田舎に集まりし、面倒臭い僕ら(オタクども)5
適当に雑談を続けて、いつもよりも長く騒がしい昼飯の時間を過ごす。梶田があれやこれやと話してきて、箸ではなくカレーなので匙が進まない。俺たちが食べ終わると「男の子って食べるの早いね」とのんきな感想には「お前が喋ってばっかいるけんやろ」と突っ込む。えへへ、と笑いながら相変わらずのペースでカレーを食べ続ける。
途中、実夏夜は友達と遊ぶ約束があるといって出ていき、俺と仲村、梶田の同年代だけで話を続ける。優翔兄ちゃんずっと店にいて、途中父さんと母さんが来たが基本は俺たち三人の世界だった。
最初は梶田があれやこれやとこの島や学校、その他を一方的を訊いてきて、俺たちが適当に反応する会話だったが、ある話題に変わった瞬間俺たちの会話の流れが変わった。
そう、アニメの話になった。梶田が何気なく「私、ここってあのアニメに似ているよね、知っている? ばらかもんって田舎の書道アニメ」と話題に挙げた時、俺も仲村も頷いた。そこから話が広がって、三人ともオタクということを知った。
「ここってマジ田舎だよな。アニメ全然ねえんだもんな。それでウチが、なんかネットとか繋げるためにローカルでBS映るようにするとかなんとか、夏の間に行われる話」
「そうなの?」
「うっせえ、七時頃の夕方枠が消えて一番痛い地方民の苦しみがわかっかか! 結界師の黒芒楼編まで実はアニメがちゃんと続いていた事実を最近知ったとばい」
「深夜枠に移ったからな」
「その深夜枠がなかけんな。最近深夜枠幾つか出てきたばってん、あの頃って銀魂もべるぜバブも日曜の朝の七時のバトスピで被っとたけんな。その枠も宇宙兄弟と無くなったばってん」
「べるぜバブはともかく、銀魂ってその時間帯なのか?」
「え、べるぜバブって一緒だったの?」
そんな話で色々とアニメ漫画の話で盛り上がる。こんな話が兄弟以外でできたのはだいぶ久しぶりだった。中学上がる前はいつもこんな風にあいつらともバカみたいに話していたこともあった。
楽しさと懐かしさ、そしてほんの少しの恐怖心が生まれて、俺の心は理性が芽生えさせる。
あまり期待するな。コイツらもアイツらと時期に一緒になる。
理性は耳元でささやく。それに俺は分かっていると答える。
梶田は別に構わないかもしれない、今だけ、この夏の間だけ。この一時の付き合いでしかない。
だけど仲村は別だ。コイツも、卒業するまでの間の短いようで長い付き合い、ひょっとすると高校も一緒になるかもしれないけど、でもコイツもいつかアニメとかに飽きが来て、そして離れていくのかもしれない。
そして馬鹿にして、大人になっていく。……だからいつか終わるかもしれない関係だと、今だけの関係だとちゃんと深く心に刻み込んでいなければいけない。
そう言い聞かせながら、だけど、今は……。今だけは、久しぶりの話せる友達の存在との時間を楽しむことにしよう。
「アニメば、神奈川に兄貴がいるから盆と正月くらいに帰省来た時に録画ば持ってくるけんね」
「それで見てるんだ。はあ~、そうなんだ。田舎だね!」
「喧嘩売っとっとか、お前は?」
「ええ!? 違うよ!!」
「なるほどな、レンタルとかできるところもなさそうだもんな」
「TSUTAYAが静凉っていう、ようは本島があるけん、そこに借りてこようと思えば借りられるけど、けど船賃かかるし兄貴とか姉とかが高校とかで通いや寮生活の時に定期があるからその時に頼むとか」
「ああ、そこで節約でするわけだ」
「??? え、え、どういうこと、どういうこと?」
「だからレンタルよりか漫画とか小説を買うな」
「そっちの方がいいだろうな。ちなみに何読んでる?」
「リゼロとかこのすばとか」
「アニメ面白いぞあれ」
「このすば面白いよね。めぐみんが爆裂魔法でなんか、あの、城壊して「こら!」って暗黒騎士が来るの」
「暗黒騎士っていうか、デュラハンな」
「それそれ!」
そんな感じに会話を弾ませる。この島のアニメ事情やゲーム漫画どうしているのか、好きなアニメ漫画ゲームは? 好きなキャラ? 好きなシーン? 好きな台詞? なんであのアニメはオリ展開で終わったのか、あの漫画好きだったのにすぐに終わって残念だった、ゲームの続編を待っているなど、話題は移り変わっては盛り上がっていく。
一番濃く色々と知っていたのは都会育ちの仲村はネットや学校の友達と色々話していて詳しくいわゆる裏事情とか専門的なあれやこれや話してくれた。
俺は何となく噛み砕いて理解し、梶田はアホなのでちょいちょい「え、どういうこと?」訊ねてくる。一応二人で捕捉してやるがそれでも分からないため諦めて話題に戻る。梶田はアニメをメインにしているようで動画サイトを使って色々と観ているらしい。が、内容の理解が浅い。まあアニメだけだと説明がだいぶ省かれる、内容の話だけするなら原作の漫画と小説を読んでいる俺の方が仲村と話しについていき、梶田が興味深さそうに聞きに入る。
梶田が話題を振って、俺と仲村が話題を広げていき、最終的に梶田が聞き入れる形を繰り返す。
話からして梶田はアニメ派、仲村が全般、俺は書籍、といった感じか。
「あはは、なんかいいよね。こういうの!」
突然梶田がそんなことを言ってきた。何が、と俺達が不思議そうな顔になって無言で訊ねると梶田はニコニコしたまま少し照れた調子で答える。
「えーと、ほら、もう私たちって……友達だよね!」
「「…………」」
「……え? 違うの?」
俺達は互いに顔を見合わせる。梶田は微妙な態度をとる俺達の反応を見て曇らせて不安そうになる。
「その、女の子と……私とは、友達になりたくなかったの?」
「いや、いきなり言うから驚いただけだ」
「わざわざそがんこつ言わんどもん。友達とかそういうの」
目を逸らしながら続ける。
「というかお前はおかんに残る、と言った時点で友達のつもりだったならそれでよかろもん」
「いきなり同席してくる図々しい奴だしな」
「そがんやったな」
思い出して、ハハハ、と馬鹿にするように笑う俺達。その様子に硬直してまじまじとみる梶田の様子に馬鹿にし過ぎたか、と心配して一度笑うのをやめる。…怒ったか?
「私たちって……友達? もうちゃんと友達でいいんだ……。うん、うん!」
「なん、そん、友達と絶交して以来久しぶりに友達ができた奴みたか反応は」
今の俺かよ。心でも読んだのか?
眉を顰めてみると、アホそうにえへへ、と嬉しそうに笑っている梶田は「そういうのじゃないよ」と否定する。よくわからない奴だ。
「遊ぼう!」
「「はあ?」」
突如、立ち上がり堂々と胸張って告げてくる。
「遊ぼう! なんかして遊ぼう」
「今駄弁って遊んでじゃん」
仲村が突っ込みに梶田は「ち~が~う~の!」と言葉に合わせて大きく体をくねらせる。なんだその意味のない無駄な大きな動きは。小さい子供って意見を主張する時よくわからない動きをみせるけど、コイツほんと精神面がうちのチビ達と同等くらいの感じ出してくるな。
「お喋りだけってなんか勿体ない! もっとこう、遊びたい! 青春? みたいな一夏の何かしたい!」
「青春漫画読んで感化されるタイプか……」
仲村がボヤくのを聞いてなるほどなと頷いた。友達のワードでオタク特融の気持ち悪い青春メーターが看過してテンションが上がった興奮状態になっているのか。友達がいない俺も気を付けないとな。
「何して遊ぶ!? 空地で野球する? あれ、私、雷親父の植木鉢割ってみんなで走って遊ぶことやりたい!」
「それは遊びじゃなかわ、ドラえもんしかやらんどもん、何なら最近のドラえもんですら今日日見らんわ。雷さん」
「サザエさんで見たよ!」
「そこはもうほぼ一緒やろもん、あれだろマスオ兄さんを珍しく野球誘ったと思ったらボール取ってこい、とかカツオが言うやつやろ?」
「いや、竹箒をバット代わりにしたサザエさんかもしれないだろ?」
面倒くさそうにしながらも鋭く突っ込みを入れる仲村に俺は続けた。どっちでもいいよ! と話題振ってきておきながら梶田は「なんかして遊ぼうよ」ともう一度誘いの言葉を告げてくる。はあ、と面倒くさそうなため息を漏らして仲村は言う。
「別にここで駄弁るだけでもいいだろ? 外暑いから出たくない」
「にゃんにゃくな!」
にゃんにゃくな? たぶん「軟弱な」と言いたかったのだろう。けれど梶田自身は言い直そうとしない。自分では気づいていないのか? 察するに噛んだというよりもテンションに口がついていかなかったか。
「そうだよ、俺はにゃんにゃくだ」
仲村はからかっているのか顔こそ普通のまま合わせて返してみせた。なんか「俺の体はボドボドだ」みたいなこと言ってんな、コイツら。
「せっかくの南の島なんだから外で遊びたい」
「ほらよく考えてみろ。旅行で南の島来たら大体殺人事件が起きるだろ? で結局ずっと家の中にいるだろ? つまり南の島では外じゃなくて家の中にいろってことだよ」
「どんな暴論!? 絶対死ぬじゃん! 殺人鬼と一緒にいられるか部屋にいる、で死んじゃうパターンじゃん!」
「毎回思うけど、その人が犯人に恨まれていなかったらそのやり方は実は正しい対処方法なんだよな。お前らはどう思う?」
「だいたいそるって結局一番信頼できる奴が部屋さん来たけんって理由で油断して中入れて殺すけんな。つまり絶対に人間を信頼すんなって話やしな」
「だろ、つまり人間不信の引きこもりぼっちって実は現実は最強ポジションで、推理ものあれって実は間違いなんだよな。人間強度が大事って」
「そがんなゃ。一番強かなゃ~」
「え? どういうことどういうこと?」
仲村の雑な話に適当に受け答えをして、話にちゃんとついていけてない梶田だけ疑問符を浮かべていた。この手の会話は理解じゃなくて適当に合わせた受け答えだ。説明とか理解とか二の次でただ話を盛り上げるためだけのそれ。簡単に言えば「それな」のやり取りと一緒。そして梶田が俺達の会話で大体置いて行かれるのはこのパターンだ。
この会話の慣れていない感とさっきの友達からテンションの上がり用も考えて、マジでこいつぼっちっぽいな。
そんな分析しつつ、外で遊びたいという話は流れた。仲村の計画通りに事が運んだのだな。仲村の作戦勝ち。
「あ~、もうそんなことよりも外行こう、遊ぼうよ!」
と思ったら誤魔化しは利かずに吹っ切って話を戻す。
「いや、外は殺人鬼がうろついているから」
「うろついとらんわ! ここばをなんとおもっとっとか! ウチ殺してくれよかい」
もう一度適当に誤魔化そうとする仲村の言葉に半笑い半キレで突っ込む。まさか俺が裏切るとは思わず、え、いやそういう意味じゃあ……と動揺した顔をする。俺は地元を馬鹿されると冗談と分かっていても割とキレるぞ。
まだそこまでの仲を築けていない俺達。ついでにムッとした表情になった梶田は仲村の方に向いていたのに俺の方に向き直って言ってくる。
「そんな殺すとか簡単に使っちゃあダメだよ、命大事!」
「ウチ殺すっていうとは、銃とかの撃つじゃなくてバットで打つとかの方。だけん意味は殺すじゃなくて、『ぶちのめすぞ』とか『ぶん殴る』って方言。殺すなんて言葉、俺がそがん簡単に使うわけなかろもん。ぶち殺すぞ」
「あ、そうなんだ。じゃあいいや」
「いやよくねえよ。喧嘩なるぞ。というか最後のは明らかに『ぶち殺すぞ』だったよな? 『ウチ』じゃなかったよな!?」
「え、でもほら男の子同士ならは喧嘩の一つや二つしなきゃあ。喧嘩百回っていうし」
「婦女子、というかサイコパスの思考かよお前は。喧嘩百回って聞いたことねえよ」
天然ボケに突っ込む仲村。
……ああ、遅まきに思い出したが『現場百回』だ。梶田が言いたかったことは。『喧嘩』『現場』まあ発音自体も似てなくもないか。どうりで一回聞いた時違和感なくて仲村の方に突っ込もうかと思ったわ。よかった、変に突っ込まずに冷静に思い出せて、梶田と同等にアホだと思われるところだった。
内心で安堵しつつ、梶田と仲村の無駄な言い合いは続いていた。遊びたいあれやこれやと言ってくる梶田と家に引きこもっていたい仲村の二人の平行線を見て、
「面倒癖え、なら海さん行くか?」
梶田の方に助け船を出す。海だけに。
え、ほんと? と喜ぶ梶田と仲村からは「おい」と責め立てる目を向けてくる。「この手アホは一回海に落とせば頭を冷やすど」と適当なことを言うと「ひでえなおい」と突っ込む。梶田は海に目を輝かせて俺の外道は耳に入れていない。
「うん海行こう海! 泳ごう! 泳げないけど、泳ぎ教えて! あの、手を引っ張って教えるやつやって!」
テンションのギアがもう一段回上がったように声が大きくなり、ワクワクを抑えられない調子になる梶田に対して、仲村はブレーキをかける。
「ま、待てお前は。……その恰好で泳ぐ気か?」
「あ、水着が必要か……貸してくれる?」
「持っているわけねえだろ。俺たちは男だぞ。パンツ一丁で行く気か?」
「大体海に行くつっても海岸に降りるだけ。泳がんわ」
俺が泳ぎではなく、海岸に降りるだけと告げると梶田は途端に不満そうな顔になる。当たり前だ、お前が騒がしいから外に出るだけだ。
それに父さんと母さんがもう店にいる以上そろそろ出なくては後々うるさい。優翔兄ちゃんと父さんはともかく、母さんがあんまり客以外で俺ら子供とか、その友達を店に置きたくないって人だ。ようは遊び場にするなって意味合いで。
度々さっきから母さんが俺に対して、そいつら連れて出ていけの視線がつらい。
食べた皿を適当に重ねながら片づけを始める。「おい、マジでいくのかよ」と抗議の声を上げるが、俺はそれを無視する。梶田は俺に倣って片づけを手伝う。
片づけを終えると俺を先頭に梶田、仲村の順で店を出る。自転車は……置いていく。仲村となら二人乗りでよかったが三人だと流石に無理だ。
海は引き潮で今なら丁度海岸にも降りられるか。しばらく歩いた所に降りられる場所があるためそこを目指して歩く。
「それに海に泳ぐとにわざわざ水着に着替えんどもん。アニメとか漫画じゃああるまい」
「はい?」
さっきの話の続きでそういうと仲村は聞き取れなかったのか、聞き返すようにして応答する。梶田も理解できないというような顔。
「だからこのまま入っど? 水着って魅せるためのもんだし? 海に入るときは普通着らんぞ」
「………お前何言ってんの?」
仲村から、本気で何を言ってんだコイツ、という信じられない者を見る目で見られた。梶田からは、おおっ! と面白いもの知ったような興味惹かれた目になる。
? なんか話がかみ合わないな。
「なんだ? 海に入るときって水着じゃなくて」
「そのまんま」
「え、ってことは私このまま入っていいの?」
「そがんわけなかろもん、お前がイチバン……ウチ殺すぞ」
「なんで!?」
梶田が声を荒げる。着替えがなかろもん、と言って梶田の疑問を解消する。が、仲村はその説明では納得できない。
「そういうことじゃなくてな。なんだ、この島って海はいるときって衣服のまま入るのか?」
「だけんそがん言っとるやん。なんば聞いっとっとか?」
「明らかにお前の説明が悪いだろう。俺も海って何気にこの島が始めてだから知らんけど、こういう海の近くに住む奴って水着に着替えないでそのまんまが基本なのか? 『よし海で泳ごう』でザブーン、って入るのが」
「普通普通」
「危なくないかそれ? 服の重みで沈むとか」
「夏の薄着でん沈むアホはおらんわ」
「私のは?」
「お前は泳げねえって自分から言ったどもん。恰好関係なかわ」
海で泳ぎたい欲求は変わらない梶田にため息を吐きながら歩みを進める。すると進んでいた前方の反対車線から見知った影が三つ。
「…………」
「…………」
一度視線が合う。その後後ろの仲村、梶田の姿を見て、もう一度俺……いや、景色として捉えてアイツらは通り過ぎていく。
ある程度距離が開くと三者の声が聞こえてくる。聞こえてくる内容から仲村達への好奇心の言葉が聞き取れる。当然、それは二人にも伝わってくる。
「ねえ、今の人たちって夕弌君の知り合い? 友達」
「アイツらってこの間の友達か」
「べっ、つ~に」
「え、でも」
「ああ、そうか」
梶田が何か言おうとするけど、空気を読んだ仲村はそれ遮って話を無理矢理終わらせる。梶田はそれでも続けようとするけど、仲村が適当に話題を振って話を逸らした。俺はそれを耳にしながら黙って先に進んだ。