13 そうだ!魔獣の森へ行こう3
「向こうの方がなんか騒がしいな」
森が風に吹かれるざわめきに紛れて、地を駆ける音と人だか獣だがの声が風に乗せられて耳に届く。
それが徐々に近づいて来るに連れ、時々魔法を放った音も混ざり合う。
「何かがこっちに向かってる?」
「魔獣か!」
「いや、違うみたいだけ…ど……」
漸く視認できる距離になると、先程モーリスさんに絡んできたギエム一行だと分かった。
そして彼らは何かの獣の群れに追われながらこちらに向かって来る。彼等の後を追うのはドゥーファだ。図鑑で見た事はあるが本物を見るのは初めてだった。
鼻は平たく頭には角があり、肉食のため鋭い牙と歯列があり口も大きい。前世界で言うなら猪と狼を足して2で割って角を付けたような見た目だ。
魔獣化してなくても凶暴で、森の中や里に降りてきたドゥーファに家畜が襲われたり、怪我人や死人が出る事もある。それが群れでやってくるとなると一溜りもない。
ギエム達は時々魔法を放って足留めしつつ逃げ惑っているようだった。
「僕達も逃げるよ!」
モーリスさんが顔を青ざめて慌てて立ち上がると、私達を避難させようと誘導してくれる。
しかし私は、座った状態から不安定なまま立ち上がったせいかよろめいてしまった。突然のことに動揺しているのか足元がおぼつかない。
皆が私を助け出そうと走る速度を落として手を差し伸べて来るが、そこにギエムが走り寄ってきて、そいつも私の方に向かって手を伸ばして来た。
後から追いつかれ首根っこを掴まれると、ギエムの方に身体を引き寄せられた。そして更に背中を蹴り飛ばされてドゥーファの目の前に放り出される。
「うわっ!痛っ!」
「レイン!」
「この野郎っ!」
アベルとラルフが直様火球と電球を飛ばしてドゥーファにぶち当てるが、如何せん数が多い。しかも、それ一撃で倒せるほどドゥーファは軟では無い。
直ぐに身を起こすが体制が整わないままの状態でドゥーファが鋭い牙を剥いてくる。モーリスさんがボウガンを構え、アベルとラルフも剣を抜いてドゥーファに向かって行くが、間に合いそうにない。
咄嗟に魔導壁をフルパワーで発動した。噛みつかれても多少はダメージを軽減できるかもしれない。
「ぎゃうっ‼」
あわや鋭い牙の餌食になるかと思いきや、私に向かって来たドゥーファがうめき声を上げて弾き飛ばされた。
周囲には私を囲むように半透明の膜が張られていて、足元には結界の大きさに合わせて魔導紋が浮かび上がっている。ドゥーファはそれに弾かれたようだ。
「何これ?……結界、かな?これも無属性魔法?」
仲間が弾き飛ばされたのを見たドゥーファ達は、少し距離を置いてこちらを伺っているが、未だ殺気は消えていない。
「みんな!この結界の中に入れる?」
「やってみる」
ラルフが結界に触れると、触れた手が結界をすり抜ける。それを確認するとラルフとアベルは結界内に入ってきた。モーリスさんも戸惑いながら結界の膜をすり抜けると、中の人数に合わせて結界が膨らんだ。
どうやら私が味方と認識した者は結界内に入れるようだ。
ふと後方を振り返ると、ギエム達がまんまと逃げ遂せる背中が見えた。アイツら、後でギタギタにしてやるからな!
その時、ドゥーファの群れが威嚇するためにか一斉に咆哮を上げた。これが魔獣化していた場合、その咆哮を聞いただけで気を失ったりパニック状態に陥る事もある。
普通の獣と魔獣の違い、それは【瘴気】と呼ばれる穢れた魔力に侵されているかどうかだ。魔獣化した獣の頭には「穢れた」と言う意味の「ディス」を加えた名称で称せれる。
魔獣はその瘴気を吐き出したり、牙や爪に纏わせることによって通常の倍以上の傷を負わせたり、傷口がまるで毒に侵されたように爛れたり膿んだりもする。
今、対峙している獣は魔獣化はして無いようだが、ドゥーファは凶暴な上、これだけの数を生身で相手をするのは正直厳しい。
「アベル!魔装を使うよ!私が操作するから」
「分かった」
夜な夜なプレイしている体験版でディスドゥーファ(穢れたドゥーファ)の攻撃パターンは把握している。瘴気を吐き出す以外の攻撃は普通のドゥーファもほぼ変わらないだろう。
加えて、アベルがオートモードで繰り出す攻撃よりも私が操作した方がより複雑で素早い攻撃ができる。
なんせこちらは遠目から状況を把握しつつコマンド入力だけで技が繰り出せる。これを自力で繰り出そうとアベルも努力はしているが、その難易度は歴然の差だ。
「じゃあ俺は攻撃魔法でアベルのサポートするわ」
「モーリスさんもここから遠距離攻撃を!」
「任せてくれ」
アベルが装備したのは風の初期魔装一式、私のお気に入りだ。獣の素早い動きにも劣る事無く、喰らいついてくるのを難無くと躱す。
【風の真槍】で前衛を薙ぎ払うと、ドゥーファ達が後方に吹き飛ばされた。ノックバク効果もあるようだ。
だが、まとめて相手をするとなるとたいしたダメージを与えられず、1頭ずつ仕留めていると切りがない。
群れの動きを注意深く観察していると、他のドゥーファより体格がよい個体がいる。周囲もその個体に合わせて動いているようだった。
「みんな!真ん中の最前列にいるやつが多分ボスだ!そいつを狙って!」
「了解!」
「おしっ!」
「やってみる!」
ラルフとモーリスさんにボスの周りのドゥーファを蹴散らしてもらいつつ、隙きが出来たところでボスに攻撃を集中させる。
トドメに風の真槍のスキルで高く飛び上がると、疾風をまとった槍で一突きにした。
群れのボスを失ったドゥーファ達は、混乱し始め、森の奥へと逃げていった。
「た…助かったあ……」
「まあ、ざっとこんなもんだな!」
「全然ざっとじゃなかったよ」
みんな気が抜けたのか、ため息をつくとその場にへたり込んだ。
周囲を見渡すと、ボスの他にも数匹の亡骸が転がっている。
「これも何かの素材になるかな??」
座ったままステータスを呼び出すと、ドゥーファの亡骸を画面に透かしタッチする。亡骸は次々とアイテムボックスに収納された。
おおお!凄い!イベントリに頭、骨、肉、爪、皮に分かれて収納された。チートバンザイ!
ボスの頭だけは収納せずに残してギルドに報告を兼ねてそのまま持って行くことにした。
「ねえねえラルフ、ドゥーファのお肉って食べれる?」
「ドゥーファは雑食だからな〜、食えるけど臭みが気になるんだよな〜」
見た目は上手に焼いたらトクトクより美味しそうなんだけどな。
しかし、度々市井に降りているというのに、トクトクもドゥーファも食べた事ない自分はまだまだ世間知らずだなと実感した。