澄んだ青空よりも嵐の前の曇天の僕ら(オタクども)4
時間が流れ、やがて十二時を告げる放送音が島中に響いて俺達は顔を上げた。
「もう昼か、どうする?」
「ラーメンとかなかと?」
「え? ここで食うのか?」
「普段店で食っととやけん、たまにはご馳走せえ」
さらっとラーメンを要求した横暴な態度に困惑したが、ご馳走させてもらっていることを言われたら何も言えなくなる。
ちょっと待ってろ、と俺は調理場に足を運ぶ。
カップラーメンあったかな? 確かこの間じいちゃんがラーメンを作ってくれたし、ラーメン自体はあると思うが、できればカップ麺の方が。ラーメン作ったことねえし。
あっちこっち棚を探してみるが、うまかっちゃんは見つかったけどカップ麺は見つからなかった。……作り方自体は袋の裏に書いているけど、まあ、ポットのお湯で入れればなんとくなるわけじゃないことわかってはいたさ。鍋で湯を沸かせばいいんだろ?
でも問題はそこじゃないんだよ。こういう時に一番悩むのが冷蔵庫の具材とか勝手に使っていいのかな、ってこと。じいちゃんとか父さんが夕飯とか明日に料理に何か使うんじゃあないかと思って迂闊に使えない。あと、肉とか野菜とか切る時に包丁とか使うのが普通に怖い。指とか斬りそうで。先端恐怖症だから。
冷蔵庫の中身を確認して眉に皺寄せて考えから冷蔵庫の扉を閉める。……よし、麵だけでいっか。ほら素麺だって、麺とつゆだけの食いもんだし、同じ麺類なら同じ理屈で行けるだろう。
そう決めてたら鍋に湯を沸かして、ぐつぐつとなったところでラーメンを入れて柔らかくなるのを以って、スープの素を入れて、混ぜ回してスープの味が染まったら器に移す……あちち!
移す際に雫が飛んで手に当たってしまった。手をブンブン振って冷やして、熱々の水滴を飛ばして火傷せずに済む。
熱っつ熱つのラーメンを二つお盆に乗せて杉田の所に運んでいく。
「なん、麺だけか?」
「……具になるのが何もなかったんだ」
さらっとそれっぽいことを言うと、「別によかばってん」と適当に返してラーメンを綴る杉田は「ん?」と何かに気づいたようにしてスープを飲む。
「味薄かなゃ、……水が多か。だけんまずか」
「え? お前俺が折角作ったのに………あ、まじぃなこれ」
人が折角作ったものを、とブツブツ文句言ってやろうかと思ったが、食ってみると杉田の言う通り本気でまずかった。
え、ラーメンって水が多いとこんな不味いの?
「うまかっちゃんって麺だけだと不味いんだな……」
「そがんわけあるか、胡椒もってこい! あるいは七味とかそがんと」
「マヨネーズでいいか?」
「デブじゃあなかわ! んなもんラーメンに入れんな!」
提案してみるもどうやら杉田はデブでもなければマヨラーでもないらしい。マヨネーズラーメンって案外イケるらしいと聞いたが。まあ、例え逆の立場で出されても俺は絶対に食わないけどな!
急いで台所に戻って胡椒や七味や一味、塩、醤油、ついでにマヨネーズにケッチャプ、ソースと使えそうなものを選んで持って行った。
手に一杯調味料を持った俺を見て、杉田は呆れたような目を向けてくる「なんでそがん持ってくっとや……」と呟き、「いや、せっかくだからアニメみたくメシマズ回にしてやろうかと」と適当に返す。
「とりあえず、このわさびとかいいじゃあねえか? わさび醤油で刺身食うじゃん。わさび醤油ラーメンならイケるだろ?」
「からし高菜の存在知らんとか? お前は……。いいから胡椒くれ」
え、からし高菜とかあんの? 不味そう、絶対食いたくねえな。
「ほれ、ケッチャプにマヨネーズにチーズ」
「ピザトーストじゃあなかっとど! すんなら自分のでせんか!」
「そんな明らかに地雷臭するメシマズ食ったらお腹壊しちゃうだろうが!! 俺はお腹弱いんだぞ!」
「俺もそがんと食うわけなかどもん」
と杉田は自分で胡椒と醤油をとって、器の中に多めに入れて、俺の作った薄味ラーメンの味を変えていく。それ見かねて俺も調味料の一つに手を伸ばす。
「よし、隠し味の砂糖は?」
「いらん! やめろ、マジで殴っぞ!」
冗談で大匙一杯の砂糖の山を掬って、杉田の器の中に入れようとするとガチで拒否られた。本気で殴ってきそうな怖い顔をされて俺は素直に引っ込めることにする。
俺も杉田に習って一味で何とか味を付けてみる。薄味だったラーメンが、少しだけ辛みが出てきて味が悪くなくなった。ラーメンを啜る。
「……なんか、つまんねえな」
「やりたかったら自分でやれ」
「他人がやって失敗するのが良いんだろうが」
「そるは分かるばってん」
眉を顰めながらも同意してくる杉田。
……こう、イジメとかとは違うんだけど、こういう時は率先して失敗するタイプ、いわゆるボケ役で美味しい役っていうのが一番なんだけど、どうも俺も杉田も自分に保険や保身をかけるタイプだ。
正直、杉田ならこの手の悪ノリには乗ってくるタイプと思ったが、どうやら飯のこととなるとそれは別らしい。……飯屋だから食事については真面目になるのか? 『ご飯で遊んではいけません』的な。
もし、この場に梶田がいたら、アイツらなら悪ノリとか違って天然で率先して色んな調味料を混ぜって『うぅ、不味い』とか『わあ、おいしいこれイケるよ!』とかそんな反応をしてくれそうだが。
「なんか、こういう時ってバカみたいにはしゃいだ方がいいと思うな、俺は。所謂キャラ作りとか日常回とかの取材ってことで」
わざと嫌味たらしく言ってみる。半分は冗談のつもりだが、少しはマジな話だ。
今言ったことを考えると梶田は合格で、杉田は不合格だろう。
日常をただの日常として流すんじゃなくて、ギャグの要素を取り入れる。物語としてはそういうのが必要だ。俺? 俺は視聴者で。
杉田の箸がピタリと止まり、俺を一度細めた目で睨んできては肩を竦めるような態度になる。
「分からんくもなかばってん、飯は飯で普通に食いたかね。料理して失敗したヤツば食うとならばともかく」
「料理なら俺が失敗して作ったやつがここに」
「だけん、こん時点でお前の言う日常回は成立やんけ」
と、俺の料理自体が日常回としての話は成立しているという論法で切り返してくる。お、なるほど。俺は杉田の返し方に少しだけ舌を巻く。ついでに味変したラーメンにも舌を巻いた。少し辛い。
「でもパンチとして弱い感がないか?」
「水が多かって言っとるやん」
「いや、ラーメンじゃなくて、ラーメンだけど……話題の盛り上がりに欠けているとか、そういう話の方」
杉田は心底面倒臭そうな顔する。
「なん? 漫画みたく悪ふざけとかそがんとばせろと? あんなゃ、飯はなゃ、他ん生き物の命ば食っととやけん。ふざけたら駄目さい。そりゃあ、アニメとかの話なら笑いば取れる、ネタとしてウケられて大丈夫かもしれんばってんさ、現実で失敗以外でのマズ飯は許せん。食べるって字は『人ば良くする』と書くとぞ。良くしてくれるもんに自分から悪くするのはどがんなゃ」
「お、おう……」
すげえ、説教臭い真面目なこと言われた。
いや、俺も別に悪ふざけで飯マズしたいとかじゃなくて、ただ冗談で調味料で組み合わせ次第で味がどう変わるかな、と……言ってみればファミレスのドリンクバーの組み合わせで遊ぶような感じで盛り上がりたいだけの話のつもりだったんだが。
どうやら飯屋の息子であるから食事に関してのおふざけは許せない人種らしい。
少しの間だけ気まずい空気を感じていると、杉田も少し言い過ぎたかと罰悪そうな顔をしながら、残りのラーメンの汁を啜りきる。
「台所、借りっど」
杉田はそう言って器を持っていた。てっきり炊事場に持っていき、自分の分の洗い物は片づけてくると思って「別に片づけくらいしなくても」というが、「違う、たらんけん俺が勝手に作るぞ」ととんでもないことを言い出した。人ン家で勝手に料理するなよ。……いや勝手ではないかこの場合は。許可自体はちゃんと聞いてきたから。OKはしていないけど。
やめさせようかと思ったが、杉田に「もう少し面白い要素が欲しい」と焚きつけたのは俺なのでせっかくやる気を出した料理パートになるので「あんまり下手にいじるなよ」とだけ注意しておく。
杉田はそれが聞こえたのか、聞こえていないのか、ぶつぶつと冷蔵庫の中身など見聞しながらテキパキと料理に入る。……他人の家の夕飯に使う材料とか普通気にしない?
一体何をやっているのか気になったが、ここは料理漫画の如く出来上がるのを残りの不味いラーメンを食いながら待つ。
やがて出来上がって、杉田は調理したものを運んでくる。出されたのはよく店で見るナスの和え物、キュウリの塩漬け、とゴーヤと鰹節を混ぜたもの、という四品とそこに白米。……なんか飯のメインがない副菜のみで構成された品の数々で……あるいは酒の摘みの品というに相応しい品々だった。
「飯あんなら出せや。ラーメンの汁と混ぜて食えたとば」
と杉田はラーメンの残り汁でおこわ風にするのが好きみたいだったらしい。ちなみに俺はそれは嫌いだ。なんか、ぐちゃぐちゃした見た目であんまり美味しくなさそうだし、実際あまり美味しいとは感じられない。すき焼きとかなら滅茶苦茶美味いんだけど。
「美味そうなんだけど、なんか肉系が欲しいな。唐揚げとか」
「流石に肉とかは何に使うとか分からんけんなゃ、流石に手に出せん。あ、ゆで卵は今湯がいとるけんと」
野菜は一本ずつ使ったけん問題なかよ、と最小限で作ったことを告げてくる。ちゃんと夕飯の心配はしてくれたのか。まあ、それくらいなら別に夕食に影響はないだろう。調理場からぐつぐつと音を立てているのはゆで卵らしい。茹で上がるのにもう少しだけ時間がかかるようだ。
「それもそれで酒の肴感あるけど。……あと俺ゴーヤ食えないんだけど」
苦いからゴーヤは食えない。ついでに皆大っ嫌いのピーマンも食えない。野菜としては後キノコと人参とほうれん草と……他には色々とあるがその辺についてはまあ、嫌いではあるが我慢して食える。だけど、ゴーヤとピーマンはマジで無理。苦くて食いたくねえ。
自分でも分かるくらいに嫌な顔で拒絶の意を表していると、杉田はそのゴーヤを一つまみして自分で味わいながら、うんうん、と頷いてから白米を食らってから言う。
「いいけん食ってみぃ、そっが一番美味かけん」
もう一つまみというよりもだいぶ取ってからご飯の上に乗せて食らって、ナスの和え物、キュウリの塩漬けを次々に口にしていく。
俺は仕方なく、一口だけ、一切れだけゴーヤを食ってみることにする。
………ポリ………。……アレ?
もう一つまみして味を確かめてみる。
ポリ、……ポリ、ポリ。……ポリポリポリポリ。
「アレ? これあんま苦くない? 普通に美味い。というかご飯に合うな!」
食べてみたら案外美味かった。ゴーヤの苦み自体はちゃんと存在する。だけど、めちゃくちゃ苦いってほどじゃなくて、苦みが最小限でこれなら俺でも食べる。
「ゴマとカツオ節、醤油が良い感じに混ざってからゴーヤの苦みば抑えてくれとるけん、そして飯とよう合う」
杉田の言う通りこのゴーヤ料理は白米とよく合う。醤油とカツオ節の風味からかこれならふりかけ的な感じの合わせ技で白米の上にのっけて食べられる。
「なんだこれ? まるで異世界転生でも来た主人公から、『わかっちゃいねえな、これはこうやって調理するんだ!』とメシウマ回の如く!」
メシウマ漫画の如くリピートとしながら俺はモリモリと食っていると、杉田は、あ~と気がかりを見つけてどうでもよさそうな調子で言う。
「……前から思っとたんやばってん、異世界の飯うまってよぅあるけどさ、あるって現実的にどがんやろうなゃ」
「何が?」
「いや、単純な味付けの話になっとやばってん。あるって、普段薄味ばっか、あるいはほとんど味がせんもんばっか食っとるもん、ソースとかそがんとで濃か味にされとっとば食うって、普通に舌の刺激でやられて、最悪腹下すぞ。アレ。胃が受け付けん」
「は? ああ、まあ、そうなる……のか?」
意外にもまともな意見を言われて驚く。腹を下すは少しいい過ぎだと思うが、確かに何が何でも合うという考え自体は間違っていないのかも? 俺自身、食に関して好き嫌いが多い方だし。
「日本人の料理は日本人の舌にできとるけんね。店のキャッチフレーズに本場の味、ってあるばっけん、アレも大半は日本人にあわせとるけんね」
「そうなのか?」
そがん、とモグモグと白米を口の中にかっ食らいながら頷く。その後、麦茶を飲み干して、っぱー、と酒でも飲んだかのように一息吐く。
「日本の食文化は確かに凄かばってん、他ん国じゃあまんま日本の料理ば出しても通用せんとだって、やっぱ国が違うけん舌が全然合わん。って優翔兄ちゃんが修行時代にフランス? アメリカ? 忘れたばっけん、料理の勉強で外国に留学したことがあって帰ってきた時にそがんこついうっとった」
「え? お前の兄ちゃんって料理の勉強で留学してたのか?」
あのお兄ちゃんにそんな過去があったことが驚きだった。
てっきり異世界料理無双に文句垂れてくるもんだから、ただのアンチ系かと思っていたらちゃんと考えがあってのもの。飯屋の子供として、あのお兄さんが留学したことがあってそこからの話だったのか。
「半年ほどばってんね。何でも先生に不合格ば喰らってこっちさん帰ってきた。そん後、何年か修行して今島さん帰ってきて、店ば継ぐらしかよ」
「出戻りか? なんというか、不合格とはいえ留学までしたんならわざわざ、……お前には悪いけど、こんな田舎島で帰ってくるほどのことか?」
「そこらへんはよう知らんよ、兄ちゃんがどがん思っととるのか。お父さんは『別に継がんちゃよかぞ』と言っとるばってん。兄ちゃん自身は継ぐ気あるみかたよ」
これまた変わり者な。優翔さんがどんな考えを以っているのか、修行から帰ってきた実家を継ぐというのは立派なんだろうけど、こんな客層なんてほとんどない島、親からも継がなくていいとも言われているのに。それでも帰って継ぐとは相当な変わり者。
……あるいは何かしら問題があったのか?
「……客と喧嘩してクビになったのか?」
「失礼なことを言うな。優翔兄ちゃんは身内以外に手を上げんぞ。上げる価値がなかけん」
「それは愛のある拳的な意味か?」
ぶっちゃっけ、そういうのでも暴力振るわれるのは個人的に嫌だな。
「ちなみに俺は身内以外には殴っぞ。ムカつく相手には特に」
絶対に敵対したくないタイプだな。仲良くしとこう。……というか俺も梶田も何発か殴られたことあるんだけど。そうぼやくと「あがんと殴った内に入らん」とヤンキー基準で棚に上げられた。
「なん、おったか? もう飯も食っととな?」
話をしているとじいちゃんが帰ってきた。じいちゃんは玄関から上がらずに、縁側から上がって俺達の存在に気づいて声をかけてきた。
近づいてきてテーブルの飯へと視線を落としたら驚いた顔をする。
「こるは恭和が作ったんね?」
「ラーメンは俺が。このおかずは杉田が」
「勝手に使ってすんません。ばってん、野菜ば少しだけしか使っとらけん」
「あ~、よかよか。また畑から取ってくんけん。お、えらいうまかやつあるのう、貰うぞ」
じいちゃんはそう告げると、こちらの返事を聞かずに手で摘まんでゴーヤを食う。ほとんど平らげた後で、残りをどっちが食うかという量だったので、じいちゃんが残りを平らげる。ポリポリ。
「お、旨かな。こるは飯にも酒に合うな。……お前は、杉田んとこんのあぼの一人か」
「あい、そがんです」
「ああ、店ん味やな。悪かばってん、もう一個作ってくれんか? 俺も食うけん」
と、言いながら残りのキュウリの塩漬けの方もポリポリ食う。杉田は「あい、んじゃあ、ちょっと借りますね」と言って台所に立って、またゴーヤとカツオ節の摘みを作り始める。
……いや、すげえなコイツら。言われた通りに人ん家で料理する杉田もだけど、自分が食いたいからって料理を注文できる家主のじいちゃん。
俺は、いいの? 眉を顰めて訊ねると、じいちゃんはいつの間にか焼酎を持ってきてコップに注いでいた。
「仕事なかけん問題なかばい」
「いや、酒じゃなくて……、台所の勝手に使わせるの、というか杉田にそもそも注文するのって」
「作れるやつが作るもんが一番うまかけんなゃー。あ、あぼさん、ウィンナーとかハムとかあるけんそるも適当に焼いてくんどな」
「あ~い」
と文句を言わず返事をしては冷蔵庫からウィンナーとハムを出して、フライパンに火をかけた。やがて、パチパチと油が弾ける音と肉が焼ける匂いが漂ってくる。
数分もしない内に昼飯というよりも摘み料理を運んでくる。ついで出来上がったのか杉田の好物のゆで卵もってきた。じいちゃんは摘まみの品を美味そうに舌鼓を打ち、酒ともに食していく。ハムとウィンナーを少し口にして杉田のさっと告げる。
「俺の部屋に行こうぜ。ここじゃあじいちゃんが色々と面倒臭そうだ」
「そがんなゃ」
「じいちゃん、俺ら上にいるから後は片づけとかよろしく」
「お~う。喧嘩すんなよ。家が潰れるけん」
冗談なのか、本音なのかイマイチ分からないことに聞き流しながら俺達は部屋へと行こうとする。その際、荷物ともに出来上がったゆで卵も部屋に持っていこうとする杉田に俺は呆れていると。
「あ~~、やっぱりこっちにいた! もう、今日はこっちならちゃんと言ってよね!」
外から騒がしい声が聞こえ、一番うるさい奴が来た、とそちらへと視線を移す。梶田が、もう、とぷんすかしながら「お邪魔します」と縁側から家に入ってくる。……なぜみんな、玄関からじゃなくて縁側から入ってくる。ちなみに靴を見てみると杉田も縁側から入ってきた。みんなさん玄関を知らないのか?
「おう、こん間のお嬢ちゃんか。……なん? 修羅場か?」
「違うから! マジでそういうのはよしてくれ!」
酒で顔が赤くなったじいちゃんが戯言に対して、声を上げてやめろと告げる。思わず大声で、拒絶してみせたせいで、近くにいた杉田とじいちゃんは少し驚いた目で見てくる。それでハッとする。
ヤバい、また過剰に反応し過ぎたか。
機能の事もあって冷や汗を流す俺。梶田だけがじいちゃんの一言が聞こえずに状況を理解できていないようで「え? 何々? なん話?」と能天気に聞いてくる。
「あ、いやなんでもない。いいから上行くぞ」
と杉田と梶田を無理矢理押しやって二階の俺の部屋へと向かわせる。すると、じいちゃんから呼び止められて、二人を二階へと向かわせて、俺は一人、階段から顔だけ出してじいちゃんの方に向ける。
「二対一は男らしくなかぞ。ちゃんと一対一で。女ば勝ち取らんば。あと避妊ばしゃんとせんば」
「うっせえ! 黙れ酔っ払い爺!!」
引っ越してから数週間。初めてじいちゃんを罵った。