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転生ゲーマー令嬢は婚約者を玩具にする  作者: 御月源士郎
学園編
35/36

5 王都散策

 激しい剣戟の音と共にアベルとラルフが打ち合っている。少し前まではラルフが圧倒的に強かったが、今やアベルも拮抗する強さになり、見習いで在りながら正規の騎士を超えるであろう実力を備えつつある。


「レイン様、他人を気にしてる場合ではないのでは?」


 私の相手はドリゴだ。本来の相手の方へと向き直ると、思わず苦笑いを浮かべた。


「二人を見てると、情けなくも置いてけぼりを食らった気分なるんだよ」

「俺は置いて行かれるつもりはありませんがね」

「それは私もだ、ズル(強化)をすれば勝てる自信はあるし」

「今日はそれは無しでお相手願います。それなら俺にも勝ち目がありますから」

「それはどうかな?」


 私は模擬刀を下段に構えると、こちらから先制を仕掛けた。



 今日は学園は休みだが、私達はそうはいかない。早朝から通常の訓練、次の休みには魔獣戦の感覚を損なわないための実地訓練がある。

 だが王都及び北部以外には滅多に魔獣は出現しない。では何を討伐しに行くかというと、所謂害獣と呼ばれるものだ。

 この世界では通常の獣でも魔力を保持している。要は通常の獣でも魔法が使えてしまうのだ。その力の有無や能力は同じ種族でも個体差はあるが、時にはそれが人里に害をもたらす場合がある。

 そういったモノを駆除するのもウチの騎士団が担っていた。


 次の実地訓練に備えて、今日の午後は自由時間となった。家でゴロゴロしてるのも味気ないので、私達は王都を散策する事にした。

 我が家の敷地は一部の騎士団員も駐在していて、それなりの広さがあるため、中心街からは外れた場所にある。私達は乗り合いの獣車に乗って繁華街までやってきた。


「わ〜い!甘いもの食べに行くぞ〜!」


 私が王都のスイーツに思いを馳せながら浮かれていると、不意にラルフが立ち止まった。


「あっ!俺ちょっと用事思い出したから抜けるわ、お前達2人で周っててくれるか?」

「別にいいよ〜」

「じゃあ、緑の刻に時計台前で落ち合おうぜ」

「わかった」


 ラルフは何かアベルに耳打ちすると、後ろを向いたまま手を振りながら去って行った。


「アベル?どうかした?」

「いや、別に……何処に行こうか?」

「取り敢えず街の雰囲気を楽しみたいかな、あと甘いもの食べたい!」

「じゃあ、その辺を見て回りながら、いい店があれば入ろうか」

「うん!わ〜!楽しみ〜!」


 流石、王都の中心街だけあって、色んなお店が立ち並んでいる。他国から輸入した商品もあって、北部では見慣れないデザインの雑貨やアクセサリーも豊富だ。

 気になるお店を見つけてはウィンドウに並ぶ商品を眺めながら街を歩いていると、とあるネックレスとピアスのセットが目に止まった。


「あ、これ可愛い」

「そういうの欲しいの?」

「え?ん〜、見てるのは楽しいけど欲しいとは思わないな、アクセサリーを身に着けてると動きにくいし…私には似合わないでしょ」

「付けてみればいいのに」

「いやいや、見てるだけで満足だから」


 私は外出の際も基本的にパンツスタイルだ。男装をしているつもりでは無いのだけど、女性向けの服が無いため、できるだけ無骨さのない男性用の服を着ている。でもそうすると、全体的に白っぽくなってしまうのが悩みだ。

 しかもこの服装だと、如何にも女性もののアクセサリーは似合わないだろう。

 ちなみにラルフは原色を取り混ぜた服装で、相変わらずチャラい、でも服装のセンスは悪くないと思う。男性用のアクセサリーも上手く使いこなしている。

 アベルは相変わらず黒一色、しかも装飾の少ないシンプルなデザインで、私達が二人でいるとんだ白黒コンビだ。


「あの、私は用がありますので」

「少しくらいいいだろ」

「奢るからさあ」


 進行方向の少し先で、1人の女性が3人の男性に囲まれている。ああ、あれがしつこいナンパと言うやつか。始めてみた。本当に居るんだああいうの。

 女性の方はかなり困っているようだ。その様子を見ていたら思わず体が動いてしまった。


「お待たせ」

「え?…レイン様?」


 肩をポンと叩いて声をかけると、彼女の口から私の名前が飛び出した。よく見ると、先日出くわしたヒロイン風の桃色女子だった。


「何だお前は?」

「何って?彼氏だけど?」


 私の見た目が男っぽいことを利用して、彼氏を装ってみる事にした。肩を抱いて引き寄せると、親しげな雰囲気で寄り添った。

 いいよね?女の子同士だから、これくらいのスキンシップは許されるよね?私の事知ってるみたいだし、女子だって分かってるよね?


「こんな女みたいな奴より、俺等の方がいいだろ?」


 それでも諦めずに男達が彼女の手を掴もうとするので、既でその手を掴んでねじ伏せた。


「痛ててっ」

「ねえ、僕の彼女に触れないでくれるかな?」

「分かった!分かったから放してくれ!」


 男達は舌打ちをしつつも諦めて去って行った。それを確認すると、ため息を吐いて彼女の様子を伺う。


「大丈夫だった?」

「は…はい……」

「ごめんね、気安く触ったりして」

「いえ!全然!ありがとうございますレイン様」

「そう言えば、私のこと知ってるの?」

「ええ、もちろん!レイン様は女子生徒の注目の的ですから」


 注目の的って?貴族の子息令嬢の間での噂が他の科にまで及んでいるのだろうか?

 でもこの子の態度はそんな蔑んだものじゃないし、もしかしたら友達になれるチャンスかも!


「名乗り遅れました、私はシルフィ・リオーニと申します。代々医療に携わる士族です。あの、何かお礼をさせて頂けませんか?」

「ねえねえ、シルフィは甘いもの好き?」

「は、はい!」

「じゃさ!一緒にお茶でも付き合ってくれない?奢るからさ」

「いえ!むしろ奢らせてください!近くにお気に入りのカフェがありますので、良ければそこで如何ですか?」

「そんなの悪いよ」


 押し問答していると、近くで様子を伺っていたアベルがこちらへ向かってくる。


「レイン、用が済んだならそろそろ行こうか」

「ねえアベル、この子も一緒でもいい?」

「……いいけど」

「決まり!じゃあシルフィ、案内よろしく」


 シルフィが案内してくれたのは、宝石の様に綺麗なケーキがケースにたくさん並んだカフェだった。中で飲食もできるし、持ち帰りも可能だそうだ。

 私はシロップ漬けの果物が沢山入ったタルトを注文した。

 カルメリア王国の果物は熟しているものでもわりと酸味が強いため、干したりシロップ漬けにした果実が甘味に使われる。

 甘い果物とあっさりとしたクリームと生地が程よく絡まって、幸せでいっぱいだ。

 あまり王都に慣れていない私に、シルフィがおすすめのお店や場所、食べ物など色々と教えてくれた。

 私達の会話が弾む中、アベルは黙々としてお茶を啜っている。その肩をとんとんと叩いてアベルの耳に口を寄せた。


「ねえちょっと、アベルも何か話しなよ?」

「レインが仲良くなりたかったんじゃないの?」

「だけど、アベルも会話に参加しなって」

「……いいお店ですね」

「そうですね」

「…………………」

「…………………」


 アベルは少し考えてから口を開くも、何故か二人の間で会話が続かない。

 もう!コレだから人見知りは!これじゃあアベルモテモテ大作戦が台無しじゃないか!

 まずは私がシルフィと仲良くなれば、次第にアベルも打ち解けてくれるかな?最初はラルフにもなかなか懐かなかったし、きっと時間が解決してくれるはずだ、うん。


「あ、あのさ、良ければ友達になってくれないかな?」


 断られたらどうしようと緊張しながらも、思い切ってお願いしてみた。


「わっ、私がですか⁉」

「私、女の子の友達って居なくて……嫌かな?」

「いえっ!光栄です!私なんかで良ければ是非!」

「ほんと!嬉しい!」


 思わずシルフィの手を握って笑顔になると、シルフィの顔が赤くなった。

 初めてできた女の子の友達に、なんだか照れくさい気持ちで、私の顔も熱くなった。多分赤くなっていると思う。



ー・ー・ー・ー・ー・ー



「で?結局、そのシルフィって子と3人でカフェに行った挙げ句、2人の会話に混じれずに黙ってお茶を啜っていたと」


 ラルフと合流しすると早速、別行動中の様子を聞かれたので大まかに説明をすると、呆れた様子でため息を吐かれた。


「いや、時々会話はしたよ」

「そういう事じゃなくて!」

「それに、レインは初めて女の子の友達が出来たって喜んでた」

「相手はどう思ってるかわからねぇけどな」

「いい子そうだったけど?」

「……だから、そういう事じゃなくて」


 ラルフは諦めたようにつぶやくと、今度は頭を掻きむしりながら唸り声を上げた。


「俺の気遣い無駄遣い!」

「上手いこと言うな」

「あぁっもう!うるせえっ!」


 ラルフが俺に気を使ってくれたのは分かってるけど、二人で過ごす時間もあったし、何よりレインの希望が叶ったことで自分は満足だった。

 レインは荒れてるラルフを見て首を傾げている。


「ラルフはどうかしたの?」

「いつもの癇癪だよ」

「そっか!…あ、獣車が来たよ!」

「何時ものって……」


 落ち込むラルフを他所にレインは納得すると、こちらに向かって来る獣車の方へと視線を向けた。

 動物を眺めながらニコニコしてるレインも可愛いなと思った。


BBAの手慰みにお付き合い頂きありがとうございます。

少しでも楽しんて頂けると幸いです。

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