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黒歴史(カラーノート)  作者: 三概井那多
12/32

田舎に集まりし、面倒臭い僕ら(オタクども)12

 昼食の片づけを終えて、俺はファイルを持って出掛ける。外は今日も今日とて太陽が高く、熱い真夏の日差しが照り付けていた。蝉の鳴き声も騒がしい。いつも思うが移動距離が地味に面倒だ。あんまり出歩かない俺もこれが続くなら多少体力がつくかも。


 そういえば梶田はどこで自転車を手に入れたんだ? 旅行者であるアイツがわざわざ買ったとは思えない。だからといって持ってきたとも考えるのも変だ。それなら最初の頃から自転車乗ってくるだろうし。……送ったのが今届いたとか?


 詳細がどうであれ、自転車の存在は羨ましい。この田舎を歩き回るには酷すぎる。


 そう思っていると自転車でやってくる自転車の三人組の姿が見て取れた。


 あ、何度か見かけた杉田の友達か。


 そいつらも杉田と同じで学校帰りなんだろう、楽しそうに話しながら並列で進んでいる。邪魔だな。


 通行路のマナーがなってない田舎者に眉を顰めていると、俺の姿に気付いた一人が後ろへと回って、二人は話を続けたまま並列をやめない。


 そのまま連れ違って通り過ぎようとしたら、


「なあ、あぼさん、……最近夕弌と仲が良か人かね?」


 と、一番後ろにいたヤツが話しかけてきた。俺も振り返って返事する。そいつはだいぶ目が細く、自転車に乗っていて分からないがそれでも背格好も高いと分かる。


「お、おう。そうだけど……。お前は杉田の友達か?」


「ん、ああ。……そがんやばってん」


 少し歯切れ悪く返事する。事情は詳しく知らんが、たぶんコイツらが杉田の小説を読んで弄った連中と考えればいいだろう。それで喧嘩した、と。創作活動という一番デリケートなこと弄るとは……気持ちは分からなくもないが酷いことをしたもんだ。


 杉田にもコイツらにも両方に同情する。ご愁傷さま、と。


「それ、夕弌の?」


 一体何を指摘されたのか分からなかったが、視線の先が俺の右手のファイルへと向けられていたことに気付き、「ああ、そうだけど」と答える。


 目の細い杉田の友達は「ふーん」とにやけ面、とは違うか、ニコニコと何を考えているのか少し分からない雰囲気を出す。


「面白かか? それ」


「わりと」


 ぷっ、と吹き出した。


 な!? コイツ!!


 突然吹き出し笑いをされて、少しイラッとする。なんだコイツ出会い頭に失礼な奴だな。


 眉を顰めて嫌な顔している俺に、「あ、すまんすまん」と笑い抑えて謝ってくる。


「ばってん嘘やろ。だって、夕弌の書いた変な奴やろ、なんだっけ? 『がらんど!』だとか『バカンド!』とかなんか叫んでいるやつ、ハハハ、あれが面白いとか、……ハハハ」


「?」


 また耐え切れず笑い出す細目に俺は首を傾げる。何を言っているのか分からない「ばかんど」とか何とか……。少なくとも俺が読んでいた時にそんな台詞は一度として小説にはなかった。


 ……コイツに馬鹿にされたことで消したのか?


 一番、有り得そうな線がそれだ。馬鹿にされたからその時の内容を消したのだろう。


 別に杉田の作品をどれだけ馬鹿にされようかどうでもいい。人によって価値観が違うわけだ。それこそ漫画やラノベ、アニメといったもの作品は選り好みが激しいからものならその分け方があるから普通だろう。俺も鬼滅は消えるって思っていたけど、ネットじゃあ「鬼滅光るものがあるし」「長期連載が終わり続ける今、新たなる看板作品」と持ち上げられるのを見て、そういえばあれ気が付いたら結構続いてんだよなと思った。読んでないけど。


 そして、近い将来本当に爆発的に売れることを今の俺は知らなかったのだ。


 杉田の作品はコイツらには合わなかったってだけだ。


 ……まあ、同級生の小説とかはからかい半分でしかオタクでもない限りは本気で読まないだろうし。


 だけど、それはそれとして、俺が面白いと思ったものを馬鹿にされるのは少しイラってくる。それじゃあまるで俺の感性が悪いみたいだ。


 杉田をどれだけ馬鹿にしようと俺も笑ってやれるが、俺を馬鹿にするならば敵だぞ。まあ、俺は杉田とは違い、平和主義者なので暴力に訴えることなどせずに、平和的に「陰口叩く最低な奴だな」と内心見下して愚痴ることだけに務めておくだけにしておこう。


 ふ、俺が優しい人間かつお前の体格の良さと細目強キャラ理論があったことに激しく感謝することだな。


 そう内心でイキがっていると、先を行っていた二人組が「おーい、桜美、なにやっとと?」と声が掛かり、「おう、さっき行っといて。すぐいくけん」と答えては細目はもう一度俺の方へと向き直る。


「夕弌に才能はなかばい」


 いきなり何か言われた。まるでとても重要かつ意味深な言い方だった。


「昔ちらと読んだばってんあいつの小説意味分からんけん。文章も普通の本よりか頭の良か文書けとらんし、そもそもあいつは物凄く馬鹿で学校の授業も俺よっか悪かけんね。そもそも頭の良い文章を書くことはできんとよ」


 笑いながらも言葉を続ける。悪口で馬鹿にしながらもその口調はどこか真面目な、……気のせいか、心配を含んだもののように聞こえた。


 カラ、っとペダルを何回転かさせて足で受け止める。


「だけん、あんまアイツに期待させることば言うんのはやめとってな」


 それだけ言うと漕ぎ直して自転車を進めさせる。その後ろ姿を見て俺も振り返って足を進める。


 別に言い返す気はなかった。杉田に才能があるとかどうとか言われても……な。


 少なくともアイツの作品は面白い、と思ったが、それでも普通レベルで。


 ジャンプ作品で例えるなら十週打ち切りコースだろうな、あるいは物好きなファンが付くことができたならもう何週かは続くだろうけど、それでも五巻くらい出ればいいくらいだろうか。知らんけど。


 まあ、少なくとも二桁目(十巻)に行くことはないだろうな。

 ぶっちゃっけ杉田の実力に関しては素人に毛が生えた程度だろう。


「でも、今の世の中、杉田より才能がないとか文章書けない奴でも書籍化してアニメ化で成功している、一発屋の奴がいっぱいいるからな……」


 なのでアイツの言葉は全く以って意味がない。今は才能云々よりか、どれだけ需要を把握した上でそれが早く書き起こして投稿できるのかが重要だ、と、シナリオライターの友人は言っていた。流行の読みと執筆の速さ、あとはTwitterの豆な宣伝か。今の時代は才能よりも必要なスキル。それは努力次第で幾らでも賄える。


 なるほど田舎の子供の価値観か。ネット環境とかない世界の子供は世界のことを知らなすぎる。そうじゃなくてもオタク界隈に関して田舎者は疎いのだろう。


 別に作家の自体に甘い道のりだと言わん。それでも受けの良し悪しはあるし、作家になる道として確実さは昔よりかは甘くなかったと思う。


 だが、それは兼業有りきでの話だ、仕事の合間に書いて毎日最低限を続けて、書き溜め、読者を増やしていく。人気が出て、そして出版社に声を掛けられたり、あるいは投稿サイトで開かれる大会で入賞できればの話だ。


 そうしてようやく書籍の話になり、書籍化されることで一般的な作家として認めてもらえる。そう、それでようやく作家として認めてもらえるだけだ。そこまでなら努力次第で何とでもなるのだ。一本だけの一発屋。


 難しいのは業界の中で、作家一本で生きていくこと者だけが才能がある人間だけだ。


 そして、それこそが今の細目のヤツやオタク界隈に疎い一般人の言う、作家の像なのだろう。


 少なくとも俺はアイツの実力、……杉田の才能については、ない奴よりかはあると思う。兼業作家の道を目指すなら『成功』はいつかするだろうし、上手く転んでアニメ化のワンチャンくらいはあるんじゃないのか、と。


 ただ、一本だけの行く険しい道を行くならばアイツはそこまで才能はないと思う。


 杉田がどういう風なこの先のことを考えていることは知らない。兼業作家という賢い生き方で行くのか、それとも作家一本の自殺行為の道でいくのか。


 ミィーミィーと鳴き響く蝉の声がやけにうるさいと感じながら、俺は店に辿り着く。店の片隅にはいつものように自転車が置いており、中に入ると「いっらっしゃい」と杉田のおじさんの声に一礼して、店の奥へと進む。


「おそかったなゃー」


 ぶっきらぼうに言いながらゆで卵を蛇の如く一呑みする杉田と実夏夜の姿が。飯は殆ど食べて終えようとしていた。梶田はいない。


「ああ、今日じいちゃんいたから飯は食べてきたんだわ。ほれ、これ」


 ファイルを手渡すと、お茶を啜りながら受け取る杉田は隠すようにして袖に置いた。俺はそのまま杉田の隣に座った。


「梶田は? トイレか? お花を摘みに?」


「知らん。朝にお前ん家の行き方まで教えたばってん、そん後とか知らんし、てっきりお前と一緒に遊んどると思っとった」


「まだ来てないのか?」


 どうやら梶田は、今日遅れた俺よりもまだ来ていないようだった。まあ、アイツの場合は別に食べにくるとかじゃなくて、遊びの待ち合わせみたいなものに近いか。たぶん、母親と飯を食べているんだろう。ここ以外で食べられる場所を俺は知らないが。


「じゃあどうする? お前らもう食べ終わりそうだけど。俺は食べてきたからいらんし」


「そがんね、……無視したかばってん。また昼に会おわいと言っとたけんね。こんまんま待っとときたかばってんねえ」


「朝んこともあるしお母さん確実にキレるよね」


「?」


 どうするかなと頭を悩ませる二人に俺は話に付いて行けない。おばさんが怒る? あ、そういえば杉田ン家のおばさんってこの店を溜まり場にするのが嫌なんだっけ? 杉田がそう言っていた。


「ま、俺は遊びに行くけん、夕弌兄ちゃん達で何とかして」


「薄情もん。ちったあ、お兄ちゃんを助けようと思わんとか?」


「思わん」


 実夏夜は一人逃げようとして食器を下げて、そそくさ脱退するのだ。


「じゃあ、俺も今日はこれで」


「待てえ、相棒」


「いえ、相棒なんて知りませんね。僕はここでタダメシ食わせてもらっているだけの仲なんで」


「じゃあ余計に待てクズが」


 俺も逃げようとするがガッチリと杉田に首根っこ捕まれて逃げられない。俺を片手で掴みながらも、もう片方でゆで卵を食べる。


「ごっくん。せめて連絡取れればなゃ。お前知らんか?」


「知らねえよ。アイツの電話もラインも」


「らいん? ああ、そがんか」


 俺も諦めて席に座り直して、そう話すとラインについて反応を示したが、どっちみち連絡が付かないことに理解してかどうでもよさそうに呟く。


 こんなことになるなら今朝のうちにラインでも交換しておけばよかったな。


 どうするかな、と頭を悩ませる俺達。すると店に誰かがやってきたことに気付き、梶田だと思った俺達は二人してそちらへと視線を向ける。


 それは梶田ではあった、俺達待っていたアホ娘でなく、梶田は梶田でも梶田の母親の方だった。


 娘の方は姿が見えない。梶田母は何やら杉田の両親と話している。


「すみません。今朝は娘が勝手にお宅へとお邪魔してしまって。それにお昼の方も頂いていたと。度重なる娘の不始末、誠に申し訳ありません」


 梶田母から謝罪の言葉聞こえてくる。それに対して、杉田の父は「なんでもありませんよ」と笑って受け流していた。その様子を見ながら俺は杉田に訊ねる。


「梶田何やったんだ?」


「朝っぱらから家来てラジオ体操とタダメシ食って、ウチのおかんの怒りかった」


「ああ、なるほどな」


 梶田の不始末の謝罪しに来ているのか。どこで買ってきたのか菓子折りを渡す。


 杉田が席を開けろと言われて、俺は席を立つと杉田は梶田母に出ていく。俺も慌てて後を追う。


「すいません、今日梶田は?」


「え? ……ああ、君たちが真理愛とよく遊んでくれる子達ね。確か名前は、……夕弌君と恭和君、だったかしら?」


 梶田の母親の言葉に俺達はそれぞれ頷く。正直この人に名乗った覚えはないが、たぶん梶田が話でもしたんだろう。気にせずに俺達は梶田の詳細について訊ねる。


「アイツは?」


「泊まっている借家の方に置いているの。遊ぶ約束をしてたんなら、今日はごめんなさい。えー、と……反省として今日一日謹慎ってことにしたの。朝から皆さんにご迷惑かけて……。君たちも朝から大変だったでしょ」


「いえ、そんなことは……」


「あい」


「おい!」


 俺がせっかく気を使ったのに、隣の田舎ヤンキーは悪ふざけから素直さに頷き、すかさず突っ込んだ。梶田母は「あはは」と乾いた笑みを浮かべる。慌てて俺はフォローする。


「いや、来ないなら来ないで別に……アイツがくるかどうかで話していたから。今日は無理なんですね分かりました」


「ごめんなさい。あんまり気を悪くしないで頂戴ね。あの子、今まで人好き合いを……いえ、その、下手な所があるから。少し我儘で自分本位な部分があるかもしれないけど、でもあんな子でも仲が良くしてくると親の私としては嬉しいわ」


「ちょっとやそっとじゃあ友達の縁は切るつもりはなかですよ。決定的じゃあないけん。アヤツの我儘ならウチのチビ共と同じくらいなんけん別に。あれくらいで嫌んになるなら何度も兄弟の縁切ってますけん」


 何ともないという調子で言ってくる杉田に、梶田の母は目を大きくして驚いた顔になるが、そのままふっと優し気に微笑む。


 あ、コイツずりぃな。今の持って行き方はずりぃーわ。一回娘の悪い部分に同意しておきながら、それでも俺には関係ない友達だぜ、って。何それ、うわー、なんだ、その、……雨の日の捨て犬理論みたいなの、それで梶田の母親の心を掴みしやがった。


 呆れたような視線を向ける。杉田本人はなんてことない、どうでもよさそうな風でいた。……天然かよ。


「二人ともウチの子とまた遊んで頂戴ね」


「「はい」」


 と口を揃えて返事して、梶田母もう一度杉田の両親に謝って帰っていく。俺達も席に戻り、俺は席変えて正面席に座る。


「お前って雨の日に捨て犬とか優しくしそうだな」


「いきなりなん?」


 俺の言葉の意味が分からない杉田に「何でもない、こっちの話」と話を変えて「これからどうする」と訊ねる。


「梶田来ねえし」


「まあ、別に梶田来たとこでなんする? の話になるだけばってん。二人(ふった)で遊ぶか?」


 質問を質問で返されたような言い回しだった。遊ぶと言われても俺にとっての遊ぶとは違う。俺の遊ぶはゲームとかのインドアで杉田のような田舎っ子とは違う。


「どがんする? 俺達(おっだ)二人やし、海さん泳ぐっか? そっで明日あたりに梶田にそんネタでからかうか?」


「海、……海か」


 梶田をからかうネタとして海に行く提案を出してくる。俺はそれに反応し、頷きながら呟く。先ほどのじいちゃんの言葉を思い出す。


 ―――いっぺん海さん溺くれろ。


「? どがんした」


 黙り込んでしまった俺を見て不審に思った杉田が訊いてくる。俺は何でもないと言い、話題を強引に切り替える。


「それよりかウチでシャークネード見ねえか? 」


「シャークネード? それって昨日言っとったやつか?」


「お前さてはシャークネード知らねえ? バッカ、お前、シャークネード観てないとサメ映画は語れねえぞ!」


「それを言うならジョーンズじゃあなかっか? 観たことなかばってん」


「バッカ、マジでシャークネード観てないとサメ映画は語れねえぞ。お前も作家志望なら映画もあれこれ観て勉強しろって」


「観れる環境じゃあねえんだよ、ウチ殺すぞ!!」


「……ガチギレすんなよ」


 よっぽど気にしている指摘されたくないことだったのか、ガチギレしてくる杉田。それを必死で宥めて俺の家で映画鑑賞にしゃれこんだ。


「出たぞ、エクスカリバー!」


「エクスカリバー!? めっちゃ普通の倉庫にあるただのチェーンソーじゃん」


「バカ野郎、1はプロローグだから、2からが本番だぞ! 2でエクスカリバーは本領発揮するからな! 例のシーンで『うわおおお!!』ってなるから!」


「じゃあここで使わんと?」


「バカ、ちゃんと観とけ! こっからエクスカリバーくるからな!」


 そのまま2まで観て、夕方となったので今日はお開きとなった。帰る杉田はご満悦の様子。


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