2 キャラメイキング
アルベルト・コッペリオン
経験値:能力PT 83 スキルPT 720
※経験値は能力値の振り分けやスキル獲得に使用できます。
筋力:1 体力:1 速力:1 魔力:1 知力:1 魅力:1
スキル:剣術1、体術1、学力1
全てがまるでゲームスタート時のレベル1状態の様だった。そしてステータス画面の経験値欄には数値が表示されている。
「経験値がそこそこ溜まってるよ!」
「経験値?」
この数値はキャラクターの能力値やスキルを獲得するために使われるポイントだろう。能力値は6つに振り分けられるようだ。
スキルは種類やレベルによって使用ポイントが違うかも知れない。更に新しく獲得可能なスキルやら未開放のスキルがあるらしい。
「今までアベルが鍛錬を重ねた経験が数値化されてるみたい。この数値を欲しい能力に振り分けられるみたいなんだけど、アベルはまずどの能力を上げたい?」
能力値の説明しながら画面を見せると、アベルは考え込んだ。
「えーと、やっぱり力は欲しいかな…あと速く動けるようになってラルフに駆けっこで勝ちたい」
駆けっことはまた微笑ましい、言っても12歳、まだまだ可愛いお年頃である。
今後やりたい事がはっきりした時の為に、ポイントは使い切らずに残しておいたほうが良いかもしれない。
アルベルトは幼い頃から中性的な可愛らしさで、女児と間違われる事もあり、身体も華奢で、領地を継いだ暁にはウチの騎士団を背負って行けるのかと心配だった。
本人もそれを重荷に思っているフシがあるが、元来真面目な性格のせいか勉学も剣術も常に涙ぐましい努力を続けていた。
しかし、どんなに鍛錬を積んでも鍛えても勉強しても成果が上がらず、魔力も乏しく途方にくれていたようだった。
その努力の成果が、こんな形で経験値として残っていたなんて、もしかして産まれたときからこのギフトを授かるために不遇の時を過ごすハメになったのだろうか?
今度は私の名前をタッチすると、そこにはゲームのタイトルらしき表示があった。
ーー【アベルメーカー】
ーーアルベルトをあなた好みに育成しちゃおう!
ええと?この妙なテンションの解説はなんだろう?ナニコレ育成ゲームなの?なんか思ってたんとチガウ……もっと、もっと血湧き肉躍る何かを期待してたのに。
膝をついてガッカリポーズを決めたい気持ちをぐっと堪えた。
そしてスキル欄には「身体改造」「遊戯の達人」「異界の賢者」と記されていた。
ちなみに、ステータスの文字表記はカルメリア語と前世語に切り替えが可能だ。そして前世語に切り替えると「身体改造」は「キャラメイキング」、「遊戯の達人」は「ゲーマー」、「異界の賢者」は「オタ知識」に翻訳される。
「身体改造」と聞くと、つい「やめろー!シ●ッカー!」なんて呟叫びたくなる。
こちらの言葉で完全に一致する言葉が無かったのだろうとは解せるが、なんか腑に落ちない。
「オタ知識」はいっそ前世語でも「異界の賢者」で良いじゃないかと……いやでも、それだと本来の意味がいまいち掴めないか……言葉って難しいね。
「取り敢えず筋力と速力を上げてみようか」
10ポイントずつ振り分けて決定を押すと、アベルの身体がぎゅっと引き締った気がした。
「何だ今の⁉」
ラルフが驚いてアベルの腕を擦った。
「筋肉付いてるじゃん!」
言いながら今度は腹部を確認すべしと服の裾をたくし上げた。
「ちょっ、止めてよ!」
「おお!腹筋も少し硬くなったんじゃないか!」
アベルの抗議を無視して撫でまくるので、いい加減にしろと頭を叩いてやった。
「いてっ、なんだよ〜」
「撫で回すな!変態が過ぎる!」
「はあっ!?誰が変態だ!」
「私より先に撫でるなんてズルい!私も筋肉撫でたい!」
「どっちが変態だよ!?」
「レインは駄目!もっと駄目!」
アベルは顔を赤くして必死な形相で拒絶した。そんなに嫌か!ラルフより嫌か!
「じゃあ、ラルフので我慢してあげるから筋肉触らせろ」
「何でだよ!嫌なら無理すんなし!」
「それも駄目!絶対に駄目!」
父の筋肉では駄目かな……と、父上がつぶやいた気がしたが多分気のせいだ。
今度は魔力に10ポイントふってみる。するとアベルの鳩尾の辺りが鈍く白く光り、魔導紋が一瞬現れて消えた。
「ほう、魔力が強くなったな」
父上が感心したようにアベルを見つめた。
魔導紋は魔力の性質や大きさを表すもので、幾つもの円や線が重なった形をしていて、魔法を使うと現れる、前世で言う魔法陣にも似ている。
それは個々によって指紋のように形が違い、魔力の痕跡を辿ると魔法の使用者を特定できたりもするが、それはそれで専門の知識や能力が必要となる。
円の形が大きかったり数が多いほど魔力が高いと言うことになるが、通常は産まれた時に魔力の大きさが決まっていて、それを増やすためには相当な苦労を強いられる。
それをポイントの振り分けだけで得られるとなると、大魔導師になる事も夢じゃないかも知れない。
最後に体力と知力に5ポイント振り分け、魅力は今の所必要性を感じないので1のままにした。
次はスキルだ、剣術、体術、学力をレベル3まで引き上げ、更に新しく火魔法1、風魔法1、水魔法1、土魔法1を獲得した。
既に持っているスキルは1レベル上げる毎にレベル✕10ポイントを消費し、新しいスキルを獲得するには100ポイントを要した。
まだ1レベルとはいえ4属性を全て操れる人間は稀だ。この先どの属性を伸ばすかは色々と試してからになるが、灰色の瞳だからと蔑まれる事はもう無いだろう。
ちなみに、他にも氷魔法、雷魔法、陰魔法、生命魔法等があるが、現時点では獲得出来ない。今後解放される事を期待しようと思う。
そして現時点でのステータスはこうなる。
経験値:能力PT 43 スキルPT 170
筋力:10 体力:5 速力:10
魔力:10 知力:5 魅力:1
剣術3、体術3、学力3
火魔法1、風魔法1、水魔法1、土魔法1
とりあえずはこんな所で、あとは追々様子を見ながら決めようと言うことになった。
すると、ピロンと言う通知音と供に無機質な音声が頭の中を流れる。
ーー新しいアプリの獲得条件をクリアしました。
ーーインストールを開始します。
ーーNow Loading
ーー新しいアプリが追加されました。
ーー【ビーストハンター】
ーー新たなる闘いが幕を上げる
「私はコレを待っていた!」
ようし!早速プレイ!と思いきや、晩餐の用意が整ったとの知らせがあり、おあずけ状態となってしまった。
ああもうっ!ご飯はいいからゲームしたい!
ー・ー・ー・ー・ー・ー
今日の晩餐はギフトを授かったお祝いとして、何時もより豪華なメニューが取り揃っていた。
ついでとばかりに同席を許されたラルフは、肉料理に目を輝かせ、アベルも負けじとばかりに食事を頬張る。
でも私は豪華ディナーを余所に、新しいアプリ【ビーストハンター】がどんなゲームなのかが気になって気になって気になって気になってろくに味わうことが出来なかった。
母上から続きは明日以降にと嗜められ、さながら新作ゲーム発売日前日のような気が焦る思いでいっぱいだ。
「レイン、アベル、洗礼の祝に何かの欲しいものはあるか?」
「私!ボウガンが欲しい!」
「あ、あの、自分用の剣が欲しいです」
遠慮がちに言うアベルを他所に、若干食い気味に意気込んで強請る私に母上は苦い顔をする。
「レイン、貴女はドレスとアクセサリーになさい」
「えええーー!」
「スワンドレイク家の後継者である以上、貴女が騎士を目指す事は止めないけれど、貴族令嬢としての義務も果たさなければならないのよ」
「そ…そんなぁ……」
「もちろんアベルも作法や社交の勉強は必要よ」
「はい、分かっています」
ダンスやら刺繍やらお花やら礼儀作法やらの授業がこれから増えるのかと思うとうんざりする気分だった。
はぁ、早くゲームしたい……
ー・ー・ー・ー・ー・ー
食事を済ませ、湯浴みを終えるとやっと自由時間だ。逸る気持ちを抑えきれず、アプリの説明や操作方法を確認していると、私の部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「レイン、まだ起きてる?」
「起きてるよ〜」
聞き慣れた声に返事を返すと、部屋に入ってくるなりアベルは私の手元を見て苦笑した。
「やっぱり……またそのステータスつて言うのを見てたんだ」
アベルの手には、湯気の上がるホットミルクが入ったマグカップか2つ、その1つを受け取り一口啜ると、ほんのり蜜の香りと甘みもしてすっと疲れが取れるような気がした。
「僕達、二人揃って異能を授かるなんて驚いたね」
「……あのさ、アベルは私と対なのが嫌だったりしない?」
「え?なんで?」
ただでさえ自分の意志とは反して私の婚約者と言う立場に甘んじているというのに、異能の力まで私と対にされてしまった。
それがアベルの負担になっていないかと、正直不安に思っていた。
「ええと……ほら、僕一人だと何もできないでしょ、だからレインと対の能力で良かったって、ほっとしてるよ」
「そんな事いって、何時までも私を頼ってたら駄目だよ」
「そりゃわかってるけど…何時かは僕がレインを守れるように頑張るから、それまではよろしくね」
何時もの穏やかな笑顔でアベルはそう告げるが、私は曖昧な笑みしか返せなかった。
我が国カルメリア王国の身分制度は、王族、貴族、士族、平民、罪人となっている。
貴族と一言に言っても、財力や軍事力や政治力、王家との繋がりによって力関係は様々だ。
我がスワンドレイク家の軍事力は最強レベルだが、北の辺境に居を構えているため、王都やその近郊に暮らす貴族達からは田舎者と馬鹿にされがちだ。
士族は騎士、魔道士、治癒士、薬士、学士等の国に貢献し認められた家系が賜る身分だ。もちろん貴族や平民にも騎士や魔道士は居る。
貴族と士族との具体的な違いは、領地を持っているかいないかだが、騎士や商人として名を上げた者は下手な貴族より裕福だったりもするし、平民から士族に出世する事もある。
その代わり貴族と士族の間には「領地」と言う大きな隔たりがある。養子縁組や婚姻以外で士族から貴族に伸し上がることは極稀だった。
アルベルトは政治分野での有力貴族であるコッペリオン家の庶子だ。母親はアベルを産んで直ぐに亡くなったらしく、コッペリオン家に引き取られたが夫人との関係は良い訳が無く、コッペリオン卿と旧知の仲だった父が不憫に思って引き取った。
ウチは男児に恵まれなかったこともあり、私の婚約者としていずれはスワンドレイク領を継がせようと幼い頃から教育を受けている。
とは言え、幼い頃から共に過ごしていたせいか婚約者というよりも姉弟のような関係を育んでいた。
私の方が2ヶ月早く産まれたから、私の方が姉である事は譲れない、絶対にだ!
義姉としては義弟に幸せになってもらいたいし、アルベルトには好きになった相手と結婚してもらって、彼が望むならスワンドレイク家を継いでもらいたいと思っているし、嫌ならここを去る事も赦してもらえるよう計らうつもりだ。
そのためにもこの異能の力を使いこなし、アベルの望む道に進めるよう全力でサポートすると心に決めた。