24 漆黒の剣士3
「消滅魔法って?」
「この異形の瘴気を消滅させて欲しいのだ」
「それって浄化魔法の事?」
「お前は無属性魔法の使い手だろう?それは【浄化】ではなく【消滅】だ。【浄化】は穢れたモノを正常に戻すものだが【消滅】は文字通り対象物を完全に消し去る。そもそも【浄化】は人間には使えん」
私が使っていたのは汚れや穢れを祓う魔法じゃなくて、そのものを消してしまう魔法と言う事?
え?それって危険な魔法なんじゃないの?そんな魔法が存在していいの?
使い方次第では人も殺せるかもしれない。例えば、身体から水分だけを消し去るとか。人間そのものを消してしまうとか……
無自覚に力を使っていた事が急に怖くなった。不安な気持ちがこみ上げ、お腹の辺りがぞわりとする。
人を駄目にする魔法だと浮かれて失敗したら、うっかり歯が無くなってたなんて事故を招きかねない訳だよね?これって迂闊に使っちゃイケない魔法だったんじゃ?
ガクガクブルブル……
「この国では無属性魔法は無いものとされておるし、その使い手も珍しいからな、知らぬのも無理は無い」
「なんでディーナ様は私にこんな異能を与えたんだろう?」
「うん?何を言う、無属性魔法はそもそもお前が生まれ持った力だろう?その瞳の色が何よりの証拠だ」
「え?これ異能じゃ無いの?」
無属性魔法はてっきり異能の力だと思ってた。それこそ、無属性の者は魔法が使えないと言う固定観念からそう思い込んでいたって事?
「稀な力ではあるが、魔法は魔法だ、異能ではない…しかもお前はその力の才があるようだな、鍛えればもっと色々な事が出来るぞ、無属性とは裏を返せば属性に縛られない【万能魔法】とも言い替えられるからな」
「でも異能を授かってから使えるようになったんだよ?」
「それは使いこなせるようになったタイミングが偶々重なっただけだろう」
「ディランは無属性魔法に詳しいんだね」
「ああ、身近に無属性魔法を使う者が居るからな、ほら…」
「あっ!そう言えばさっきの魔法!」
「ティナは聖獣だからな、浄化魔法も使えるぞ」
ティナは私と同じ灰色の瞳、無属性魔法が使える聖獣なのか。対してディランの瞳は琥珀色、その瞳は金色にも見える程に輝いて見える。
「なら、俺にも無属性魔法が使えるんですか?」
「ううむ…確かにお前も灰色の瞳を持っているが、どの属性だろうと誰もが魔法を使いこなせる訳ではないだろう?しかもお前にはもう他の属性が混じっている、純粋な無属性たり得ないだろうな」
「そうですか…」
「でもほら!代わりに色んな魔法が使えるようになったじゃん!」
「そうだね、でも……」
アベルは何か考え込むように俯いた。
あれ?でも、私は今まで浄化魔法だと思って消滅魔法を使ってたと言う事だよね?
「私が使ってたのが消滅魔法なら、なんでこの魔法で体調が良くなる人がいたんだろう?」
「それは身体の中の悪いものや不要なものを消し去ったのだろう、さすれば自然と体調も良くなる。それもなかなか高度な技術だぞ」
消滅魔法を使えばウィルスとか細菌とか癌みたいなものを消せるって事か。
生命魔法は怪我や病気を自己治癒能力を急激に上げて回復させる魔法で、病の根本を治療する事はできない。となると、無属性魔法は新たな医療方法にもなるって事かも。
今まで無属性魔法は異能の力だと思ってたけど、無属性魔法は異能と関係なく使えるなら、私以外にも無属性魔法が使える人が居るかもしれない。
でも今まで何で無属性は魔法が使えないって言われてたんだろう?
「取り敢えず、この異形の瘴気を【消滅】してみてくれぬか」
「うん…」
まだ戸惑いつつも言われるままに消滅魔法を発動させる。
未だ異形の残骸から発せられる瘴気を消滅させ、無害な残骸と化した。
ステータスパネルを出して素材を回収してみると、その甲殻部分だけが回収できた。これはいい武器や防具が作れそうだ。
その様子を眺めていたディランがとても驚いたと言う顔をして辺りを見回している。
「なんと!お前の【消滅】は瘴気の魔素だけを残して穢だけを消滅できるのか!無詠唱でこれ程正確に魔法を操作出来るとは見事だな」
「へ?それどういう事?」
「吾は瘴気を消滅させてくれと頼んだが、レイニーナは瘴気の中の穢だけを消滅させたのだ。瘴気は穢れた魔力、だが完全に消滅した訳ではない、となれば何が残る?」
穢が抜けた瘴気は何になるのか?それってもしかして……魔力?
「消滅!」
この辺り一帯の瘴気を消滅させた。私の身体を中心に、蒸気が上がるように瘴気を消し去って行く。
重苦しかった空気が軽くなり、結界が解けても普通にしていられるようになった。
そして感覚を集中して辺りを探ってみると、確かにこの辺りに大量の魔力の存在が感じられた。
瘴気は時間と共に少しずつ薄れていく、もしかしたらこの森は、長い年月をかけて穢れが抜け、残った膨大な魔力が在るから他にはない珍しい生き物が居たり、魔石が採掘出来るのかも知れない。
そして今、ここにも大量の魔力だけが残ったと言う事だ。これって再利用出来たりしないかな?
瘴気が消えた後に残ったものを感覚を研ぎ澄ませて感じ取り、それを自分の元に集めた。
「吸収!」
次々とそれが私の身体に吸い込まれ、力が満ちて行く。
すかさずステータスを確認してみると、減ってた魔力ボーナスが100%に回復した!自給自足の極みだ!チート万歳!
するとディランはご機嫌で私の背中をバンバンと叩いた。
それはちょっと痛いよ?
「今のは魔力を取り込んだのか⁉ はははっ、凄いな!無属性魔法をそんな風に使うとは思いもよらなかったぞ」
それは多分、私の前の人の知識のおかげかも。
前世界はこの世界と違って魔法は無いけど、色んな技術や知識が豊富だったから、専門家で無くてもそれこそ漫画や小説なんかでもある程度の知識は得られる。
しかも魔法が使われているファンタジー物も多彩な発想で綴られている。その知識がなかったら多分思い付かなかっただろう。
そういう意味ではやはり異能のおかげと言えるかもしれない。
「では、そこの亀裂を消滅できるか?」
「やってみる」
補った魔力を掌に集中させ、亀裂に向かって放った。しかし、そこから吐き出される瘴気を散らす事は出来たが亀裂そのものを消すことは出来ない。
「ううむ、また亀裂を消滅させるには鍛錬が足らぬか」
ディランは残念そうに唸りながら首を傾げた。
私の力ではこの異界の裂け目は消滅出来なかった。だとしたら、またここから異形が這い出してくるのだろうか?