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転生ゲーマー令嬢は婚約者を玩具にする  作者: 御月源士郎
学園編
32/36

閑話・それは、ラルフの仕業かも知れません

 それはレイニーナトアルベルトが王都入りした翌日の事だった。

 ランドルフは兵舎の談話室に他の騎士見習いを集めて作戦会議を開いた。


「皆、よく聞け、今日からレインを女だと思うな!」

「ランドルフ、流石にそれはお嬢様に……」

「ゲルド!呼び方!」

「ええと、レイン様に失礼じゃ無いかな?」

「大丈夫だ、レイン様は見た目はともかく中身はウーゴの様なお方だ、放っておいても誰も女扱いしない」


 ウーゴは大きな体躯でありながら動作が素早く、力も人間の何倍も強い。コレが瘴気に侵され魔獣化すると災害レベルの魔物と化す。そしてなんの宿命か、ウーゴの体毛は灰色だった。

 レボットは3年前、ウーゴが如き形相で唸り声を上げながら、己が放った電球を次々と跳ね返す様を思い出し、背筋が凍りつくような感覚に囚われた。

 いや…あれはウーゴ等という可愛いものではない、瘴気に侵された魔獣、ディスウーゴだ。トラウマが過ぎる。


「でもランドルフ、それって本当に意味あるの?」

「レインはアレで見た目だけは良いんだ、その…中身を知れば男には色んな意味で無理かも知れないが、中身を知らない男に粉をかけられると困る」

「まあ、騎士科の生徒はレイン様好みの逞しい男子生徒が沢山いるしね」

「だから中身を晒さけ出す関係が必要と言うわけか、我々のように…」

「その通りだ」

「確かに、あのウーゴの如き振る舞いを見ても引かないのはアルベルト様くらいだろう」

「アルベルト様も厄介なお方だしな、余計な虫がつくとややこしくなる事は間違いない」


 ここ数年の間に、アルベルトのレイニーナに対する執着は周囲が唖然とするレベルに成長した。

 ランドルフは王都での再会直後「ラルフにレインを譲る気は無いから」と鋭い視線を向けてくる様子を思い出し、何処か遠くを見ながら眉を潜める。


「俺は巨乳が好きなのに……」


 つい、心の声が口から漏れて落ちてしまった。

 その言葉にレボットが顔面蒼白になる。


「貴様!不敬だぞ!死にたいのか!」

「こっ……この事はどうか…内密に…頼む」


 レイニーナもランドルフが巨乳好きな事は知っているが、レイニーナと結婚したくない一番の理由が「貧乳だから」と知られたらタダでは済まない。


「無論だ、仲間を無駄死にさせるつもりはない」

「俺は、こんな理解ある仲間を持てて幸せだな」

「ちょっと君達?」


 ゲルドは2人のやり取りに、呆れてモノが言えないとばかりに肩を竦めて首を降る。

 そこへ、おずおずとドリゴが私感を述べた。


「俺も…レイン様を男として扱ったほうが後々の醜聞……いや、トラブルも防げるんじゃないかと思う。スワンドレイク家のご令嬢がウーゴ令嬢なんて広まったら……」


 どうやらドリゴは本題とは別の心配をしているようだが、その言葉に一同は俯いて黙り込む。

 自領の嫡子が、一般的なご令嬢と大きく相違する事を十二分に感じているのは彼だけでは無いようだ。


「同時にアルベルトにも余計な虫を付けたくない、あの二人が無事に結婚出来なければ、俺は終わるかもしれない」

「次の婿候補は君だもんね」

「でも、それを言ったらラルフもレイン様からは対象外なんじゃないか?」

「だが、俺は上に逆らえる立場に無い」


 そう、父ロッドバルとレオンディール将軍に求められれば、嫌でも首を縦に振るしかないのだ。


「……それだけは、それだけは阻止せねば」

「巨乳の為に…な」

「ああ、巨乳の為に…だ」


 ゲルドは再び、ランドルフは本当に二人の仲を取り持つつもりがあるのだろうかと疑問に感じた。単に面白がっているだけではないかと。

 ここは冷静に余計な事をするべきではないと諭す必要があるかも知れない。


「でも、そんな嘘をバラ撒くのもどうかな、後でバレたら大変なことになると思うよ」

「大丈夫だ!問題ない!勘違いさせるような振る舞いをするだけでいい、あとはレインがなんとかする」

「大丈夫だ、レイン様ならきっと誰にも女だと気付かれまい」

「そうかなあ?」


 ゲルドは不安しか感じないが、ラルフには何を言っても無駄な気がして諭す事を諦めた。


「でも取り敢えずは、お二人の関係はアルベルト様本人に頑張って貰うべきだと思うよ」

「変な所でプライドが高いから面倒なことになるんだ、さっさと押し倒してしまえばよいのに」

「でも、ウーゴを押し倒せる人間がいるかな?」


 しばしの間、沈黙が流れる。


「無理だな」

「ああ、無理だ、それが問題だ」


 レイニーナが身体強化魔法を使えば、それこそウーゴを超える怪力を発揮する。強引に手籠にする事は不可能に等しい。

 ランドルフは軽く腰を浮かせて椅子に座り直し、机に両肘を付つくと顔の前で手を組み俯いた。


「とにかく、俺は早くあの二人をどうにかして自分の嫁を探したい」

「この中で相手が居ないのはラルフだけだもんね」

「は?なん…だと?」


 ランドルフは初めて聞く事実に目を見開き驚愕した。


「俺は婚約者が居るし、ゲルドは幼馴染のあの子と結婚を考えてるんでしょ?」

「あの巨乳の幼馴染か⁉ なんて羨ましい!」


 ランドルフは思わず机に強く掌を打ち付けながら立ち上がった。その勢いで座っていた椅子が後ろに倒れ、鈍い衝撃音を響かせた。


「いっ、いや、まだそこまでの仲じゃなくて、そのっ……正式に騎士団に入団できたら…告白しようと思ってる」

「うわっ!甘酸っぺぇ!羨ましい!」


 羨ましさのあまり、ランドルフは叫びながら頭を掻きむしり、クネクネと気持ち悪い動きをしている。


「レボットも婚約者がいるよね」

「まあな、まだ相手は5歳だから数えるほどしか会ってないがな」

「5歳って、お前…」


 3人の生暖かい視線がレボットに集中すると、その視線の語る何かを読み取ったレボットは声を張り上げた。


「違う!家同士が決めた相手だ!北部はただでさえ嫁不足なんだ!釣り合う相手がいるから婚約しろと決まった話だ!」

「ドリゴに婚約者がいるってのも初耳だぞ?」

「そうだっけ?父さんの友達で同じ騎士団員の娘だよ、2つ年上の」

「ドリゴの相手は姉さん女房か!くそう…なんで俺だけ貧乏くじ⁉」


 ランドルフは机に突っ伏すと、指の先でギリギリと机の表面に爪を立てながら悶えた。爪が机を擦る音が虚しく響く……


「兎に角、スワンドレイク家の跡継ぎはウーゴが如き男だと噂を広げるんだ。だが…2人には悟られるな、命が惜しければな」


 この時、彼等はあくまでも騎士科の中での策略であり、ご令嬢方…更には貴族子息の間にまでレイニーナが男子生徒だと誤解され、「銀花の貴公子」の通り名と共に、貴族令嬢の秘めた恋のお相手として知れ渡るとは誰も想像もしていなかった。


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