2 残念な学園生活
学園生活が始まってから暫くすると、なにやら遠巻きにお嬢様方の視線をビシビシ感じるようになった。
アベルはクールな美少年だし、ここ数年で随分と逞しくなり、相変わらず痩身だけど背も伸びて筋肉もついて、ナイス細マッチョ!な仕上がりになっている。アベルモテモテ計画も順調だな!
そしてラルフですらワイルドでステキ!なんて現実を知らないお嬢様から熱い視線を受けているらしい。良いのか?中身は巨乳好きのチャラ男だぞ?
これが乙女ゲームだったら2人とも攻略対象に違いないと思うのだが、ラルフ本人はモテていないと言う。どうやら北部は生活が厳しいイメージがあるため、結婚相手としては人気が無いらしい。北部が常に嫁不足に悩まされているのはそういう訳だったのか。
まあ要するに彼等は観賞用と言うわけだね。アベルに素敵な嫁を見つけてあげられるかどうか不安になって来た。
貴族のご令嬢達は地位の低い家の者ほど相手がまだ決まっておらず、下手な貴族の次男以下より手に職持った騎士様候補の方が食いっぱぐれないと人気だったりする。単に騎士=カッコイイみたいなもんかもしれないけど。
とは言え騎士科の生徒には貴族の子息も多くいるので、ウチの騎士団の皆様よりお上品な者が多い。いや、本来騎士様ってお上品なもんだっけ?
ウチの騎士団にも貴族の出身者は多少居るんだけどね、朱に交わればなんとやら、北部に長くいるとお上品さの欠片も無くなってしまう謎。
話が逸れたが、下位貴族の女性ならまだ希望はあるし、他にも魔導科や学術科にも女生徒はいる。私はまだまだアベルモテモテ計画を諦めない。
おそらく私はご令嬢方にとってお邪魔虫なんだろう。イケメンふたりを侍らせて何様って思われてるに違いない。視線が痛いんだよマジで。
おかげで女生徒達から遠巻きにされていて、なかなかお友達が出来ないという残念な結果となっている。
ある日、貴族の者が多く受ける授業に行く先で、数人の女生徒がお淑やかに微笑みながら会話に花を咲かせていた。
簡易的とはいえドレスを着用している事から貴族のご令嬢だと伺える。
「ご機嫌よう、ご令嬢方」
私はめげずに笑顔で挨拶をしてみた。警戒されないように柔らかく微笑んだつもりだった。
しかし、彼女達はビクリと肩を震わせた後、強張った笑顔を貼り付けている。
「え?…ご、ご機嫌よう」
「ご機嫌よう、レイン様」
無視こそされないものの、ご令嬢達は挨拶を返すと一礼してそそくさと去って行く。何時もこの調子だ、明らかに避けられている。
酷い時は小さな声で「きゃーっ」と悲鳴を上げながら去って行くご令嬢もいる。私はそんなに怖い顔をしているだろうか?正直凹む。
その日の授業は領地を持つ貴族は男子生徒だけでなく女子生徒も受講している。予算や資産の運用など貴族夫人としての役割が濃い内容の為、むしろ女生徒の方が多いくらいだ。
アベルとラルフはこの時間、別の科目を受講しているので私一人だ。相変わらずご令嬢達には遠巻きにされ、ひとりポツネンとして授業を受けている。
寂しい、非常に寂しい、ご令嬢達の会話に混ぜてほしい。
更に何故か最近、貴族子息達からもやたらと睨まれるようになった。私の顔を見るだけで不愉快と言う顔をされる。
「君がスワンドレイク家の嫡子か?」
「そうですが」
授業が終わった後、そう私に声をかけたのは二人組の貴族子息だ。確か高位貴族の令息だったと思う。
二人は私を睨みつけると、高圧的な態度で畳み掛けた。
「調子に乗るのもいい加減にして欲しい」
「調子に乗るとは?」
「異性に馴れ馴れしく振る舞って、誑かしているそうじゃないか」
ちょっと待ってよ、何時私が異性を誑かしたって言うんだ?そもそも私に誑かされる男なんて居るのか?
しかも馴れ馴れしいってどういう事?確かに騎士科の生徒達とはそれなりの友人関係は築けていると思う。周囲も気安く愛称で呼んでくれているし。
しかし、異性と馴れ馴れしくしていると言うより、完全に私は女扱いされてないんだが?
「北の将軍家など田舎者の癖に、少し見目が良いからと調子に乗るな!」
「婚約者のいる身で恥ずかしいと思わないのか⁉」
確かに、婚約者のいる女性が他の男性と親しくするのは外聞が悪い。だとしても彼等にここまで言われる筋合いは全く無いんだが?
淑女科のご令嬢方はともかく、騎士科に所属していて異性と交流を持つなと言うのは無理というものだ。
「私は己を恥じるような行為はしておりません、それに、貴方方にどうこう言われる筋合いも無いと思うのですが」
「なんだと!」
子息の一人が怒り心頭とばかりに顔を赤くして拳を振り上げるが、もう一人がそれを止めた。
「辞めておけ、騎士相手に力で勝てる訳ないだろう」
「クソッ!なんで俺よりこんな奴が…」
何故、ご令嬢方からは避けられ、子息達からは睨まれないといけないんだろう?
もうこの授業受けるの辞めようかな。貴族社会って怖い……