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黒歴史(カラーノート)  作者: 三概井那多
18/32

澄んだ青空よりも嵐の前の曇天の僕ら(オタクども)2

 夕日で赤くなり始めている海を見る。

 昼間は蒼色をした綺麗だったものが今度は赤へ染まりつつある。

 昼間の海は例えるなら、優しくて安らかな喉かさがある、まるで時が止まった気持ちでいられた。

 夕方の海は赤く染まって、なぜか私には泣いているように感じた。

 もうすぐ今日という日が終わる。

 今日という日の時間が終わる。

 私は家に帰りついた。本当の家じゃない、この島で滞在するために泊っている借家だ。

 よくは知らないけど、過疎化が進む離島の改善案のための別荘地。

 それは何でもアニメとかであるペンションなどいわゆる良い家というわけではない。この島の雰囲気にあった……いわゆる田舎の家を、普通の民家の造りになっているのだ。

 ただの旅行先としてじゃなく、田舎の家に遊びに来た。あるいは故郷へと帰ってきた、というコンセプトで作られたらしい。

 離島にいる間、普通の家として旅行としてじゃなくて実際に住んだ暮らしを送ってみて、そして移り住みたくなるような気持ちを抱く外から来た人をそのまま取り入れるのが狙いらしい。

 だけど、実際にはういやもかの家の方が、こっちの家よりもより田舎の民家というような家だった。

 木造建築の家。古臭くてカビ臭い感じの畳や木の香りの家。昼間は電気を消しているから薄暗さがあるけどなぜか十分な明るさが合って、冷房はなく家の窓や出入り口を開けて風を通して涼んで、天井とかにはネズミや虫とか住んでいそうで、縁側もあって、外が庭なのか道なのか敷居が酷く曖昧な家。

 こんなこと言えば二人からは馬鹿にしているのか。特にういなんかは『喧嘩売ってんのか、ウチ殺してくれよかい?』なんて言ってきそうだけど、悪口でそう言っているつもりは一切ない。

 私にとってはそれが田舎の家というイメージなのだ。

 ただいま、と家に入ると居間の方でテレビをスカイプに繋げて会社の人とお母さんが話をしていた。

 お母さんが私に気づくと、会話を一段遮って短く、お帰りなさい、今日も大丈夫だった? 手洗いうがいと~~~、いつものと調子で訊ねられて、分かっている今日も楽しかったよ~、お母さんの言葉を遮るように言う。

 少し拒絶めいた言い方にお母さんは、もう~、と不満気に困ったように漏らすけど、スカイプの相手から呼ばれたのか、仕事へと戻る。

 私は最近反抗期なのだ。

 別にお母さんが仕事に構って私を蔑ろにされているから焼いているなどと子供じみた理由なのではない。お仕事が大事で、お母さんが私の事を愛してくれている。大事にしてくれていること自体はちゃんとわかっている。この旅行だって私の我儘を無理して調整してくれたことくらい。

 だけど今の私は反抗期なのだ。

 なぜなら、ういやもかという大切な友達が不良君なので、それに習って私も反抗期になったのだ。

 二人の影響で純白だった私は不良色に染まりつつあるのだ。

 だから、私の事を想ってのお母さんの小言も最近患しいと不満に募るようになったのだ。

 うるさいな、と思いながら私は手洗いうがいをして居間に戻ってくるとお母さんはスカイプでの話し合いは終わっていた。

 お母さんはこちらに来るように言われ、え~、と不満気に呟くが「来なさい」とビシッと言われてしぶしぶ向かってソファーに座らせられる。

 お母さんは私に体温計を渡してきて、私の体温を測らせる。

 そして測るのを待つ間、いつものようにお母さんは、今日は何かあったの? この島でのこと、ういともか達と何かあったのかと訊かれて私は今日あった出来事を話す。

 ういが私の絵を見て喜んでくれたこと、私が誘ったらういも一緒に創作活動ことを了承してくれたこと、もかが海で溺れたこと、もかも一緒にやると言ってくれたこと、ういともかと一緒に扇風機で『˝あ~』したこと、『うい』と『もか』と『りー』の三人のあだ名を付けたこと、三人でどういう創作するのか話したこと、マジカルバナナやったこと、そのまま時間が流れたことを私は全部お母さんに伝えた。

 お母さんは私の話を聞くたびに、一緒に喜んだり、驚いたり、呆れたり、怒ったりと色々な感情で反応してくれる。

 私は私の話をちゃんと聞いてくれて、ちゃんと伝わってくれていることがうれしくて更に饒舌に語るのだ。

 話の途中で、体温計が鳴る音が聞こえて、体温を測ってみると三十七度を少し超えたほど。それにお母さんは眉根を寄せて心配そうな目で見るけど私は、大丈夫、と答えた。

 大丈夫。私の身体は大丈夫。

 最近はずっと、これくらいの熱が続いてる。たぶん、この常夏の島の暑さのせいで私の体温が上がっているだけだ。

 だから、大丈夫。

 何度も言うと私の気持ちが伝わったのか、お母さんは諦めたような顔になって、辛かったちゃんと我慢せずに言いなさい、と頭を撫でて優しく告げるのだ。

 私はそれに頷き、そしてすぐに話を戻して今日あったことを全部話す。

 お母さんはそれに耳を傾けて、優しく頷いた。

 

 私は時間が有限だということは知っている。

 始まりがあって、終わる時間がある。

 ああ、このまま時間が止まってしまえばいいのに、とこの島に来て何度思ったことか。

 そんなことを初めて思った。

 ほんの少しだけ、それだけでよかった。

 だけど実際に貰ったらそれがずっと欲しくなってしまう。

 私って案外欲深い女だな、って思った。

 楽しい時間は一瞬、だと誰かが言った。

 だからその一瞬を欲した。

 わかってる。それが約束したことだから。

 お父さん。ちゃんとそっちに行くから。

 だから神様、お願い。

 私の『未来』をあげるから、私に『今』をください。


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