澄んだ青空よりも嵐の前の曇天の僕ら(オタクども)1
第五色 名前とか形から入ってそれで満足してしまうパーティン
「ねえねえ、折角だからアダ名決めない?」
「だけど、その頃にはアンタは八つ裂きになっているだろうけどな」
「なんでさ!? ひどいよ!」
「ちぇりおー」
首振って風を送ってくる扇風機を俺達三人は扇状に並んで風を浴びる。
場所は仲村の家。海で濡れてしまった身体の潮を落とすために風呂を借りて、二人でシャワーを浴びてきた。火照った体を冷ますために扇風機を使っていたら、「あ゛~」をやっていたのが羨ましくなった梶田が、私も、と入ってくる。
三人並んで扇風機で涼んでいる。
ついでに俺は仲村から服とかパンツを借りて、濡れた衣服は潮を落としてから洗濯機に回している。自宅であるのに、洗濯機の使い方を知らない、とほざく仲村に呆れつつ、俺がやった。
仲村が海水まみれの服を洗濯機にそのまま入れた時は本気で信じられなかった。まあ、海に入ったことがないとか言っていたから、海の潮で洗濯機がやられるということを知らないのもまあ頷けなくもないが、……洗濯機の使い方くらい分かれよ。
箱のヤツを全部入れていけないってことはアニメで知ってる、と親指立てて言ってきた時には肩パンしておいた。
で、一仕事を終えて扇風機で涼んでいると、梶田がいきなりそんな提案してくる。つかさず仲村が返し梶田は突っ込んで、最後に俺が一言添える。
やっば、今のちょっと楽しい!
何気ないやり取りなのに、この伝わるネタ感がめっちゃうれしい。
田舎で一人、兄と弟たち以外でこんな上手く伝わってノってくる、アニメネタが関連のやり取りが面白くてたまらない。そして兄弟とはまた違うものがある。
何と言うか、……家族特有の同じ時間、同じ場所で、同じものを見たから分かり合えるのではなく、……『生まれた場所は違えど、同じことを志した同志』とか何とかの変な感動が俺の中でたまらなくうれしい。
と、そんな友達がいなかったぼっちが友達ができた時のような感動を内心で噛みしめながらもそれを悟られないように顔は平常運転に務めていると梶田が話を戻す。
「ほら、……一緒に作品作ることになったじゃん。で、作品の作る時ってクリエイトネームみたいなのあるし、折角仲良くなったんだから友達の証的な意味でもさあ。私いっぺん友達にあだ名つけて呼び合うのが夢だったんだ」
梶田は目を輝かせながら言う。完全に後半がメインだ。同じことを考えたのか、仲村は呆れた調子で言う。
「女子ってそういうところあるよな。記念日とか交換日記とかそういうの」
「え、今日を結成日にして、交換日記も始めてくれるの?」
「せんわ。面倒くさか!」
テンションが上がる梶田に突っ込むと、え~、と不服そうな顔をする。
「別にアダ名くらい勝手につければよかやん。イチイチ訊かんでも。おかしかったら返事せんし。なゃ~」
「ま、そうだよな。俺もあっちの友達だった奴らにも適当にあだ名付けて呼んでた。というか決まったやつをそれとなく呼んでいたな。「よ~、ハイジ」とかあっちが「お~、ともとも」とかそんな感じで適当に付けたのをそのまま流して使っていたし。イチイチ確認とかせんよな」
「ああ、あんまふざけた名前だとウチ殺せばよかけんな」
例えばカレーうんことか、アイツホント許せん。夏の陸上合宿で不名誉な呼び名を付けた連中の姿を思い浮かべながら小さく舌打ちする。大体漏らしたんじゃなくて吐いたんだよ。それもトイレで。
梶田は、え、そういうものなの? ときょとんとして、そうなんだ、と頷く。コイツ見ていると、ホント友達いなかったんだなと思う。ここ数日で知り合って一緒にいて分かることは梶田ともかく物を知らない。人付き合いとか距離間が分かっていないともいえばいいのか、自分包囲な面が強い。
俺も人に合わせない部分が目立つ方だがそれでも人付き合い自体は仲違いするまでは何だかんだ良好だった。合わせるべき必要な場面は何だかんだ嫌々と合わせてきた。
それに比べて梶田は基本合わせない。合わせられない訳じゃない、言えば素直に言う事を聞くがそれこそ子供じみた拗ねた態度を時折みせてくる。最初は旅行先の興奮でテンションがハイテンションではっちゃけているだけかと思ったがそれだけではないような気がする。
……単純に旅行先で友達とかができてはっちゃけているだけと思えない。
今のあだ名の言い分も友達がいないことを証言しているような言い方だ。
なんでコイツ友達いないんだろうかな?
今言ったことを矛盾させるわけでないが、それはそれとして梶田みたいな性格は友達を多く作れるタイプだろう。言ってしまえば愛されキャラみたいな奴なのに。……学校だと性格が違うとか? 旅行先だけテンションがはっちゃけているだけで本当は根暗とか? ……全然想像がつかん。少なくとも性格を偽っているようには思えん。
「なら二人のアダ名を教えてよ」
「『ゆう』……まあアダ名というか省略やな。大半は夕弌。急ぎとかそういう時だけ『ゆう!』って感じに呼ばれとる」
「俺は『ともとも』とか『仲むー』だな。でも殆どが苗字で仲村って呼ばれていた」
俺達がそれぞれ自分のアダ名を告げると梶田は「ふっつ~う~」と残念なものを見た時のテンションになる。一体何を期待していたんだか。特徴を捉えた呼びやすさ重視がアダ名だというのに。
むしろお前はアダ名に何を求めているんだ、と内心で突っ込んでいると「あ、じゃあさじゃあさ」と何かを思いついたように提案してくる。
「二人が今まで聞いたおかしな捻ったあだ名ってなに?」
「肉」
「マダオ」
「……マダオはともかく、肉ってなに? マダオはアレでしょ? 銀魂のグラサン」
「え、肉ってはがないの肉に決まっているじゃん」
「あ、そるか。俺もなんかと思っとっとた。はがないか。あるって休載が長かったけんラスト知らんとさいなゃー」
「あ、いいよいいよ。アレはな。二桁行く前が良かったから。二桁以降は読まなくても」
はがないこと「僕は友達が少ない」について仲村と適当に話題にする。はがないについては兄ちゃんも同じことを言っていたな。
話題が分からなかったのか梶田は目をパチクリさせてこちらを見ている。もうその反応からして知らないものだと分かる。
「『歯がない』って何? 『歯』がないの? え、吸血鬼か何かが歯がなくなって血を吸えなくなる話?」
「ちょっと、面白そうな案出すなよ。使ってよかか、それ?」
「え、いいけど……」
梶田から思わぬアイデアを聞き入れて自分の心のネタ帳に入れておく。しかし、そうか知らないのか。まあ結構前だしな。今は妹さえいればいいの時代だからな。
「ま、そがん感じでもう少し捻れ。見た目とかそういうのとか」
「え、じゃあ、不良君と女遊びが激しい人」
「誰が不ry」
「女を弄んだことねえ、二度と言うな! マジで!!」
「「!?」」
お決まりになりつつ定番の調子で突っ込もうかと思っていたら、それ以上仲村が予想外なほどキレたので驚いた。言った本人も「あ」と漏らして少し気まずそうな顔をする。
「まあ、落ち着つかんか。こやつがアホなことはわかっとどもん。適当に流さんか」
「……恭和君が思ったよりも怒ったことに驚、痛っ!」
「いや、まあ……ははは」
俺が適当にフォローを入れて、また余計なことを言う梶田の頭をパシと一発叩く。それに対して乾いた笑みを浮かべる仲村。俺達の間に奇妙な空気が流れる。この空気を変えるべく、閃いて別の話題を振る。
「なん……あれや、ほら名前ば捻ればよかろもん。梶田真理愛なんやけん。梶田の『か』と真理愛の『ま』でかまちゃんとかなんとか」
「あ、それいい。それなら二人は……『すゆ』と『なと』? ……言いにくくない?」
「そこはいい感じの場所ば探せばよかろもん」
俺のアイディアにまんま使って杉田と夕弌で『すゆ』、仲村と恭和で『なと』とあだ名としては梶田の言う通り言いにくさ、そして愛称としての可愛げとかカッコよさというものがない。やるならもう少し捻って言い方というものが……。
「じゃあ『つゆ』君と『ナット』君だ!」
「そがん意味じゃあなかわ。名前の七文字もあるんやけんもっと考えんか!」
なぜそのままの状態で言いやすいように変えた。五秒前の話をちゃんと聞いていたのか? 名前だけ七文字あって略称で二文字や三文字だけで何通りあると思ってやがる。数学得意じゃないから俺は分からないけど。
あ、そっちの意味か、と理解したのかもう一度頭を捻る。扇風機の首が四度回った辺りで、良い所を見つけ出したのか、話してくる。
「あ、ならならそれじゃあ夕弌だからゆとちを取って『うい』で、恭和だからととずを取って『モカ』で。うん、二人とも可愛い」
「可愛いって……ん、まあ別によかばってん」
俺は一先ず納得するが、仲村、改めて『モカ』もそれ自体はいいと頷くが少し微妙な顔する。たぶんそれは俺が考えていること同じことを思っているからだろう。
「それだとお前のあだ名は『り』になるけど、いいのか?」
予想通りの事を告げられる。うーん、と目を閉じて人差し指を顎のほくろを押すようにして考えて、やがて答えが得たのか真剣な瞳をこちらに向けてくる。
「じゃあ、『りー』ってことで。『り』のあとに伸ばす感じで。うん可愛いか」
たぶん『可愛い』に最後「か」をつけたのはこっちの方言っぽくしたかったんだろう。残念ながらそういう時は『みじょか』が正解。が、俺はそれには指摘せずに別に事を口にする。
「ポケスペのダイヤ、いやダイヤモンドのベロベルトのニックネーム」
「「?」」
伝わらなかった。ポケモンコミックスの長寿漫画なのに。BW2はいつになったら完結するんだ。ブラック君もそろそろ開放してやってほしい。XYもΩRαSも別版で終わったのに。それやれば本編コミックスが連続で出すことができるのに。……そうこの時の俺は知らなかったんだ。もう二年度に本編コミックスが再開されることを。
眉を顰めて不思議そうにこちら向ける四つの瞳に舌打ちして「ポケモンの漫画のこと」とだけ告げた。すると、仲村が頷いた。
「ああ、もしかしてアレか? ギエピーよりか長くやっているヤツ」
「それ。なん知っととか?」
「読んだことはねえけど。イエローが可愛いってことだけ知っている。BWの主人公の、ブラック君? が『ブラックくうぅうん』をいい加減何とかしろとかなんとか。ネットでみた」
「うん、そるであっとるあっとる。読むなら貸すばってん?」
「じゃあ貸してくれよ」
「待って待って私も読む、私も読む」
意外にも乗ってきてくれた。おう、分かったと頷いた。
と、梶田が何かに思い付いたように、あ、と漏らして俺へと聞いてくる。
「そういえば今のあだ名で思ったけど、ういの小説の名前ってどうして色で決めたの?」
「アレは単純に覚えやすさ。シコつけた名前にすんのもアレやけんなゃーと思って」
変に凝った感じの中二病じみた名前にすんのもな。あとはそれこそポケスペの主人公陣の名前見て、まあアレはソフトから取ったものだったが、まあそれをマネて色で名前つけたのだ。覚えやすいし。
「シコるってお前な……」
「? 」
何故か物凄い言いにくそうな、少し引いた目で見てくる。なんでそんな顔をされているのか分からずにいると、俺と一緒で、いや俺と違って言葉の意味自体を知らない梶田も不思議そうにして聞いてくる。
「シコるってどういう意味?」
「お前は聞かなくていい」
「あん? どがんして、『カッコつけ』って意味やばってん。それに『シコる』じゃなくて『シコつけ』やし」
「え?」
「「え?」」
仲村は驚いた顔をして、その反応にますます意味が分からなくなる。何やら食い違いがあるらしい。少しの間脳内処理の間ができる。俺ではない、仲村のための間。俺と梶田は仲村が落ち着くのを待つ。
やがて理解したのか仲村は自分の中で呑み込んだ。
「あ、いや、そういう………あ。ハイハイ、そういう、いや何でもない」
「なん? え、なんの意味やっとおもったん? 他に意味があっと?」
「シコつける? シコる? シコるが何?」
「食いつかなくていいから! 何にもない何もない、俺の勘違いだ」
何やら仲村は『シコ』の言葉の意味を間違えていたことはわかる。そしてそれが梶田相手だと渋るもの……う~ん、単純に『おしっこ』とでも思って勘違いしたのだろうか。それだと俺の名前のセンスがおしっこみたいになるんだが……。ション便臭せえ名前ってことか?
なんか、いまいち釈然としないが、仲村は勘違いを誤魔化そうと無理矢理話しを終わらせて、本題に入ってくる。
「そんなことよりも作品について話すぞ。具体的にどんな話にするつもり気だ? 構想とかあるのか?」
俺達三人が創作活動についてだ。仲村の仕切りに対して俺は両手を組んで不敵な笑みを浮かべて堂々と言い放つ。
「なか!」
「強く断言することじゃあねえだろそれ」
「はい! なんか、こう、いい感じの話をやりたいです!」
「ならもっと具体的なこと言えや」
「誰にも文句言われんし、馬鹿にされんやつ」
「そういう具体性じゃあねえし、それをお前が書くんだよ。ウケるも何もお前のセンス次第なんだよ!」
「私が絵を描く!」
「そして俺が声を当てる。って流れの良さからカッコよく決めてさせるんじゃあねえ」
連続突っ込みもノリッツコミもなかなか器用にこなせる仲村……いや、改めてモカは一度一息をついて呼吸を整えていた。海から溺れ上がったばかりもあって結構疲弊しているのだろう、海から上がったばかりって結構だるさが出るからな。風呂に入った後の気の緩みもあるし。
俺もこうやって二人と話していなかったら、扇風機にあたりながらしばらく寝ていたいだろう。欠伸を噛み殺しながらさっきからずっと思っていたことを訊ねる。
「大体声ば当てる云々言うばってんさ、なんばすっと? アニメでん作っとか? りーがそんなに描けるわけなかろもん」
声を当ててやる、と豪語したがモカだが声当てることは予定としてない。元々は俺とりーの二人でやろうとしていたのは短編もの。漫画、あるいは小説に多め挿絵を描いてもらう予定としていた。それが作業としては現実的だ。
だけど、りーが「せっかくなら恭和君ともやろうよ」と言い出した。俺もモカと三人でやること自体反対はなかった。俺だってやれるなら三人やりたいと思っていた。
この夏に出会った三人だから。話して、馬が合って、遊んで、仲良くなった俺たちだから、何より本当のオタク友達ができたから一緒にやりたいという気持ちはある。情がある。
一度は断られたが、なんか少し海の溺れたことでなんか考え方が変わったのか、一緒にやることになった。……海で何があったんだか。
モカの心情の変化はともかく、一緒にやるとなるとモカの立場は、……俺としてはあれやこれや意見とかくれる編集とか第一読者のような立場になってくれればと、漫画やアニメの話している時に細かく見ていて、元ネタや作品の裏話と詳しいことを知っているし、客観的に分析して事を言ってくれるから、意見をくれる者として細かい所を色々指摘してくれるだろうと思っていたが、まさか元々声優志望で、それで声を充ててくれるとは。
声当ててくれると言ってくれるが、やろうとしているのは漫画とか小説だ。声はいらない。
それに問題は他にもある。
先ほどから「りー……えへへ」と何やら気持ち悪くぼやいている(なんコイツ、こんなにも気持ち悪い顔してんだ? アダ名がそんなにいいのか?)アホ娘改めて、リーを指さして言う。
「あと単純な話、時間がなかぞ。お前は先に帰って溺ぶくれとったけん知らんやろうとばってん、リーがもう二週間くらいしかおらんとど」
「二週間くらい?」
初耳のモカはきょとんする。俺はおい、と隣でヘラヘラ笑うアホの頭を一発叩いて正気に戻す。「あ、痛っ!? ちょっとなにすんのさ、ひどいよ」と抗議してくるのを無視して、ほれ、と払うようにしてモカの方に顔を向けるようにさせる。
「お前は、二週間くらいで帰っとやろ?」
「あ、うん、そうそう私十日に帰るから。完成はそれまでにしなくちゃあいけないの」
「あ、そういえば……お前はそんなリミットがあったな」
リーこと梶田真理愛は母親と親子二人で呉郷俵島に来た旅行者だ。俺とモカと違ってこの島に住んでいないからいつかは当然ながら出ていく。
それで折角来たのでこの島に来た記念の思い出の品、それも俺達三人が協力して作った代物が欲しいそうだ。
期間としては今日が七月二八日の土曜。帰るのは八月十日の金曜日ならば、前日の九日までリミットと考えるのが妥当だろう。カレンダーが近くにないから頭で計算して約二週間……十日くらいの期限(七月は三十日と三十一日、どっちが最終日だっけ?)
その時間の短さで、下地を作る俺は執筆そのものが遅いから、短編を一本分が限度だろう。そこに絵を描くリーに声も当てるというモカ。短編の漫画あるいは挿絵多めの短編小説ならともかく、声も加わるとどうなるのか俺にはわからない。
「俺にはお前が声ば当てる問題とかようわからん。時間帯だから短編ものば作り上げる方針やばってん、お前の声はどこにいれっとか?」
そのことで具体的なことが分からない俺が眉に皺を寄せている言うと、モカは何かしらの考えがあるのか、落ち着いた趣で答える。
「ああ、だからドラマCDを創ろう」
「「ドラマCD?」」
モカの提案に俺とりーが口揃えて言葉を繰り返すと、ああ、と頷いたモカは視線を少し上げて言葉を探し言い直してくる。
「正確にはドラマCD……というか、紙芝居だな、どっちかという」
「え、ダサくなかか?」
紙芝居と聞いて率直に素直な感想をいうと、モカはだろうな、と苦笑する。
「あ~、紙芝居って言えばそうかもしれないけど。ノベルゲームといえば聞こえはいいだろ?」
「ノベルゲーム……、ああ、ギャルゲーとかそういうん? 実は俺~、……ポケモンとマリカーとかマリパー、スマブラしかやったことなかとばってん」
「はあ? マジで?」
「ゲームは基本兄弟全員が遊べるもんじゃあなかと買ってもらえんし、買わんとよ」
自分で買うのはポケモンだけだから。家族が多い家だと基本全員が遊べるソフトしか買ってもらえない。自分たちの小遣いで買えというかもしれないが、まず俺の家にはお小遣い制度というものが存在しないので自分たちのお小遣いはない。お年玉だけ。
それを不憫だと思った神奈川で働いている総利兄ちゃんが気を使ってくれてハードとソフトを買って送ってくれるのだ。皆で遊べるようのパーティーゲーのソフトを。
そんな家庭事業であることを告げるとモカは「お前ン家はそういう家庭か。確かに兄弟多いもんな」と納得する。
「でも兄弟多いっていいよね。私一人っ子だから普通にうらやましい」
「限度があっどもん、十三人だぞ。十三! 二桁いった時点おかしかろもん!」
ちなみに俺はそのおかしさ自体は気付かずに中学に上がるまで別に普通だと思っていた。正確にはそのおかしさが判明したのは陸上の合宿とかで他校の生徒と交流があって、話している時にそれが結構おかしいことだと気付いた。
ま、それも思春期だったこともあり、盛りが付き始めた、下ネタとかが小学生が使う『ちんちん』とか笑い話じゃなくて、下品なものに変わる中学だったから「お前ン家の父ちゃんと母ちゃん夜はヤベえー!」との一声があって、「あ!」と思ったのだ。
それまではずっと島育ちだったからもう周りの人間(主にクラスメート)は知っている、周知の事実ってことで受け入れられたし。時々驚かれることもあってそれは島外の人だけだから、あまり気にしたことはなかった。また驚かれているな、くらいの認識。
俺の中では十三人兄弟って普通のことで、あるいは少し珍しいくらいのことだろうとの考えだった。
いやだって! 生まれた時から既に上が七人いて、物心ついた時には二人いて、さらに増えていく家庭の中にいたら特に変におかしいとは思わねえよ。友達も友達で普通に受け入れていた。いや、多分内心では「多いな」「また増えたのかよ」くらいの認識だったのだと思う。
そんなカルチャーショック? みたいなのを受けたのが中学一年の頃の懐かしい思い出だ。そしてその後に合宿で酷いあだ名を付けられて、帰ってきた時にパワーアップどころか調子を崩してしまったという最悪な思い出としてのメモリーファイルとして俺の中で括られているのだ。
最後に余計なことを思い出してしまったため、舌打ちをする。その態度がさっきの話の地続きだと思ったのか、「え~、舌打ちするほど兄弟嫌いなの?」とリーから内心の葛藤は聞こえていない。「そがんわけじゃあなかばってんさ」と首を振るう。
「そういえばさ、ミカヤは一緒にやらないのか? 一緒に過ごしたってだけならアイツもだろ?」
モカが当然のような疑問を上げてくる。俺の弟の実夏夜は俺達と一緒に過ごしてきた仲間としての括りならアイツも入ることが自然だろう。
だけど、
「実夏夜はせんよ、アイツ作る方はせんし」
俺は実夏夜はやらないことを告げる。
あいつも一応俺と一緒の環境で育ってきたわけだし、年の近さからある意味一番俺を見て育ってきた弟だから、オタク文化自体に距離を置くことはしていない。ただ、クリエイター類に興味があるかどうかと言われたらそこまでの熱はない。娯楽を楽しむもので、自分で作る気はサラサラないのだ。それ自体は俺も強制しないし、暇なときに『ゲームしようぜ』が兄弟間では一番いいのだ。
俺の言葉に納得したのか、「そっか」とモカは頷いた。それに更にリーは続けた。
「それにみかや君……あ、かー君はさ」
「あいつもその法則での呼び方なのか。いや、別にどうでもいいけど」
「そんくせ一緒にやらんしな」
「あ、そっか。ならみか君で。『み』があるのはメンバーじゃないから」
「お前ナチュラルにひでえな」
「ええ~~!! もう、なんでそんな……、ひどいな! 二人して難癖するのさ!」
「発言が酷かけんに決まっとっどもん。ちゃんと聞いとっととか? お前がイチバン……。一回自分の言ったこと思い出してみんか」
言われた通りリーは自分の発言を思い出しているのか、う~んと唸りながら、ちょっと呆れたような笑いを浮かべて「思ったより酷いこと言っているね」と答えてくる。自身の発言のヤバさに気付いた。
俺達が、ほらみろ、と煽ると「あはは……面目ない」と一言謝ってくる。
「で、でもさ、みか君を外したのはほら、彼年下だし」
「お前は年齢制限で外したのか……?」
「お前、話せば話すほど酷くなっていっとるやん。もう話さん方がよかっじゃなかとか?」
半笑いで呆れた調子で突っ込む俺達に、「だからそういうこじゃなくてね!」と憤慨して言い返そうと頭を抱えて言葉を探すけど、合う言葉が見つからなかったのか、「あ~~~」とどうやって出しているのか分からないタイプ気の抜ける声を吐き出す。
「同年代だけやりたいってことでいいのか?」
「そう、それそれ! 」
語彙力が貧困なリーをフォローして、言いたい言葉をモカが出してやると復活したリーがそれに激しく同意してくる。まあ、言葉を変えただけで内容は一緒なんだが。
「私達三人、この島で出会ったことで何か意味があると思うの! なんかそんな気がする! 私この島に来たのってこの島に何か呼ばれた気がしたの。何かがあるって、ここには私が求めていたものがあるって。そしたら二人に出会って、私にとってはいっぱいの初めてのことを経験して、これまでになかった夏に、ううん、人生になったの! だから最後にその形に残るものを残したいだから、それなら三人でって!」
「で、話を戻すばってん具体的なことは?」
「まず、お前が何をやりたいか。で話の流れを軽く決める。それでりー太郎に流れの中で起きるだろうポイント部分の一枚絵を描く。俺は全体的に指揮を取って、最後に声を充てるから」
「ああ、なるほどなゃー。形としてはそるが最善やなゃ」
「ってきけけえええええ!! 今! 私結構良いこと言ったよ!」
力説するリーの話が長かったので、途中から俺とモカ今後の予定について改めて話を進めていると、聞いていないことに気づき、作業内容について相談している中をやかましくもリーが突っ込んできた。
それに対して俺達は仕方なく笑顔で答える。
「おう流石なゃー、俺もそがん思うばい」
「全くお前は名言製造機だな!」
「違う、……違うよ~! そんな露骨な誉め言葉が欲しかったんじゃあないよ~~! そしてなんで今までにない、誉めて伸ばす系なの! 裏があるんじゃないのかって逆に怖いよ」
「う~ん、実にいい言葉だ、感動的だな。だが、無意味だ」
「いやだからってけなしてほしいわけじゃないよ!?」
某仮面ライダーの名言で返すモカなのだが、これもリーはお気に召さない。俺は面倒くさいと思いながら言う。
「じゃあ、どがんすればよかっか? 言ってみい。面白かったら合わせてやるけん、なゃー」
あれもダメ、これもダメ、とうるさいリーに対して面倒くさいと思いながらチャンスを与える。半分以上冗談のつもりで言ったのだが、合わせる気はサラサラないのだが、……まあ億が一でも面白かったら採用すること自体は考えてやってもいい。
梶田は「いや、そういうことでもないんだけど……」と微妙な顔をしては言い淀んでいる。肩を落として「もういいよ」と諦めたように呟いた。
「ならそがんこつよっか、こっちの話は聞いとったか?」
一応発案者であるのはコイツだ。つまりはコイツが企画者ってことになる。リーダーであるお前こそ、ちゃんとこれからの流れについての話をちゃんと聞いていたのか、と訊ねると、うん、と自信満々にリーは答えるのだ。
「つまりは、―――ゲームを作るんだね!」
「作んねえよ」「作らんどもん」
「ええ~~、なんでさ!? じゃあどういうことなの!?」
二人で突っ込むといつもの「なんでさ」の反応が返ってくる。そろそろお決まりのパターンみたくなってきたな。からかうのが楽しいとかじゃなくて、なんか自然とそうなってしまう。親睦が深まることが良いことなのか、それとも話をちゃんと理解できてないバカさ加減に呆れていいのか、俺達は顔を見合わせてため息を吐く。
俺たちの態度を見て、慌ててリーは言い返してくる。
「だってだって、ういがお話考えて、私が絵を描く、で、モカが他の……ゲームの、ぷろぐらみんぐ? とか作るんだよね? さっきゲームどうの言ってたし」
「それ、明らかに俺の負担がデカいだろう!?」
「もう、お前は黙って聞いとけえや。俺達がとりあえず色々決めるけん」
一先ずリーを黙らせる。リーは「なんでさ!?ひどいよ!」とうるさかったが、口チャックしとけ口チャック、と指の動きを合わせて言うと、「もう」と不満そうに頬を膨らませて、指で口チャックした動作をして黙り込んだ。
たぶん、後で息ができなくなるってやり取りがするかもしれないけど、一先ずそれについては後にして、俺とモカは顔を合わせて話を進める。
「具体的に何をやるとか決まっているのか? あの、お前の小説は?」
「無理やろ。長かし、未完成やし」
「それは分かっている。だからそれを短編にするとかは? あるいは他に書いてないのか?」
「なかよ」
ないと即答する俺だけど、正確にはないわけじゃない。過去に書いて挫折した五作がある。ただアレは人に絶対見せたくないし、自分の中ではいつか書き返したという望みがあるのだ。だけどそれは今じゃない。
それに、
「ダメ」
すると俺の気持ちを代弁するかのように、口チャックしておけと言ったのに秒で破ったソイツは言う。「ダメ」とハッキリとした拒否の言葉を。
「あれは、ういの作品だから。他に書いてあるやつがあってもういのものだから。私は、私たちの作品をやりたいの。話を書くのはういだから、どうしてもっていう時はしょうがないけど、……でも私はういの作品としてじゃなくて、私たちの作品がいい」
そう、リーダーは告げるのだ。やるのは杉田夕弌の作品ではなく、杉田夕弌、仲村恭和、梶田真理愛の三人として作品を創るのだと。
俺とモカは少しの間だけ言葉を失う。リーが発せられた言葉は別に圧があったとかアニメとかよくあるそういうものではない。
ただいつもの調子で、子供がちょっとしたこだわりの我儘。
青じゃなくて紫がいい、とかそういう類のものだ。普段の彼女と変わらないもの。たったそれだけ調子。
だけど、俺達の心に何か感じるものがあったのだ。
……………………。
「わかっとるばい、そがんこつは。だけん今話しとっとやろもん」
「お前も意見があるなら黙ってないで考えを言えよ!」
「さっき黙ってろって言ったじゃん!?」
俺達はいつもの調子で罵ると不満気にだが、梶田は話に戻ってくる。
「何か、テーマあるか?」
改めてモカが言う。
「とりあえず、三人の作品。シナリオはういの字が書くとしても、テーマだけ共通三人で話しとくか」
「ういの字? あ、ういは字が書くから『ういの字』か。いいねそれ」
「そういう意味合いのそれじゃあねえよ……」
「お前がイチバン……ホント、ウチ殺してくれよかい?」
「なんでさ!? ひどいよ」
いまいち、ノリにズレがあるリーに呆れる俺達とその態度に困惑するリー。この関係はいつ改善されることやら、と思いつつ話を戻していく。
テーマなゃー、と呟きながら何かないかと考える。
「………サメ?」
「お前はお前でシャークネードに影響され過ぎてねえか?」
咄嗟に思いついたものを告げると、眼を細めたモカから突っ込まれた。それに続けてリーは頭の悪い個人的な疑問を投げだしてくる。
「ところでサメってどう叫ぶの?」
「ジョ~ンズ!」
「私のことバカにし過ぎじゃないかな?」
モカのノリだけの声にリーは珍しく目を細めてから突っ込みを入れてくる。それに肩を竦めて言い直す。
「シャ~~~ク」
「やっぱり私のことバカにしているな!?」
「そんなことないサメよ。サメ嘘つかないサメよ」
「もう面倒くさくなってからに、雑になってきっとんなゃー」
モカの適当さに俺が呆れて呟くと、真面目に聞いてよ! とリーが不満の声を上げてくる。俺達がリーの方に視線を向けて次の言葉を待つ。
「大体海の生き物が鳴くわけないだろうが」
「でもさ、モカが声当ててくれるなら、キャラって一人にするの? 他にも登場人物って絞った方がいいよね」
「あ」
言われてみて気づく。
てっきりアホ娘の馬鹿げた疑問だと思っていたけどそういうことではなく、ちゃんと作品としての注意事項だった。
いや、確かに声を充ててくれるのはモカ一人。負担を考えると人数は絞った方がいいに決まっている。いや、まあ俺もそれほどキャラを出す気がなかったが。
だけど指摘されなかったら特に考えずに、二人三人とキャラを出す気満々だったけど、その辺の相談や説明をしていなかった。
ちゃんと話すべきだったと気づかされ、モカの方を見るとモカは肩を竦めて言ってくる。
「一応、声は三人、四人くらいは分けて声を出すくらいはできるが」
「具体的にはどんなのが?」
「『なんでさ、ひどいよ!?』『ウチ殺してくれよかい!』『あれれ~、おかしいぞ』『フグタ君、あ~、今晩~、一杯~、どうだい~』、……ゴホッゴホッ、こんな感じ」
「うまっ!?」
「バカチュン、最後の二つは比較的に物真似し易いだろもん」
「……バレたか」
リーは絶賛するが、俺が半笑いで指摘するとモカがテヘペロみたいな顔になる。
昔、テレビか何かで声の真似類で練習すれば物真似しやすいと聞いたことがある。あとは某夢の国のネズミの笑い声か。ハッハ。
「でもすごいじゃん、私達の真似も結構似てたよ!」
……それ自体は認める。想像以上にモカの声真似は上手かった。俺の声はともかく、リーの……高めの明るい女声を出せるのは素直に凄いと関心する。
「ういの柄悪そうな態度なんて特に!」
「お前のアホっぽさには負けるばい」
殴ってやろうかコイツ、と込めた笑みで返してやる。イチイチ、一言多いんだよお前は。
モカが割って入るようにして話を続ける。
「二、三役くらいなら一応できるけど、……俺だけじゃなくてお前らも声を当てるって考えもあるぞ」
そんな提案してくる。確かにそれが現実的な手か。それなら役も三人に絞って、性格とかも俺達三人合わせるような、……それこそ俺達の三人としての話を考えるべきか。
そんな感じの事を考えていると、リーはモカの言葉に少し不満そうに答える。
「え~~、どうせなら、それぞれ別に担当しようよ。ういがお話書いて、もかが声を充てる、そして私が絵を描く。そんな風にさあ」
三人の役割自体は決まっているからそれぞれ集中しようということか。その気持ち自体は分からなくもない。バクマンみたく初作品が原作と漫画はそれぞれに集中したように。でも声を充てること自体は別にいいじゃないのか?
モカに聞いてみる。
「負担は大丈夫か? 俺も別に二、三人くらいしか出すつもりはなかばってん」
「一応頑張ってみるけど、こういう時ボイスチェンジャーとか持っていたらまた違った声の幅は広がってキャラとか出せるけど、ソフトとか入れてないからな」
苦笑しながらぼやくモカだったがそれを聞いたリーは、よし、それでいこう、と呑気に言ってくるからチョップをかました。
あ、いた~、と叩かれた頭を抑えるリーを無視して、俺はチョップした手をブラブラさせる。勢いだけ色々決めんな。もう少し色々と考えてから喋れと思いながら手の感触を確認する。
(………やっぱなんかちょっとおかしかなゃ)
「一先ず内容だ。そこは決めとこう。声については俺一人にやるにしろ、お前らもやるにしろ、内容とか考えてからでいいだろう」
そう仕切り直してくるモカの言葉に頷いて、俺達は一先ず意見を出していく。
―――こういう時は連想ゲームとかするといいぞ。一先ずパッと頭の中に思い付いたことを言っていく感じに、例えば『海』―――『魚』とかか? ―――魚と言ったら……カンパチ! ―――『カンパチ』と言ったら『刺身』―――『刺身』と言ったら『醤油』 ―――『醤油』と言ったら『大豆』―――『大豆』って言ったら……マジカルバナナじゃあねえか!? ―――お前が連想ゲームって言ったんやろもん! ―――
そんな感じでマジカルバナナを続けていき、途中でだれて、なんか言葉遊びをしたり、映画を観たりだのだらだらするだけの時間に変わって、夕方になり明日までの宿題ということで今日はお開きになった。
前途多難な俺達の創作活動が始まったのだ。