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苦手な方はご注意ください。

器用貧乏は救済に駆ける ~実力があり、実績を示したのに「大成しないから」と追放された少年は、悪意の渦中で奮闘する~

作者: レルクス

 巨大な森が二つ並び、その二つの森の間には、流通に重要な道がある。


 普段なら、限界まで荷物を積んだ馬車が走り、人々の欲望を満たしているだろう。


 しかし今、この道は巨大な狼の縄張りとなっている。


 銀色の毛並みを持つ全長十メートルほどの体躯に加えて、その毛並みは氷柱(つらら)のような氷の槍となっている。


 牙も鋭く、足も強靭。


 とてもじゃないが……いや、商人が対応するなど『とても無理』といえるモンスターだ。


 このモンスターが『強い』分類であることは間違いない。


 ……とはいえ、その狼の現状は、戦術で使う用語で表せば、『削られている』と言えるだろう。


 体の至る所から血を流し、荒く息をしている。

 万全とはとても言えないもの。


「アルモ! そろそろ確殺圏内だ。時間稼ぎを頼む!」

「おう、任せろ! シャイアも最後しくじるなよ!」

「フンッ! 俺がこの程度でヘマするか!」


 装飾の少ない片手剣を構える茶髪の少年と、豪華な両手剣を構える金髪の少年が、狼に挑んでいる。


 アルモは茶髪と黒のコートをなびかせつつ、銀色の全身鎧を身にまとうシャイアの前に出る。


 アルモが前に出てきたことを確認すると、シャイアは両手剣の切っ先を地面に突き刺す。


 すると、両手剣に砂色のオーラが発生。

 それに呼応するように、地面からも同色のオーラがあふれて、剣に集約されていく。


「!」


 狼はその両手剣の様子を見て、『マズい物』を感じた様子。


「BAOOOOOOOOOOOOOO!」


 雄たけびと共に水色の魔法陣がいくつも出現。


 そこから、直径五センチ程度の氷の塊がいくつも発射される。


 まさしく『弾幕』と呼べる攻撃に対し――


「いい連射だが、それは無駄だ!」


 アルモは片手剣を上段で構える。

 その瞬間、刀身が燃え上がった。


「火属性剣術スキルレベル6……『炎牙大蛇(えんがおろち)』!」


 アルモが剣を振り下ろすと、その切っ先から炎の蛇が出現。


 氷塊の射線を遮るようにうねりながら突き進む。


 まぎれもなく高温で、氷塊は炎の蛇の通り道に差し掛かると、そのまま蒸発して消えていく。

 そして蛇は高温ながら、速度も異常。


 弾幕を張ることに集中していた狼の右足にかぶりつき、ジュウウッと焼けるような音が響く。


「GAAAAAA!」


 狼は全身に力を入れ、右足から冷気を解放。


 その威力に負けたのか、蛇の形は一瞬で崩れ、消えていく。


「あーあ。残念」

「そうだな。時間切れだ」


 アルモが鼻で笑うと、シャイアは頷く。


 そして、地面に突き刺していた両手剣を抜いた。


 次の瞬間、剣から砂色の波動が放出される。


「!」


 狼はその威容に圧倒される。


 すぐに距離を取ろうとして……蛇が嚙みついた右足がズキッと強烈な痛みを発して、体勢が崩れる。


「シッ!」


 その間に、シャイアは狼のすぐそばに接近していた。


「終わりだ。聖剣スキルレベル8『サンサーラ・ストライク』!」


 真上から下に一閃。


 砂色の波動が、狼を切り裂く。


「ッ!…………――」


 何かを言おうとした狼。


 その体には(・・・)、傷一つついていない。


 叫ぶくらいはできるはずだが、それは叶わない。


「残念だが、既に『命』は斬った」


 シャイアは両手剣を鞘に納める。


 キンッと音が響くと、狼はその巨体を地面に倒す。


 戦闘は終わり。

 それを認識したからか、アルモは肩に入れていた力を抜いた。


「ふう、思ったより耐えたな。フロストウルフ」

「ああ。情報と違う気がするんだが……まあ念には念を入れてたからな」

「だな。さっさと必要な素材を回収して帰ろうぜ。ユズハが待ってる」

「そうだな」


 慣れた手つき……手つきと言うよりは『魔法つき』というのだろうか。

 必要な素材の剥ぎ取りを済ませて、二人は町に戻って歩き始めた。


 ★


 時刻は、日が落ち切る前。

 夕焼けに照らされる住宅街。

 それも、高級と頭につけてもおかしくないレベルのエリア。


 その中にある五階建ての集合住宅の五階に、アルモとシャイアは帰ってきた。


「ただいま」

「帰ったぞ」


 アルモとシャイアは鍵を開けると、中に入る。


 リビングで手を洗うと、そのまま寝室に入っていく。


 中は清潔な空気が漂うもので、特に、ベッドには金がかかっているのか、とても柔らかそうな素材の布団が使われている。


 そこには、一人の少女が寝ていた。


 シャイアとどこか似た雰囲気で、長い金髪の少女。

 儚い印象を与える整った顔立ち。

 肌は白く……服に覆われていない首筋と左の頬には、黒い痣のようなものがある。


「アルモさん。お兄ちゃん」

「ユズハ。大丈夫だったか」

「特に、いつもと変わりはありません……」


 か細い声。


「そうか」

「いつもと変わりがないなら、怠さはあるだろう。無理はしていないな?」

「フフッ、お兄ちゃんは心配性ですね。家事は全てアルモさんがしてくれるのに、無理することなんてありませんよ」


 薄く微笑むユズハ。


「今日はポーションが支給された。低ランクだが、飲んでおけ」


 シャイアはポーチから一本のポーションを取り出すと、ユズハに渡す。


「ふう……んっ」


 流石に寝転がったままでは飲みにくいので、アルモが体を支えつつ上半身を起こす。

 受け取ったポーションの瓶のふたを開けて、ゆっくりと飲み始めた。


「んっ……はぁ」


 中を飲み干したユズハは、息を吐いて、アルモに体を預けた。


「どうだ?」

「少し、楽になりました」


 少しだが、顔色が良くなったユズハ。


 それをみたアルモとシャイアはホッとする。

 だが、アルモはすぐに表情が変わった。


「痣が、小さくならない」

「何? いつもなら、低ランクポーションでも、痣が少し小さくなるはず」

「……」


 ユズハは、右手で左頬に触れた。


「……アルモさん。お兄ちゃん」

「大丈夫、大丈夫だ。ユズハの呪いを解く手段は、必ず見つけ出す」

「絶対だ。だから安心しろ。ユズハ」

「は、はい」


 力強い……いや、どこか、威圧すらも混ざるような、そんな雰囲気になる。


 『最悪の状況』など、いつ来てもおかしくはない。


 そんな焦りからくるものだと……三人とも、理解している。


「今日はもう寝ろ。家事は全てアルモがやる」

「ああ……皿洗いくらいやれよ? シャイア」

「それくらいは出来るからやってやる」


 焦りは良い思考を産まない。


 どこか、下手糞な話題の変更を感じさせるソレ。


「フフッ、そうですね。今日はもう寝ることにします。夕飯ができたら、起こしてください」


 男が不器用な時、女は気丈なもの。

 ユズハは無理矢理に笑顔を作って、ベッドで横になった。


 いつのまにか、ギュッとアルモの手を握っていたが、それも放して、ベッドの中にひっこめる。


「……じゃあ、晩飯作ってくる」

「……俺も手伝おう」


 その場にいられなくなったのか、考える時間が欲しかったのか、アルモとシャイアは、寝室を後にした。




 ★


 『ハイライト・フェニクス』


 王国有数のAランクギルドとして、王都に拠点を置く大型の冒険者チームの名だ。


 冒険者協会本部の役員の姿を時々見かけるようになったことで、冒険者ギルドとして最高位である『Sランクギルド』に近いという噂もある。


 大型のチームを支える根幹を担っているのは、『ポーション』だ。


 傷を回復するのがポーションの基本的な役目だが、このギルドは、傷、毒、そして『呪い』にまで効果範囲があるポーションを多数抱えている。


 ポーションのランクこそ低ランクだが、その汎用性は高く、冒険者ギルドとして活動するうえで重要な『回復』の面で他のギルドとは一線を画す。


 ギルドマスターの『秘密のルート』から仕入れているという噂だが、そのポーションを自分たちだけではなく、ギルドの外にも販売しているため、かなりの利益を得ている。


 少なくとも、外観は『有望』といえるギルドだ。


 そんなギルドの一室に、アルモは呼ばれていた。


「アルモ君。君はクビだ」

「……はっ?」


 丸々と太った中年男性からのクビ宣告に、アルモは呆然とする。


「……俺がクビ?」

「そうだ」

「何故か、理由をお聞きしても?」

「決まっているだろう。『器用貧乏』などと言うギフトを持つ君がいると、ギルドの印象が悪くなるからだ」

「なっ……ふざけんな! 俺がこのギルドにどれだけ貢献してると――」

「知っている」

「……えっ?」

「君がこのギルドでどれほどの貢献をしているのかは知っている。だがねぇ……」


 中年男性はニヤニヤとした笑みを浮かべた。


「君は『器用貧乏』という言葉の意味を理解しているかな? 何でも中途半端に出来はするが、大成はしないという意味だよ」

「それが――」

「『大成しない』」


 言葉の意味の一部を抜き取り、口にする男性。 


「これが非常に、印象が良くない。『万能』ならわかるが、『器用貧乏』はダメだ。我がギルドのトップであるシャイア君と行動を共にする君が、そのような悪いイメージを持つギフトを持っているのはねぇ」

「馬鹿にするな! 結果は出してるんだぞ!」

「結果を出しているかどうかなど関係ない」

「なぬっ……」

「シャイア君がこのギルドに入ってから、このギルドは高ランクのクエストをこなせるようになった。Sランクギルドへの昇格が近い今、他の高ランク冒険者からの第一印象は大切なのだよ」


 笑みを深くする。


「我がギルドのトップであるシャイア君が組んでいる相方が、『器用貧乏』などという『大成しない』ギフトを持っているなど、縁起が悪い。印象が悪い。そのせいで、高ランク冒険者が他のギルドを選ぶのは大きな損だ」


 そういってため息をつく。


「わかったかね? ギルドマスターである私が決めたことなのだ。君はクビ。このギルドの設備を使うことも許さん」

「……」

「このまま粘っても君にいいことはない。まあ君が粘った場合……シャイア君に支給している『高ランクポーション』の数が少なくなるかもしれないなぁ」

「……チッ」


 アルモはギルドマスターに背を向けた。


「グフフッ。ああ、そうそう、君の功績だが、ギルドの外に一切出していない。シャイア君の腰巾着として活動していた噂しかないだろうが、まあ精々頑張り給え」

「……」

「それ以上粘ると、シャイア君が使っているギルドの寮の格が落ちるよ? 当然、セキュリティが甘くなる。それでいいのかね?」

「……お世話に、なりました」


 負け惜しみにしかならない。

 だが、それだけを言い残して、アルモはギルドマスターの部屋を後にした。


 ★


 ギルドマスターの執務室を出て、ロビーを歩く。


 アルモに突き刺さる視線は、いずれも嘲笑を含んだモノ。


(……ギルドマスターが言ってた通りか。ユズハしか気にしてなくて、ギルドホームすらほとんど寄ってなかったからな)


 アルモのギフト、『器用貧乏』は、先ほど、ギルドマスターに言われた通りだ。


 ギフトと言うのは、稀に発現する特殊なスキルのこと。


 ……具体的には、長い間そのスキル名と効果が知られていながら、『取得条件が分からないスキル』の総称だ。

 宗教関係者の間では、神から送られたモノであるという教えがあり、それによってギフトと呼び始めて、あまり違和感のない言い方なので、宗教に関係のない物もギフトと呼んでいる。


 もちろん、宗教に関する言葉が、宗教に興味がない者の間でも普及することはよくあることで、ギフトもその一つというだけの話。


 アルモは幼いころ、ギフトが発現した。

 その名の通り、発現してすぐに、その効果を実感した。

 そして、『限界』が近くなるのも、すぐだった。


 『器用貧乏』というギフトを持つ者はアルモが初めてではない。稀に持つ者が現れては、文字通り『大成しない』ことも多々あるという記録もある。


 もちろん、ギルドマスターが口にした『万能』というギフトであったとしても、タイミングに恵まれなければ大成などしない。


 しかし、『大成しない』という意味そのものが含まれる『器用貧乏』はその影響が大きいのか、限界が来るのも早く、その『可能性の低さ』も、一般に知られることとなる。


(それに比べて、シャイアのギフトは『剣聖』……そりゃ、俺は引き立て役にしか見えないよな)


 昨日、氷の大狼を倒したときにシャイアが使っていた両手剣は、『地の聖剣』と呼ばれるもの。


 ギルドマスターがどこかからのコネで入手し、『剣聖』のギフトを持つシャイアがギルドから借りる形で使っている。


 それによって放たれる戦闘力は圧巻で、数多くの高ランククエストを優位に達成している。


「アルモ!」

「!」


 ギルドホームを出てすぐに、近くに来ていたシャイアがアルモを呼ぶ。


「シャイア……」

「アルモ。ギルマスから追放を宣告されたのは本当か」

「……俺もさっき言われたばかりだぞ。どこで聞いたんだ?」

「人事部の連中が元気に話してたよ」

「そうか」

「お前には実績があるだろう。なぜ踏み止まれなかった」

「……ギルマスいわく、俺のギフトの『印象が悪い』からだそうだ」

「……はっ?」


 すでに結果を出している者を追い出す理由が、印象が悪いというもの。


 冗談。戯言。そんな言葉が頭をめぐった様子のシャイア。


 だが、事実である。


「……稚拙な。第一印象さえよければ、良い結果がいくらでもついてくるとでも?」

「多分思ってんだろうな。俺もよく分からん。ただ……」

「ポーションと寮だな」

「ああ。そこで責められると、言い返しようがない」

「……以前、安宿でユズハが襲われかけたこと。呪いに影響するポーションの安定供給がこのギルドしかないことを考えれば、お前がそう考えるのは必然か」


 負けが確定していたということは理解したシャイア。


「だが、どうする。俺は高ランクの冒険者ライセンスを持ってるが、お前は……」

「ああ。Eランク。下から三番目だ。これで、高度な情報にアクセスするのは難しい」


 ランクが低いうちは、余計なことは考えずにシンプルな技術を身に着ける。

 低ランクで必要なことなど大したことではないため、あえて高度な情報へのアクセスが制限されている。


 それによって、身の丈に合わない理想を抱くことを可能な限り排除しているのだ。

 ハイライト・フェニクスにおけるアルモの実績が外に出ていないとなれば、当然、ソロや小規模パーティーが利用する『支部』での評価も下の下。


 実力を見せて飛び級というのは可能でも、高ランクの『呪い』の解除に必要なレベルに達するのには時間がかかるだろう。


「それもそうだが……ギルドを追放ということは、あの寮に入れないだろ。家事は……」

「……とりあえず、これで何とかしろ」


 アルモは鞄から小冊子を取り出してシャイアに渡す。


「これは……」

「初心者用の家事の本だ。お前にもわかるように注釈を入れてるから、なんとかしろ」

「……わかった」


 本を自分の鞄に突っ込むシャイア。


「……それで、もう一度聞くが、どうする?」

「ギルマスの言い分に従わなくていいから、時間があるのは事実だ。安宿に泊まれば、しばらくはクエストをこなさなくてもいいくらい貯金はある。しばらくは情報収集だ」

「わかった。俺も、ギルドが保管する書物で調べる」

「……」

「期待していない目で見るな」

「すまん」

「はぁ……ただ、急いでくれ。ユズハには、もう時間がない」

「わかってる」

「……じゃあ、俺は行く」


 シャイアはそういうと、ホームに入っていった。


「……さて、どこから手を付けたものか」


 調べ物なら、いままでにもやってきた。


 だが、いまだに手掛かりはない。

 延命措置をただ続けているだけで、解決には至らない。


 そして、余裕もない。


 焦りは何も生まない。集中とは真逆だ。


 しかし……焦りが大きくなっていることを、認めるしかない。


「図書館に行くか。まずはそこからだ」


 踵を返すと、アルモは図書館に向かって歩き出す。


 ★


 王立ウェザリアス図書館


 ムストリア王国を建国した初代の王に使える『賢者』の名を冠する図書館である。


 王国と周辺国の歴史や地理、国内の研究者たちが出した論文など、知的財産が並ぶ場所。


 王族が管理する場所のため、『都合の悪い書物』は年々、姿を消すとのことだが、王国で最大の蔵書数を誇り、『大きな調べ物』をする場合に訪れるのはここだ。


 四階建てで、最上階は王族や貴族、特別な許可を得た大商人や高ランク冒険者しか入れない区画がある。

 もっとも、基本的にそういうエリアは、金箔などをはじめとする『高価な装飾』が施された蔵書が置かれている程度で、煌びやかではあるが実用的な価値はない。


 そんな図書館の二階。

 主に論文や図鑑などが並ぶエリアで、アルモは本をいくつも引っ張り出し、紙を何枚も用意してはガリガリと書きなぐっては、眉間にしわを寄せていた。


「……あー。全然手がかりが掴めない」


 羽ペンを置いて、背もたれに身を預ける。


 ユズハにかけられた『呪い』


 それを解除するためにこんなところに潜っているわけだ。


 三年前、地元の小さな村で暮らしていたが、とあるAランクモンスターの『巨人』が村に突如襲い掛かってきた。


 当時、すでにアルモは『器用貧乏』を活用して様々な技術を取得しており、シャイアは『剣聖』のギフトを自覚してはいなかったが剣術の才能があることは理解していて、十年以上前に引退した鍛冶師の爺さんから新しく打ってもらった剣を使って訓練しており……。


 ユズハもまた、ギフトこそないが、戦闘に向いた強力なスキルを身に着けていた。


 突如『村の近辺』に出現した巨人に対し、今から領主に報告しても遅いと判断され、アルモとシャイアとユズハに、『巨人の撃退』が任せられることに。


 当時、アルモとシャイアは十四歳。ユズハが十二歳であることを考えれば、村人全員にとって苦渋の決断だった。


 アルモのギフトは大成しないという意味があるが、大体何でもこなせるため、村では多くの役割をこなしていた。


 村の近くには大きな森があり、モンスターも低ランクだが出現数が多く、シャイアの存在は村人たちにとって大きかった。


 二人についていき、そして支えられるほど、ユズハは年齢の割にしっかり者で、村人たちから愛されていた。


 そんな三人が、身長五メートル以上の巨人を相手にする。

 村人たちの誰も望んではおらず、しかし、領主に報告し、援軍を待つ時間もなかった。


 シャイアが望み、アルモとユズハが続くという形で、『撃退』が選択されることとなる。


 そして、それは成功した。


 いや……その戦いの決着は、撃退ではなく『討伐』になったのだから、『成功』を大きく上回る結果になった。


 三人は村を救った英雄となり、宴が行われ……巨人の遺体から発生していた『瘴気』に気が付いたユズハが、自らの魔法で自身の体に全て取り込み、死体を火属性魔法で焼いたことで、全てが狂った。


 そもそも巨人の名は『カースド・ギガント』と呼ばれるモンスターであり、死体から瘴気が発生することは、村を時々訪れる商人に聞けばわかる程度のこと。


 瘴気を体に取り込んだユズハは、まず最初に体調が悪化。

 一週間もしないうちに、黒い痣が出現することになる。


 村の誰も、そして村を訪れる商人も、ユズハの痣が『呪い』によるものであることは分かったが、その解除方法は分からなかった。


 アルモとシャイアは、王都に行って、呪いを解除する方法を探すことにした。

 ユズハを村で安静にさせようとしたが……その時、商人についてきていた『教会』の関係者から、シャイアには剣聖のギフトが与えられていることと、『呪いの伝染』を防ぐためには、剣聖の魔力が必要になることが明かされる。


 アルモとシャイアはユズハを連れて、王都に向かうことに。


 傷や毒に効くポーションは多いが、『呪い』に効果のあるポーションは少なく、ユズハの体調は何度も悪くなった。


 加えて、警備の甘い安宿を利用しては、小さな痣はあるが可愛らしい容姿のユズハを狙った犯罪も多く、休まることがない。


 王都に到着し、必要な金を稼ぐために冒険者として登録し……シャイアの『剣聖』の噂はすぐに王都に響くこととなる。


 様々なところから声がかかり、最終的にシャイアが頷いたのは、低ランクポーションではあるが、『呪い』に効果のある物を用意できる『ハイライト・フェニクス』だった。


 ギルドマスターにこき使われながらも情報を集める日々。


 しかし、『カースド・ギガント』は実力こそAランクだったが、『呪い』に関してはSランクの中でも別格であり、いまだに、解決策はない。



 それから三年。


 解決策がないのは、今も変わらない。


「……はぁ。どこを調べたものか」


 痛くなってきた頭を押さえつつ呟くアルモ。


 まず前提として、『呪いの解決方法』というのは、文献がとても少ない。


 教会関係者が来て、光属性魔法と回復魔法を組み合わせた『浄化』で事足りることが多く、傷や毒と比べてあまりにも根っこが単純だ。


 だがそれゆえに、『浄化』で解決できない場合、手詰まりとなる。


 ハイライト・フェニクスで用意できるポーションは大半が低ランク。高ランクもあるにはあるが本数は少なく、ユズハに使える本数もそれに比例して少ない。


 高ランクポーションを使っても、怠さが軽減される日がある程度多い程度で、解決には程遠い。


 構造は単純。


 教会関係者が使う『浄化』

 取得条件は出自が関わるようで、アルモもシャイアも使えないが、これの最大の効果を発揮する手段を使うことができれば、それが個人による魔法だろうとポーションだろうと、ユズハを治すことができる。


 その『手段』に出会うために調べているわけだが、どうにも届かない。


 現在発見している手段では、呪いの『気休め程度の軽減』が限界だ。

 それも、頻度としてはハイライト・フェニクスのポーションが最大である。


「……新しい本。何か出てるかな」


 煮詰まっているときは新しい情報に触れるべきだ。


 焦っているときはどんな人間も視野が狭くなり、可能性の低い理想論に走りやすい。


 アルモは疲れた表情で、図書館の出入り口付近に向かう。


 本と言うのはなかなか一冊を完成させるのが難しいもので、そこまで新書は出てこない。


 朝見た時はなかったが、今はどうだろうか。


 木の長テーブルに並べられた本を眺める。


「……」


 呪いの解除につながりそうなタイトル。と言ったものは、初見ではわかりずらい。


 しかも、『強い呪い』ともなれば、『高い素質と低い需要』という、市場ではほぼ価値のないものだ。

 そんなものを前面に押し出したとしても、あまり意味はない。


(……あ、これ)


 アルモの目に入ったのは、『ディザイア遺跡の解読書』と呼ばれるものだ。

 他の本と比べてもペース数は少なく、そこまで新しい情報があるようには感じない。


 ただ、それ以上に目を引くのが、作者名だ。


 ライリー・ウェザリアス。


 七代目である現在の賢者。ウェザリアス七世が書いた本。


(何か……何かないか……)


 現在の賢者が書いた本ともなれば、通常なら四階の貴族専用フロアに並ぶだろう。

 だが、ディザイア遺跡は、『王国の中で最も旨味のない遺跡』という認識であり、賢者が書いた本と言えど、本の装飾も煌びやかさがほぼないこともあって、こんなところに並べられたのだ。


 ただ、いつ貴族フロアに移動するかわからない。


 じっくりと読み込んでいく。


「……あっ」


 とある記述を見つける。


『西の竜。聖なる雫に通ずる石碑を得たり』


 聖なる雫。


 それが意味するものは、数多くある。


 例を挙げるならば……


 回復薬であるポーションの最高位とされる『エリクサー』


 通常は気体の魔力が濃縮され液体化しているとされる『ハイパーエーテル』


 宗教国家において、最重要神殿の宝物庫に納められるとされる『聖水』


 どれもこれも、形容詞として『される』が付くほど、まさに『伝説上』の存在だ。

 少なくとも、それらは『実物を見たものがいない』のが通例。


 ただ、『聖なる』という形容詞が持つオーラは、『呪い』を凌駕するものとなる。


「西の竜……『ドレイク・コロシアム』か」


 王都から西に徒歩で一時間の場所に存在する地下洞窟。


 一つの宝箱の『守護権』をめぐり、闘技場のような場所で、一対一の形式で『日々ドラゴンたちが戦い合っている』場所だ。


 この洞窟に存在するドラゴンはいずれも草食で、闘技場の地下には、天井に埋め込まれた特殊な光を放出する巨大な石と、それによって成長する植物が大量に存在するため、基本的にドラゴンたちは外に出てこない。


 なお、この植物は人間目線でも美味であり、ドラゴンたちも、植物を求める人間たちを襲うことはない。


 ただし、植物ではない場所、『宝箱』が存在する闘技場に通ずる道に差し掛かると、ドラゴンたちは一丸となって侵入者に襲い掛かる。


「ある程度内部構造が分かっているはずだが、栽培所と闘技場くらいのもののはず……宝箱に石碑があるのか?」


 どんな情報からこの記述を見つけたのかはわからないが、この本を書いた賢者本人も、ドレイク・コロシアムで『まだ判明していないモノ』が、『宝箱の中身』であることは承知のはず。


「……行ってみるか」


 本をテーブルに戻して、一度使っていた机まで戻る。


 並べていた本を全て片付けて、筆記具や紙を鞄に突っ込むと、アルモは乗合馬車を目指して歩き出した。


 ★


 ドレイク・コロシアムはドラゴンが跋扈するという、戦う力がない者にとっては本来『地獄』とも呼べる場所だが、植物を採取しに行くだけならばドラゴンたちは基本無視である。


 その植物は『ドラゴリーフ』というそのまま過ぎる名称がつけられており、育つ速度もその栽培面積も竜のスケールと呼ぶべきレベルで圧倒的。大人数で乗り込んだ場合はドラゴンたちも訝しげな眼で見てくるが、少数で行く場合は無反応だ。


 王都から闘技場に向かう道には危険もほぼないため、ドラゴンが跋扈する環境ではあるが、王都周辺を生業とする乗合馬車の周回ルートとなっている。


「……く、黒騎士だ」

(ん?)


 乗合馬車の停留所で待っていたアルモだったが、誰かが口にした『黒騎士』という言葉に反応した。


 そちらに視線を向けると、確かにそこには、『黒騎士』と呼べる姿があった。


 黒を基調とする全身甲冑で、頭部から足先まですべて覆われている。

 背中には両手剣と片手剣の中間、バスタードソードと呼ばれる黒剣を装備しており、『魔剣』と噂される業物だろう。


 身長は高いが体格は細く、女性らしい。


 ただ、立ち姿に一切の隙は無く、重量のある剣を背負っていても体幹にブレがない。


「『常闇の林檎』に所属するSランク冒険者にして絶対的エース。リィラ。初めて見た」

「ここ。ドレイク・コロシアムに向かうところだよな。『試し切り』で向かってるって噂は本当だったのか?」


 王国に存在する唯一のSランクギルドである『常闇の林檎』に所属するSランク冒険者、リィラ。


 彼女の加入によって当時Aランクだった『常闇の林檎』がSランクに上がったとされる。


(俺も初めて見た……)


 ユズハの治療のための行動ばかりしているアルモはあまり興味を持っていなかったが、それでも名と噂は知っている。


 ……などとアルモが考えていると、馬車がやってきた。


(試し切り……ねぇ。それもドラゴン相手に。贅沢な話だ)


 Sランク冒険者に指名がかかるほどのモンスターと言うのは、めったに出現しない。


 『相応の技術』を試すとなれば、ドレイク・コロシアムくらいしか場所がないということなのだろう。


 Sランク冒険者を前にすれば、誰もが道を開ける。


 そうしてできた道を、リィラは堂々と歩いて、馬車に入っていった。


 どうやら客席の中で先頭に座っているようで、全員がチラ見しながらも、彼女の後ろに座っていく。


 アルモも彼らに続いて、【王都発】と刻まれた紙片を受け取りつつ、馬車に乗り込む。


 ……一瞬、リィラがアルモの剣に目を向けたような気がしたが、特にそれ以上の反応はなく、アルモは空いている席に座る。


 停留所に人がいなくなると、馬車は出発した。


 ★


(……ここが、ドレイク・コロシアムか)


 地下が闘技場になっており、地表にある出入り口はドラゴンのスケールで巨大だ。


 どこまでも『洞窟』という体裁であり、中でドラゴンたちがその強さを競い合っているが、防音が優れているのか、地表で出入り口を眺めている分には何も感じ取れない。


 ドラゴリーフを採取するための袋を持った者たちが中に入っていくのを視界の端に映しつつ、アルモは洞窟の出入り口を眺める。


「ドラゴンに挑むつもりですか?」

「ん?」


 後ろから声を掛けられたので振り向く。


 そこには、リィラが立っていた。


 どこか凛とした落ち着きのある声色であり、アルモは初めて聞く。


「……ああ。宝箱の中身を知りたい。が、なんでわかった?」


 基本的に、植物を集めに来る者が多いことは事実。


 アルモだって袋は持ち歩いているし、そのように判断することは可能のはずだ。


「覇気と闘気を抑えきれていません。緊張感も高く……何より焦りを感じます」

「……」


 全てだ。


 初対面であることを考えれば、アルモを見て分かる全てを言い当てたと言える。


 Sランク冒険者の観察眼がそれをさせるのか、それとも、今のアルモが分かりやすいのか。


「そんなにわかりやすかったか?」

「はい」


 即座に頷く。


 それを見たアルモは、溜息をついた。


「それからあなたの剣ですが、片手剣と短剣の中間よりもやや長い程度。オーダーメイドの業物ではあるようですが、あなたの身長に適していないのでは?」

「……作成されたのが三年前でな。そこから身長も伸びたけど……手に馴染む剣が見つからなくて、そのまま使ってる」


 多くを答えようとはしないアルモ。


 ただ、リィラは納得したようだ。


「それでいい。手に馴染むかどうかは重要です。あなたが何かを斬れなかったとき、それを剣のせいにしないのであれば、何も問題はありません」


 そういうと、リィラはドレイク・コロシアムに入っていく。


「……モンスターよりも、呪いを斬りたいよ。俺は」


 今のアルモには叶わぬことを口にしつつ、リィラの後を追うように洞窟に入っていった。


 ……さて、採取している者が中にいるはずだが、リィラがそれでも中に入っていったように、ドレイク・コロシアムはそれでも『問題がない』状態だ。


 ドラゴンたちは、長年の観察から、『挑戦者』と『植物目当て』の二種類の人間が来ることを理解しているらしい。


 例えドラゴンたちが守る宝箱を狙う者と、ドラゴリーフの採取の両方が別々の人間によって行われていたとしても、宝箱を狙う者だけを狙い、ドラゴリーフを狙う者に関しては完全に無視する。


 ドラゴリーフを採取している者を人質にすることもなく、守護者であることを誇りに持っているのだろう。というのが長年の観察結果によるものだ。


「さてと……」


 ドラゴンは全て、闘技場で待ち構えている。


 通路もドラゴンスケールでなかなか広いのだが、そこに関しては彼らはほぼ関与しない。


 闘技場で待ち構えている。

 守護権を獲得した個体がリーダーとなり、宝箱を狙った瞬間、リーダーの雄たけびと共に、全軍を持って襲い掛かってくるのだ。


「ここが闘技場……防音魔法が凄いな。リィラがすでに入ってるはずなのに、何も音が聞こえてこない」


 Sランク冒険者の中でもトップとされるリィラと、天翔ける最強種族であるドラゴンの群れ。


 派手さ。規模のデカさ。どちらも世界有数レベルだろう。


 しかし、闘技場の外には、何も聞こえない。


「……入るか」


 人間スケールで作られた門を開けて、中に入る。


 そこには……


「……何だあの動き」


 黒の全身鎧を身にまとうリィラが、縦横無尽に駆け回り、ドラゴンと戦っていた。


 リィラはアルモを見て『闘気を隠しきれていない』といったが、今のアルモから見て、リィラからは『闘気』を感じられない。


 ドラゴンは一度戦うとなれば遠慮はないようで、十六体いるドラゴンの全てがリィラに襲い掛かる。


 ドラゴンたちからは明確な『殺意』が感じられ、明確に、リィラを殺そうとしている。


 ただ、リィラの方には、闘気も殺気も感じられない。


 そんな状態だが、アルモが気になったのは、リィラの『動き』だ。


 剣術と言うのは、素振りのやり方だって師範の指導で僅かに差が出るモノ。


 多種多様な形状と状態を有するモンスターを相手にする場合、『絶対的な正解』はないため、地域によっては常人に理解できない系譜があるほど。


 しかし、そんな中でも、剣術には『理論』がある。


 リィラの剣術は、その『どれにも』該当する。と言ったモノ。


「なんだあの動き方……」


 上手く言葉が出てこない。


 ただ、それらをあえて強引に当てはめれば、どこかで聞いた『強い動き』を順番に再現している。と言ったものだ。


 このタイミングでこの動きをしたら有効打になる。と言った動きを、ただ順番に行っている。


「……なるほど、だから『試し切り』ってわけか」


 戦いではない。

 リィラ自身、あまり『闘技場の奥』に踏み込んでおらず、手前にいる『序列に低いドラゴン』を相手に、『試している』と言った様子。


 もちろん、相手はドラゴンだ。

 長い腕と爪。尻尾、各属性のブレス。どれをとっても強力で、鱗も強靭。


 ……本来は遠慮がないはずのドラゴンたちも、長い間『試し切り』にしか来ていないことを理解し、手前のドラゴンたちだけで対応しているといったモノだ。


 殺意は感じられる。それは事実。しかし『濃密』ではない。


「……」


 ただ、ドラゴンを相手に、『軽い勝負』を演じれるというのも、リィラの強さということだろう。


 ……時間にして、約十分。


 それだけの戦いをこなして、リィラは初めて、剣の構えが下段になる。


 そして、ドラゴンたちの動きが止まった。


 おそらく、長い間続けてきたことで定まった、彼らの『サイン』なのだろう。


 背中を見せ、出入り口に戻るリィラを、ドラゴンたちは襲い掛からない。


 ドラゴンたちが『良い笑み』を浮かべているようにも見える。


 まあ、十六体しかいないドラゴンたちの戦いの環境など、煮詰まって当然。


 様々な『系譜』を晒すリィラは、ドラゴンたちにとってもいい刺激になるだろう。


「……私の剣技を見ていたようですが、満足できましたか?」

「ああ。あんな、わけわからん動き方を見るのは初めてだ」

「そうですか……なら、一つ教えておきましょう」

「ん?」


 リィラは鞄から小さな袋を取り出す。

 そして、その袋をひっくり返して、手のひらにのせた。


 あまり多くはない土。


 それに魔法をかけると、土が馬のような形をとって、手のひらの上を歩きだした。


「……それが?」

「これは単なる地属性魔法です。その上でこういいましょうか。『地属性魔法で土を動かす』ことも、『魔法で体を動かす』ことも、広義の上では何も変わりません」

「……は?」


 アルモの頭の中で、リィラの言葉が駆け巡る。


 ……そして、一つの結論を出した。


「本来なら、『剣術スキル』で行うはずの動きを、『魔法』で再現してるのか?」

「打てば響く反応。とても賢いですね。その通り。本来はスキルが持つ『特定の動きをこなす機能』を、私は魔法で再現していました」

「だから、あんな『摘まみ食いの寄せ集め』みたいな動きになるわけか」

「とてもいい表現ですね。では……次はあなたの動きでも見せてもらいましょうか」

「……」

「貴方の気迫は、闇雲なものを求めているようには見えません。おそらく……あの宝箱に何があるのかをある程度推測しつつ、それを確認するために来たのでしょう」

「……そこまでわかるか?」

「そこまでわかる人は少ないでしょうが、『いないと思わない方がいい』ですね」

「そうか」


 アルモはそれ以上は何も言わない。


 ただ……リィラの『実演』は、彼にとっても衝撃的だったようだ。


 『地属性魔法による土の操作』と、『魔法で体を動かすこと』と、『剣術スキルによる技の行使』という、三つの要素。


 それが、『広義の上では何も変わらない』という価値観。


 明らかに、教科書に載るような内容ではない。


 最大の理由としては、宗教関係者は、『ギフト』は神から与えられたものだとしている。

 もちろん、一般的に使う分には、その感覚は『ギフト』も『スキル』もほぼ変わらない。


 世間一般的には『発現条件が分かっていないスキル』の総称と『ギフト』としているだけで、宗教関係者が『ギフトは神から与えられた』としているに過ぎないからだ。


 リィラの実演を踏まえれば、『魔法』も『スキル』も『ギフト』も、その『大原則』と呼べるものは何も変わらないのだ。


 そんなもの、宗教国家が認めるはずがない。


 純粋な努力による難易度を低い順に並べれば、『魔法』、『スキル』、『ギフト』の順番になる。ただ、ギフトに関しては発現条件が分かっていないのだから、ほぼ『運』だ。


 リィラは『魔法』も『ギフト』も大して変わらないと言っているのだ。


「……行くか」


 アルモは闘技場に入っていく。


 リィラの指摘から得た『大原則』


 それは……『器用貧乏』という、『中途半端ではあるが、多種多様な技術が使える』という機能のギフトを持つアルモにとって、『新世界』に等しく、大きなもの。


「即座に試せるものはいくらでもある」


 アルモは剣を抜いて、それを、闘技場の奥の『宝箱』に向ける。


 次の瞬間、全てのドラゴンに『殺意』が宿った。


「そうだ。それでいい。そっちが最初から『その気』になってもらった方が、こっちとしても分かりやすいからな」


 アルモは剣を構えなおすと、大きく深呼吸をする。


(ふぅ……『技能複製レベル6』を行使)


 アルモは集中する;


『精神統一レベル6』

『集中力レベル6』

『没頭レベル6』

『視覚拡張レベル6』


 以上四種類を複製。


(『技能合成レベル6』を行使、複製した四つを合成)


 アルモの頭の中で、新しいものが組み上げられていく。


「『超人化(ゾーン)レベル6』発動」


 少し、目を閉じる。

 そして開けられた。


 その雰囲気を見たドラゴンたちは、全て、息を飲む。


 天翔ける最強種族であるドラゴンたちも、アルモの雰囲気は、『強者』に変化したのだ。


「その中身を教えてもらおうか!」


 石碑を得たり。

 『賢者』が書いた言葉が真実であれば、宝箱の中には石碑が入っているはず。


 ならば、一瞬でも見ることができればいい。


「『スキル複製レベル6』……『スキル合成レベル6』……」


 脳内で、『敏捷強化レベル6』『反動軽減レベル6』『体幹強化レベル6』『視覚拡張レベル6』を複製。


「『音速以降(マッハシフト)レベル6』発動!」


 次の瞬間、アルモの姿が描き消えた。


 近くにいたドラゴンに肉薄し、魔力で覆われた剣が光る。


「複製……合成……」


 剣術スキルレベル6を『五つ増やす』

 それらを合成して一つに。


「剣術スキル第六層(・・・)……『アステリスク・フレア』」


 六方向からの炎を纏った高速六連撃。

 鱗を断ち、肉を焼き切り、膨大な魔力が込められた故に発生した圧力がドラゴンに襲い掛かる。


 一番近くにいた、おそらく序列が一番低く……しかし、ドラゴン同士で競い合っていた強者。

 そんな個体を、一つの技で瀕死に追い込んだ。


 それを見たドラゴンたちは、アルモの強者としての評価を数段階上げることになる。


 ……いや、そもそも、これほどの使い手を『初見で過小評価し過ぎた』のか。


 強大な体躯と力がありながら、小動物のような鋭さがなければ、彼らの『環境』において下位に落ちるのは常。


 そんな存在が、アルモから『力』を感じなかった。


 その現象そのものに疑問を持ったドラゴンたちだが……彼らの役目は宝箱の守護であり、アルモはこの宝箱を狙う挑戦者。


 ならば、妥協することなく、この少年を倒すべきだ。


「……」


 全てのドラゴンが構える。


 十五の巨体と三十の眼光は圧倒的なスケールを感じさせるが、集中状態のアルモもまた、それにひるむことはない。


「……ん?」


 近くにいたドラゴンが口から火球を放ってきた。


「剣術スキル第六層……『獄炎ノ太刀(ごくえんのたち)』」


 剣を振るう。


 それだけで、三日月のような形の燃え上がる斬撃が飛び、火球は消え去った。


 それを見たドラゴンたちは、下手な遠距離攻撃は意味をなさないと判断する。


「悪いが、倒しに来たわけじゃない。宝箱の中を見に来たんだ。絶対に見せてもらう」


 未だに、アルモは超高速で動ける状態。


 ためらいなく、宝箱に向かって駆け出した。


 ★


「……あれが、『ハイライト・フェニクス』に所属していた、『器用貧乏』持ちのアルモ」


 闘技場の出入り口。

 そこでは、剣を構えることもせず、腕を組んだままで、リィラがアルモの戦闘を観察していた。


「『器用貧乏』のギフトで手を出せるのは、どれほど才能があろうと、『中級上位』とされるレベル6まで。しかも、レベルが低くとも高い性能を持つスキルに手を出すとなれば、『初級上位』であるレベル3が限界。それでどのようにドラゴンに挑むのか気になっていましたが、ここまでの使い手とは」


 スキルにはレベルがあり、1から10まで存在する。

 1から3を初級、4から6を中級、7から9を上級。10を王級とした分け方である。

 冒険者のランクで言えば、最上位をS、そこから下にAからGとして……


 EとFとGが初級。

 CとDが中級。

 AとBが上級。

 Sが王級。


 といったもの。ただし、階級が上に行けば行くほど『純粋性』が下がって『特殊性』が上がり、より専門的な技の形になる場合が多いため、Sランク冒険者に関しては戦術としてはレベル8か9がほとんど。


 それが、『スキル』とその『レベル』に関する常識。


 Eランク冒険者のライセンスを持っているアルモは、適正としては『スキルレベル3』を効率よく扱えるのが妥当。


 しかし……。


「『器用貧乏』のギフトを持つ者であっても、『例外』を除けば、基本的に至れるのはレベル3までで、それを幅広くというのが通説ですが……彼の場合は通常でレベル6。スキルに関する知識と経験が、あの若さで相当なものに達している」


 様々なスキルの技を魔法で再現し、それの試し切りに来るようなリィラは、その知的好奇心は高いだろう。


 その知識の範囲内で、アルモは十分、『異常』と判断できる。


「極めつけは、あの合成手段と、『階層』という表現。もしや『あの一族』が……」


 複数の『同じスキル』を掛け合わせるという手法。そして現れた『階層』という表現。


 リィラの知識はそれを『初見』とはしないものの、その技術は歴史の中で表に現れないモノなのか、思うほど要領を得ない雰囲気を醸し出す。


「……おや、宝箱にたどり着いたようですね」


 アルモがドラゴンたちを次々となぎ倒して、宝箱に到達。


「私の実力でも、あの宝箱に到達するとなれば腕の一本は覚悟するほど。おそらく事前知識はほぼない状態で、初見で宝箱に到達するとは」


 宝箱の中を確認している様子のアルモ。


 ただ、真剣な表情でそれを見た後、石碑をいろんな方向から眺め、それ以上は特に何もせずに宝箱を閉じる。


「さてと、あの中身は一体何だったのか……」


 アルモが闘技場の出入り口に戻ってくる。


「何かわかりましたか?」

「古代の文字で書かれていた。これから帰って解読する」

「そうですか」


 リィラは特にそれ以上踏み込まない。


 確かに石碑に何が書かれていたのかは気になるが……今のアルモの様子は、余計な質問をすることをリィラが躊躇するほど、険しいものになっている。


 こういう状態になった人間の邪魔をするべきではない。

 第一、頭の中にスキルで石碑の内容を焼き付けているだけで、一刻も早く紙に記したいはず。


 ……とはいえ、人々に伝承として伝えるのではなく、石碑に書くようなことだ。

 後世に伝える意思はあっても、緊急性は低いだろう。

 ならば、余裕ができた時に聞けばいい話。


(……すでにドラゴンたちの傷は回復している。双方、回復魔法を使うのを見るのを初めてですが、これでは攻め込めませんね)


 もう一度アルモが攻めたとして、それをどうにかできるかはともかく、ドラゴンたちの傷は回復している。


 本来以上の実力を出しているとすら感じるアルモの後に続けるほど、リィラは傲慢ではない。


(……私も戻りましょうか)


 ★


 器用貧乏というギフトの持ち主は、大体のことができる。

 基本的にレベル3まで、才能があればレベル6までのスキルが行使可能であり、その幅は数多くの『汎用性』を象徴するギフトの中でもかなり広い。


 大成しない……と言う部分に対して、別に明確な集計結果があるわけではないのだが、そもそも『器用』という言葉に『要領の良さ』がたっぷり詰め込まれているのだから、わざわざ『貧乏』とまでつける以上、そこには大成しないという意味が含まれているというのが、一般常識になっている。


 とはいえ、その多様性が広いことは、やはり事実。


 『鑑定』『解読』『直観』『観察眼』など、探偵にでもなれそうなスキルを数多く使用でき、才能がある場合は『中級上位』であるレベル6まで行使可能となれば、『じっくり考える時間』があれば何も問題はない。


 もちろん、世界の根幹に触れそうな『禁忌』に関しては手も足も出ないが……。


(『青の鱗の巨大な蛇に、女神は祝福を与えた』……か)


 王立ウェザリアス図書館に戻ってきたアルモは、馬車の中で紙に記した古代文字を、様々な文献と照らし合わせて探った。


 そして見つけ出した、石碑に刻まれた一文。


「該当しそうなモンスターは……『鋼蛇将(こうだしょう)ゴルガーラ』か……」


 鋼蛇将ゴルガーラ。


 ムストリア王国と、その西にあるハスドール帝国の間にある巨大な岩山『アイアロス山脈』に住む蛇。

 この山脈は細長く、王国と帝国が隣国でありながら『戦争をしたことがない』関係を築く最大の要因となっている。

 元々Bランク以上のモンスターがはびこる山の食物連鎖において『最上位から二番目』であり、Sランクモンスターだ。


 そして、アルモがすぐにその名を思い出せるということは……。


「過去に調べたことがあるモンスターだ……」


 失望と落胆の色が混じる表情で、背もたれに身を預けた。


「……確かに、こいつの素材があれば、『高ランクのポーション』なら作れるが、それに匹敵するポーションなら、既に何度もユズハは飲んでる。今更飲んでも焼け石に水だ」


 王国と帝国は戦争をしたことはないが、『戦争になりかけたこと』はある。


 それを止める最大の理由が、このゴルガーラの存在。

 異名に『鋼』の文字が含まれているように、怪物のような頑丈さを誇るモンスターだが、こいつの縄張りは圧倒的に広い。


 帝国が王国に侵略する場合の討伐必須モンスターとして、帝国にいた英雄『闇爪(やみづめ)』によって討伐されたことがある。


 しかし、短期間で、『再度出現』した。

 個体数は確認できるレベルでは必ず一体であり、二体以上の存在は確認できない。


 だが、長年の研究で明かされたこのモンスターの最大の特徴である、『危機に瀕すると、体のどこかに存在する『本体』が体から離れて地中に逃げる』こと。


 そして、地中奥深くに存在する『鉄分』を大量に摂取して、また元の強靭な身体を取り戻すという、山を通行路に使いたい連中にとって天敵と言うか天罰ともいえる構造をしている。


「ゴルガーラの研究制度は高いはず。おそらく……それ以上のものは作れない」


 研究のために、凄腕が何度も派遣されては討伐されたモンスターだ。

 その死骸は何度も研究されており、鋼のような鱗や、他の生物では類を見ない内臓がかなり存在することが判明。

 その過程で、『高ランクのポーション』を製造可能であることは分かっている。


 ただ、王国侵略を悲願とした過去の帝国は、50年以上にわたってこの蛇を狩り続けて研究している。


(ポーションの作成なら俺もできなくはない。ただ、レベル10に達した錬金術師は、過去に、帝国に二人いる。俺が研究を始めて、その域にたどり着くまでに何年かかるか……)


 レベル10のスキルは、Sランク冒険者の中でも数少ない者しか至っていない。


 レベル8の聖剣スキルが使えるシャイアがAランク冒険者になったばかりであり、それほど『圧倒的』なのだ。


 ユズハに時間が十分遺されているとは思えない現状、研究する時間は捻出できない。


「……ドレイク・コロシアム。誰も手にしたことのない石碑なら何かあると思ったが……手詰まり、か」


 アルモは失意の表情で、天井を見上げた。


 ★


 アルモがドレイク・コロシアムに挑んでから、早三日。


 鋼蛇将ゴルガーラを超える高ランクポーションの情報がつかめないまま、早、三日が過ぎた。


 冒険者としてのクエストなどすべて放り出して、文献をあさる日々だが、手掛かりは相変わらず何もない。


 そんな日々だが……この王都にて、少しだけ、『動き』があった。


「賢者からの発表か。どんなものかな?」

「わざわざ我々に声をかけるとなれば、それ相応の研究結果でしょうな」

「フンッ! あの貧民出身の女狐は気に入らん。何かボロがあれば叩き潰してやる」


 何かを発表するための壇上が用意され、そこからすり鉢状に席が広がる『講堂』


 決して広くはない場所ではあるが、そこには恰幅の良い男性たちが集まっていた。


 いずれも自信のある表情を浮かべ、高級なスーツを身にまとう雰囲気を考えれば、冒険者界隈、財界などにおいて『権力層』と言える者たちだろう。


(フフッ、こんな場所に来るのは初めてですが、どんなものが見られるのやら)


 そんな席には、ハイライト・フェニクスのギルドマスターも座っている。

 彼もまたAランクギルドのトップであり、十分『権力者』と言える立場だ。


「さてと、ようこそいらっしゃいました」


 壇上に近い扉を開けると、軽薄そうな印象を持つ白衣を着た男性が入ってくる。

 二十代半ば。こげ茶色のボサボサの髪をかきつつ、眼鏡をかけた学者の風貌であり、手には資料が入っているであろう鞄を持っている。


「なっ……お前は……」

「あ、どーも。先生の下で学ばせてもらってます。自称、ライリー・ウェザリアスの一番弟子。フォードです。今回はよろしくお願いしますね」


 あくまでも軽薄な笑みが崩れないフォード。


「な、何故弟子が。賢者はどうした!」

「あー。なんか重要な用事があるとのことで、俺に押し付けてどっか行きましたよ」

「ふざけるな! 本人ではなく弟子が出てくるなど、我々を舐めているのか!」

「あー。一応、先生から貰った資料を貰ってますんで、その発表を聞いてからにしてほしいんですが……」


 権力者の怒号というのは、かなりの『圧力』がある。


 純粋な力強さと、何よりその『怒ることへの慣れ』に加えて、制裁にストッパーをかける倫理観が薄れたその感性による『過剰な私刑』という厄介さ。


 多くの者を従わせてきた経験だろう。自らが上位の階級に属することを自覚する者たちの『怒り』というのは、力がある。


 ……とはいえ、それに対して平然としているフォードもまた、相当な修羅場を潜っていると言える。


 確かに礼節は欠けているし、権力者たちに対する敬意があるようには見えない。

 何なら今もかなり『面倒』という表情をしており、押し付けられるにあたって何かメリットを与えられたのは事実だろうが、それでも『面倒』という感情そのものが消えたわけではなさそうだ。


「馬鹿にするなよ小僧が――」


 上位者である自分たちに敬意がない故の、沸騰する怒り。


 しかしそれは……一瞬で静まり返った。


 フォードは右手を少し前に出している。

 少しだけ、何かを握るような、そんな手の形。


 たったそれだけ。

 それだけだが、フォードの全身から、『無言の圧力』があふれている。


 危機感と逼迫感で塗りつぶすかのような圧迫感。


 その気になれば、『握りつぶされる』のではないかという警鈴。


「……はぁ」


 フォードが少し握っていた手を開いてひっこめる。


 すると、まるで押さえつけられていたモノが外れたかのように、客席の男たちは席に崩れ落ちた。


「師匠が言ってた通り、ちょっと『脅す』だけで簡単に折れる。僕は話を聞いてほしいだけなんで、大人しくしててくれません?」


 目の前に存在する権力者たちがどんな存在であるかに対して、何の興味も持っていない様子のフォード。


 とはいえ……この世に、『実力』と『利権』を支配する『権力者』と呼ばれる存在がいれば、逆に、その実力と利権に何の興味も持たない人間がいることも事実。


 『過去』を暴き、本来たどり着けない『未来』へ至る『賢者』の弟子。


 そんな存在にとって、彼らの強みなど、有象無象と何ら変わらないのだ。


(こ……これが、Sランク冒険者。『鉄槌』のフォード)


 脂汗を流しつつ、内心で驚愕するハイライト・フェニクスのギルドマスター。

 そもそも戦闘員ですらない『一般人』の彼にとって、先ほどの圧力は『異常』のレベルに達していたことだろう。


 賢者本人は冒険者ではないとされているが、その『一番弟子』であるフォードは、帝国から流れてきたSランク冒険者。

 それほどの実力者の、『煩わしい』という感情が『現実』になったのだ。


 恐怖に飲み込まれるのは仕方のないこと。

 ただ……仮にもAランクギルドのマスターであることを考えれば、あまりにも修羅場を潜らなさすぎではあるが。


「さてと、それじゃあさっさと話しますか」


 フォードは鞄を開けて中から紙の束を取り出す。


「今回話すのは、『ギフトのとある特性』について」

「ギフトの特性だと?」

「ええ、まあ、『ギフトの新しい定義』みたいなもんだと思って軽く聞いてくれれば」

「なっ……んっ、にぃ?」


 上手く言葉になっていない様子の男たち。


 とはいえ……『取得条件が判明していないスキルの総称』などという、あってないような説明しかできないギフトに対して、『定義を発見しました』と軽く言われれば、驚くに決まっている。


「いくつかのギフトに対する話なんですが、何か欠点めいたもの、もっと言うと、何かのギフトにとって『完全上位互換』といえるギフトはいくつか存在します」


 えーと……とこめかみをグリグリ弄る。


「『炎刀(ほむらがたな)』というギフト……まあ、極東で時々見かけるんですが、もう一個、極東では『灼熱刀(しゃくねつとう)』というギフトがあって、この灼熱刀は、最低でも炎刀の十倍以上の出力があるとされてます」


 思い出したかのように言っている様子。


「で、実際は、威力の低い炎刀のほうが所有者が多いですね。まあ、宗教国家は大体、極東が嫌いなんで、宗教国家が作った教科書でギフトのことを下げて言う時は、大体これらのギフトをよく持ち出してますね……これは蛇足か」


 本人としても少し脱線した様子。


 ただ、ギフトとされるものが神からの贈り物であるとする宗教国家において、ギフトが与えられるということそのものに神聖さが宿るもの。

 教義の上では、炎刀も灼熱刀も『ギフトである』と言うことに変わりはない。


 しかし、何らかの事情から、『極東』を嫌う性質があるのか、あくまでも『差』……上と下があり、下の方が広まっているという『上から目線』で通す場合、例に挙げられるといったところか。


「で、この炎刀っていうギフトなんですが……実は、とある特性を持つ『妖刀』を持つことで、誰でも『灼熱刀』のギフトに変化させることができます。進化……ともいえますかね?」

「何!?」


 ギフトが進化する。


 その現象は、有史以来『数件』というレベルで発生している、極稀な現象。


 それが『誰にでも』というのは……。


「『刃こぼれしにくい』ということに特化してる種類の妖刀が必要。かつ、本人の才能がある場合、妖刀の方もかなりの業物が必要になりますが、揃えて鍛錬を積むことで、一週間もしないうちに、『炎刀』は『灼熱刀』に変化する」


 フォードの説明だが、難しいわけではない。


「『共鳴』……とでもいうんですかね? これに似たケースは、全て『マジックアイテム』を前提とした結果に基づいている。今のところ、先生は『共鳴進化』と呼んでました」

「共鳴進化……」

「『炎刀』というギフトは、この『共鳴進化ギフト』であり、本人の才能に適したレベル以上の妖刀を使うことで、『灼熱刀』に進化する。で、これに似たギフトが、膨大な資料を集めた結果、幾つか判明しました」


 紙をバッと上に投げる。

 すると、全ての紙が、客席の男たちにとって適した場所に落下してきた。


 男たちはその内容を確認する。


 フォードが語った炎刀と灼熱刀の関係をはじめに、『聖なる光』から『救世の極光』。『ポーチ拡張』から『アイテムボックス』。『雑用』から『ロイヤルスイート』……。

 などなど、世界を救ったとされるものや、物流を変えたとされるギフトなど、十五個程度だが記載されている。


 そして、一番下には、【『器用貧乏』から『万能』】の記載が。


「ふむ……ただ、疑問はあるな」

「どうぞ」

「特定のアイテムを装備して鍛錬するだけで進化するなら、なぜここまで『ギフトの進化』の記録が少ないんだ?」


 ごもっともな質問である。


 冒険者は数多くのエリアに向かっているし、その影響で様々な高性能アイテムに触れているはず。


 別に高ランク冒険者だからと言って誰もかれもがギフト所有者ではないのだが、片手で……とはいかないが、少なくとも両手で数えられる程度だ。

 圧倒的に件数が少なすぎる。


「そもそも持っているギフトが共鳴進化するかどうか。そのギフトを運用する才能がどれほどのものか。そして、それに比例した性能のアイテムを用意できるか……いろいろ条件があるんで、実際にできるかとなれば簡単じゃないんですよ」

「もう少し詳しく」

「才能がちょっとでも高いと、それに対して必要なアイテムの質は加速度的に高く要求される。で、高性能のアイテムっていうのは、大体、貴族とか、そのあたりのお偉いさんが抱えてて、ちゃんと『めぐり合う機会』っていうのは限られてるってことです」


 基本的に高性能のアイテムと言うのは、ダンジョンに潜った場合の宝箱や、危険地帯を潜り抜けた先で手に入れた素材アイテムを加工して獲得する物だ。


 ただし、そういったアイテムを管理したい連中……もちろん権力者たちだが、そういう者たちがアイテムをなんとか獲得し、そして『秘蔵』として保管庫などにぶちこんでそのままというケースが多い。


 そして、貸し出される時も、期間はそう長くはない。


 結果的に、才能あふれる者のギフトが進化するということはほぼない。


「まあ逆のケースとして、その進化前のギフトを扱う才能がほぼない場合、そんじょそこらのアイテムでも進化する。ギフト……というより、高性能のスキルの獲得は血筋に影響されるのは、記録からわかる常識として……」


 一度言葉を切って、聞いている側としては苦笑するしかない結論を呟く。


「大体、貴族が代々継承してる『高性能のギフト』っていうのは、才能のないやつが家宝のアイテムを使ってるから進化するってだけ。で、さっき『一週間くらいで進化する』って言ったけど、そんじょそこらの才能だと、『自分が住んでる家の中にアイテムがあっても進化する』から、宗教国家から神官が送られてきてギフトを鑑定したら、そのころには進化して終わってるわけ」

「……」


 これには全員が苦笑した。


「では、その『家宝』を使っても進化しなかった場合は……」

「当然、そいつには才能がある。ただ、進化前と進化後のギフトを扱う才能がどれほどあったとしても、進化前は進化後に『そもそものスペックで負けてる』から、進化しない子が無能扱いされるってだけの話」


 本当の意味で、ぶっちゃけまくる。


「で、実家から追い出されて、偶然めっちゃ強いアイテム拾って、進化して、実家よりも強くなって見返すっていうのが、今のところ十件にも満たない『進化したギフトたち』ってわけだ。世の中ってのは上手くできてるなって思うよ」


 うんうん。と頷くフォード。


 実際に見てきたかのような雰囲気である。


「なるほど、宗教関係者も、貴族もここに招待されていないのはそういう理由か」

「そういうこと」


 ギフトというものは神から与えられるもの。

 そんなギフトに対して研究する。まさに『神を暴こうとする』などという行為は、宗教国家にとって良い印象はない。


 スキルの研究を装ってギフトの研究をする者は確かにいるが、まあ、抜き打ち検査で凄腕調査員が送られて、その後はあることないことでっちあげられる。というのは、この世界では珍しくない。


 フォードが今回提示したギフトは数少なく、十五組。進化前と進化後を合わせて三十個といった程度だが、中には『高位の貴族』の急所を突くモノだってある。


 宗教関係者も貴族も、この場に呼べば面倒なことになるだろう。

 ……まあ、仮に面倒なことになったとしても、Sランク冒険者であるフォードが口にしているという時点で、大本を断てそうにないが。


「では、これから我々はどうするべきかな?」

「進化前のギフトを持っているからといって過小評価しないこと。必要なアイテムはこれから調べていくしかないが、進化する可能性があることを考えれば、手元に抱えておくのがベストだ」


 フォードはそこまで言うと、資料を鞄に仕舞い始める。


「それじゃあ、僕からはここまで。次、また機会があれば話そうか」


 ★


 カリウス・センファ


 Sランク冒険者ギルド、ハイライト・フェニクスのギルドマスターの名前だ。


 彼は招待された賢者からの発表の後、執務室に戻ってきて、書類を見ている。


「さて、どうしたものか――」


 書類を読んでいたが、突然、ドアが開けられる。


「カリウス。賢者の発表会に行ったそうじゃないか」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、少年が中に入ってくる。


 整えられた青い髪で、まだ幼さのある顔立ちをした十六歳の少年である。


「おお、これはハルヴェス様。よくぞいらっしゃいました」


 明らかに年下のハルヴェスと言うらしい少年に対して、様付けで呼ぶカリウス。


 ここまで年下の少年がノックもなしに部屋に入ってきたら、普通はイライラするものだが、カリウスの表情にそこまで変化はない。


「フンッ! 挨拶はいい。賢者が何を言っていたのか、さっさと僕に教えろ」

「はい。では、こちらにおかけください。おい、おもてなしだ」

「はっ」


 部屋の隅に控えていた兵士のような男が、隣の部屋に入っていく。


 すると、十秒もしないうちに、魅力的な体に扇情的なドレスを纏わせる美少女が二人、朗らかな笑みを浮かべながら入ってきた。


 美少女たちは、ハルヴェスが座るソファに両方から近づくと、彼の腕に胸を押さえつけるようにして密着する。


「フフッ」


 ご満悦のハルヴェス。


「ハルヴェス様。お久しぶりです」

「伯爵家の嫡男として活躍されているそうですね!」

「第一王子、ホーラス殿下の懐刀と呼ばれるその実力。素敵です」


 ハルヴェスを褒めながら、彼の腕に自分の腕を絡めはじめた。


「フンッ! そのくらい当然だ。さて、早く教えてもらおうか」

「はい。全てお教えしましょう」


 カリウスは、フォードが語った内容を話していく。


 フォードが作った資料も出して、丁寧に、丁寧に話した。


 ……数分後。


「共鳴進化……ねぇ。まあ、これらのギフトに比べれば、僕の『激流眼(げきりゅうがん)』の方が優れているし、賢者と言っても大した情報は持ってないってことか」

「水属性最高峰ギフトの持ち主であるハルヴェス様にしてみれば、下々の話でしかありませんなぁ」


 カリウスは揉み手で褒めたたえる。


「……ん? このリストの中の一番最後に『器用貧乏』とあるが、この前、誰かいなかったか?」

「そういえば、平民出身で誰かがいましたねぇ」

「ふーむ……『万能』の可能性か。僕の激流眼に比べればどうということはないけれど、他に取られるのはいやだなぁ……」


 ブツブツとつぶやくハルヴェス。


「そうだ。このギルドで抱えておけ」

「このギルドでですか? アルモをこのギルドから追放すると決めたのは、ハルヴェス様だったはずですが……」

「僕が依然何を言ったかなんて関係ないんだよ。このギルドは僕が懇意にする組織。将来はSランクギルド確実だし、そこに、今回の情報と『万能の可能性』があれば、殿下への良いアピールになる」


 スキルが多種多様であるようにギフトも多種多様だが、ギフトを持つ者は決して多くない。

 当然、『器用貧乏』も、その進化後である『万能』も、数はとても少ないのだ。


 器用貧乏という言葉には『大成しない』という意味があるが、『万能』に至るのなら何も問題はない。

 この国で最高峰の頭脳があるとされる『賢者』の発表を元に情報であり、王族であろうと通用する。


 ただ、貴族ですらない平民を『派閥』に加えるということはできない。

 だからこそ、平民のたまり場である『冒険者ギルド』で抑えておこうという魂胆だ。

 別に珍しい手口ではないが……。


「畏まりました。ハルヴェス様の計画。完璧に遂行しましょう」

「クククッ……ところで、交渉材料はあるのか?」

「ええ。私には、『アレ』がありますから」

「ああ。あの『壺』か。ポーションを作れるという……それで釣れるということか」

「そういうことです」

「ふーむ……何かの巨人を封印する『要石』のような役割があると聞いたが?」

「フフッ、何年か前に討伐された巨人の話ですからね。とまぁ、詳しい話はここまで、私にお任せください」

「ああ。お前に任せる。さて……」


 ハルヴェスは、自分に抱き着く少女たちの体を(まさぐ)り始めた。


「んっ」

「あ、そこです」

「クククッ、良い気分だよ」

「ねえハルヴェス様。ハルヴェス様のギフト、激流眼って、何かすごい力があるんですか?」

「もちろんだ。僕の激流眼には、膨大な水を生み出し、既に存在する水を動かすこともできるからね」

「すごーい!」

「加えて、ウルモート伯爵家の『家宝』があれば、その影響範囲もかなり広くすることが可能で――」


 『激流眼』の解説を始めたハルヴェス。


 よほど、自身があるギフトなのか、自慢することになれているのか、次々と言葉があふれている。


 家宝の話も含め、自分の影響力を語り始めた。


 ★


「……虫が良すぎるだろ」


 ドレイク・コロシアムで石碑を見つけてから四日。


 アルモは、ハイライト・フェニクスのギルドマスター執務室に訪れていた。


「何を言っているのかな? Sランクギルドへの昇格が確実と言われているこのギルドに所属できることは、大変名誉なことだろう」

「だからって、追い出して四日で連れ戻すか? 節操がないのもいい加減にしろよ」

「フンッ! 君たちに支給するポーションの数が減ってもいいのかね?」

「グッ……」


 カリウスのニヤニヤとした笑みがアルモの神経を逆なでするが、アルモからは手を出せない。


 現段階で、最も質の高く、呪いに適応するポーションの安定供給は、カリウスからの支給になる。


 これを蹴ることはできない。


 ユズハに残された時間は少ないが、それでも、質の高い呪いに対するポーションがあれば、伸ばすことはできる。


「シャイア君と組ませるかどうかは保留だが、このギルドの所属として活動してもらう」

「……わかりました」

「くれぐれも、妙なことを考えないように。短い命であっても、先は長い方だ良いだろう」

「……チッ!」


 アルモは舌打ちを隠しもせずに部屋を出る。


「……はぁ。あー……クソッ」


 怒りが出てきても、それを超える無力感があふれる。


 どうしようもないのは事実なのだ。


「おや? そこにいるのは器用貧乏の平民じゃないか」

「……」


 声を掛けられたので振り向くと、そこには青い髪の少年が立っていた。


「ハルヴェス……」

「様を付けろ平民。アクアイン伯爵家の嫡男にして、『激流眼』の所有者である僕を呼び捨てにする権利があると思っているのか?」

「……ハルヴェス。様」

「クククッ。しかし、こんな雑魚っぽいやつが器用貧乏、そして万能とは……」

「ん?」

「君には関係ない話だ」


 疑問に思った様子のアルモだが、すぐにそれをハルヴェスは切って捨てる。


「ああ。そうそう、お前はこのポーションが必要だったな」


 鞄から一本の瓶を取り出すハルヴェス。

 使い捨てにしてはある程度装飾が施された緑色の液体が入った瓶。


「それは……」

「このギルドのマスターが『コネ』で手にいれているポーション。その中でも『高ランク』だよ」

「!」


 アルモは驚いた。


 普段、低ランクしか彼らには支給されておらず、高ランクはかなり頻度が少ない。


 そんなものを簡単に見せてきたことに対して、驚くのも無理はないこと。


「このギルドのマスターは優秀でねぇ。決して多くはないが、少ないともいえないポーションを仕入れているんだよ。そして、大部分をアクアイン伯爵家に納めてもらっていてね」

「……」


 傷も毒も呪いも対応しているポーション。


「かなりの傷でも毒でも回復可能なポーションだ。めったにお目にかかれないだろう」

「……」

「そうだなぁ……金貨十枚。金貨十枚出して、誠心誠意頼めば、これを渡してやっても――」

「お願いだ。それを譲ってくれ!」


 アルモは財布から金貨十枚を即座に出して、ハルヴェスに見せるとともに頭を下げる。


 ……思わず呆気にとられるハルヴェスだったが、ニヤニヤしながら金貨十枚を受け取る。


「そうそう、君のような平民は、僕のような上位の人間に対して、下に出るべきなんだよ」

「そのポーションは……」

「ああ。これね」


 次の瞬間、瓶の中の液体が急激に膨張し、爆発した。


「なっ……」


 ただ、周囲に飛び散るわけでもなく、全ての液体が下に向かうような、不自然な軌道を描く。


 液体から顔を上げ、ハルヴェスの顔を見上げると……その瞳は、水色の光を宿していた。


「アハハハハッ! 何だよその顔! たった金貨十枚で、こんな高性能のポーションを渡せるわけないって。ちょっと考えればわかるだろぉ」

「ぐっ……」

「良いねぇ、その顔。ぷくくっ! この金貨十枚は勉強代として受け取っておくよ。それじゃ」


 ハルヴェスはご機嫌な様子でアルモに背を向けて去っていった。


「……クソッ!」


 近くの壁に拳を打ち付ける。


 だが、手が少し痛くなるだけ。


 何も解決しない。何も進展しない。


 無力で、惨めだ。


 ★


 アルモは建物を出ると、シャイアとユズハが使っている寮に向かう。


 建物の近くで、シャイアが剣を振っていた。


 聖剣はカリウスから言われたクエストをこなすときにだけ使っているので、同じ形の剣を使って素振りをしている。


「シャイア」

「ん? アルモか……え、アルモ?」


 なんでここに? と言った様子でシャイアがアルモの方を見る。


「なんか、俺の『器用貧乏』に使い道があるとかないとか、くわしいことははぐらかされたけど、ここに戻ってくることになった」

「……戻ってこない場合、ポーションの支給数を減らす。か」

「その通り」


 全てを察したようで、シャイアは溜息を吐いた。


「……早速だが、家事を何とかしてくれ。俺の手には負えん」

「かなり、簡略化して書いたはずだが?」

「その上で、ユズハの手を借りないとこなせなかった」

「……わかったよ」


 アルモもまた、この幼馴染が剣を振ること以外において不器用であることは分かっている。


 ただ、最近は本当に剣しか振っていなかったので、多少できた昔よりも、今はひどいようだ。


 アルモとシャイアは寮の階段を上がって、彼らが使っている部屋に向かう。


 そのまま部屋の鍵を開けて、中に入った。


「ユズハ、入るぞ」

「ただいま。ユズハ」

「!」


 アルモの声が響いた瞬間、中にいたユズハは驚いた表情になる。


「……アルモさん。お兄ちゃん」

「気分はどうだ?」

「……あんまり。変わってない。ただ、なんだか、変な『疼き』があるような……」


 そういうユズハの痣の大きさも変わっていない。


 ただ、何かあるのだろう。


「昨日から、なにか『疼き』があると言っている。俺もよくわからんが……」

「……そうか」


 器用貧乏のギフトを持ち、多種多様な鑑定スキルを扱えるアルモだが、この痣に関しては見ても何もわからない。


 それだけ、彼らにとって上位の呪いということになる。


「アルモさん。帰ってきたんですね」

「ああ。あのギルマスに振り回されてな」

「フフッ。そうですか……」


 ユズハもまた、自らが『弱点』になっていることを知っている。


 そもそも、ユズハの呪いがなければ、今も三人は故郷の村で過ごしていたことは、三人の共通認識だ。


 だが、呪いを治すためにはポーションの力が必要である。


「シャイアの家事はどうだった?」

「初日は真っ黒になった目玉焼きを見て、『これはダメだ』って思いました」

「おい」


 軽口をたたくが、それだけ、余裕を演じなければならないほどの状況ということでもある。


「……はぁ、いろいろ。俺がやっておくよ」

「すまん。こればかりは俺にはどうしようもない」


 アルモはキッチンに向かう。


 そこは、様々な悲惨さが見え隠れするものとなっていたが、器用貧乏のギフトは掃除にも対応しているので、問題はない。


 第一、呪いのせいで体が弱いユズハのために、清潔な状態を少しでも作ろうと考えているアルモからすれば、この程度を片付けるのはどうということもない。


 ……ものの数分で、アルモは部屋を綺麗にした。


「……俺の奮闘はなんだったんだ?」

「知るか」


 そのまま、料理も始めるアルモ。


 その手際は大変よく、素早く仕上げていく。


「……本当になんだったんだ?」

「……知るか」


 かなり荒れてきたキッチンを見て、その奮闘が分かった故に、あまり強くは言えないアルモ。


 とはいえ、アルモは出来て、シャイアにはできないのは事実である。


 そのまま簡単に汁物を作って、ユズハのところに持って行く。


「ユズハ、簡単なやつだけど出来たぞ」

「ありがとうございます」


 アルモはユズハの体を支えて、ユズハはゆっくり食べる。


「……やっぱり、アルモさんが作ると美味しいですね」

「……」


 アルモの後ろでシャイアが兄としての沽券を踏みにじられたかのような感じになっていたが、仕方のないことだ。


 仕方のないことなのだ。


 そのまま、ゆっくりと食べて終わったユズハを寝かす。


「俺たちはこれからクエストをやる必要があるから、ユズハはしっかり寝てろよ。夜に必要な家事はまた俺がやるから」

「フフッ、待ってます」


 アルモとシャイアは部屋を出て、階段を下りていった。


 ★


「……それで、調べた結果はどうだ?」

「進展はなかった」

「……だろうな。何かわかれば、そのままにしておくとは思えん」


 寮から少し離れた場所で、アルモとシャイアは話していた。


「この三日間でどこかに行ったか?」

「ドレイク・コロシアムに行って、宝箱の中を見てきた」

「ほう?」

「石碑が入ってて、そこに、鋼蛇将ゴルガーラが『女神の祝福』を受けたとか、そんなことが書かれてたよ」

「ゴルガーラか……それでは足りんな」


 シャイア自身はあまり調査が得意ではないが、アルモからいろいろ聞いていることもあって、ゴルガーラのことは知識として知っている。


「ああ。当てが外れて進展はない」

「……そうだな」


 手詰まり。


 そう思えるほどのものだ。


「……ハイライト・フェニクスに戻った。という話は本当だったようですね」

「「!?」」


 声をかけてきた方を見ると、黒い全身鎧を身にまとったリィラがいた。


「リィラ……」

「リィラ……ということは、黒騎士か」

「シャイアさんは初めてですね。黒騎士と呼ばれています。リィラと言います」

「……こんなところに何の用だ?」


 Sランクギルド、『漆黒の林檎』に所属するリィラ。


 現在Aランクギルドであるハイライト・フェニクスに対して用件があるとは思えない。


 そもそも、漆黒の林檎の運営方針は、『完全スカウト』に加えて、『一匹狼の寄り合い』に近い。


 高ランク冒険者は希少、かつ圧倒的な実力を持っているが、ソロで活動していると、どうしても『本人の事情』の部分が限られるため、『何かを断る際に、搦め手に弱い』のだ。


 冒険者の歴史は長いが、言い換えれば、それをあの手この手で嵌める手口の歴史も長い。


 ただ、ギルドの一員として活動する場合、『ギルドの方針』で一刀両断できる。


 寄り合いと言えど、そのラインナップは『凶悪』の一言で、周囲としてもあまり手を出したくないものになる。


 もちろん、最低限の仲間意識くらいは形成されるだろうが……基本的に『建前』のために存在するような集団だ。


 要するに。


 基本的に、『漆黒の林檎』と言うのは、他のギルドのことなんてどうでもいいのである。


「……興味深い単語を聞きまして。ゴルガーラと言いましたか?」

「そうだが……」

「ということは、宝箱の中に書かれていた古代文字は、ゴルガーラのことを書いていたのですね」

「……ああ、その通りだ」

「そうですか」


 頷くリィラだが、思ったほど意外性を感じているように見えない。


 ある程度予想を立てていたということなのか。それとも――。


「あああああああああああああああああああああっ!!」

「「「!?」」」


 三人の鼓膜を突き破るかのような悲鳴。


 悲鳴の発生源は……アルモとシャイアが使っている部屋。


「まさか……」

「ユズハ!」


 二人は駆け出した。


 寮に飛び込んで、階段を駆け上がり、鍵を開けて中に入る。


 ユズハがいる寝室の扉を開けると……。


「はぁ、はぁ! うぐっ! あああああっ!」


 ユズハの顔にある黒い痣。


 そこに、まるで亀裂のようなものが入り、赤いものが何か脈打っている。


「ユズハ!」


 シャイアがユズハを抱きしめる。


 そのまま、自分の魔力を解放して、ユズハの体に当てた。


 聖剣のギフトを持つシャイアの魔力は、ある程度、『神聖』の属性を有している。


 浄化とは異なるプロセスのため解決には至らないが、ある程度抑え込むことは不可能ではない。


「い、一体何が……」

「わからん。だが、このままはマズい……おい、アルモ。何か手に入れてこい!」

「わかった。ポーションでも何でも持ってくる。魔力枯渇で死ぬんじゃねえぞ!」

「当り前だ!」


 アルモは部屋を飛び出した。


 そのまま廊下の壁を越えて、地面に着地。


 近くにある薬屋に向けて走り出――


「少々お待ちを」

「なんだ! 今は――」


 リィラに止められ、強い口調で返すが……。


「鋼蛇将ゴルガーラが『女神の祝福を受けた』ということは、歴史の真実です」

「はっ?」

「結論を言います。鋼蛇将ゴルガーラは、『討伐後五秒以内』に限り、祝福の影響が残っています。そして、強く祝福が宿っているのは、心臓部の傍にある青い魔石です」


 リィラはユズハがいる部屋を見る。


 何かしらの『遠隔鑑定』を行使したのだろう。『呪い』が原因であると分かっている様子。


「討伐後五秒以内に、レベル6を『超える』錬金スキルを使ってください。私は低位の浄化が使えます。あのレベルの呪いに対しては本来微力ですが、あれほど神聖な魔力によるブーストがあれば、時間を伸ばせるでしょう」

「リィラ……」

「早くいきなさい」

「わ、わかった! 感謝する!」


 礼を言って踵を返すと、アルモは走り出した。


 鋼蛇将ゴルガーラがいるのは、ムストリア王国と隣国である帝国を分断するアイアロス山脈だ。


 言い換えれば、王国の最西端ともいえる場所となっている。


 普通なら、馬車を使って何日もかけるような行程が必要になる。


 しかし、そんな余裕はない。


 だからこそ、アルモは遠慮も容赦もしない。


 『敏捷強化レベル6』『反動軽減レベル6』『体幹強化レベル6』『視覚拡張レベル6』を複製し、『音速以降(マッハシフト)レベル6』に合成。


 『持続力強化レベル6』『体力効率強化レベル6』『制限解除レベル6』を複製し、『超動機関(ハイパーエンジン)レベル6』に合成。


 『直観レベル6』『範囲鑑定レベル6』『識別レベル6』『索敵レベル6』を複製し、『魔獣の瞳(ビーストアイズ)レベル6』に合成。


 『スキル複製レベル6』『分割思考レベル6』『高速思考レベル6』を複製し、『達人行程(マスタータスク)レベル6』に合成。


 『スキル合成レベル6』を五つに複製、『スキル合成第六層』に進化。


 『音速以降(マッハシフト)レベル6』『超動機関(ハイパーエンジン)レベル6』『魔獣の瞳(ビーストアイズ)レベル6』を、『達人行程(マスタータスク)レベル6』によって五つに複製、『スキル合成第六層』によって、それぞれを『第六層』に進化。


 よって……。


音速以降(マッハシフト)第六層』

超動機関(ハイパーエンジン)第六層』

魔獣の瞳(ビーストアイズ)第六層』


 三つを、同時に発動。


 目にも映らないような速度で、アルモはアイアロス山脈に駆けていく。



 ……瞬きを数回するころには見えなくなったアルモを背にして、リィラは呟く。


「貴方なら倒せるでしょう。時間は稼いでおきます。『賢者』に任せてください」


 実力だけで言えば、『黒騎士』としてではなく、『賢者』として、リィラは寮に入っていった。


 ★


 アイアロス山脈は、基本的に産業に対して恩恵を与えていない。


 ゴルガーラが自らの体を戻すために鉄が多く摂取するため、その鉄分が多く含まれていることは示唆されているが、鉱山として運用できるレベルの深さに関してはほぼ食いつくされている。

 その上、魔力を含んだ末に生成される様々な金属を食べるため、本当の意味で使い道がない。


 縦に長い山脈の中で、標高が浅い部分のほとんどは森林地帯だが、出現するモンスターが強力であり林業にも適さない。

 そもそも林業に関しては、王国の丈夫な樹が育つ苗が大昔に王国南方に持ち込まれたため、そちらが使われている。


 そんな山なので、帝国側としても、『山』に使い道はない。


 ただ、帝国からすれば、生態系にほとんど影響を与えず、そして研究し続けてきた上質な素材であるゴルガーラは狙いどころである。


 人の手の入り方が極端に限られた山脈。


 それがアイアロス山脈だ。


「はぁ、はぁ。ついたぞ……ここがアイアロス山脈か」


 アルモは山脈のふもとにある森林から見上げた。


 王国と帝国にとって、戦争が起こらないほどの分断力を発揮するゆえに、その存在感は圧倒的。


 ただ……そんな『漠然としたもの』など、今のアルモの『魔獣の瞳(ビーストアイズ)レベル6』には通用しない。


「……そこか」


 青い鱗を持つ『巨大な』蛇。

 それが鋼蛇将ゴルガーラだ。


 『長い』ではなく『巨大』という印象を人に与えるということは、それだけ体積もすさまじい。


 そのような存在感を持ち、そして『隠れる気がない蛇』など、遠くからでも見つけるのは簡単だ。


 一気に駆け抜ける。


 途中で遭遇するモンスターは、『急所命中レベル6』と『急所気絶レベル6』の二つを使って、遠くから飛ぶ斬撃を放って気絶させて対処する。


 他のモンスターは関係ない。


 今は、鋼蛇将ゴルガーラを討伐するのが何よりも最優先。


「そこをどけ。俺はテメエらには興味ないんだ!」


 そもそも、『憤怒レベル6』『威圧レベル6』『恐怖増幅レベル6』『恐怖萎縮レベル6』を使っているため、遭遇するモンスターもほとんどいない。


 アルモの『プレッシャー』の圏内に入ったモンスターは全て、生殺与奪を握られたかのように、委縮し、震えあがり、気絶し、幼体は泣き叫ぶ。


 アルモに遭遇するのは、そのプレッシャーを受けたうえで挑もうとする物好きか、そのプレッシャーにすら気が付かず、偶然通り道にいた鈍感なモンスターだけ。


 当然、彼らになど何も興味がないアルモは、急所気絶の斬撃を叩き込んで黙らせる。


 次々と森の中を突き進んでいき……やがて、並ぶ樹の高さは低くなり、ついに、樹が生えた場所はなくなった。


 それだけの標高に到達し……アルモは、『ソレ』を見る。


「……これが、鋼蛇将ゴルガーラか」


 かつては『闇爪(やみづめ)』と呼ばれた帝国の英雄が狩ることで研究されていたという、山脈を集団で横断する場合、必ず出会う番蛇(ばんじゃ)


 青い鱗で、長さは百メートルを優に超すレベル。


 当然、胴体の直径も長く、三メートル近い。


 そんな『怪物』が、樹すら生えない場所に佇んでいる。


「ふう……」


 『剣術スキルレベル6』を五つ複製し『剣術スキル第六層』に合成。


 『炎属性魔法レベル6』を五つ複製し『炎属性魔法第六層』に合成。


 合成してできた二つを、『炎属性剣術第六層』に合成。


 アルモが握る剣から炎が出現し、メラメラと燃え上がる。


 それを見たゴルガーラは、笑った。


 全身は鋼。

 しかも、多種多様な魔法金属を取り込み、それを『鍛えて』鋼にしたもの。


 中には耐熱性をもともと有するものもあり、合金として『耐熱鋼』と呼ばれるものだって作れるのだ。


 そんなゴルガーラを相手に、『炎』


 それをみて笑うのは、間違った判断ではない。


 ただ……様々な威圧スキルを今も開放しているのに、『闘技場にいたドラゴンと同じように、初見でアルモを過小評価している』のは、不自然とすら思われるが――


「先手を打たせてくれるのなら、そうさせてもらおうか!」


 突撃するアルモ。


 そのまま、燃え上がる剣を振りぬく。


「炎属性剣術第六層……『大閻魔(だいえんま)憤激剣(ふんげきけん)』!」


 叩き込まれる獄炎の斬撃。


 ゴルガーラは、鋼の鱗が焼き裂かれたことを理解する。


「KISYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 何故斬れたのか。


 いや、何故、斬ることができる人間だと分からなかったのか。


 いくらトカゲのしっぽ切りのように本体を地下に逃がせるとはいえ、コストは安くない。


 戦いに恐怖を感じることはないが、逆に言えば『余裕』かつ『冷静』という矛盾したそれすら体現する。


 麓より暴れながら来たのは分かっている。


 何故……。


「第六層……『炎竜(えんりゅう)一閃付(いっせんづ)き』!」


 爆炎の竜が剣に出現。


 それを見たゴルガーラは、口から魔力を固めてブレスをして放出する。


 膨大な魔力は普段現実に影響を与えないが、『外』に出し、圧縮して放てば、全てを破壊する。


 それを見たアルモは、速度で負けていると判断して、技を中断し離れた。


 地面に直撃したブレスは、爆風を発生させ、後には煙が立ち込める。


「チッ……第六層……『煉獄ノ月(れんごくのつき)』」


 真横に剣を振ると、三日月のような斬撃が放出され、煙を払う。


 そのまま、ゴルガーラの体を焼き裂く。


「……雰囲気が変わったな」


 アルモを見るゴルガーラの雰囲気に、油断は感じられない。


 しかし、そこに『恐怖』はない。


 絶対的優位性を感じるその視線は、アルモをまっすぐにとらえる。


「ただな……長期戦はする気はないし、何なら今はそれどころじゃない。次で終わらせる」


 剣を構えなおす。


 すると、そこから勢いよく、強い爆炎が吹き荒れる。


「SYAAA……」


 ゴルガーラも、アルモの『意思』を感じ取ったのか、口に魔力をため込む。


 轟々と燃え盛る炎と、うねりながら集まる膨大な魔力。


 鮮やかさとは無縁の、『勢い』に全てを乗せる一撃。


「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 ゴルガーラはブレスを放出する。


 それに対して、アルモは真正面から向かう。


 平地に住む蛇は、心臓が頭から比較的近い場所にある。


 元々ブレスを短い溜めで放てるのなら、下手に避けると読み合いが多くなって時間がかかる。


 勢いで攻めてきているのなら、それに真正面から打ち勝つのが手っ取り早い。


「炎属性剣術第六層・深淵……『獅子王大噴火(ししおうだいふんか)』!」


 灼熱の猛獣を思わせるオーラを身にまとい、アルモは突きを放つ。


 剣によって描かれるのは、獅子の爆炎の咆哮。


 ゴルガーラのブレスに衝突し、容易く、ブレスを貫いてゴルガーラの心臓に向かう。


「GISYAAAAAAAAAAAAAA!」


 本当にマズいことに気が付いたゴルガーラだったが、もう遅い。


 どれほどブレスの威力を上げようが、どれほどブレスの密度を高めようが、そんな『逐次投入』みたいな戦術など、意味がない。


 アルモが避けるという選択肢を取る可能性を加味した、『ブレスの中断と再放出』をするために抑えたもの。


 そう……。


 爆炎を纏うアルモが『全力でブレスに向かってくる』と、やはり『読めなかった』が故に。


 戦略として正しい予防線。


 しかし、それは単なる『隙』でしかない。


「おおおおおおおりゃあああああああああああああっ!」


 絶叫しながら、アルモは突きを蛇の心臓に突き立てる。


「GISYAAAAAAAAAAAAAA!……aa……」


 悲鳴を上げたゴルガーラだったが、それはすぐにうめき声になり……すぐに、声は消えた。


「!」


 『体力看破レベル6』により、ゴルガーラを倒したことを認識するアルモ。


 もちろん、『本体』を貫いた『直観』は働かないが……関係ない。


「おりゃ!」


 そのまま剣を振りぬいて、心臓の傍を焼き切る。


 本人の魔力によって守られていたのか、死亡した肉体は脆いもの。

 青く幻想的な光が宿る魔石が姿を現す。


 そして、剣を振りぬくと同時に構えていた『空のポーション瓶』に、『薬物錬金第六層』と『速攻錬金第六層』を乗せてぶん投げる。


 魔石に衝突した瓶から放たれた錬金術が、魔石を加工。


 不要な物がすべて取り除かれ……綺麗な青い水が、ポーションの瓶の中に入っていく。


「ぐっ……おりゃ!」


 『空中跳躍レベル6』を使用し、その瓶を掴む。


 瓶の口に蓋をして、しっかり占めた。


「よし……っと」


 錬金を終わらせて、地面に着地する。


「戻るぞ。待ってろよ。ユズハ」


 アルモは再び走り出す。


 ポーションの力を完全に発揮するためには、錬金して完成したものを全て飲ませる必要がある。


 ここでアルモがほんの少しだけ飲んだとして、その影響でユズハが治らなかったら意味がない。


 再び威圧のスキルを解放してモンスターたちを追い払いながら、山を下りていく。


「もう少し、もう少しで終わりだ。間に合え。間に合え!」


 そもそも、ここまでの動きのほとんどは、アルモの限界を超えた動き。


 体力も魔力も使いすぎで、体の至る所が悲鳴を上げている。

 だが、そんなものは、しっかり食べて寝れば治るようなもの。


 ユズハの『呪い』は、今しか治せない。

 ユズハのために調べて、戦ってきた。その『ゴール』が、もう目の前にある。


 アルモは、王都に向けて走り抜ける。






 ……ただ。


 そう、ただ、一つ。いうことがあるとすれば……。


 大成しないという意味がある『器用貧乏』のギフトを持つアルモが、帝国を散々悩ませているゴルガーラの『単騎討伐』を可能とするなど、本来(・・)、可能だろうか。


 いくら才能があるとはいえ、いくら束ねられるとはいえ……それでもアルモは、『中級上位』をこねくり回しているに過ぎない。


 レベル7以上の錬金を必要とリィラに言われ、『第六層』によって為しえた。

 それは本当に、『誰がやっても起こせること』だろうか。


 どれほど焦らないために努めているとはいえ、まだアルモは十と七しか生きていない少年。

 そんな少年が焦ることなど、誰も責められないこと。


 だからこそ、アルモは『矛盾』も、自らの『特異性』も、焦りによって気付いていない。


 アルモが『いつも通り』という認識で、これまでギフトに、スキルに向き合ってきたが故の、『彼の常識』をいくつも前提としている。


 絶対的な正解はなんだろうか。適切な回答はなんだろうか。

 今のアルモには、その『問題』すら認識できない。

 


 ……事実。

 そう、一つ、事実を上げるとすれば……。


 『幸せな世界の女神』は、『約束』を選ぶ。


 ★


「ユズハ!」


 王都に戻り、ハイライト・フェニクスの寮に戻ってきたアルモ。


 跳躍でそのまま彼らが使っているフロアまで飛びあがり、ドアを開ける。


 そして寝室に飛び込むと……。


 そこには、顔を青くしながらも魔力を流すシャイアと。


 肩で息をしつつ、浄化の光を流すリィラと。


 脈打つ赤い亀裂により、生気の失った瞳で、痙攣を繰り返すユズハがいた。


「ユズハ! ポーションを持ってきたぞ!」


 ユズハの傍に行って、ポーションの瓶のふたを開ける。


 すると……。


「んなっ……」


 うねるようにポーションの中身が瓶から出てきて、そのまま、ユズハの痣に向かって飛んでいく。


 まるで、ポーションそのものに意思があるかのような……。


「……こ、これは……」


 ポーションの中身が自ら動く。


 その光景を目にしたシャイアもまた驚いた様子。


「……あっ、えっ?」


 痣が、消えていく。


 先ほどまで、残酷なそれを発揮していたのに、それらが全て失われる。


 十秒にも満たない時間で、痣が……『完全に消えた』


「……お兄ちゃん。アルモさん。リィラさん」


 しっかりを開かれた眼には、元気な光が宿っている。


「ユズハあああああああああああああっ!」


 シャイアがユズハを力強く抱きしめる。


「よかった。本当に良かった! アルモ、よくやったぞ!」


 シャイアがアルモの方を向くと……。


「……」


 疲労でぶっ倒れていた。


「アルモ! 大丈夫か!」

「……極度の疲労で気絶していますね。この短時間で、王都とアイアロス山脈を往復したのですから、当然です」


 リィラが呟いて、とりあえず死に至ることはないと落ち着くシャイア。


「はぁ……ユズハ、どうだ?」

「体のだるさが全くありません。それに……三年間、ベッドに籠りきりだったのに、体力があふれるようです」

「……そうですか」


 ユズハの言葉を聞いて何かに『納得した』のか。リィラは頷いた。


「……リィラ。何か知ってるのか?」

「聖なる雫。と呼ばれるアイテムは有史以来いくつか存在しますが、おそらく、『天の霊薬』と呼ばれるアイテムでしょう」

「天の霊薬?」

「文献では、千年以上前に確認されたもの。当時も、『最高位の呪い』を解除するために使われたそうです」

「ほう……」

「どこかの国の王女を救うために、とある男が手にして英雄になったとか」

「……そんなアイテムなのか。それで今のユズハみたいに……そうだな。『全盛期』と呼べる状態になっていると?」

「はい。体力や活力に関するポーションは数多くありますし、呪いに効くポーションも多々ありますが……このレベルの呪いを解除しつつ、肉体を『全盛期』にさせるなど、他に知りません」


 明らかに持ちうる情報のレベルが段違いのリィラ。


 そんな彼女が語るとなれば、少なくとも、現段階でこの部屋にいる四人が知ることができる最適解は、このポーションが『天の霊薬』であったということになる。


「作成難易度は非常に高いはずですが……良く作成できたものです」

「どういうことだ?」

「厳密に言えば、今回の呪いを解くポーションは作れると思っていました。しかし、呪いを解くという意味で、『天の霊薬』は過剰です」

「そうか。まあ、なんか、昔から器用だったからな」


 シャイアは基本的に剣を振る才能があるだけ。


 アルモに関しては、なんとなく『凄いヤツ』という印象がある程度だ。


「……さて、呪いも解除できたことですから、私はこれで失礼します」

「浄化スキル。感謝する」

「感謝は受け取っておきます。が、微力ですから、気にする必要はありませんよ。それでは」


 言うが早いか、リィラはさっさと部屋を出ていった。


「……ん?」


 話に入ってこないユズハの方を見ると、彼女は、アルモの頭を自分の膝にのせて、やさしく頭を撫でていた。


「アルモさん。ありがとうございます」


 目にうっすらと涙をためて――


「……大好きです」


 ――そう、呟いたのだった。


 ★


 アルモとシャイアとユズハの三人が王都にやってきたのは、ユズハの呪いの解除のためだ。


 辺境である故郷の村にいるよりも、王都の方が情報が集まりやすく、そして流通も発達しているため、何かあった時にすぐにユズハを治療できる。


 故郷の村に来た男から、『ユズハの呪いを抑えるためには剣聖の魔力が必要だ』と言われたため、ということも確かだ。


 ただ、こうしてユズハの治療が完了した今、もう王都にいる意味はない。


「……黙って出てきてよかったのかね?」


 御者をしつつ、アルモは呟いた。


「フンッ! いつまでもあんなギルマスに付き合ってられん。どうせ用もないし、ポーションをくれるから手を組んでいただけだ」

「あ、あはは……」


 ふんぞり返っているシャイアと乾いた笑みを浮かべるユズハは、馬車の中だ。


 まあ、普通に考えれば距離があるので会話できないのだが、そこはアルモが魔法でちょっと弄れば会話可能である。


「それに、辞表は置いてきた。それを受理しないという権限は、Sランクでもないギルドのマスターにはないからな。バックレと言われれば否定はしないが、もうポーションもいらんのは事実」


 シャイアが言うように、辞表さえ老いておけば、基本的に『法律上の問題』はない。


 加えて、散々足元と見てきたギルドマスター。カリウスが嫌いになるのは必然だ。


 ほぼバックレになるが、別に責められたとしても痛くもかゆくもないのがシャイアの心臓である。


「まあ、それはそうなんだが……え?」


 急に驚いたような表情になるアルモ。


 以前、氷の巨浪を倒した森と森の間の道を抜けていたのだが、強力な熊のモンスターが、雄たけびと共に森から出てきたのである。


「……『パワフルベア』か。Aランクモンスターなんて今更だな」

「そうだな。ちょっと倒してくる」


 アルモは馬を止めて降りると、剣を構える。


 そのまま、剣に炎を纏わせて突撃した。


「ふう……んっ?」


 レベル6を解放しようとして、何故か、上手くいかない。


「なんだ? ……剣術レベル5、『フレイムネイル』!」


 一度に三つの炎の斬撃を叩き込む技。

 しかも、レベル5で、中級中位。


 相手はAランクモンスターだが、アルモの技量を前提とすれば、十分『戦術』として通用する。


「ガアアアアッ!」


 熊を切り裂く。


 ダメージは通っている。


 通っているし、十分『戦術』とは言えるのだが、効果が薄い。


「なんだ?」

「む? ……俺もやろう」


 シャイアが馬車から出てくる。


 聖剣はギルドの持ち物だったので持ってきていないが、その代わりに、業物の剣を持ってきた。


「聖剣スキルレベル……7。『ライト・ストーム』!」


 光の竜巻を発生させ、一閃。


 レベル7、要するに上級の技だ。しかし、思うように届かない。


「なんだ? 思うように体が動かん」

「俺もだ。なんか、上手く『乗らない』……」


 体の様子に違和感を覚える二人。


 別に負ける気はない。二人で挑めば十分。


 しかし、圧勝はない。

 以前の氷の巨浪の方が圧倒的に強いはずで、それと比べれば、正直に言って弱いのがこの熊だ。


「……」


 ユズハは、何となくその理由が分かっていた。


 アルモとシャイアは、今まで、『全力を出し続けて』きた。


 ユズハを治すために、常に焦りと不安を抱えながら、モンスターと戦い、情報を集めてきた。

 とてつもない集中力と無力感に晒される日々は、彼らに通常よりも高い『成長速度』をもたらす。


 体に叩き込まれた技術は本物だろう。

 しかし、もう彼らの『心』は、熱を帯びない。

 もうすでに、『ゴール』を過ぎた二人にとって、この熊は倒さなければならない敵にならない。


 今まで戦ってきたモンスターは、ポーションの支給数を盾に命令してきたクエストと、呪い解除のために必要な情報を探るうえで遭遇したモンスターだけ。


 言い換えれば、これまでの戦いには『目的』と、それを裏付ける『信念』があった。


 だが、ユズハの呪いが溶け、彼らにとっての『非日常』が終われば、技術だけが高い体に、集中力が追いつかない。


「そっか。そうだよね……『アトリエ』」


 ユズハは馬車の中で、自らのスキルを解放する。


 それは『作業場』であり、『工房』である空間を形成するもの。


 ユズハは自らの鞄に入れていた、二つの鉱石を取り出す。


 黒い鉱石と、白い鉱石。


 二つ同時に、スキルの力を行使した。


「……アレ?」


 使うのは本当に久しぶり。


 ただし、天の霊薬の時に受けた説明の、『全盛期』と言う単語を理解しているため、多少は優れたものができると思っていた。


 しかし、想定『以上』


 十秒にも満たない時間で作成された二本の剣は、黒と白の象徴であるかのように、その存在感を発揮している。


 ユズハは『アトリエ』の機能を使って鑑定した。


 白い剣は、『神聖剣祖(しんせいけんそ)ムゲンギンガ』

 黒い剣は、『万魔神剣(ばんましんけん)ヤオヨロズ』


 ……この世界のアイテムの『名』は、鑑定スキルの存在により、『もともと決まっている』というのが常識。


 もちろん、剣に愛称をつけるのは人それぞれだが、正式名称が決まっているのは事実であり、圧倒的な存在感を放っている。


 正式名称で、『神』の文字がつくなど、これまでに、どれほどの数だろうか。


「……まあ、いっか」


 ユズハは思考を放棄した。


「アルモさん! お兄ちゃん! 新しい剣を作りました!」


 そういって、柄の部分を前にしてぶん投げる。

 二人は振り向いた。


「おう、サンキュー! ってなんじゃこりゃ!?」

「なんだこの剣!?」


 アルモとシャイアもまた、想定を超える剣が手に渡り、困惑している様子。


「……あ、でも、すげえ振りやすい」

「俺もだ。手に馴染む」


 ユズハは、元々観察力が高い。


 それがアトリエの力によってブーストされ、三年前……カースド・ギガントを、まだ幼い三人が倒すという偉業を為したほどだ。


 天の霊薬によってその観察力は鋭い状態を保っており、技を一回見ただけで、適切な剣の形を割り出している。


「よし。やるか」

「ああ」


 もはや、語るまでもない。


 熊さんは倒されました。










 ……三人を乗せた馬車は、彼らの故郷に戻っていく。


 元気になったユズハと、成長した二人を見て、歓迎しない理由はない。


 三年以上前にユズハが作った道具は村の発展に貢献し、今ではそれ以上のアイテムを生み出せるユズハは、村にとってなくてはならない存在になる。


 そして、そのアイテムの性能を十分に発揮するアルモがいて、どんなモンスターが現れようと、シャイアが倒せる。


 ……『全盛期』の言葉は嘘ではないのか、ユズハの『アレ』がAAからDになったりしたが、それは割愛。


 あと、王都にいた頃の彼らは情報の取捨選択が重要だったため、面白い土産話がほとんどなかったことも突っ込まれたりしたが……。


 いずれにせよ、この三人が揃っている今、彼らの故郷は安泰だ。


 そして、いずれ、アルモとユズハは……いや、ここまでにしておこうか。野暮なことは言わないことにしよう。







 ★


「一応、どこに行くのか聞いていいか?」


 とある地下通路。


 そこには、ハイライト・フェニクスのギルドマスター。カリウスと、Sランク冒険者である『鉄槌』のフォードが『遭遇』していた。


「……お前に教える必要はない」

「いや、あの発表会でアンタを見て、調べたんだよ。それで分かった……質問を変えよう。『皇帝親衛軍第三席の右腕』……『魔の道化』シルバが、一体何をやってるんだ?」


 フォードがそういった瞬間、カリウスの体から闇の膜が現れた。


 それは彼の体を即座に包み込み……すぐになくなる。


 その中にいたのは、銀髪をオールバックにした、背筋の良い黒スーツの男性。


 鍛え上げられた肉体は、才能のある者が仕上げたことを思わせる美術品の域に達するレベルで、『隙』がない。


「よくわかりましたな」

「まあ、いろいろ引っかかることがあってね」

「フフッ、『その剣』を持っているということは、『賢者』ではなく『四源嬢(しげんじょう)』の入れ知恵ですな」


 フォードは剣を持っているようには見えない。


 しかし……シルバの言うことが真実ならば、フォードは『剣』を持っているのだろう。


「ああ、先生には今回、『漆黒の林檎へのスカウト権』がいくつか渡されてたが、特に何かする様子はなかったみたいだから、あの化石ババアの方からいろいろね。で、どういう事情?」

「簡単に言えば、『ファーロスの鍵盤』の暗躍の後始末」

「ああ、『あの闇市』で好き勝手やってる三人組か」

「ええ……三年前、『巨像封印の壺』を盗まれまして」

「あの壺か。てことは……三年前に騒がれた巨人は、『カースド・ギガント』じゃなくて『クリスティ・ゴーレム』ってことね。確かにそのレベルを擬態させられるのはアイツらくらいだ」

「フフッ、まさか、三人の幼い少年が倒したと聞いたときは驚きました。それと同時に、一人の少女が呪いにかかったと聞いたとき、『私が解決すべき』と判断し、活動していた。それだけのこと」

「……」


 シルバの言い分に対して、何か考えている様子のフォード。


「てことは、ハイライト・フェニクスは、アンタの部下の『役者の巣(アクトネスト)』ってわけか」

「もちろん。彼らには私の事情に巻き込んでしまったのは迷惑だったでしょうなぁ……ただ、誤算だったのは、やはり、呪いの威力」

「だろうね。『虚像封印の壺』は、確かに傷と毒を治療できるが、『呪い』には無影響だ」


 事実として、ポーションを見せびらかしていたハルヴェス自身、傷と毒には効くが、『呪い』については全く口にしなかった。


「ええ。遠い昔に身に着けた『司祭』の経験で、なんとかポーションに『呪い』への適合を加えましたが、作成できた数は少なかった。私も老いたものです」

「その呪いにかかった少女のために、なんとか情報をかき集めてたってわけね。アクアイン伯爵家の嫡男と付き合ってたのは、『裏』を作るためのカモフラージュか?」

「その通り」

「身分関係なしに三年前に王都に潜り込むとなれば……『あの事件』を考えると、確かに『悪徳マスター』が一番手っ取り早いか。それで、アンタにとってはどうでもいいポーションをあの坊ちゃんに渡してたわけね」

「よく頭が回りますな」

「これくらいはな。で……あの坊ちゃん。高ランクポーションを確保できるってことと、ついでにAランクギルドと懇意にしてるって感じで、第一王子に近づいてたが、今はどうなってるんだ?」

「それについてはいろいろ『裏』がありまして」

「……はぁ」


 まだ何かあるのか。と呆れるフォード。


「アクアイン伯爵家には借りがありまして、とある計画を持ち出されました」

「計画?」

「ハルヴェスは、実力はありますが素行が悪い。しかし、今の当主はあまり怒るのに向いた性格ではありません」

「妻の方はヤバいけどな」

「ええ。ただ、実績を示しており、目立った証拠のないハルヴェスを叱るに叱れず……私に芝居を打ってほしいと」

「ほう……ああ、なるほど、だから、妙に『情報を引っこ抜く』ような真似してたのか」

「ええ、プロの娼婦を帝国から呼びました、ハルヴェスと肉体関係もあった様子ですし……今頃、【ハイライト・フェニクスが、帝国民によって構成されたスパイギルドである】という情報と共に、ハルヴェスから抜き取った王国の情報を記したリストが、『第一王子』の下に送られているはず」

「それはまた……」


 要するに。

 ハルヴェスは今、『帝国の重鎮に情報を流しまくり、しかも、帝国の見知らぬ少女と肉体関係がある』という状態だ。


 伯爵家の嫡男として、子供ながら重要な情報を持っているはずだが、これは大変マズい。


 『激流眼』を含め、本人に実力はあるので、様々な社交界に出られるだろう。その上で、多くの情報を持っていたはず。


「追い打ちはまだあるな。『地の聖剣』は?」

「ここに」


 シルバが少し手を振ると、そこに一本の剣が出現する。

 まさしく、シャイアが使っていた『聖剣』だ。


「……なあ、それ、第一王子が管理してるやつだよね」

「ええ、ポーションとAランクギルドの看板を盾に、聖剣を第一王子から借りたようですな」

「よくもまあ第一王子も貸したもんだ」

「アクアイン伯爵家当主へのご機嫌取り。と私は踏んでますな」

「なるほど」


 いろいろ繋がってきたが……。


「ハルヴェス君。ヤバくないか?」

「ええ。懇意にしていたギルドはスパイ。情報は抜かれ、他国の娼婦と肉体関係を持ち、今はどこにその女性がいるのかわからない。オマケに、『地の聖剣』まで盗まれた」

「はぁ……まあ、どれだけ『実力』があろうと、『組織的な悪意』には勝てないってことでいい勉強になったかな」

「でしょうな。おそらく、伯爵家夫人から凄まじいお叱りを受けているころでしょう」

「……で、実際、アンタはそれに関してはどうするんだ?」

「私も伯爵家当主を敵に回すつもりはありませんし、これ以上は何も。借りは返した。それだけです」

「……はぁ」


 フォードは溜息を吐いた。


「結局残ってるのは、『ファーロスの鍵盤』か」

「ええ。壺を盗まれてから一か月で取り返せたのは、運が良かった。しかし……取り戻す際にうまく『抉られた』のは、やはり、老いましたな」

「あー。『浄化』のポーションを全然作れなかったのはそれも原因か」


 フォードの中では、彼の事前知識を含め、全てつながったらしい。


「知りたいことはわかった」

「そうですか。それでは、私はこれで……あ、そうそう」

「ん?」

「貴方を帝国に連れていこうとは、今更思いませんが……もう、『闇爪』を名乗る気はないと?」

「……ああ、今は、『鉄槌』で十分」

「そうですか。それではこれで」


 シルバはフォードに背を向けると、何も言わずに去っていった。


(……はぁ、四源嬢の化石ババアの言うとおりだったか)


 そんなことを内心で呟くと、フォードも地下通路から撤退した。


 ★


 一つ。


 一つだけ分岐点があるとすれば。

 それは、リィラ……いや、ライリー・ウェザリアスの、浄化スキル行使への見返り。


 今回、漆黒の林檎へのスカウト権が与えられていたことを考えれば、それを見返りに、彼女はアルモ、シャイア、ユズハの三人をスカウトできた。


 しかし、何の事情か、ライリーはスカウトすることはなく、三人は故郷へと帰っていく。


 これにより、『とある闇市』で活動している『ファーロスの鍵盤』と彼らが本格的に衝突することはなく、アルモやシャイアが、その戦いに巻き込まれることもない。

 ただ……もし彼らが『漆黒の林檎』に所属し、王都を拠点とした場合、彼らは戦いに巻き込まれるだろうか。


 ……議論するまでもない。

 まず、戦いに巻き込まれる。


 賢者のレポートをフォードが語り、ギフトへの『世間の動き』がある。

 ユズハは、『聖なる雫』である『天の霊薬』を飲み、宗教国家が喜んで話題にしそうな、『神』の力を持つ、『聖剣』と『魔剣』を作り上げた。


 しかし……王都南西に存在する彼らの故郷と、王国と帝国の『北』に存在する『世界最大の宗教国家』は、距離的な問題がある。


 問題はまだ、『とある闇市』にも存在する。

 ファーロスの鍵盤の『暗躍の実態』は不明なれど、おそらくその過程で、多くの犠牲が出ることは間違いなく、そこに、確かな実力者……何より、『優しい世界の女神』から施しを受けた者がいないのは、おそらく世界に大きな影響を与えるだろう。


 とまぁ、そんなIFを語ったところで、今回、彼らは故郷に帰ったわけで。遠く離れたアルモたちの『故郷』からすれば、遠い話であることに変わりはない。


 世界には『表に出ていない強者』がたくさんおり、アルモ達もその一部になるというだけの話だ。


 ただ、それだけの話である。


 一つだけ、事実を言えば……小さな『分岐点』により、一人の呪われた少女を犠牲とする物語は、終わりを迎えた。

もしよろしければ、ブックマークと高評価をお願いします。作者の励みになります。





あと、思ったよりいろいろ書けなかったので、連載版を計画。今は準備中です。


小さいものを言えば……極東だとか灼熱刀だとかいろいろ出したうえで、主人公の名前が或茂と漢字表記できなくはないことや、彼が使っている剣術が全て炎属性であることですかね。

これを始めにいろいろ書いていく予定なので、『それは面白そう』と思った方も、ブクマと高評価を是非、お願いします!

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