【ダイ】ライブアディクト
ギターのコードを順番に拾っていく。それは決して難しいことではない。そうして最も分かりやすい形の音楽を作り上げる。
芸術には必ず二つの形がある。一つは、天才的な閃きや発想で今までにないものを生み出すもの。そしてもう一つは、今までにあるものをブラッシュアップするもの。どちらが優れているというわけではない。ただそのような系統があり、ダイの場合は、後者にあたる。
髪は雑誌で流行っていると書かれていたアシンメトリー(左右不対称)にカットしてある。服は、雑誌に載っていたアメカジの廉価版だ。いつもポケットに手をつっこんで首を揺らしている。
彼の最も厄介なところは、一般的でありたいと思う傍ら、自分のアイデンティティを強く持ちたいと望んでいる。集団でありながら、孤独を願う。しかし、これは決しておかしいことではない。誰だってそうだ。他人と違うのは嫌だし、他人と同じなのも嫌。彼もまた、そんな一般的な感覚を持ち合わせているといっても過言ではない。
とにかく、彼は正統派のバンドマンなのだ。一般的に共感しうる恋の歌詞を書き、また聴きやすいどこにでもある曲をつくる。
「えー、どうも、大阪で活動しているハイスクールブランドです。みなさん略してハイブラと呼んでくださーい!」
それなりのレスポンスが返って来る。観客は、20人くらいか。よく集まったほうだ。その中には知人が、、
15人くらいいるわけだが。
「えー、なんだろ?盛り上がってるかいっ!」
キーン。
ハウリングで語尾が飛んだが、観客は手をあげて応える。友人からの彼の評価は概ねいい。いや、一般的には高いと言っても問題ないくらいだ。
「じゃあ次の曲は、今、悩んでいる人に聴いてもらいたい曲です。曲名は、『光』お願いしまっす!!」
ドラムソロで始まった曲は、次に、ボーカルとともにギターが響く。必要以上のボリュームでライブハウスは細かな振動に襲われる。
そんなとき、彼は強烈なエクスタシーを感じるのだ。
観客は、なおも体を揺らし続ける。
「アマチュアバンドとしては、テクニックはすごいな。でも、もううんざりだ。出よう」
後方でパーカーをかぶって曲を聴いていた青年は、耳にかかった髪を一度かきあげて、気だるそうにライブハウスを出た。