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そのぼっちは卵焼きを熱く語る

うむ、中々静かで良い場所じゃないか。


俺は今、件の『弁当女子』である中条彩乃(なかじょうあやの)に連れられてこの教室に居る。


「うん、あるよ!とっておきの場所が!」


と言う彼女の提案で、この調理実習室に来ている訳だ。


「わ、私、家庭科部に入ってるから・・・、先生に言って鍵を借りてきたの・・」


「なるほど。静かだし、水道や調理器具もある。何よりも、他の教室より清潔なのが良いな」


学校の中では何処へ行っても埃っぽい感じがするが、やはり食べ物を扱うからだろうか・・・。教室自体はそれなりに清潔に保たれている。


「あ、うん。そう言ってもらえると、良かった・・かな。ここ選んで・・・」


なるべく入り口からは見えにくい様な角度にある机を探し、そこへと彩乃を座らせた。


俺も椅子を並べ、彩乃の横へと座る。


「え・・、いや・・あの・・」


「どうした?」


「え、う、ううん。なんでも、なんでも・・ない」


彩乃は、かなり落ち着きの無い女性なのだろうか?


それともやはり、俺の事が怖いのだろうか?


まあ、こんな教室で二人きりだからな。仕方ない。


「心配するな。昼飯を食うだけだから、それ程時間は掛からない」


「い、いや・・心配とか、なんの話しか・・・」


そんな彩乃を見ながら、鞄から弁当箱を出して机の上に置く。


今日は見せる事を前提としているので、ちゃんと他人を意識した弁当を用意した。


昨日のチャーハンの様なミスは断じて出来ない。


彩乃も自分の弁当箱を机の上に出していた。


さすがに女子だな。大きさも小振りの物だ。ほう・・木製のものか。


「鏑木くんのお弁当箱!木のヤツなんだ?私も木製のものなんだ・・・」


「ああ、〈わっぱ〉と呼ばれる種類の物だ。色々とあるがこれはオーソドックスな物だな」


「わっぱ・・・、え、それで普通なの?確か、テスト前はランチボックスみたいなお弁当箱だったよね?」


「あれは汁物、うどんを付ける出汁を入れる為にあの容器を選んだんだ」


「お、お昼のお弁当に・・付けうどん?す、凄い・・・」


・・・何という事だ。彼女には、『俺の弁当』は少なくともテスト前から注目されていた!という事になるのか・・・。


「彩乃、お前は(俺の『弁当』を)何時頃から見ているんだ?」


「え、い、何時頃・・・って?そ、それは・・・」


彩乃は顔を赤くして俯いてしまった。無理もない。食べる事は好きだが、それをあまり他人には知られたくはないだろうからな。特に彩乃は、女子だからな。


「いや、良いんだ。言いたくない事もあるだろう。時間が勿体無いから、食べよう」


俺は、自分の弁当箱の蓋を開けてひっくり返し、本体より奥側に置いた。


彩乃も同じ様に蓋を開け、広げたナプキンの上に重ねて置いていた。


「あの、これって・・・、鏑木くんが作ってるの?」


「ああ、いつも自分で作っている。と言うか、炊事や掃除は俺の担当だからな」


彩乃が蓋を開けた俺の弁当箱を、食い入るように見ている。


ああ、そうだった。弁当を『見せる』約束だったな。


「約束だからな、好きなだけ見ると良い」


そう言って、俺は弁当箱を彩乃の方へと少しずらしてやった。


「あ、あの・・・鏑木くん・・?も、もし、もし迷惑で無ければで良いんだけど・・。少しだけ味見、しても・・・い、いいかな・・?」


「ああ、構わんぞ。ただ、俺も昼からの授業に腹が減ったまま出られないから、全部はやれないが?」


「そ、それなら私のお弁当、鏑木くんが食べても良いよ!!」


「ふむ、じゃあ適当に分け合って食べるか?」


彩乃は嬉しそうに、コクコクッと首を縦に振っている。


しまったな・・・今日は『見せる』つもりしかなかったから、ある意味かなり普通で弁当っぽいおかずしか入ってないぞ。女子ウケする様な物は少ないな。


「こ、この卵焼き美味しい!普通の卵焼きにしか見えないのに・・」


フフフ・・。そこに気付くとは、まあまあやるじゃないか。


「卵焼き、それは料理の『始点にして終点』だと俺は思っている。シンプルであるが故に奥が深い。調味料、焼き方、交ぜ具合や中に入れる具材まで考えると、その可能性は無限大だからな」


はっ!彩乃がポカ~ンとした顔で俺の顔を見ている。卵焼き、というキーワードで熱くなって、つい語ってしまった・・・。


「鏑木くん、卵焼き・・・大好きなのね?何か、思い出でもあるの?」


「ん?ああ。死んだ(・ ・ ・)母親が、俺に作ってくれた卵焼きの味が・・・な。あの味を何とか再現出来ないものかと、かなり研究しているんだが。だから・・・と言う事でもないが、初めて覚えた料理が卵焼き、という訳さ」


「あ・・・あ、私・・・ごめんなさい・・・」


「気にするな。事実だし、親が二人とも生きていると思うのが普通(・ ・)だからな。で?彩乃は、自分で作っているのか?」


「う、うん・・・。私、将来は栄養士になりたくて・・。それなら知識だけじゃなくて、実技も伴わないと駄目よね?って、お姉ちゃんに言われて・・・。ああ、そうだなって思って・・・」


「そうか。良い姉さんだな」


「うん・・・」


彩乃は、先程の事を気にしているのだろうか?昼飯の時に話す内容ではなかったかもしれないな。


「彩乃、お前の好きなものは何だ?俺で作れる物なら、今度作って持って来てやるが?」


「えっ?ど、どうしたの、急に・・?う、嬉しいけど・・わ、悪いよ・・」


大したものは作れないが・・と言いかけた時に、ガラッ!!と調理実習室の扉が勢い良く開かれた。


「ありゃ?開いてるよ~!助かった・・・なんで?え・・中条・・・さん?」


「・・ぶ、部長・・・?」


扉を開けたその女子と、彩乃はお互いに驚いた顔で見つめ合っている。


「中条さん、どうしてこう言う状況なのか、話して貰えるかしら?」


「・・・・は・い」


中へ入って来たその女子は、俺と机の上に並べられた弁当たちを見ながら、ゆっくりと俺達の向かいへ座った。


食べ終わらせる事が出来ませんでした(笑)

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