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転生ゲーマー令嬢は婚約者を玩具にする  作者: 御月源士郎
序章 幼少期編
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8 人を駄目にする魔法

「なあ、レインの魔導壁、あれヤバくないか?」

「え?そう?」


 ラルフはそう言いながら剣の訓練用の的を親指で指差す。その見た目はちょっと頑丈そうな案山子だ。訓練用なので服や帽子は着せていない、中心部分は打撃に耐えられるよう、それなりに太めの木で出来ている。


「腕に魔力を込めてこれを殴ってみろ」


 言われるままに右手に魔力を込め、的を殴りつけると、ボキリと音を立てて折れてしまった。


「えっ、うそっ!」

「な?ヤバいだろ?」

「う〜ん、もしかして新しいスキルとか増えてない?」

「どうだろう?そういや自分のステータスってあんまり見てないや」


 ステータスを呼び出すと自分の名前をタッチして情報を確認し、思わず首を傾げた。


「うぅん?」

「どうかした?」

「それが……【無属性魔法】だって」

「無属性の魔法なんて存在するのか?」

「聞いた事無いね、あれば俺だって使ってるよ」


 そう、誰もが存在しないと思ってた魔法だ。そんなものを誰からどうやって学べと言うのだろう。

 私はガックリと膝を落とし、打ちひしがれた。


「無属性魔法なんてどうやって使うのーっ!?」

「まあ待て、俺に考えがある。さっきの魔導壁モドキを足にかけられるか?」

「ほい!」

「走ってみ」


 すると自分でも戸惑う程の速さで訓練場を一気に駆け抜けた。慌てて止まろうとしてつんのめり、膝とおデコをぶつけてしまった。痛い。


「これは単なる魔導壁じゃなくて、無属性魔法の何かなんじゃないか??」

「はっ!もしかして身体強化魔法?」


 そこで私は思い至った。

 前世界のゲームでめっちゃよくある魔法だ!バフがあるならデバフもあるのか!?

 いやいや、それよりも……


「何か攻撃魔法は使えないかな!」


 私は初めて体感する魔法に、ワクワク感が抑えきれなくなっていた。じゃあやってみるかとラルフが指導してくれる事になり、姿勢を正す。


「魔力を掌に集めて」

「うん」

「手に力を纏わせるんじゃなくて、手の上に魔力の塊を作る感じだ」

「うぅん、難しいぃぃ」

「魔法はイメージだ、力の塊を飛ばすようなしっかりしたイメージを作れ、呪文が無いなら作ればいい」


 力の塊を飛ばすイメージ、そしたらもう、コレしか無い!


「カー●ーハー●ーハアァァッッー!!」


 白く眩い光が現れて的を射る。


 ポスンッ


 放った魔力をぶつけたものの、情けない音を出して魔力が弾けただけで、訓練用の的には傷ひとつない。新品が如き塵ひとつ無いキレイなものだった。


「使えねーっ!何も起きねーっ!」

「今の呪文は何だ?」

「レインが時々使う謎の言葉は異界の賢者の言葉だよね?他に魔法に使えそうな呪文は無いの?」


 私は思いつく限りの必殺技を唱えながら何度もポスンを発動した。だが結果は全て同じだった。

 ス●シ●ム光線でもポスンが飛ばせたのが今回1番の衝撃だった。ヤバい、コレだけで楽しい。


 結局、私達は魔法や魔導壁の指導をしてくれている魔道士、マリウス先生に相談する事にした。

 マリウス先生は栗色の髪に土色の瞳で、若い世代に魔術を教える以外にも、魔法での土壌の改良の研究もしている。

 年齢はおそらく30代、黒縁眼鏡を掛けていて、見た目も如何にも研究者と言った感じだ。どうやら独り身らしい。


 魔道士と言うと、前世界のゲームでは攻撃魔法を放ち、回復まで行う戦闘にいおての花形職だ。だがここでは魔道士と言うと研究職である。戦うのは騎士の仕事、研究するのが魔道士の仕事と分類されている。


「ふむ、ではお二人の魔力を測定してみましょうか……まずはアルベルト様から行いましょう」

「お願いします」


 個々の魔力を表す魔導紋は属性の色で現れる。当然の事ながらラルフの魔導紋は赤だ。

 アベルはマリウス先生から魔力測定に使う魔法陣が画かれたスクロールを受け取るとその円陣に触れた。

 光を放ち現れた魔法紋は最初に魔力を上げた時とは既に色味が変わっている。

 無属性の場合は白なのだが、アベルの魔導紋には白の中に赤、青、茶、紫の5色が混じった色で現れた。


「こんな多彩な色の魔導紋は始めてみました。魔力量も平均より上ですね、素晴らしい」


 先生は興味深そうにそれを眺めた。


「では、次はレイニーナ様」

「お願いします!」


 私の魔力量は幼い頃に一度測定した事があるが、人並みの魔力量だったはずだ。しかも、無属性の者は基本使える魔法が無かった。

 しかしだからといって魔力だけあってもなんの意味もないとは言えない。何故なら魔力に対する抵抗力にも関係して来るからだ。

 しかも、身体に魔力の膜を張ることで魔法に対する防御力は格段に上がる。要するにそれが魔導壁と呼ばれているものだ。


 先生からスクロールを受け取り、同じように円陣に手を宛てる。すると、巨大な魔導紋が現れた。

 色が白いのは相変わらずだが、サイズが異常だ、半径が私の身長の倍はあると思う。


「は?」


 周りも驚愕していたが、それ以上に自分自身が呆気に取られた顔をしていただろう。開いた口が塞がらないとはこの事だ。


「私に攻撃魔法が効かない原因はコレだったのかな?」


 これだけの魔力を持ってして魔導壁を使いこなせるようになれば、あらゆる攻撃を無力化すこともできる。騎士にとっては戦闘に大いに役立つ能力だ。


「デカいな」

「異常なまでにね」

「なっ、これは、凄いですよお嬢様!」


 円陣から手を放すと魔導紋は霧のように消えた。まるで幻かのように……


 興奮したマリウス先生の提案で、全ての属性で何か使えるものがないか試してみようと言う事になった。

 だがやはりどれも発動する事はできず、白い色の魔力しか出すことは出来ない。

 凄まじい魔力を持っているのに勿体ないと先生がガッカリとしている。


「とにかく、何か無属性でもできる事を調べてみましょう、身体強化魔法ともう一つ何か使えるのでしたね?」

「もう一つは、あのう……」


 無属性魔法は身体強化と相変わらず役に立たないポスンだけだ。もうポスン魔法と言ってもいい。


「ではそこの的に向って放ってみてください」


 すっかり普通に出せるようになったポスンを的に当てる。やはり何も起こらないが、先生は何やら的を調べ出した。


「この備品は新品ですか?」

「いや、かなり前から使ってる物だと思いますけど」

「見てください、凹みや歪みはありますが、他の物と比べて汚れもなくキレイなんですよ」


 言われて見れば確かに、コレだけ新品のような綺麗さだった。


「これはもしや、じょ…「洗浄魔法っ!?」


 私は食い気味に言い放つ。

 徐ろに口を開いて右掌を当てると、小さいポスンを発動してみる。するとなんと!口の中がスッキリ爽やかに!

 今度は身体全体をポスンで包み込むと、汗にまみれた身体があらまあスッキリサラサラに!

 ああっ!なんて素敵な魔法!思わず両手を広げてその場でくるくると回ってしまった。


「ふふふふっ、これがあれば湯浴みと歯磨きの時間を削ってゲーム出来るじゃない!」


 なんせ私は三度の飯よりゲーム好き、ゲーム好きったらゲーム好き!

 だと言うのに、騎士見習いの訓練の他に勉学にマナーの授業、更にはダンスに刺繍まで、1日のスケジュールはぎっちりだ。

 よって、ゲームで遊ぶ時間は僅かだった。

 「それだけ遊べは充分でしょ」と、アベルは言うけれど、足りない!圧倒的に足りないのだ!

 

「えっ⁉ それってどうなの!」

「歯を磨かなくていいのか⁉ いいなそれ!」


 これは…人を駄目にする魔法だ!


 魔法ってスバラシー!!


 あれ?でも、元々は攻撃魔法を使いたかったんじゃなかったっけ?

 まあいか、ズボラ人間に俺はなる!


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