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転生ゲーマー令嬢は婚約者を玩具にする  作者: 御月源士郎
序章 幼少期編
13/36

12 そうだ!魔獣の森へ行こう2

 3人揃っての休日に再びギルドにやってきた。私達のレベルで受けられる依頼の一覧を見たが、その殆どが素材採集だった。

 他は害虫駆除など、どれも血湧き肉躍るモノではない。


「最初はやっぱり魔獣退治なんて依頼は受けらんねえか」

「ガッカリだぁ」

「当たり前だよ」


 しょんぼりする私とラルフを他所に、アベルが依頼の申請を受付に提出する。

 ギルドの施設内はわりと賑わっていた。奥にはまた別の部屋と外からの入口があり、そこは昼は食堂、夜は飲み屋になるらしい。

 しばらくすると、ギルドの職員が一人の男性を連れてきた。


「こんにちは、君達は初めてなんだって?赤毛の君がリーダーかな?」

「俺はラルフ、よろしく頼みます」

「アベルです、よろしくお願いします」

「私はレインです」


 男性は人の良い笑顔で挨拶し、私達もそれぞれ自己紹介した。

 ラルフがリーダーなのは納得行かないが、ここは年長者に譲ってやろう。何れは我が下僕として跪かせてやるがな!


「僕はモーリス、治癒士として呼ばれた時に同行してるんだけど、討伐の依頼が無い時は素材の採集をしたり、作った薬を納品したりしてるんだ。採集する薬草のリストがあるから目を通しておいてね」


 モーリスさんは20代半ば位の素朴な感じのお兄さんだ。緑色の瞳は垂れ目ぎみで柔和さを増している。

 傭兵とは言っても基本的には裏方業を担っていて、薬士としてギルドで販売する薬の納品もしているそうだ。

 もちろん、回復担当として激戦区に赴く事もある為、それなりの戦闘力もあるらしい。メインの使用武器はボウガンだそうだ。


「今日行く場所は瘴気の影響が殆ど無い場所で、魔獣も滅多に出ないとは言え、何があるかわからないから単独行動は控えること」

「「「はい」」」


 私達が連れられて来たのは魔獣の森の入口から少し入った西側の一画だ。ここは薬草などが豊富に生えているそうだ。

 瘴気の被害は動物に限らず、植物も瘴気に侵されれば毒性を持ってしまう。この辺りは異界の狭間から離れていて、瘴気の影響も受けていない場所だった。


「アベル!これ見て!」


 私は周辺のマップを見るために表示させたタブレット状のモニターをアベルに見せる。

 半透明のモニター越しに周囲を透かして見ると、部分的に光って見える場所がある。


「これは何だろう?」

「ここをタッチするとね、薬草の説明が出てくるの」


 アベルも自分のステータスモニターを出して透かしてみるが、アベルの方には表示されていないようだ。

 すると、お久しぶりのお知らせ音が鳴った。


ーー新しいアプリの獲得条件をクリアしました。

ーーインストールを開始します。


ーーNow Loading


ーー新しいアプリが追加されました。

ーー【レインのアトリエ】

ーーできるかな?できるかな?さてさてふふん


 新しいアプリ来たぁーーーっ!

 そして相変わらず謎なテンションの解説だ。


ーーアイテムボックスが開放されました。

ーースキル【錬金術】【武具製造】を獲得しました。


 しかもこれ、私のスキルだ⁉ アイテムボックスまで付いてくるとは、もはやチートではないだろうか。

 素材の詳細画面に【収納】と表示されていて、そこをタッチするとイベントリにアイテムが収納された。

 それと共に調合アイテムの表示が1つ開放され、詳細を見ると下位のポーションだった。しかしまだ材料が足りない。

 どうやら素材を集めることで色々なものが作れるらしいが、調合一覧の殆どが「?」状態になっている。

 取り敢えず、その辺にあるものを手当り次第収納していく。どんなアイテムが作れるかは帰ってからゆっくり確認しよう。

 ギルドの依頼の方もちゃんとやらないと。


 暫くすると、ザクザクと土と草を踏む音と共に、かなりしっかりした装備に身を固めた傭兵が3人、こちらに近づいて来た。

 そのウチの一人がニヤニヤとしながらモーリスさんの直ぐ側で足を止めた。


「ようモーリス、ギルドを辞めて子供のお守りでも始めたのか?」

「やあギエム、今日は初心者に指導してるだけだよ」

「ふ〜ん、オマケ要因のお前には似合いの仕事だな」


 なんか妙につっかかって来るが、言われたモーリスさんは腹を立てるでもなく聞き流しているようだ。


「君達はどうしてここに?」

「俺達はこの辺りの麓の畑に害獣被害が出てるとかで、その調査と駆除の依頼を受けたんだ」

「な〜んだ、魔獣の討伐じゃないんだ〜」


 つい、口から嫌味が漏れてしまった。

 ギエムがムッとした表情で私を睨みつける。


「んだと?魔獣討伐は基本的に騎士団の仕事だろ」

「え〜?な〜んか偉そうにしてるから、よっぽど凄い依頼を受けてるのかと思った」

「それでも草むしりばっかりしてるモーリスよりは上等な依頼だよ」

「おいおい、絡むのはいい加減にしてさっさと行こうぜ」

「ん?ああ、そうだな」


 仲間のひとりが私達のやり取りに、付き合ってられないとばかりにギエムを急かした。

 ギエムは最後に馬鹿にした表情で鼻を鳴らすと、仲間と共に去っていった。


「なにアイツ、カンジ悪い」

「ああ言う風に人を見下す人は何処にでもいるよ、気にしない方がいい」


 目を伏せながらそう言うアベルは、あちこちで同じ様な嘲りを受けてきた。気にしない方がいいと言いながら、アベルが誰よりも気にしている事は知っている。


「しかし、態度のわりにあんま強く無さそうだったな」


 ラルフの彼等に対する評価も辛辣だ。

 でも確かにこちらは屈強な騎士達を見慣れているせいか、さっきの奴等はどうも貧相に見えてならない。

 なんなら、脱いだらラルフの方が凄いんじゃないかと思う。


「ごめんね、ギエムは僕みたいな裏方業の傭兵が、前衛の彼等と同じ報酬を貰うのが気に入らないみたいなんだ」


 モーリスさんは自分のせいとばかりに謝罪する。それこそ気にする事無いのに。

 どうやら、ああやって嫌味を言いに絡んで来るのも何時もの事らしい。なので、モーリスさんもそれを適当にあしらっているそうだ。


 私達は気を取り直して薬草の採集を始めた。今度はモニターは使わずに自分の目で見て探す。これもなかなか楽しい。

 するとカサカサと草を掻き分ける音がした。思わずそちらを見やると、茂みの中からキノコの妖精みたいな生物がトコトコと歩いていた。

 15センチ程の図太い椎茸に目と足を付けたような形をしている。


「何あれ?可愛い!」

「ああ、あれはトクトクだね」

「俺!トクトク食ったことある!でも動いてるの見たのは初めてだな」


 食えるのか⁉ って言うか食ったのか⁉ あの可愛いのを⁉

 ラルフが生き生きとした目でトクトクを見ている。君の脳内は食べ物の事で一杯だね。


「基本的には無害だけど、無闇に触ると鼻から臭い息を吐くから気をつけてね、臭いが体に染み付いて数日は取れないから」


 この世界には動植物という生き物がいる。動物と植物をまとめて指す言葉ではなく、動物のように動く植物だ。

 どうやら一見、つぶらな瞳に見えるモノは鼻の穴らしい。目はなく臭いだけで周囲の物を感知するそうだ。


「レインはアレ食べてみたい?捕まえる?」

「それなら市場で売ってるものを買ったほうが良いよ、養殖したトクトクなら臭みが少ないし」


 しかも市場で売ってるとな⁉ 餌に虫では無く豆類のたんぱく質を与えると臭い臭いがほぼ無くなるそうだ。

 私は食べたこと無いけど、みんな普通に食べてるの?貴族の食卓には上がらないモノなのだろうか?


 すると、トクトクが動きを止めた。

 いい香りがしそうな花の前で座り込む姿は、小動物が花を愛でているようで心が癒やされる。

 ふと横を見ると、アベルも私と同じ表情でトクトクを見ていた。ラルフにはきっと食べ物にしか見えていない。

 そこに小さな虫がフワフワと飛んできて花の上に止まった…瞬間!鼻の下辺りが縦に割れて花の頭ごと虫を飲み込んだ。


「ひいぃっ!」


 流石の私もそのグロテスクな口の出現に恐れ慄き、すぐ横に居たアベルと抱き合って震えた。

 なんか小さな歯みたいなモノが沢山ついていて、可愛い見た目が台無しだ。騙された気分だ。

 トクトクは飲み込んだ虫を時間をかけてゆっくり溶かして食べるそうだ。要は食虫動植物と言うわけね。

 私はもう、別の意味でトクトクは食べられそうもない。トラウマモノだ。


「あっ、ご…ごめん……」


 うっかり抱きついてしまったのが恥ずかしかったのか、トクトクに恐れ慄いた姿を見られたのが恥ずかしかったのか、アベルはアワアワしながら慌てて私から離れる。

 うん、アワアワするアベルの可愛さで再び心が癒やされた。可愛いは正義だ。幼いうちだけに許される可愛さを堪能しよう、うん。


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