1 王立学園入学
序章をすっ飛ばしてここから読んでも基本設定が分かるようにと書いたら、また説明的な文章多めになってしまいました。これでもかなり削ったけど、面倒な人は適当に読み飛ばしてください。
うららかな春の光を浴びて、私達は1年生になりました。
とは言え、王立学園に学年と言うものは存在しない。何故なら学年毎にではなく、各科毎か履修科目毎に授業や実習が行われるからだ。
カルメリア王国の冬は全体的に寒い。地域によっては積雪がかなり多く、最北のスワンドレイク領は表に出る事すら厳しい。そんな訳で冬ごもりが終わった春から新学期となる。
カルメリア王国では15歳になると王立学園へと入学する事ができる。貴族に至ってはもやは義務となっていて、そこで3年間、5つある学科の何れかに所属し勉学、研究、訓練を行う事が出来る。
王立学園には政務科、淑女科、騎士科、魔導科、学術科の5つがある。淑女科や政務科は貴族ばかりだが、騎士科や魔導科には平民も通う事ができた。
政務科は主に国政に関わる職を目指す貴族子息達が通い、淑女科は社交やマナー、いわゆるご令嬢達の花嫁修業の場となっている。
魔導科は魔法の研究の他に、治癒士等の魔法に関連する職を望む者が所属し、学術科は魔法以外の学問や研究者を目指すものが所属するクラスとなっている。
そして騎士科はその名の通り騎士を目指す者達の訓練の場だ。
スワンドレイク騎士団の様に幼い頃から騎士見習いとして騎士団に所属できる例は他に無い為、私達の様に既に実践経験を積んでいる学生は稀だけど、皆それなりに剣術の嗜みはあるらしい。
私、レイニーナ・スワンドレイクは、北部を領地とするスワンドレイク家の一人娘で、この度、王立学園の騎士科に入学した。
私は王立学園の入学に先立ち、毛先の傷んでいた髪をバッサリ切り、ショートカットにした。貴族令嬢にしてはあり得ない髪型だが、私は断髪に何の躊躇いも無かった。
そして帰ってきたら侍女に泣かれた。更に母上が時々、社交のためにこのタウンハウスへやって来ることも忘れていた。
バレたら雷が落ちるだろうか?母上は生命魔法の使い手なのに、何故か雷魔法が使えるんだ、私限定で。
私は慌てて散髪屋に戻ると、珍しい髪色だからと捨てずに取って置いてくれていた。その髪をウィッグにして貰うことでなんとか誤魔化せそうだ。
「レイン、短い髪も可愛いね」
「……そ、そう?…無理して褒めなくても…いいんだよ?」
私の婚約者であり幼馴染のアベルことアルベルト・コッペリオンは、何故か最近、やたらと私の事を「可愛い」と言うようになった。
過去に散々アベルを「可愛い」と言っていた私への仕返しだろうか?確かに頻繁に口にされると生暖かい気分になる。
我がスワンドレイク領はぶっちゃけ田舎だ。しかし、魔獣の脅威と隣合わせの代わりに潤沢な魔石が採掘でき、寒さの厳しい北部であっても割と豊かだ。とはいえ我家は良くも悪くもお貴族様らしくなく、私も領民とフレンドリーで、頻繁に市井をうろついたり傭兵ギルドに出入りしていた。
そんな田舎で和やかな領民と逞しい騎士達に囲まれて育った私は、一般的な貴族令嬢からは逸脱してしまった。おかげで「可愛い」からは程遠い存在なのだ。
アルベルトはコッペリオン家の次男でありながら庶子のため、不憫に思った父が引き取り、時期スワンドレイク家の跡継ぎとして育てられた。
しかし、私達は魔法を使う事ができないとされる無属性の瞳を持って産まれ、時期頭首としてはあまり期待されていなかった。
転機が訪れたのは12歳の時、神獣ディーナ様からギフトを授かる洗礼の儀式で私達は対となる異能を授かった。更に私は非常に稀な無属性魔法の使い手である事も判明する。
私の異能は「プレイヤー」アベルの異能は「アバター」、要するにこれは異能という名のアルベルト育成ゲームだ。
そして私はその異能を授かった時に前世の知識を得た。そう、私の前世は、こことは異なる異世界ではゲーマーだったのだ。
「お嬢、益々男らしくなったな!」
「あの……どちら様ですか?」
「はあっ?半年顔見ないだけで俺忘れられたワケ⁉」
こいつは幼馴染のラルフことランドルフ・ボレノ。私達にとっては1つ年上のお兄ちゃん的存在だ。でも兄弟と言うより従兄弟のお兄ちゃんみたいな感じかな?
お調子者の煩い奴だが、何だかんだと私達の面倒を見てくれている。
スワンドレイク騎士団団長の息子で、父親同士は親友だった。そんな訳で私達は常に3人でつるんでいた。
1年先に王立学園に入学したラルフと会うのは去年の夏季休暇以来だ。
今年の冬は積雪量が特に多く、北部は早いうちに通路が絶たれてしまったため帰省できなかった。
久々に会ったラルフはすっかり都会に毒され、なんだかチャラくなっていた。再会時に思わず「どちら様ですか?」と訪ねてしまったのは仕方ないと思う。
私服は派手になり、耳にはピアスなんぞも付けている。去年の夏季休暇に領地に帰って来た時はここまでじゃなかった気が…
スワンドレイク家のタウンハウスには兵舎も備わっており、現在も数人の騎士が駐在している。もちろん訓練場等の設備もバッチリだ。
私とアベルは本邸暮らしだが、ラルフとゲルド、ドリゴ、レボットの4人の騎士見習い達は兵舎暮らしだ。
遠くから通う生徒の為に学園の寮も用意されているが、ウチは学外での自主訓練や合同訓練を行うため兵舎から学園に通っている。
前世界での学校とは趣がかなり違うけど、新しい環境での生活は楽しみだったりする。
華の学園生活を満喫するぞ〜!女の子のお友達を作ってスイーツ巡りするんだ〜!ウキウキ!と思いきや、いざ学園生活が始まると周りは男ばかりだった。
なんせ騎士科だもんな!稀に女子生徒もいるらしいけど、今年は私一人だ、泣ける……
かと言って淑女科のご令嬢達に混じって社交やら刺繍やら音楽やらマナーやらが中心の授業を受けるなんて以ての外だ。やってられるか!
私はダンスやマナー等の基本的な所作の授業は領地に居る時に受けていた為、他学科の授業も領地経営に関するものが殆どだ。
魔導科に入ればもう少し男女比率が変わるのだけど、騎士を目指しているのに魔導科に入ってもなあ。
そんな訳で結局、何時もの3人でつるむ事になる。ああ、つまんない……




