15 妹分ができました。
傭兵ギルドとして依頼を受ける事は父上から却下されてしまったが、調合に必要な素材を取りに行く事については条件付きで許可が降りた。
植物の採集に関しては、先日お世話になったモーリスさんに薬学の指導を受けながら、護衛を1人付ける事で森への立ち入りを許可された。
魔獣や獣の素材に関しては、騎士団が持ち帰ったものを回収することになったが、瘴気を帯びた魔物の死骸を人里に持ち込むわけにも行かず、森の入口周辺で素材化する事になった。
その際、マリウス先生立会のもと、穢れた魔獣の死骸を浄化する実験をしてみる事にした。
何時もの要領でポスンッを当てると、それはもうシュワァァッって言うかブワァァッて言うかプシュウゥッみたいな音を立てて白い魔力が魔獣の死骸を包み込んだ。
何これ!ポスンッじゃなくてプシュウゥッだよ!アレだアレ!前世界のバラエティ番組でクイズに間違えるとドライアイスの煙をプシュウゥッってされるみたいな感じだ!
浄化する瘴気の強さによって音が変わるのだろうか?要するにコレは瘴気が浄化される音って事?
そして浄化が済むと普通の獣の死骸になった。もしかしたら生きた魔獣を浄化する事も可能かも知れないが、それに関しては父上からもマリウス先生からもリスクが高いと実験の許可は下りなかった。
そんな訳で騎士団の訓練と勉強の合間に素材を回収すること数ヶ月、回復薬やら解毒薬やら浄化薬やらを作り、騎士団でも実験的に使ってもらっている。
回復薬は体力や怪我を治癒する効果があり、解毒薬はまんまだが、どこまでの毒を消せるのかはまだ不明だ。
そして浄化薬は魔獣に負わされた傷に塗ると瘴気による弊害が消え、傷だけが残る。飲めば瘴気に充てられて体調不良に見舞われた身体を元に戻せるらしい。
近いうちに、今度は瘴気に侵された植物の毒性や穢を取り除けるか実験してみる事になっている。
ちなみにこれらは薬師が作る薬と違って、魔力を帯びている魔法薬である事が分かった。
そして案の定、マリウス先生が興味津々だ。調合の際に立ち会ってもらうと、スキルを使って調合する事によって自動的に魔法薬になるようだ。もちろん、その際に私は魔力を発動しているらしいが、その実感はない。
この事がきっかけでマリウス先生は薬品を作る際に魔力を込める研究を始めた。
更に魔法を跳ね返せるのが前回発動した結界魔法の一部な可能性を示唆すると、魔導壁を結界魔法に変換する方法も模索しているようだ。
そんな訳で先生は寝不足になりつつも毎日が楽しいそうだ。
そんなある日、討伐から戻った騎士団が魔獣を生け捕りにしたと知らせが入った。それは魔獣化したウーゴという獣の子供だった。
未だ瘴気に侵されているため危険ではあるが、子供だったのとかなり弱っているため生け捕りに出来たそうだ。
マリウス先生と共に魔の森に向かうと、ディスウーゴの子供と対峙する。魔獣とはいえまだ幼い生き物が死に貧しているのを見るのは心が痛んだ。
「今助けてあげるからね」
私は思わずそう呟くと、浄化魔法を発動させる。
シュワァァッっとなった光につつまれ、やがて光が消えると、瘴気が消えて普通のウーゴになり、それはそれはつぶらな瞳で私を顔を覗き込んだ。弱々しく「ウリュゥ」と鳴く声がまた可愛らしい。
「なにコレ可愛い!」
生きたウーゴを見るのは初めてだが、なんと可愛らしい生き物だろう!
拘束を解き、先日調合した回復薬を子ウーゴに飲ませてやると、ゆっくりと起き上がり、私の首に腕を巻き付けてすり寄ってきた。
毛並みもふわふわで触り心地も抜群だ。私と同じ灰色の毛色で親近感も湧く。
ずっと抱っこしてあげたい気分だったが、そろそろこちらも引上げねばならないため、子ウーゴを森に返さなければならない時間だ。
しかし、子ウーゴは私に抱きついたまま離れない、成長したウーゴは人間の数倍の腕力があると言われている。子供とは言えこの子の力もかなりのもので、引き離そうとすると私の首がもげそうになった。
仕方なく私は屋敷に連れ帰り、庭でいいから子ウーゴをウチに置いてやれないかと母上に相談することにした。
「まああっ、可愛らしい!」
母上はひと目で子ウーゴを気に入ったようだ。私に懐いて離れないと説明すると「だったらウチで飼いましょう!」と、意気揚々と子ウーゴの食べられるものを調べて用意するよう執事のピョートルに命じた。
そしてこの子の名前はウルルに決まった。性別は女の子で「ウルルゥ」と可愛らしい声で鳴くからだ。
その数日後、ラルフが久々に我が家に訪れると、開口一番……
「コレを可愛いというお前達母娘が俺には理解できない」
と、失礼な事を宣った。
何故だ!ウルルの可愛さがわからないなんて、貴様の目は節穴か!
ウーゴは前世界で言うところの毛深いゴリラだ。毛深さから言うとオラウータンのようだが、体つきや顔つきはゴリラだ。ウルルがオスだったら「ドンキー」と名付けていただろう。
ウーゴのオスはお腹と口の周り以外全身が毛で覆われているが、メスは胸とお尻も毛が生えていない。
そして子供であっても全身を覆う筋肉は前世界のゴリラ以上だろう。もちろん腹筋も割れている。
しかし、今のウルルはドレスを着ている。ウルルが母上のドレスを羨ましそうに見つめていたので、私のお下がりをウルルの体に合わせて仕立て直させたのだ。その為、今はその素晴らしい腹筋は拝めない。非常に残念だ。
しかし、服を着せて手を繋いで歩いていると、まるで妹でも出来たようで、ついウキウキとしてしまう。
そんなこんなでウルルはとっても可愛い。だがラルフはそれが納得出来ないようだった。
「なんで⁉ こんなにキモ可愛いのに!」
「可愛いとキモいを一緒にする感性も俺には理解できない」
「でも、ウルルは良い子だよ」
アベルはウルルに果物を与えながらラルフにそう告げた。ウルルもここ数日でアベルに懐くようになり、アベルが笑顔で頭を撫でる姿を見たラルフは目を半眼にする。
「アベル、ならコレが可愛いと思えるか?」
「性格は可愛いよね」
「俺は見た目の話をしている」
「でもほら巨乳だよ、ラルフの好きな」
「コレを巨乳とは認めん!こんなの殆ど筋肉じゃねぇか!」
「だからレインと義母上には可愛いんじゃないかな?」
「お前、それでうまく誤魔化したつもりか?」
「レインが可愛いと思うものを否定したくないし」
「ねっ」とウルルに向けて言いながら、アベルが優しくウルルを撫で続けると、ウルルは目を細めて「ウルルゥ」と鳴いた。
ウーゴは知能が高いのか、何かと人間の真似をしたがる。特にウルルはその傾向が強いのか、最近は外に出る時に日傘まで差すようになった。
ドレスを着て日傘を差しながら私達の訓練を見学するウルルは、まるで一端のご令嬢のようだ。
「なあ、正直レインよりウルルの方が女子力高くないか?服のセンスもいいよな」
「それは流石にレインの方が可愛いに決まってるでしょ」
「お前に聞いた俺が馬鹿だった、レインを可愛いと言うのもお前くらいなもんだしな…」
ラルフがウルルを見ながらアベルに何やら問いかけているようだが、その話し声はこちらまで聞こえてこない。
ラルフはまだウルルの可愛らしさに異論があるのだろうか?全くけしからん!




