1 プロローグ
「ここは地獄か!?」
目が覚めると同時に私は叫んでいた。
何故なら、前世の記憶と言うものを思い出してしまったからだ。
前世の記憶と言っても知識だけでその人物像までは定かではない、が、偏った知識から推測するに、私は相当なゲームオタク…否、ゲーム中毒だったようだ。
「あーーーーっ!ゲームしたい!ゲームしたい!ゲームしたい!ゲ〜ぇ〜厶〜し〜た~い〜」
こんな、デジタルの欠片もないこの世界で、知らなければ心安らかに生きていけたかも知れないのに、何故思い出した?これからどうやってこの欲求に耐えて生きればいいの?教えて神様!
ー・ー・ー・ー・ー・ー
私の名前はレイニーナ・スワンドレイク、スワンドレイク家の令嬢である。
令嬢とは言っても辺境の地を守るスワンドレイク領の一人娘で、領地の騎士団に混じって剣術や体術を学んでおり、世間一般のご令嬢とはおそらくかけ離れているだろう。
私の容姿は銀色の髪に灰色の瞳で、全体的にぼやっとした色味が特徴である。
銀色の髪と言えば聞こえが良いが、ぱっと見は白髪のように見えてしまうし、前世の世界と違ってカラフルな髪や瞳を持つ者が殆どのこの世界では地味としか言いようがない。
いやしかし!前世の記憶を思い出した今となっては銀髪はなかなかの厨二病カラーだ!これからは髪の手入れもちゃんとしよう、うん。
スワンドレイク領はカルメリア王国の北側に位置しており、冬は厳しい寒さに耐え、北の魔の森に巣食う魔獣に怯えながら人々は暮らしている。そのため、我が騎士団は屈強な戦士たちの集団だった。
父であるレオディール・スワンドレイクは4人居る将軍の一人で、有事の際には自領の騎士団だけでなく他の騎士団を束ねる権限も持っている。
カルメリア王国では12歳を迎えると神殿で神からの賜物「ギフト」によって「才能」もしくは「異能」と呼ばれる能力を手にする儀式を受ける事ができる。
その殆どは「才能」と呼ばれる元々の特技や能力底上げする力を得るのだが、時には隠れた才能を発見することもある。
そして「異能」は「才能」よりも特殊な能力となっていて、その力を授かる者はごく僅かだった。
とは言え、儀式を受けるためには神殿にそれなりのお布施を収めなければならず、平民に至ってはギフトを授かれないまま一生を遂げることも少なくない。
その分、貴族と平民での格差を増長する問題ともなっている。
それはさておき、私も今年12歳を迎える事から、神殿に赴きギフトを授かることになった。
その儀式とは、聖なる石板に触れる事によってギフトが発現し、そこに能力に関する事柄が文字となって現れると言うものだ。
期待と緊張に胸を膨らませながら石板に触れると、唐突に膨大な知識が頭の中に流れ込んできた。
この世界とは違う文明と文化が発展した世界。そこには魔法が存在しない代わりに科学が発展し、世界中の人々を虜にする娯楽「テレビゲー厶」なるものが存在した。
私は主にそれに関する知識が豊富で、いわゆる「ゲーマー」と言うやつだろう。そしてそれのプレイ動画を配信したり、Eスポーツと呼ばれる大会にも参加していたらしい。
それだけに留まらず、キャラグッズや同人誌、アンソロジーを買い漁り、コスプレにまで手を染めるという徹底ぶりだった。
どういう理由か、これは自分の前世の知識だと理解すると、頭の中に一気に流れ込んできた情報量に耐えきれず、私は目眩を起こしてそのまま失神したのだった。
ーーそして冒頭に戻る。
「え?あれ?夢?」
今あたし、意味不明な事を叫びましたか?
大丈夫よね?脳内の叫びよね?
「レイン?目が覚めたの!?」
そう私に愛称で呼びかけたのは幼馴染で婚約者のアベル……アルベルト・コッペリオンだった。
「何か良く分からない言葉を叫んでたけど大丈夫?怖い夢でも見た?」
やっぱり叫んでましたか、そうですか。
羞恥と困惑で視線を反らすと、アルベルトは不安そうな眼差しで私の顔を覗き込み、額に手を宛てて様子を伺った。
いや、待って、顔近い……
「アベル、私は大丈夫だから」
だからちょっと離れて……と言わんばかりに軽く肩を押した。
黒色に灰色の瞳を携えたアルベルトは地味に顔が整っている。整っているのに地味とは如何に?と疑問に思うかも知れないが、イマイチ華がない。
とは言え整っているのだ、あまり間近で見ると地味に心臓に悪い、地味に。
アベルの傍らには、同じく幼馴染の騎士団長の息子であるラルフ……ランドルフ・ボレノが安堵のため息を漏らしていた。
「頭ぶつけてトチ狂ったか?儀式の最中にぶっ倒れるとか何処の深窓のご令嬢だよ〜って、お前も一応ご令嬢だったっけ?」
ニヤニヤしながら私を揶揄うコイツは一応ウチの臣下なはずなんだけど?それを忘れているんじゃなかろうか?
まあ、幼馴染みなだけあって私達3人は気安い関係で、ちょっとうっとおしい兄みたいなものだ。
ラルフは私達より1つ年上で、口は悪いが面倒見はよく、アベルとは親友と言える仲だった。
そしてこちらもまあまあそれなりのイケメンだ。赤い髪色に赤い瞳という視覚的に五月蝿い容姿だが性格も五月蝿い。
前世の世界では赤い瞳と言うとアルビノを思い出すが、こちらではもっと多彩な瞳の色がある。それと言うのも瞳の色は魔力と関係して来るからだ。
ラルフの赤い色は火属性、私やアベルの灰色の瞳は無属性だ。灰色は魔力があってもろくな魔法が使えない、言わばハズレ色だ。
貴族と平民、魔力の多い少ないに関わらず、普通は何かしらの属性を持っていて、灰色の瞳はかなり珍しい。
しばらくすると執事のピョートルが冷水を持って部屋に訪れた。
ピョートルはウチの筆頭執事を任されている。年齢は父上よりも一回り程年上らしい。
コップに注いだ水を手渡されると、私は一気に飲み干した。
「お嬢様、旦那様がお呼びですが、ご気分が宜しければ執務室までいらして欲しいとの事です。アルベルト様も一緒にお越しください」
何の用だろうと疑問符を浮かべる私の顔を見てアベルが答える。
「義父上が僕達の授かった異能について話しをしたいって言ってた」
は?「異能」?「才能」でなく?
ー・ー・ー・ー・ー・ー
執務室で私達を迎えたのは、私の父であるレオディール・スワンドレイクだ。銀髪に土色の瞳、お髭ももっさり生えている。その顔は兎に角怖い、笑っても怖い、悪巧みしているようにしか見えない。
カルメリア王国最強と呼ばれる将軍でもあり、見た目通りの厳つい屈強の戦士だが、母上だけには頭が上がらない、中身はちょっぴり可愛いおじさんだ。
見た目は恐いが情に厚く、良くも悪くも貴族らしくなく部下や領民からも慕われている。
「レイン、身体の方は大丈夫か?治癒術の使える神官には特に悪いところは無いと言われたが……」
「はい!全く何とも無いです!」
私は天に向けて拳を振り上げ元気に応えると、父上は仏頂面でそうかと呟きながら2枚の用紙を引き出しの中から取り出した。
それは神殿で書き記されたギフトについての証明書だ。
一枚は私のもの。
レイニーナ・スワンドレイク
異能:プレイヤー
アバターと対になりし者
ふむふむ……で、もう一枚は?
アルベルト・コッペリオン
異能:アバター
プレイヤーと対になりし者
なんだなんだ?対になりし者?プレイヤーって何をプレイするヤーなの?他に説明は?
「プレイヤー」と「アバター」は読み方の音だけで、カルメリア語では意味をなさない言葉、要するに前世語がカルメリアの文字で表記されている。
前世の知識を持つ私以外にはこれが何を意味するのか理解できないだろう。
アバターって、カスタマイズできるキャラクターの事みた……い?
ここである事に気が付き、思わず手をぽんっと叩いた。
「あぁあああっ!成程そういう事かーーー!」
急な大声に皆が目を丸くして私を見る。
私が思い出した前世の記憶、それこそが異能の力の一部だったと言うわけか!
って言うことは何?私ゲームで遊べちゃう!ヒャッホーイ!
いやいや、まずそれはおいといて、スキルとか能力値とか知りたいんでけど……
「うーん『ステータス』画面とかは見れないのかな……」
そうつぶやくと、目の前にまるで前世で言う近未来の通信画面のような物が現れた。どうやら『ステータス』という言葉に反応して出てきたらしい。
それは半透明で10インチ位のタブレット程のサイズで手に取れる形だ。その重みは殆ど無い。
「これ何?」と尋ねるアベルに対し、父上やラルフには何も見えないようで、怪訝な表情でこちらを見ている。
「これはステータス画面て言って、私達の異能に関する情報とかが見れるのよ」
ステータス画面のトップには私とアベルの名前、タッチパネル式で色々な情報を見れるようになっているらしい。
アベルの名前をタッチして中の情報を見ると、ゲームではお馴染みの情報が記されていた。
「僕には何だかさっぱり解らないけど、レインは解るの?」
「まあね!」
得意げに返事をしながら情報を確認すると、そこにはなんと嬉しいお知らせが⁉
若い頃(同人やってた頃)はノリと勢いだけで文章がスラスラ書けたんですが、現在はわりと苦戦してます。
取り敢えず完結目指して頑張ってみる所存です。