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美味しいお肉は旬がありまして

「マ・クワ・ウリウリ。年は16歳。アウスティリア正統中央教会のシスターをやっています。冒険者登録はしていますけど、身分証明として持っているだけですので冒険歴はありません。好みは爽やかな味の果物、詩。そしてピンチです」

「え、なんて? ピンチ?」

 空いている4人掛けのテーブルに移動した俺たちは、お互いの自己紹介をしていた。

 爽やかな笑顔を浮かべるシスターの自己紹介がどことなくおかしい。

「はい。例えば敵に囲まれて絶体絶命。粘体系の怪物に拘束されて大ピンチ・・・・・・萌えるシチュですよね!?」

「・・・・・・ニュアンスがおかしい気がするんだが」

 ピンチになると強くなる系の人だろうか。

 だが、少し目がイっている感じがするので、ドМ的なヤツかもしれない。


 性癖が歪んでいる系の気がするが、見なかったことにしよう。

 きっと異世界あるあるの文化の違い的な・・・・・・。


「マウス・ヴェサ・エレクトロニカ。年は・・・・・・人間換算で15歳じゃ! 生まれも育ちも霊峰。世話役の女と約束したのじゃ。カッコいい大人のレディになるのじゃ。好みは分からん。とりあえず殴って壊れないものとかじゃな」

 異世界版チンパンジーが過ぎる。

「カッコいい大人のレディとはいったい・・・・・・」

「そりゃ父殿に負けぬような強靭かつ超絶無敵マウスちゃんさまの事じゃ!!」

 思うにおしとやかさとか思慮深さとかそういうヤツではなかろうか。

 絶対、世話役の人の意図したものと違う気がする。


「えーと。ユーマ・トワイライト。年は20で、あーと。はるか遠い異国の出身で異邦見聞録を創るために来た。好みは―――」

 概ねウソで塗り固められた情報を口にする。


 名前ですら偽名だし、年は正しくは21歳だ。

 ウリウリのように聡い相手か分からない場合は、異世界からなど口走らない方が良いと思う。

 見聞録はそういう義務があるからウソじゃないけど。

「好みは、辛いもの、寿司、炭酸飲料かな。まあよろしく」

「スシとはなんじゃ?」

「生魚の切り身が乗ったごはん、のことかな?」

 大体合っていると思うが伝わるだろうか。

「え、ユーマ様。生魚を食べるんですか?」

 ぎょっとした顔で後ずさるウリウリ。

 あー、もしかして生魚を食べる文化が無いな、コレ。


「美味しいよ?」

「生魚を食べるのはゴブリンくらいですよ!」

 うん。

 なんか絵面が想像できるわ。

 緑色の子どもサイズ、醜悪な見た目のゴブリンが、魚を鷲掴みにしてバリボリムシャアと喰らいついている様を。

「ちょっと、ユーマ様に興味が湧きました」

「それは生魚を食べる点なのか、それとも俺自身なのか」

「どちらもです」

 にっこりと微笑むウリウリ。

 とりあえず意図が分からない。

 分からないので微笑んでおけばいいと思う。


「で、じゃ。ワイバーン―――」

「「行かない」」

 ワイバーン討伐に固執するマウスを息の合った一言で一蹴する俺たち。

「良いですか! ワイバーン討伐は四人からしか受諾できないんです」

「知っとる。じゃが、我の敵では無いのじゃ」

 職員と同じ理由でマウスをたしなめるウリウリ。

 どうやら本当に人数制限とかがあるらしかった。

「それにワイバーンの旬は今じゃありません!」

「ん?」

 旬? 旬って言った???

「一番脂と肉のうまみが出るのは真夏!!」

「な、んじゃ・・・・・・と?」

「過酷な夏場を生き抜くためにワイバーン肉が一番おいしくなるのは、あと一月くらい先なんです!!」

 ぐっと握りこぶしに力が入り、椅子から腰が浮くほどに前のめりになるウリウリ。

 それに気圧されたかのように言葉を失うマウス。

「食べる気か!?」

 トカゲとか言ってなかった?

 空飛ぶトカゲとか!?

 トカゲを食べるの?!

「ユーマ様はご存じ無いんですね。ワイバーンのお肉は豚肉のうまみと鶏肉の食感を兼ね備えたジューシーな高級食材なんです!!」

「なんじゃと!!?」

 ご存じないと言われてもマウスも知らないヤツじゃん!

「甘辛いタレに漬け込んで、炭火でじっくりと焼いたワイバーン肉。一噛みするとじゅわっと溢れ出す旨味。ぷりっぷりの歯応え抜群のそれは至福ですよ!」

「そ、そうなんだ・・・・・・」

 脳裏に浮かぶのはマンガ肉。

 うん、美味しそうかもしれない。

「ということで! 一か月後にしましょう! 美味しいお肉は熟成させなきゃ勿体ないですよ?」

「ば、蛮族なのじゃぁぁぁぁぁ!!!!!」


 何でもグーパンチで解決しようとする異世界チンパンことドラゴン娘か何でもグルメに見えるシスター。

 どちらが蛮族かとか答えは出ない。

 何故ならここは、異世界アラド。

 剣も魔法も魔道具だってあるけれど、文明開化しすぎた中世ヨーロッパ的な世界に常識など通用しそうにないからだ。

「ふむ。なかなか奥深い」

 ところで聖職者って肉食いいんだ?

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