そのぼっちは胃袋をつかむ
タカ君が呼びに来たので、私たち3人は下のリビングへと降りて行った。
「え、何?恋ちゃん、可愛~い~!!」
先に降りた桃花が、リビングで昼食の用意を手伝っている恋ちゃんを見て、黄色い声を出した。
恋ちゃんは、空色のエプロンをしていた。形はオーソドックスだが、それがまた恋ちゃんの可愛さを際立たせていた。
「あ~、それね。私の子供の頃のやつなんだよね~。良いっしょ?」
伊津美が、ニシシッと笑いながらそう言った。
テーブルの上には、人数分のオムライスが置いてある。
オムライスの隣にはコンソメスープらしきもの。それと、大きなお皿にサラダが盛ってある。皆で分けられる様に大皿にしてるのかな?
更に、オムライスには各々名前がケチャップで書いてあった。
とうか、むつこ、れん、たか・・・・そして、ママ。
「タカお兄ちゃんに教えてもらって書いたの!」
恋ちゃんが嬉しそうに伊津美に話している。
「名前書いてくれたり、卵割ったり、サラダ盛り付けてくれたり・・。凄くいっぱいお手伝いしてくれましたよ、恋ちゃんは!」
タカ君も、そう言って恋ちゃんの頭を撫でている。
恋ちゃん羨ま・・・いや、嬉しそうで可愛い。
「ああ~ん、タカのオムライス久しぶり~!!よだれ出てきちゃう!早く食べよう!」
「桃花姉さん、手ぐらい洗えよ」
「う・・はい。すいません・・・」
あらら、優等生の桃花が怒られてるよ。ふふ。
「「「「「いただきま~す」」」」」
・・・う、美味い。え、『美味い』って言葉しか出ないくらい、美味いんですけど・・。
「んっ~~~~~!!!やっっっっぱり、タカのオムライスは最高よね!!!」
「今日はマッシュルームとエリンギを入れてみた!」
良いなあ・・・。桃花はこんな美味いオムライス、何回も食べてるんだあ・・。
「卵、フワッフワ・・。中のご飯も味付け抜群だね!タカ君、このサラダに入っている茶色のものは何なの~?」
伊津美はサラダを小皿に分けながら、タカ君にレシピを聞いている。
「ああ、それはお菓子です。ベビースターっていう駄菓子を、細かく砕いて入れてます。食感が面白いので、たまに入れます。お気に召しませんでしたか?」
「べ、ベビースターかあ。その発想は無かったわぁ・・・凄いね!」
ベビースター・・・意外な答えだったわ。確かに食感が良いのと、少し塩味が効いているから野菜の水っぽさが無くなって良いわね~。
恋ちゃんもタカ君の横で嬉しそうに食べてる。
「そういや菜々実は大丈夫?」
「ああ、全然問題ないぞ。さっきミルク飲んだし、今はちょうど寝てるよ。便も普通だし、次起きたらリンゴのすりおろしでも食べさせようと思う。そういや、少しお尻がかぶれていたな・・」
「そう?汗疹かしら・・・」
「オムツ変える時にウエットティッシュで、しっかり拭き取ってやった方が良いんじゃないか?」
「うん、ちょっと気を付けるわ!」
どっちが親か分からない・・・。スゲーわ、タカ君。
和やかに(タカ君が作った!)美味しいお昼ご飯を食べた私達は、午前の遅れを取り戻すかの様に作業に没頭している。
「でもさあ、この分だと次のフリマは出展数少なくなりそうだよね~」
伊津美が誰とは無しに呟いた。
「しようがないよ。作品少なくなりそうなら、次は飛ばして夏のフリマに出ても良いしね!」
「桃花の意見も、尤もだよね。まあ、結婚して子供も出来たり、昔と違って皆色々あるからね・・」
私は、桃花に同調する様に手は作業を続けながらそう言った。
「タカ君・・・また子守りしてくれないかな・・・。あんなに人見知りが激しい恋の面倒見れるなんて・・・普通の高校生じゃ無理だよ。私、お金出しても良いからタカ君に頼んでみようかな・・・」
伊津美がまた独り言の様に呟いている。
「なにバカなこと言ってるのよ・・」
「だって・・・」
「そうよ、桃花の言う通りよ」
私はわざと一呼吸おいてから、俯いている伊津美に向いて言った。
「なにバカなこと言っているの?タカ君のファンクラブ創始者特別会員は私達3人でしょ?じゃあ、3人で負担するのが当たり前じゃないかしら?ねえ?桃花・・・」
「うふふ、そういう事!伊津美、恋ちゃんの笑顔見るの久しぶりって言ってたものね?気持ちは解るよ。だからって、一人で抱え込まないでね?」
「うん・・・ありがとう・・。桃花・・睦子・・・。恋の事は・・・また、今度、ちゃんと話すね・・」
コンコンッ!!
「これ、おやつに恋ちゃんのリクエストでパンケーキを焼いたんだ。食べ終わったら言ってくれ。食器取りに来るから、桃花姉さん」
ノックの後に部屋へ入って来たタカ君は、お盆に乗せたおやつを置いて行った。
ワンプレートに小振りのパンケーキが2枚、チョコソースが掛かっており横にはホイップクリームがちょこんと添えられている。レモンティーの香りが良いアクセントになっている。
「私、心掴まれた男性はもちろん旦那だけどさ、胃袋掴まれた男性は・・間違いなくタカ君だよ」
伊津美の言葉に私達3人は顔を見合わせ、大きく頷いた。
次からはまた主人公目線に戻ります。