11 そうだ!魔獣の森へ行こう1
「なあ、俺達だけでこっそり魔獣の森に行ってみるか?」
「え?それって、子供だけで行くのはまずいんじゃないか?」
アベルが怪訝な顔をしてラルフの顔を見ると、まるでいいイタズラを思いついたとばかりにニヤリと笑った。
「合法的に行く方法があるだろう?」
「もしかして…傭兵ギルドに登録する気?」
「当ったり〜」
スワンドレイク領の北には広大な森林と山岳が広がっている。そこは魔獣の森や魔の森と呼ばれ、幾つもの魔界との狭間が点在していた。
更に森の先は未開の地となっていて、魔界に通じているとも言い伝えられている。
スワンドレイク騎士団が定期的に討伐に当たり、魔石採掘現場などの護衛も担っているが、森から抜け出した魔獣の駆除など、騎士団に申請すると対応が遅れてしまう事がある。
また、魔獣の森の全てが瘴気で覆われている訳ではなく、全ての獣が魔獣化してる訳でもない。一部の異界の裂目は、壁で囲う等して獣が瘴気に近づかないようにもしてある。
そして魔獣の森には貴重な薬草なども豊富なため、魔獣に遭遇する危険を犯して素材を回収する者達もいた。
そこで活躍するのが傭兵ギルド。
アレだね!ファンタジーによくあるアレだね!
「ふおおおっ!それって憧れの冒険者⁉」
「じゃなくて、傭 兵」
「傭兵と冒険家は全然違う仕事でしょ?」
あああっ!そうか!この地には血湧き肉躍るダンジョンとかダンジョンとかダンジョンとかはないのか!…と、心の中で叫びながら頭を抱えた。
ここでの傭兵の仕事と言えば、魔獣の駆除や護衛や素材集め、小競合いや戦等の争い事への参加、ひいてはご近所のお悩み相談まで、どれも「冒険」と呼ぶには相応しくないお仕事ばかりです。
前世界のゲームや漫画の冒険者とやってる事は似てる気もするけど、冒険要素が全く無い。
よって「冒険者」なんて職業はなく、「冒険家」や「探検家」というと測量やら地質調査やら未開の地の探索やらを担う者しか居ない。そしてこちらはどちらかというと学者の領域だ。
そこに傭兵が参加するとなると護衛としてであろう。
「でもそれ、義父上達に反対されるんじゃないかな?」
「そこはまあ、お忍びで……」
「スリル満点だね!」
「レインは黙ってて」
テンションアゲアゲの私と比べてアベルは冷静だ。ここはもうちょっと乗り気で行こうよ、男の子なんだからさ!無茶をしたいお年頃だろう?
「バレたらどうするの?」
「その時はその時、覚悟を決めて叱られようぜ、アベルだって経験値とかいうポイント集めるのに行き詰まってるだろう?」
「まあそうだけど……」
本来の順序をすっ飛ばして魔獣の森に行くのだ、不安になるのも無理はないと思うけど……
「俺とラルフだけで行くっていうのは?」
はぁっ?そこでまさかの仲間はずれ⁉
「やだやだやだやだ!私もぜぇったい行く!」
「レインに何かあったらどうするの」
「私の方がアベルより強いもん!」
「………」
あ、不味いこと言った…
黙って俯むくアベルの目は座っている。
でも後悔してももう遅い、ならば開き直ってやる。
「そ、それに、アベルには私の異能が必要でしょ」
「……そういう事じゃ無くて、立場の問題」
「立場って?私もアベルも同じじゃない」
「同じじゃ無いよ」
「何が違うの?」
「俺とレインじゃ命の重みが違うって事」
「何それ!そんなの違わないよ!」
睨み合う私達の肩を、ラルフが宥めるように同時に叩く。
「なあ、取り敢えず傭兵ギルドの登録試験だけでも受けてみないか、もしかしたら落とされるかもしれないし」
「やるやる!絶対私もやる!」
アベルはまだ気難しい顔で考え込んでいた。
「……分かった、その代わり、依頼を受ける時には最低1人は大人を付けてもらおう。簡単な依頼でも経験のない俺達3人だけでやるのは危険だ」
「おし!それでいこう」
「ふおおおおっ!滾るわ〜!」
ー・ー・ー・ー・ー・ー
「君達がギルドへの登録希望者かい?」
「「「はい」」」
傭兵ギルドの登録には年齢制限はない、また、身元確認も必要ない。何故なら傭兵ギルドに所属する人間は訳ありな者が多いからだ。
私達はさしずめ、家計を助けるために小銭稼ぎをしたい平民の子供達だと思われているだろう。
しかし、過去や素性は詮索しないが登録後の管理はされる。能力に応じて受けられる依頼も報酬も変わってくる。
また、信頼度が高い者だけに紹介できる依頼主も居たりする。よって、ギルドの登録カードが身分証にもなるのだ。
「君達、魔法は使えるのかな?」
「「「使えます」」」
魔法が使える、それは魔力があるのとはまた別で、使い方を弁えているかと言う話だ。
「じゃあ、魔法の使用もありでテストを行うよ、ええと…まずは…」
「俺からやります」
「君は火属性だね」
最初の試験に手を上げたのはラルフだ。安定の剣術と魔法を駆使して難なく合格点を貰えた。
試験官が採点を終えると、今度はアベルの顔を見る。
「じゃあ、次は君かな……君の瞳の色は無属性じゃないか?」
「火と風属性の魔法は使えます」
「え?その瞳で?」
試験官が不審に思うのも当然だ。灰色の私達が魔法を使えないと言うのはもはや常識だ。
本当は4属性使えるが、それは身バレしそうなので伏せている。
アベルもまだ低レベルの魔法しか使えないとはいえ、扱いにそこそこ慣れてきたようだ。剣術も卒なく熟して、もちろん合格だった。
「最後は君か、君の瞳も灰色だけど…」
「身体強化と洗浄魔法が使えます」
「身体強化は魔導壁の事かな?あれは魔法とはちょっと違うよ」
知ってますがな。
「洗浄魔法って言うのは?」
「はい ー ポスンッ! ー ね?キレイになったでしょ?」
染み付いていた服の汚れが新品同様に綺麗になった。傷んでる部分は直せないけど、洗濯しても落とせない汚れまで綺麗に無くなってびっくりしているようだ。
「これは初めて見る魔法だな、水と風属性を組合せた魔法かな?……しかしこれなら君、どこぞのお屋敷で使用人として雇って貰った方が安定して稼げるんじゃないか?もしくは魔道士の助手とか……」
「そう言わずに一度戦って見てください!私は二人と一緒にお仕事したいんです!テストは魔法もありで!お願い!」
「危なかったら直ぐに試験中止にするよ?」
「もちろんです!」
そして何時もの要領で魔法を弾き返し、相手の試験用の剣(金属)をへし折ると、試験官もボーゼンとしていた。
そんな訳で3人とも文句無しで及第点を貰うとこが出来た。
「いやあ、驚いたよ。下手な大人より強いな…君達、魔法は何処で?」
「マリウス先生に教えて貰いました」
「ああ…なるほど、あの人のお弟子さんか」
マリウス先生は貴賎問わず魔法の講師をしていているので、本当の事を言っても大丈夫だろう。
ギルドでも新人の魔法指導をしているそうなので、変な言い訳するより余程信憑性がある。
ただ、身バレする可能席も出てきたので、先生には口止めが必要かも知れない。
発行されたギルドカードには「ランク10」と記載されている。駆け出しは元々低ランクから始まるが、年齢と経験を考慮して更に低めのランクになっているそうだが致し方ない。
ギルドカードには偽名で登録した。とは言っても普段呼び合ってる愛称だ。平民には家名はなく名前も短いのが一般的だ。
次の休日から依頼を受ける事に決め、軽く街を散策してから屋敷に帰った。




