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隣国の事情






 皇太子宮を出て、宮殿内に用意された客間に着くまで、メフィストは何も言わなかった。


「……何も聞かないの?」


 結局、用意された部屋に着いたところで先に口を開いたのはイリスだった。


「聞く必要がないからね。ただ、一つだけ言ってもいいだろうか」


「なに?」


 メフィストは、繋いだままのイリスの手を引き寄せて向かい合う。


「例え君が聖女じゃなかったとしても、あの男に君は勿体なさ過ぎる。それくらい君は素敵な女性だ」


「……ありがとう。その言葉だけじゃなくて、さっき助けてくれたことも。ずっと手を握っていてくれたことも。それから……あの気の遠くなるような牢獄の暗闇の中で、私の為に歌ってくれたことも。あなたがいなかったら、私は今ここに立っていられなかったかもしれないわ」


 イリスが心からの感謝を伝えると、メフィストは苦笑を浮かべた。


「どれもこれも、僕が勝手にやったことじゃないか」


「そうだけど、そうじゃないでしょう? 私は実際に救われたもの」


「礼を言われるほどのことじゃないよ」


「それじゃあ、明日はあなたの話を聞かせて。私ばっかり助けられてはいられないわ。これは取引ですもの。私もあなたの役に立たなくちゃ」


「ふ……。ああ、そうしよう」


「もう、私は真剣なのよ? どうして笑うのよ」


「笑ってない」


「笑ったわ」


 イリスは、こんなふうに気兼ねなく誰かと話すのは久しぶりだった。最後にこうして人と笑い合って話したのはいつだっただろう。


 牢獄に入れられる前……家族が処刑される前……父が反逆を企てる前……ミーナが聖女になる前……皇太子妃になるため必死に勉強していた頃……遡っても遡っても、笑顔の自分はどこにもいない気がした。


「それじゃあ、おやすみ。イリス、良い夢を」


「おやすみなさい。メフィスト、あなたも」


 イリスは、生まれて初めて明日が待ち遠しいと思った。

























 翌朝、改めてメフィストの元を訪れたイリスは、今後のことを話し合うため地図と紙とペンを持参した。


 その姿を見たメフィストが、彼女の生真面目さを垣間見た気がして密かに笑う。



「それじゃあまずは、あなたの国の事情を聞かせてくれるかしら。何がどうなったら豊かな国土を他国に渡そうだなんて話になるの?」


 

 テーブルの上に持って来たものを広げたイリスが振り返ると、メフィストは慌てて笑いを引っ込めて取り繕った真面目な顔でイリスを見た。


「長い話になるよ。それこそ、我が国サタンフォードの建国まで遡る話だ」


「あら、面白そうじゃない。歴史は大好きよ」


 悪戯っぽく口角を上げたイリスに、メフィストは一瞬だけ面食らい、すぐにその整った相好を崩した。


「じゃあまず、サタンフォードが帝国から独立した頃、帝国で起こった出来事を挙げてみてくれ」


 歴史の授業のようなメフィストの物言いに、イリスは大好きだったアカデミーでの勉強を思い出した。


「サタンフォードの独立と言えば、今から百年程前よね。その頃にあったこと。帝国の魔力が枯渇したのはその頃だわ。あとは確か西部の大規模な干ばつが起こり始めたのもその頃だったかしら。あと……あ! 聖女、最初の聖女が現れたのも同じ時期だったわ」


「流石は歴史好きなだけあるね。じゃあ、それらの出来事が、全て同じ時期に起こったのは偶然だと思うか?」


 イリスと同じくらい楽しげなメフィストは、問題を解くかのような彼女の生き生きとした姿を見て目を細めた。


「……考えたこともなかったけど。でもそうね、聖女のような救世主が出現するのは、何か国に危機が迫った時じゃないかしら。そう考えると、災害や国力の低下が聖女の出現に結び付いたと言えるかもしれないわ」


「なかなかいい線をいってるよ。ああ、楽しいな。こんなふうに議論できる人はあまりいないから。やっぱり君は素敵な女性だよ」


「煽てないで。いい線をいってる、ということは。正解が他にあるんでしょう?」


 イリスが唇を尖らせると、メフィストは微笑んでイリスの手元の地図を指した。


「君の言う通り、百年前帝国が危機に陥り、神が聖女を遣わしたのはまず間違いない。ただ、そもそも帝国が揺らいだのには明確な原因があったんだ。それこそが、サタンフォードの独立だったのさ」



 イリスの持ってきた地図は古く、その地図上のサタンフォードは、『帝国領サタンフォード』の文字に二重線が引かれて『サタンフォード大公国』と書き直されていた。



「それはつまり……サタンフォードの独立が、帝国の衰退を招いたということ?」



「そう。独立以前、サタンフォード領を治めていたのは誰だった?」


「今と変わらないわ。サタンフォード大公よ。確か、当時は帝国皇室の血筋から適任者が選ばれていたんじゃなかったかしら。適任者がいない場合は皇帝の直轄地だったはず」


「うん。では、サタンフォード大公の適任者とは、どういった者だったと思う?」


 メフィストの問いに、イリスはペンを口元に寄せて自分の知っている歴史と照らし合わせて考え込んだ。


「そうね……まず、大前提として皇室の血筋であること。それから……武に優れていることかしら? 歴代のサタンフォード大公は軍事権を皇帝から与えられていたと聞いたことがあるわ。あと、関係あるかは分からないけれど……短命の方が多かったんじゃないかしら。在位期間が短くて、子孫を残された方は殆どいないでしょう? それこそ、血筋を残されたのは百年前に大公国を建国した初代大公殿下、あなたの直系のご先祖様ぐらいじゃない?」


「君は本当に素晴らしいな。概ね正解だ。だが、ここで帝国皇室とサタンフォード大公家以外には知られていない秘密がある」


「秘密?」


 首を傾げるイリスへ、メフィストはサタンフォードの知られざる秘密を何の躊躇いもなく打ち明けた。



「帝国から独立する前の"サタンフォード大公"とは、帝国皇室の血族の中で数世代に一人生まれる、"呪われし者"へ与えられた称号だったんだ」



「呪われし、者……?」


 物騒な響きにイリスが眉を寄せる。


「皇室の"呪われし者"は、莫大な魔力と強靭な肉体を持ち、いつの時代もその力で帝国に恩恵をもたらした。しかしその分短命で、生まれながらにある身体的特徴を持っていた」


「その特徴って?」


「見せた方が早いな」


 そう言ってメフィストは、ずっと嵌めていた黒革の手袋をイリスの目の前で外した。


「っ!? それは何……?」


 口元を押さえたイリスが、ルビー眼を見開いてメフィストの手を見る。


「百年前は『呪詛紋』と呼ばれていたらしい」


 メフィストの手には、びっしりと刺青のように黒く奇妙な紋様が浮かび上がっていた。


「呪詛ですって? じゃあ、まさか……あなたもその"呪われし者"なの? ……あなたは大丈夫なの?」


 イリスが心配そうな顔を向けると、メフィストは可笑しそうに笑った。


「これを見て、そんなふうに心配してくれたのは君が初めてだよ」


「だって……」


「特に問題はない。これは呪いの残滓だ。本来の呪詛紋は全身に広がるらしいが、僕に発現した呪詛紋はこの両手の分だけ。多分、これ以上広がることはないし、大幅に命を削られるようなこともない。それもサタンフォードが独立したことに関係があってね。これが結構便利なんだ」


 そう言ってメフィストは、翳した手の上に火を灯し、水を出し、風を起こした。それを見て、イリスが感嘆しつつも首を傾げる。


「やっぱり変よ。牢獄で見た時も思ったけれど、魔力の無いこの国でこんなに自在に魔法を使えるわけがないわ」


「だから言ったろう? 僕の体は特殊だと。それはこの呪詛紋があることで、僕の両手にサタンフォードの魔力が溢れているからなんだ」


 それを聞いて、イリスはふと気が付いてメフィストの素手に触れた。


「ねぇ、ちょっと見せて……!」


「!?」


 その行動に驚いたメフィストが固まる。


「これってまさか……古代語?」


「すごいな。それも分かるのか」


 メフィストは感心しつつも苦笑した。


「僕の手に素手で触れてまじまじと呪詛紋を見たのは君が初めてだよ」


「勿論、何が書いてあるかまでは分からないわ。でも、この部分とか。神殿で見た文字によく似てる気がしたの」


「ああ。これは古代魔術の一種だ。土地の力を吸い上げ放出する類のものだと思う。恐らく帝国を建国した皇室の始祖が帝国の安寧のため血族に施した術だ。古代魔術は時が経てば経つほど制約が強く重くなる。ちょうど百年前がそのピークで、当時は血の呪いだとか、罪の代償だとか言われて皇室の中で毛嫌いされていたらしい。それはもう、紛うことなき呪いだ」


 イリスはメフィストの言葉を聞いて、歴代のサタンフォード大公の活躍と短い生涯に思いを馳せた。


「これはサタンフォードが独立した後に分かったことだけど、かつてサタンフォードが帝国の一部だった頃、"サタンフォード大公"である"呪われし者"とは、単に強大な力を持っていただけじゃなくて、サタンフォードの土地に眠る力を吸い上げ帝国中に行き渡らせる"媒体"の役目を果たす者だったんだ」


「つまり……あなたのようにサタンフォードの魔力を吸い上げて、それを帝国中に放出していたってこと?」


 考え込みながらメフィストの手を見たイリスがそう言うと、メフィストは満足げに頷いた。


「そうだ。ただし、僕の場合とは桁が違う。僕は両手を媒体に魔力を扱う程度だけど、当時は全身を媒体にして際限なく魔力と地力を帝国へ送り続けていた。それこそ、サタンフォードが枯れる程に膨大な量をね。実はサタンフォードは今でこそ豊かな国として知られているが、その昔……まだ帝国の領土だった頃は、不毛の地と呼ばれていたんだ」


「まあ! やっぱりそうだったの? マルクス・カッシーナの詩集を読んだ時に『鳥も飛ばぬ不毛のサタンフォード』っていう一節があって、とても驚いたのよ」


「ああ、『アルパール山脈の竜の巣』で始まる詩集か。あの詩集はいいよね。確かにあれが書かれたのは百年以上前だ」


「あなたも読んだの? じゃあ、『ディアベルの羽ばたき』は?」


「勿論知ってるよ。『運命と王妃を現世に運ぶ』だろう? 僕もあの章が好きだ」


 思いがけず趣味が合ったメフィストに目を輝かせていたイリスは、自分のせいで話が脱線してしまったことに気付いて申し訳なさそうに俯いた。


「……ごめんなさい、話を続けてくれるかしら」


「ふははっ。ああ、カッシーナの話はまた今度ゆっくりしよう」


 イリスの様子を見て吹き出したメフィストは、気を取り直して地図上のサタンフォードを指した。


「当時のサタンフォードが不毛の地だったのは、その全ての恵み……魔力と地力だけじゃなく、地下の地脈や鉱脈から天上の雨ですらを帝国に捧げていたからだ。そしてそれと反対に、当時の帝国が豊かで魔力に溢れていたのは、サタンフォードの恵みを全て横取りしていたからさ」


 サタンフォードに置かれたメフィストの指が、スッと隣の帝国へ移る。


「言うなればサタンフォードという土地は、帝国を豊かにするためだけに存在した、魔力と地力に満ち溢れた土地だった」


「その土地を、枯れるまで搾取していたのが帝国なのね。……まるで生贄ね」


 イリスの目には、二重線で消された『帝国領サタンフォード』の文字が妙に生々しく映った。


「そしてその繋ぎの役目を果たしたのが歴代の"サタンフォード大公"、皇室の"呪われし者"だった。百年前はこの本来の意義が忘れられ、莫大な魔力と強靭な肉体を持つ圧倒的な強者としてしか認識されていなかったが、"呪われし者"の強大な魔力も肉体も、サタンフォードの土地の力を取り込んでいたが故のただの副産物にすぎない」


 ここまでの話を聞いて疑問に思ったイリスがメフィストに問い掛ける。


「その"呪われし者"が数世代に一人しか生まれなかったのは何故なの?」


「力の流れは雄大だからね。恐らくだけど、一度流れができれば数世代の間は止まることがなかったんだと思うよ。水路が絶えず流れ続けるように。時々弱まってしまう流れを元通り押し流す役目を果たしたのが"呪われし者"で、その分多大な負荷を受けて短命だったんだろうと推察されている」


「じゃあ、百年前に帝国が突然干ばつや魔力の枯渇で衰退して、逆にサタンフォードが急激に豊かになったのは、その流れを無理矢理断ち切る出来事があったからね」


 講義のような説明を正しく理解してくれたイリスに微笑んで、メフィストはエメラルドの瞳を細めて頷いた。


「その通り。それがサタンフォードの独立であり、それを行ったのが帝国皇室最後の"呪われし者"にして、サタンフォード大公国の初代"サタンフォード大公"となる、ルシフェル・サタンフォード……僕のご先祖様だ」




 漸く繋がった歴史に、イリスは息を吐き考えを巡らせた。




「帝国から独立した初代大公が皇室最後の"呪われし者"……ということは、それ以降帝国に"呪われし者"は生まれていないということよね。何故なら……サタンフォードの独立と共に、その術を担う血族が皇室から大公家に移ったから?」


「ご名答だ。そうなると媒体の役目は必要なくなる。サタンフォードの中にサタンフォードの力が廻るだけだからね。そんなのはただの自然の摂理だ。そのため僕に発現した呪いはほんの一部、それこそ古代魔術の残滓程度しかないってわけさ」


 手袋を嵌めながら、メフィストは改めてイリスを見た。


「サタンフォードとその媒体をしていた"呪われし者"が帝国から独立すれば、当然そこにあった繋がりが切れる。初代大公が独立した当時、誰もそんなことは思いもしなかった。だから当時の帝国は大混乱に陥ったそうだ。急に失われた魔力、各地の不作、干ばつ。原因が分からない中、急激に衰退し砂漠化する国土。そこに国を救うため神から遣わされたという聖女が現れて雨を降らせ、土地を蘇らせた。帝国の異常な聖女崇拝がそこから始まったんだ」


 自国の聖女崇拝について嫌というほど身に覚えのあるイリスは、自分の知っている歴史を今一度考え直した。


「……ねえ、初代大公は、どうして独立をしたの? 歴史書には詳しく書かれてないわよね?」


「大公国が建国された理由には諸説あるけど、当時の皇帝と折り合いが悪かった初代大公が、愛する妻子を守る為建国した……と大公家では伝えられている」


「初代大公といえば、それこそ皇室の血筋よね。ほぼ直系の血筋、当時の皇帝とは従兄弟関係じゃない?」


「よく知ってるな。僕の祖父の話だと、その更に一代前の皇帝……初代大公の伯父にあたるお方が存命だった頃は初代大公も皇室と良好な関係だったらしい。けど、皇位が代替わりした途端に関係は崩れ、初代は家族と共にサタンフォードに逃れた。そして皇室は不毛の地と共に大公家を切り捨てた」


「ちょっと待って! それじゃあ皇室側がサタンフォードを捨てたの?」


 驚いたイリスに、メフィストは苦笑する。


「歴史というのは厄介だからね。大公家にはそう伝わっているけど、実際は違うかもしれない。真相を知るのは当時の当事者だけさ。けど、どちらにしろ帝国がサタンフォードの独立を許したのは間違いない事実だ。不毛の土地なんて惜しくもなかったんだろう。それが自らの国力の要だったと知りもしないでね」


「皮肉ね。……なんて愚かなのかしら」



 イリスはその当時の皇帝の顔を知らないが、想像の中の暗愚な皇帝がどこかの誰かと重なって見えた。


「いつの時代にも暗君はいるものさ」


 メフィストもまた、どこかの誰かを思い浮かべながらイリスに同意する。



「でも、それで終わりじゃないのよね? どうしてサタンフォードは今、帝国への帰属を望んでいるの?」


 イリスの問いに、メフィストは溜息を吐いて再び地図に目を向けた。



「帝国の異変に気づいた初代大公と大公妃は、自国の発展に奔走しながらもその要因を探ったんだ。いくら国を出たと言えど、祖国が急激な危機に見舞われたのを放っておけなかったらしい。そして、建国から数十年経って真実を知った。その時にはサタンフォードは活力溢れる豊かな土地となり、逆に帝国は衰退の一途を辿っていた」


「百年前と今とでは、帝国の生産力が半分にまで落ち込んでいると聞いたことがあるわ。百年で半分ですもの。数十年でも相当国力が落ち込んでいたでしょうね」


 二人が見つめる古い地図の帝国は緑が多く色塗りされているが、今の帝国は西側の殆どが砂漠化している。


「他でもない自分達の独立が帝国の危機を招いたのだと知った二人は、とても後悔したらしい。皇室の人間がどうなろうとどうでも良かったらしいが、一番最初に被害を受けるのは人民だからね。でも、サタンフォードを元通りに返還するには、サタンフォードは発展し過ぎていた。初代大公を慕って帝国から移住した者、周辺諸国から流れ着いた難民、国力を落とす帝国から逃れて来た貧民。全てを受け入れていたサタンフォードは、いつの間にか立派な国家になっていた」


「自分達を捨てた国なんて放っておけばいいのに、あなたのご先祖様はあなたと同じくらい優しかったのね」


 イリスがそう言えば、メフィストは頭を掻いた。


「どうしてそこで僕の話になるんだ?」


「だって、あなたって優しすぎるんですもの。きっとそのご先祖様に似たのよ。それで、ご先祖様はその後どうしたの?」


 納得のいかない視線をイリスに送りながらも、メフィストは続きを話した。


「帝国に真実を伝えれば、帝国は容赦なくサタンフォードを再び搾取しようとする。そうなれば築き上げた国も、そこに住む民の生活も壊されてしまう。特に当時の皇室は血眼になって国力回復の方法を探していたからね。結局、帰属を諦めた二人は子孫にそれを託すことにした。いつか、再び血族の中に"呪われし者"が生まれた時、自国民を守りつつ帝国とサタンフォードが平和的に結ばれ、自分達が意図せず奪ってしまったものを祖国に返せるようにと願って」


「それで呪詛紋を持って生まれたあなたが、ご先祖様の悲願を遂げるためにこの国に来たってことかしら」


「まあ、そういうことだ」


 複雑な顔をしたイリスは、メフィストに問い掛けた。


「……帝国の自業自得だから放っておこうとは思わないの?」


「うん。思わないこともないけど……僕達サタンフォードは身に余る富を有してしまった。隣で困窮している国があるのなら、余らせている分を分け合う方がいいと思うんだ。国民の生活さえ保障できればの話だけどね」


 メフィストのその答えを聞いて、イリスは笑った。


「ほら。やっぱり、優しすぎるじゃない」

















読んで頂きありがとうございます。



この物語には1ミリも関係ないのですが、会話の中で二人が盛り上がっている詩集は、とある王国の第二王子が義姉の旧姓を借りて旅をした際に書いた旅行記詩集です。

その第二王子は病気がちでしたが、ドラゴンのお陰で健康を取り戻したと行く先々で冗談を言い、人々の笑いを誘ったそうです。


全く人気がないマイナー詩集なので絶版になっているにも関わらず、この二人のツボには刺さりまくったようで。二人とも初版本を入手済みです(イリスのは公爵邸と共に燃やされてしまいました)。

断言しますが、この詩集で盛り上がれるのはこの二人だけです。

婚約者時代にイリスがエドガーにこの話をしたところ、エドガーはカッシーナをお菓子だと勘違いして食べ過ぎると太るぞとイリスに無神経なことを言い、以来イリスは自分の好きなものをエドガーには言わないようになりました。

何故エドガーが、イリスが自分を好きだと思い込んでいたのか本当に謎です。


詩に登場するディアベルってなんだと気になった方は、ぜひ短編「世界を滅ぼす伝説の邪竜が、前世で溺愛していた愛犬だった場合の悪役令嬢の末路」をお暇潰しにどうぞ。

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書籍、電子書籍共に6月9日発売!
コミカライズ企画進行中!

物語完結後から始まる悪役令嬢の大逆転劇
― 新着の感想 ―
[良い点] 影の薄かった第二王子が元気に世界を漫遊していた!? [一言] クロスオーバーいいですね。 ニヤっとなりましたw
[一言] ルシフェルと皇帝(伯父上)が仲良かっただけにこの歴史は物悲しいですね… 妻子を守る為って記述見るに、独立は次の皇帝がエリナに横恋慕した可能性もありそうで、現代の皇室と血の繋がりを感じさせるの…
[良い点] 歴史楽しい [一言] ディアベルってあの話に繋がるの笑 ドマイナーな好きなもので話が盛り上がると一気に関係は加熱しますよね~オタクあるあるだわ~
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