宝石がついた指輪ね・・・・・・」

 異世界に来て、初めてのクエストが指輪探しだ。

 なんせ金貨5枚、今回は特別に一人当たり、ということにしてくれている。

 太っ腹のアンディ氏に感謝したいところだが―――。


「ウリウリの気配が消えた・・・・・・」

 数分前から数畝先にいたであろうウリウリの動きが感じ取れない。

 どこまでも続く小麦畑が風に揺れる。

 ワイバーン討伐よりは楽なんだろう。

 薬草を取って来いとかの方が地味で単価が安いんだろう。


「とはいえどっ!!」


 すでに陽は西の空に傾きつつある。

 このままでは夜になってしまうが、いったん帰宅して翌日などというワケにはいかない。

 何故なら今どこら辺を捜索していて、翌日にどこから再開すれば良いか分からないからだ。

「夜通しぶっ続けとはな」

 夜通し交通整理した想い出が甦る。

 あの時は寒かった。

 この世界の夜は寒いのだろうか。


 それでもやらざるを得ない。

 仲間の屍を踏み越えて・・・・・・いや、死んでないけどな。

 黙々と畝と畝の間を腰をかがめて覗き込みながら歩く。

 幸いなんか黄色の実みたいな作物がなっている畝はキレイに整えられている。

「とはいえ、腰が」

 腰がつらい。

 おじいちゃんになっちまう。


 そうだ。

 虚無だ。

 何も考えない。

 それがベストだ。


 ―――。


 ――――――。


 ―――――――――。


 夕陽に照らされた小麦畑が黄金に輝く。

 そよ風に揺れると波が寄せては返すかのようだ。

 はるか遠く山々の稜線に日が沈んでゆく。

 ロッテンハイマー市街は南傾斜の北側に大河があるようだった。


 空には夜のとばりがおりはじめ、徐々にあたりを薄闇が支配してゆく。

 少し寂しいような気分になるのは夕暮れのせいだけでは無いだろう。

 だってさ。

「あいつら、どこ行ったんだよ」

 落とし物を探していたら仲間たち(仮)が畑で迷子である

 むしろ落とし物になってしまうとか冗談じゃないぞ。


 立ち上がり、凝り固まった腰を伸ばして見渡すが、どこにもマウスとウリウリの姿は見当たらなかった。

 先刻まで賑やかに愚痴っていたマウス。

 小麦をかき分けていたウリウリ。

 そのどちらもが、この場からいなくなってしまったかのように思えた。


 やがて空には暗幕がおり、星々が瞬き始める。

「星がキレイだ」

 現実から多少逃避したってバチは当たらないだろ。

 というか飽きた。


 夜空を見上げると星々が知らない星座を描いていた。

 オリオン座も北斗七星も何もかも知らない夜空だ。


「そして、指輪も無い」

 いくら月の光で煌々と照らし出されているとはいえ、日中より視界が悪い。

 その日中ですら見つからないものが見つかるわけが無い。


 サワサワサワ


 ときおり吹き抜ける風が麦の穂を、作物の葉を揺らす。

 異世界というから、もっとこう殺伐としているイメージがあったが、そんなことは無かった。

 ワイバーンとかいるみたいだけど、町を出て数歩歩いたらモンスターに遭遇するなんてコトは無いからな。


「よし」

 続きをやるか。と心の中で呟く。

 もうこうなったら探したけど見つからなかったと報告すれば良い。

 正直メンドクサイ。

 先刻より雑に、かつ割と適当に土の上に目を走らせていく。


 そして、考えていることは別のこと。


『通貨ですか? 金、銀、銅、石貨と四種類ありまして、1金貨=10銀貨、1銀貨=10銅貨となっています』とアンディ氏の説明。

 別の国から来たので通貨レートが分からなくて、などと言ってみたら親切に教えてくれるあたり丁寧な男なんだろう。

 ちなみに石貨とやらは、ガラスのおはじきみたいなヤツ。

 アレそっくりだった。

 1銅貨=100石貨とここだけレートが違うそうだ。

 で、問題なのが俺が婆さんから後払いで買ったナントカセーバーだが、金貨5枚と言っていた。

 通貨レートを見る限り、要確認が必要だけど、5万円相当なんじゃないだろうかという事だ。

 現在のゴッデスポイントが500、つまり5万円だ。

「本当に無一文になってしまう・・・・・・!」

 と考えれば、なんとかして指輪を見つけたいところだが―――。

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