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転生ゲーマー令嬢は婚約者を玩具にする  作者: 御月源士郎
序章 幼少期編
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19 再び森へ

 辺りには死臭が漂っている。そこに獣の匂いや瘴気が入り混じって立ち入るだけで不快感を催した。

 元々体躯の大きなクルークは、わりと開けた場所に生息しているが、ここは更に周囲の木々がなぎ倒され、森の中に1つの空間が出来ている。

 そしてそこは目に余る惨状が広がっていた。辺りに散らばっているクルールの群れの死骸、恐らくデイスクルールにやられたのだろう、爪や嘴で傷つけられた箇所が瘴気の毒によって酷く腐蝕している。この辺りのクルールは全滅かもしれない。


 無理!速攻で浄化する!


 小隊長の許可を得るのももどかしいとばかりに広範囲を一気に浄化した。

 清々しい森の香りが鼻孔をくすぐり、目の前の惨状に相応しくない緊張感の無さで大きく深呼吸をした。


 生き返るぅ…

 

 ステータスを確認すると、今迄は僅かながらに減っていた魔力ボーナスが一気に69%まで減っていた。広範囲の浄化は流石にキッツイな、30%は持っていかれた。魔力ボーナスってやっぱり回復はしないのかな…

 残念な気持ちでため息を吐いてから目線を上げると、リオネル小隊長が怪訝な表情でコチラを見ている。

 どうやら仲間になりたい……ワケでは無いようだ。思わずイタズラがバレた時みたいにビクリと肩が震える。


「お嬢様、今何かしましたか?」

「あの強烈な匂いと瘴気に耐えられなくて…ううぅ……ごめんなさい」

「え、いや、責めているのではなく、何だか顔色が悪いようでしてので、あまり無理はなさらないでください」

「はい、善処します!」

「お嬢様の『善処』ほど当てにならないものは無いですよ?」


 リオネル小隊長の苦笑いは、まるで手の係る子供に呆れるかのようだ。確かにまだ子供だけど……何というか、視線が生暖かい。


「では各自、行動を始めろ」


 リオネル小隊長が号令をかけると、一斉に準備に取り掛かった。

 通常、討伐した魔獣や瘴気の毒に侵されたものは、燃やして灰にすると瘴気がかなり抜けて微弱になる。

 更にそれを土に埋めて、自然に瘴気が消えていくまで周囲に広がらないようにする。

 今回は私が浄化をした後だが、動物の死骸が腐乱すると疫病の元にもなりえるため、同じように燃やして埋めることになった。

 先に燃やしてから浄化をかければ、もしかしたら消費する魔力を抑えられるかも知れない。それはまた実験の必要がありそうだ。


 周囲の片付けが一通り済むと、背負い籠に入れて来たルドリスの実の殻を割って身を取り出し、広場の中心地に山積みにして匂いをたたせた。

 そこから少し離れた木陰や草むらに身を隠すと、風魔法の使い手が器用に上空に匂いを立ち上らせる。この匂いに誘われて獲物がかかればこちらのものだ。

 半時ほど経った頃だろうか、上空から羽の羽ばたく音と風圧が徐々に近づいてきた。

 作戦開始の合図を受けると、私は結界魔法をルドリスの実を中心にドーナツ状に発動させた。

 舞い降りてきたディスクルークが身をついばみ始めると、蓋を閉じるように上部にも結界を張り巡らせた。


「撃て!」


 タイミングを見計らって私が号令を出すと、一斉攻撃が始まった。魔法を放つ者、弓やボウガンを放つ者、それぞれが得意な遠距離攻撃で迎え撃つと、ディスクルークは驚いて暴れまわった。

 しかし、結界に阻まれて上空へ逃げる事も出来ず、まるで籠の中でのた打ち回っているようだ。


「放て!」


 雷魔法の使い手が閃光を放つと、飛び回って暴れていたディスクルークが地に落ちた。

 命中率が上がったところで再び集中砲火を浴びせる。


「止め!」


 少しずつ動きが鈍り、瀕死の状態になった所で攻撃中止の号令をかけ、ディスクルークに浄化魔法をかけると、まとわり付いていた正気が消えて只のクルークに戻った。


「回復をお願いします!」


 この辺りの生態系がかなり崩れてしまった可能性がある為、クルークを生かせるギリギリのラインまで攻撃を加えたが、瀕死の状態のそれが確実に回復するとは限らない。

 思わず胸の前で手を組み、祈るような気持ちでクルークの様態を見守った。

 小さく羽を動かしたかと思うと、再びぐったりと羽を降ろし、そのまま動かなくなった。

 回復に当たっていた生命魔法の使い手がコチラを向くと、小さく頭を降る。


 助けられなかった…


 攻撃を止める見極めが甘かったのか、そもそも戦法に問題があったのか、考えても仕方のない後悔が次々と押し寄せてきて息が詰まるような感覚に陥った。

 そんな時、リオネル小隊長が私の頭をポンポンと優しく叩いた。


「力不足ですみません」

「お嬢様は十分頑張りましたよ、何事も上手く行くとは限らないだけです、少なくともこの周辺の魔獣の脅威は取り除けました。それで良しとしましょう?」

「はい…」


 リオネル小隊長は優しく微笑むと、気を取り直して撤収の指示を出し始めた。

 私の初陣の結果は心残りを残したままの結果となってしまい、やっぱり現実はゲームみたいに都合よく出来てないんだなと思い知ることになった。


お付き合い頂きありがとうございました。

仕事と私用で大分間が空いてしまいました。ただでさえ読者が少ないのに忘れ去られてしまいそうですね…

次話以降はペースを戻すつもりで頑張ります。

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