1章 3話
思わぬ襲撃を受けた今朝。アイラの判断によりその場をあとにし、小さな村を訪れる。俺はフードを深くかぶり顔を隠した。
「少しだけでも、食料を調達しなければいけません。村の方から頂けるといいのですが……」
あの森からこの村まではかなりの時間がかかった。日は既に南まで昇っている。
「昨日も何も食ってなかったしなァ。せめてユリスには腹いっぱい食わせねぇと」
そう言うと、グレゴリーの腹の虫が鳴いた。彼の体格からして相当な暴食だろう。俺も空腹だから、せめてパンの1枚でも欲しい。命がかかったこの旅に贅沢はいえない。
ここの村人は俺たちをみるなり、意味ありげな視線をよこして過ぎ去る。コソコソと内緒話をしている人もいた。話しかけて食べ物を恵んでもらえるような雰囲気ではない。
「おそらく、私たちが余所者だからでしょうね……申し訳ございません、ユリス様。食事は次の場所まで待てますか?東には大国があります」
「我は構わぬが、貴様らは平気なのか?余計な戦いをしたせいで疲れもたまっているだろう」
自分だけが特別扱いされている事に居心地の悪さを覚える。皆にも自分の体のことを心配してほしい。
「ユリスは今日、よく喋るね。珍しい」
「マール、ユリスの好意は感謝して受け取れや!」
ユリスはみんなとどんな関係を築いていたのだろう。今度会う時に聞いてみよう。
厳粛な村をでようと足を速める。ふと視線を感じた。普通の村人とは違う、明らかに物陰からの視線。だが、敵意のようなものは感じられなかった。
3人も気付いていたようで立ち止まる。すると視線はさっと消えた。俺は木箱に隠れた視線の正体を見つける。10歳くらいの男の子だった。
純粋無垢な瞳で俺の事を見上げてくる。
「あァ?なんだよ、このチビ」
後ろからグレゴリーが顔をのぞかせると、男の子は小さく息を吸った。たしかに、グレゴリーの見た目は想像以上に恐ろしい。子供から見た大人はただでさえ大きいのに、グレゴリーは巨人にも思えるだろう。
「グレゴリーさん、向こうに行っていてください」
あの優しいアイラにすら追い払われ、大きな背中は悲しそうだった。俺はしゃがんで目を合わせ、フードを少しあげて顔を見せた。この顔は無敵だと思ったからだ。
「小僧、我らに何か用でもあるのか?」
声のトーンを高くし、僅かに微笑んでみせる。男の子は少し顔を赤らめた。
「おにいちゃん、かっこいい……」
小さく呟いたその声には尊敬の念があった。
「そうですよ。この方は、とても勇敢なんです」
「頭もいいんだよ。私じゃ覚えられないことでも、すぐに覚えちゃうの」
2人が俺の事を褒め称える。正確には俺ではなくユリスだが。
「うわぁ、すごい……そうだ!おにいちゃんたち、お腹すいてるんだよね。僕の家にきていいよ!ご飯、少ししかないけど食べて行って!」
これはありがたい申し出だった。ユリスの容姿に感謝しなければ。