6 模擬戦2
そして3回戦目はレボットだ。
泣かす!こいつは絶対に泣かす!
14歳の面子の中でレボットは1番の有望株だ。魔力が高く、剣術もなかなかの腕前だ。
とは言えさっきラルフに負けたらしいけどな!
「レイニーナ様がドリゴとゲルドに勝つとは恐れ入りました。流石レオディール将軍の御息女ですね」
言葉だけ聞くと褒められている……んだろうか?なんか言い方が上から目線で嫌な感じだ。
「でも俺はあの2人ほど弱くはないですよ」
それは口先だけでない事は分かってる。先の2人ほど容易くは勝てないと、私も気を引き締めた。
レボットは土と雷、2つの属性が使える貴重な人材だ、それ故周囲からも期待されている。
2つ以上の属性を持つ場合、瞳の色はより強い方の色で現れるが、レボットの瞳は黄色がかった褐色だった。2つの属性が同等の力を持っている可能性がある。
開始の合図と共に距離を詰めた。魔法が使えない分、常に接近戦に持ち込まなければならないからだ。
「土壁!」
それを見越したように土の壁を作り出し、行く手を阻まれる。壁を避けて周り込むと、壁が邪魔して死角になる位置から電撃を放ってきた。
「電球!」
前世語に直訳すると部屋等を明るくする灯りの事になるが、こちらではそのまま電気の塊球だ。
ドリゴから聞いたのか、小出しにすると魔導壁で相殺されると思ってか、初っ端から高威力の電球を飛ばしてきた。
避けきれず、身体中に巡らせた魔力に更に力を込め、咄嗟に身を護るように電球を剣で受け止め、薙ぎ払った。
すると…何という事でしょう!耳を塞ぎたくなる程のキーンという高音と共に、電球が弾き飛ばされ、闘技場の床に大きな穴が空いたのです。
お前、私を殺す気か?直撃したら死なないかコレ?
思いつつレボットを見ると、奴の直ぐ足元に空いた穴を見据えて震え上がっていた。
しかし、さっきのといい、コレといい、一体何がどうなってるんだろうか?自分で自分の事が解らない。
「他所見してんじゃないよ!」
「いっ、石壁っ!」
一瞬気を取られたものの、直ぐに気を取り直してレボットに斬りかかるが、既で石壁に阻まれた。
「邪魔だあぁぁっ!」
ついカッとなって石壁に剣を叩きつけてしまった。本当に斬るつもりはなかった。…と、レイニーナ・騎士見習い(12歳)は供述している。
……が、斬れてしまった。そりゃもう豆腐のように。ズバリと切り裂くと石壁は霧散して消えた。
「嘘だろっ!?」
ここからは私の独壇場だった。半ば戦意喪失気味だったレボットは防戦一方で、押して押して押しまくるべし!とばかりに連続攻撃で畳み掛けた。
レボットはなんとか距離を取って小さな電球を幾つも放ってくるが、テンパってるのか飛んでいく方向が滅茶苦茶だ。それを幾つか剣で弾き返してやると、地面にボコボコと小さい穴が空いてゆく。
弾き返したそれが威力を増しているような気がするのは気のせいだろうか?
「オラオラオラオラーッ!」
後に、ラルフから「試合中のあの怒鳴り声はなんだったんだ?」と聞かれ、状況を説明すると「お嬢、時々自分が女だって事を忘れてるだろ?」と呆れられた。
不本意だが否定できず、ちょっぴり悲しくなった。
接近して斬りつけた私の剣をレボットも剣で受け止めるが、弾き飛ばされて仰け反って倒れた。奴の顔の真横に剣を突き立てるとすんなり降参した。
その時ちょっぴり涙ぐんでいた気がするのは気のせいだよね?だって男の子だもん。
ここでふと、この異常な迄の魔力耐性は魔導壁の仕業ではないかと思い立った。異能の力を得た時、私も何かしらの能力が向上してるのかも知れない。
しかし、私のステータスはアベルと違って能力値の表示で数値化されてないので、何か別の方法で調べる必要がありそうだ。
それはさて置き、土魔法の使い手が闘技場を修復すると4回戦目が始まった。ついにラルフとの対戦だ。
ここ最近、私が操るアベルの相手をしてもらった影響か、格段に技術が向上している。【剣術】の才能は伊達じゃない、一番やっかいな相手だ。
まずは小手調べとばかりに軽く打ち合うが、既に押され気味だった。そこで私はある作戦に出た。
「ねえっ!ラル…フッ」
「な、んだ…よっ!とっ」
剣を打ち込み、受け止め、躱しながらの会話は跡切れ跡切れになりながらも伝わっているようだ。
「魔法っ…使わない…のっ?」
「お嬢っ…相手にっ…それっ、ズルくね?」
「使いなよっ!魔法っ!」
ラルフは私の振り下ろした剣を受け止め、強めに弾くと距離を取った。
お互い、剣を構えたまま暫く睨み合う。
「本気か?」
「だよ」
「な、何を企んでるんだ?」
「ヒ・ミ・ツ」
「・・・・・・・」
ラルフは眉間にシワを寄せ、半眼でこちらを凝視する。私の顔があからさまにニマニマしているからか、かなり警戒されているようだ。
試合の最中はそれぞれ対戦を行っているので、他の試合を見ることは出来ない。つまり、まだ私の隠しダネは知られていないと言うことだ。
「やってやろうじゃねぇか!」
ラルフが左手に魔力を集中させると、掌に炎の球が浮かび上がった。
私は剣を持つ腕に魔力を集中させると、両手で構えて攻撃に備えた。
「火球っ!」
よし来た!
身体を捻って剣を後ろに構えると、火球がこちらに飛んでくるタイミングに合わせて思いっきりスイングする。
すると剣が火球に命中し、甲高い音と共に空高く吹っ飛んた。
「ホームラーーーン!!」
「何だそれ!聞いてねぇぞっ!」
「私も今日初めて出来るようになったし」
「マジか!」
驚くラルフの遥か後方に、重力に引かれて先程の火球が落ちてくる。そしてその先にある建物の屋根に落ちて爆発した。
屋根の建材が吹っ飛ぶ様がこちらからもありありと見え、皆が何事かとそちらに注目する。
「アレは俺のせいじゃないからなっ!」
「く、訓練中の事故だよ!事故!」
騎士の一人が様子を見て来るから続けてくれと告げ、事故現場に走っていった。
私は内心、冷や汗をかきながらその姿を見送った。どうか母上に怒られずに済みますように…と、神に祈った。
気を取り直して再び向き合うと、ラルフはニヤリと笑って剣を構え直した。その顔はとっても楽しそうだ。
「続きは小細工なしでやろうぜ!剣術だけでも負ける気はしねえっ!」
「簡単には負けないよ!」
言いながら距離を詰め、上段から先制攻撃に打って出る。それをラルフは避けずに剣で受け止めた。
「重っ!さっき打ち合った時はこんなじゃ……」
それを右方向に薙ぎ払われると、その反動を利用してくるりと一回転して横から剣を振るう。
「お嬢、急に腕力上がって無いか!」
「はぁ?なにいっってん…のっ!」
「自覚無しかよっ!」
ラルフはそれを難なく躱しながらの愚痴をこぼした。
そこからラルフは真っ向から剣を受け止めず、躱し、受け流しながら隙きを突いてくる。
遂に振り下ろした剣を受け流しざま上から叩かれ、剣を取り落としてしまった。
「あっ!」
「お嬢は力任せに剣を振り過ぎ!そのぶん動きが鈍くなってんぞ〜」
と、勝ち誇った顔でニヤリと笑った。
「クッソー!ラルフに負けた!悔しい!悔しい!」
そう叫びながら膝をついて拳で地面を叩くと、床がビシビシとひび割れ亀裂が走った。
それを見た男性陣が震え上がっている事に私は気づかなかった。