4 チュートリアル2
騎士団の訓練場には、騎士以外に私達のような騎士見習いが数名いる。普通に挨拶や雑談をする者、身分差のせいで近づきがたいのか遠巻きにするもの、そして、無属性である私やアベルを出来損ないとして陰で嘲笑する者だ。
灰色の瞳は魔法が使えない、魔獣討伐にはそれだけで不利になる。加えて私は女、アベルは剣術がポンコツ、まあ、侮られても仕方がないと言えなくはない。
スワンドレイク家の後継者に表立って嫌味を言う者は居ないが、こっそり陰で罵られている事には気づいている。見習いに限らず、本職の騎士にすらだ。
「レイニーナ様は本当に魔獣討伐にも参加する気なのか?足手纏になられてもこっちが困るんだよな」
「しかも、婚約者のアルベルト様もあれじゃあな、そもそも討伐に参加するのも無理じゃないか?」
「お飾りの領主様でも俺達が強ければ大丈夫だろ?」
そう嘲笑混じりに語り合っているところに出くわした。私達の顔を見ると、彼らは「やばい」「聞かれたか?」とコソコソしながら距離を置いた。
私はそれに憮然としながらも聞こえないふりをして基礎訓練を始めた。
言っておくが、剣術だけなら決して私は弱くない。幼い頃から父と団長に鍛えられただけあって騎士見習いの中では強いはずだ。
アベルに関しても然り、アベルの場合は技術はそれなりだが体力面が問題だった。
私もアベルも、次期領主としての勉学も熟しつつ毎日の鍛錬を欠かしたことは無かった。むしろ並の騎士見習い達より時間を取っている位だ。
それでも魔法が使えないと言うだけで騎士としては落ちこぼれと言わざるを得ないのが悔しい。
最近はできるだけ他の騎士見習いの子供達とは違う時間帯に訓練をするようにしていた。
煩わしい視線を避ける為でもあるが、近々行われる模擬戦までに異能の力を使いこなして、アベルを侮ってる奴らにざまぁしてやりたいからだ。
少しでもこちらの手の内を見せてなるものか。
時々アベルが跳躍の着地に失敗して怪我をしたり、水の矢を打ちすぎて魔力切れで倒れたりなどのハプニングはあるが、異能を使ったスキルの訓練もぼちぼち進んでいる。
ステータス画面で『オートモード』を選択すると、私の操作なしでもスキルは使えるが、「遊戯の達人」である私のテクニックに追いつくにはまだまだ修行が足りぬわ!
私はと言うと……【ビーストハンター】の体験版がプレイ出来るようになりました!!パフッパフッ!ドンドン!
そんな訳で、夜はついついゲームに明け暮れてしまい、ちょいと寝不足です。
でっ、でもっ!これはアベルの訓練のサポートをするためでもあるんだからね!別に、ただ遊んでるだけじゃないんだからね!
しかもこれ、フィールドが本物さながらの魔獣の森になっていて、騎士団の保有する地図と照らし合わせると遭遇する魔獣の配置までほぼ一致している。
そんな訳で、私は一足先に魔獣討伐の疑似体験を満喫しまくっているのだ。
「あっ!……うわぁっ!イタタタタッ!」
と、言ってる傍から跳躍スキルで頭上に飛んだアベルが顔面から地面に突っ込み粉塵が舞う。
駆け寄って傷の具合を確認すると、能力値を上げたせいか大した怪我は無さそうだが、顔に傷が付いてるじゃないか!これはけしからん!
「ああもう!こんなに傷だらけにして、婿の貰い手が無くなったらどうするつもり!?」
「え?レインが貰ってくれるんじゃないの?」
「んん?私達の婚約なんて形だけのものでしょ?アベルが嫌なら父上も母上も無理強いなんてしないよ?私なんかで妥協しないでもっと素敵な子を探しなよ」
「……レイン…は、誰か他の人と結婚したい?」
「いやいやまさか!アベルがウチの領を継いでくれるなら、私は別に無理して結婚しなくてもいいかなぁって」
「……そう」
アベルは顔をしかめてうつ向いた。思ったより傷が痛むのだろうか?
「傷が痛む?休憩しよっか?」
「うん、痛い」
「え?だいじょ……うぶ?」
アベルは私の肩に顔を埋めると、そのまま動かなくなった。私も動けない、どうしよう……
「暫くこのまま休憩してたら良くなるから」
掠れた声でつぶやくアベルの背中と頭をぽんぽんと軽く叩くと、ゆっくりと撫でてやった。幼い子供をあやすみたいに。
ー・ー・ー・ー・ー・ー
「私なんかで妥協しないでもっと素敵な子を探しなよ」
正直、男として見られてないのは分かってたけど、これはあんまりだ。
僕はレイン以外と結婚するつもりは無いのに、その気持ちにすら気づいて貰えてないなんて。
レインとの結婚を望まないなら養子として迎えてもいい、コッペリオンの名を捨てるかどうかはもう少し大人になってから決めなさい……と、義父上は言った。
僕の気持ちはもう決まってます…と、そう言うとぎこちない笑顔で頭を撫でてくれた。
顔は怖いけど、温かくて優しい手だった。
スワンドレイク家に引き取られたのは5つの時だった。それまでコッペリオン家では虐待こそされなかったが、居ないものとして扱われていた。血の繋がった父や兄弟とすら会話をした記憶がない。
母親は僕を産んで直ぐに死んだと聞かされたけど、本当は生きてるって知ってる。子供なんて望んでなかった、僕が邪魔だから僕だけ置いて出ていったと、メイド達が話しているのを聞いてしまった。
誰にも望まれてない子供、それを変えてくれたのがこの家だった。スワンドレイク夫妻には義父と義母と呼ぶ事を許され、レインは常に僕を気にかけてくれた。
初めて自分の存在を認めてもらえて、今もこんなふうに温かい手で慰めてくれる。でも、心は少し寒い。
時々、レインはラルフが好きなんじゃないかって思う時がある。ラルフは強くてかっこいい。
それに、レインはラルフには遠慮がない、それだけ仲がいいってことだ。
2人は僕がここに来る前から親しかった。一緒に過ごした時間は超えられない。
でも、どちらも家族や友達として同じくらい好きって事も分かってる。
そう、同じだ……
僕はレインにとって特別じゃない、だからいつか誰かに取られるんじゃないかって、ずっとずっと不安で仕方ない。
レインの特別な存在になりたい。
でもまだそれには力が足りない、何もかも足りてない。だからまだ、本当の気持ちも伝えられない。
だから……
僕はゆっくりとレインから離れた。
「もう大丈夫」
だから、レインより強くなりたい。
ラルフにも勝ちたい。
「よし!続きをやろうか!」
だから、まずは笑顔でレインを安心させよう。
取り敢えず完成してる所まで上げてみました。今後は週1位のペースで更新できたらいいな。