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転生ゲーマー令嬢は婚約者を玩具にする  作者: 御月源士郎
序章 幼少期編
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22 漆黒の剣士1

 私とアベルとマリウス先生は、モーリスさんを訪ねて傭兵ギルドに訪れた所だった。だがまだモーリスさんはギルドに戻って来ていないようだ。

 

「お嬢、今日はどうしました?」

「モーリスさんの仕事終わりを待ってるんだ」


 傭兵達が次々と声をかけてくる。こっそりギルドに登録してバレた事件依頼、モーリスさんを訪ねて度々顔を出しているからか、傭兵の皆さん達ともすっかりお知り合いになってしまった。

 魔獣討伐に参加できる歳になったとはいえ、薬草などの採集は未だにモーリスさんと一緒にしている。

 でも今日は採集目的では無く、モーリスさんの仕事が終わるのに合わせて昼食を一緒にするために来たので護衛も付けていない。

 代わりにマリウス先生が一緒だ。魔法や薬学の研究者であるマリウス先生と傭兵であり薬士でもあるモーリスさんは元々友人だったそうだ。

 マリウス先生の授業の後、モーリスさんと食事をするからと私達も一緒にと誘われたのだった。


 ギルドの窓口に見慣れない男が、受付の人と何やら揉めているようだ。漆黒の衣服をまとい、軽装の鎧を身に着け、腰には両手剣を携えている。

 その肩には一羽の灰色の鳥が止まっていた。


「なんかあったの?」

「お姫様に会いたいから取り持ってくれとかなんとか言って、窓口の職員を困らせてるらしいぜ」

「ここら辺にに姫様なんて居るわけねぇのにな」


 私が疑問を口にすると、周囲の傭兵達が何だか良く分からないと言う顔をしながら教えてくれた。

 すると、黒いおじさんと目が合った。途端におじさんの目が丸くなり、困惑するギルド職員を余所に、にこにこしながら黒いおじさんは私に近づいて来た。


「その瞳、もしやこの地の姫君か?」

「は?姫?」

「異能を授かったという姫であろう?是非一度、見えてみたいと思っていたのだ、吾は運がいいな!」


 その言葉にマリウス先生が成程とばかりにポンと手を打った。


「そう言えば、ここで姫君と言えばお嬢様の事ですね」


 えええええ⁉ 私?

 周囲の人達もようやく「ああ、確かに」と思い至ったようだ。

 余りにもそんな風に呼ばれるのは不似合い過ぎて、違和感しか感じない。


「レインはもう少し、上位貴族だっていう自覚を持った方がいいと思うよ」


 自覚って言われても、こんな田舎でのびのびと育っちゃったら仕方なくない?傭兵ギルドに出入りする令嬢なんて私くらいじゃなかろうかと思う。

 昔、母上に連れられて王都に行った時に参加したお茶会の息苦しさと言ったらもう……私にはお嬢なんて無理な気がして仕方なかった。

 そもそも、北部には貴族と言ったらウチしか居ないんだよ。魔獣に襲われる危険な土地に居を構えたいなんて貴族は居ないから。その分、持ってる土地の広さは貴族の中でも随一だ。


「いやぁ、なんと可愛らしい姫ではないか」

「かっ、可愛い⁉」


 言われ馴れない言葉に思わず両手で頬を覆うと、恥ずかしさで熱くなっているのを感じた。

 でも、だって、だって……


「可愛いなんて初めて言われた」

「え?」


 何故かアベルは呆然とした顔をしている。

 わかってるよ!何コイツ浮かれてんのって思ってるんでしょ!でも私だって可愛いって言われたら嬉しいんだからね!


「あ、ありがとう、ところでおじさん誰?」


 いや、まてまて?なんか喋り方とかおじさんぽいけど、私達の歳からしたらかなり年上だけど、一般的にはおじさんと言うには若い見た目な気がしてきた。


「……あ、違う、お兄さん誰?」


 黒いお兄さんは私の意図を汲み取ったのか、ハハハと笑うと「気を遣わんでいい、好きに呼べ」と、屈託のない笑顔で言う。大人の漢だ、そしていい筋肉だ。


「立ち話もなんだ、そこに座って話をしないか?」


 そう言って黒いお兄さんはギルドと続き隣の食堂を親指で差す。

 私達はマリウス先生の顔を伺った。


「勿論、従者も共にで構わんぞ、ほれ身分証もある。怪しい輩ではない、吾も一端の傭兵だからな!」


 マリウス先生が従者……

 先生は身分証を確認すると、直ぐにそれを返した。


「確かに…かなり上級の傭兵なんですね。後でもう一人連れが来ますが、彼もご一緒しても?」

「おう、構わんぞ」


 私達は食堂に移動して席につくと、給仕のお姉さんを呼び止めた。


「果実水とエール、それにツマミを幾つか出してくれ、ここのおすすめがいいな。姫達も好きな物を頼んでくれ、吾の奢りだ」


 言われるままに私達もランチプレートを頼む。

 注文を終えて落ち着くと、アベルは怪訝な顔で私の耳に口を寄せてきた。


「ねえレイン、この人なんだか怪しく無い?」

「そうかな?」

「そうだよ」

「でも上級の傭兵だよ?」


 黒いお兄さんはひそひそと話す私達の方を向くと、アベルの顔を覗き込みながらニヤリと笑った。


「番の若君、まあそう警戒するな」

「番っ⁉」

「つがい?」


 「番」ってなんだろう?アベルはその言葉にビクリと反応すると、今度は挙動不審になった。

 なんか顔が赤いみたいだけど、また熱でも出たかな?……と心配そうにアベルの顔を覗き込むと更に顔が赤くなった。大丈夫だろうか?


「ま、まだ番って訳じゃ…」


 何かブツブツ言ってるけど、良くは聞き取れない。


「所でお兄さん……どこから来たの?」

「王都からだが」

「都会の人なんだ!」

「おう!ハイカラだろう?」


 ハイカラって……いつの時代の言葉ですか?やっぱりおじさんな気がしてきた。


「吾の名はディランだ、コイツは相棒のティナ」


 ディランの肩に止まっていた灰色の鳥がパタパタと羽ばたいて私の肩に降りて来た。

 なんだか普通の鳥と違う気がする。何というか、すごく体に馴染む波動を感じると言うか……

 ふと思い当たり、もしかしたら周囲に知られたら不味い事かも知れないと思って、小声でディランに訪ねた。


「この子は……もしかして聖獣なの?」

「ああ、良くわかったな、こう見えて高位の聖獣だ」

「その聖獣を従えてる貴方は何者なのですか?」


 私に習ってマリウス先生も小声で訪ねた。その瞳は興味津々で光り輝いているかのようだ。


「う〜む、正義の味方…とでも言っておくか?」

「ねえ、やっぱりこの人胡散臭くない?」

「ん?吾は臭うか?ティナの魔法で汚れは落とした筈だったんだが……」


 言いながらディランは自分の腕や服の臭いをクンクンと確認する。


「ねえねえ、正義の味方なら、やっぱり変身するの?」

「ん?ああ、できるぞ!」

「凄い!カッコいい!やっぱり、正義の味方は変身して戦わないとね!」

「……なあ、姫は一体何の話をしているんだ?」

「あまり真剣に受け取らなくていいですよ、何時もこんな感じなので」


 あれ?いま私、ディスられてますか?

 しかしいい加減、その呼び方は辞めてほしいな。


「私は姫じゃないよ、レイニーナだよ」

「ふむ、良い名だなレイニーナ姫」

「だから姫は要らないって、こっちはアルベルトとマリウス先生」

「おおお、すまぬ!そちらの御仁は従者ではなく師匠であったか!大変失礼した!」

「いいえ、お気になさらず、家臣の1人である事には変わりませんから」


 いちいち大仰な物言いをするお兄さんだな。

 なんかマリウス先生も反応に困っているようだ。


 そうこうしているうちにモーリスさんも合流し、王都や旅の話で盛り上がった。ディランは話し上手で、どんな話も面白い。

 いつの間にか大人3人は意気投合して、昼間から酒を酌み交わしては雑談に花を咲かせ、このまま出来上がってしまいそうだ。

 子供2人でちまちま果実水を飲みながら大人達の様子を眺めていると、ふとアベルと視線が合った。

 でも直ぐに逸らされたかと思うと、もう一度私に視線を合わせた。


「俺も、レインの事を可愛いと思ってるよ」


 どういう風の吹き回しか、不意にアベルがそんな事を言い出した。


「あはは、無理してそんな事言わなくてもいいよいいよ〜、自分でも可愛いから程遠いって分かってるから。ディランは大人だから私みたいのでも可愛いく見えるんだねきっと」


 この間、可愛い云々で喧嘩したことを気にしてるんだろうか?


 食事が終わったら、午後は予定がないのでそのまま街をぶらぶらする予定だ。

 モーリスさんとマリウス先生、そしてディランと別れを告げると、私達は中心街に向けて歩き出した。

 しばらくすると、私とアベルの両脇から太い腕がにょきりと生えてきて肩を掴まれた。そして私達の顔の間にディランの顔が割り込んでくる。


「お前達、少し顔を貸せ」


 ビックリしてアベルと2人で顔を見合わせると、ディランはニヤリとイタズラ好きのような顔で笑った。


「少し確かめたい事があってな。大丈夫だ、怖い事は何も無いぞ〜」


 えええええ?それ不審者の常套句じゃありませんか?

 半ば強引に連れて行かれたのは、魔獣の森の異界の狭間のある場所だった。

 しかし、この場所にはこんなものは無かったはずだ。


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