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そのぼっちはファンクラブを作られる

「タカは私の・・死んだ(・ ・ ・)姉さんの忘れ形見なの・・」


桃花の姉さんは私たちが確か・・・高校生の時に亡くなったはず。


「姉さんが死んだ時、タカはまだ4歳だった。自分の母親が死んでも、『死』というものが良く分からずに理解出来ない様だと私は感じていた。また、それを仕方ないとも思っていたわ・・」


私は縫製の手を止めて、桃花の話しの続きを聞き入った。


「私は全幅の信頼・・・というか、人生の目標みたいな人を失った悲しみで凄く落ち込んでね・・。当時は、貴方達にも迷惑かけちゃったかもしれないけどさ・・」


「あ~、ね。ま、それはしゃあないっていうかさ?」


伊津美が桃花の話しに相槌を打つ。


「そんな時にさ、私聞いたの。タカに。『自分の母親が死んだのに悲しくは無いの?』って・・。そしたらあの子、何て言ったと思う?」


私は伊津美と顔を合わせて、フルフルと首を振る。


「あの子さ、『死んだ者は帰らない。俺が幸せになる事こそが母さんの喜びになる。だから、悲しむ力を怒りに変えて最強の剣士になるんだ。そんで他人(ひと)の役に立つ人間になるんだ!』って、言ったのよ。4歳の子供がよ?私、さすがに二の句が継げなかったわ・・・・でも・・」


桃花は、当時の記憶を探るかの様に麦茶が入ったコップを見つめている。


「でも、あの日。用事があって、朝早くにタカの伯父さんの家に行った時・・・家の隣にある道場から微かに打撃音が聞こえたの。こんなに早くから練習する人が居るんだな~って。ほんの軽い気持ちで見に行ったの・・・」


私と伊津美はピクリとも動かずに桃花の話しを聞いていた。


「そこに居たのは若干4歳の少年のタカ。彼はそこで巻き藁相手に、木刀を振るっていたわ。涙を流しながら渾身の力で・・・。その時に人の声がしたので、私は柱の陰に隠れた・・」


その人の声というのは、タカ君の祖父だったらしい。


『鷹正、悔しいか?悲しいか?泣いてもよい!存分に怒るがよい!』

『うう・・・くそーーー!!!』

『お前は、まだ幼く、弱い!それは仕方のない事だ!』

『ちくしょうーーー!!!ちくしょうーーー!!!』

『ならば強くなれ!守れなかった母の分まで、己が守れる人間は全て守れる武士(おとこ)になってみせろ!それがお前に出来る母への最高の供養だ!』

『ううう・・、お母さんーー!!!うわ~~~ん・・・お母・・さ・・』

『大丈夫だ!ワシが責任を持って鍛えてやる!必ずやお前を立派な武士(おとこ)にしてやる!!必ずだ・・』

『うん・・・うう・・』


「私ね、その時もう涙が止まらなくなっちゃって・・・。そうだよね、自分の母親が亡くなったのに悲しくない子供がいる訳ないよねって。何か、変な納得しながら泣いてるの。そしたらね、タカに見付かっちゃって・・『桃花姉ちゃん泣いてる!』って。もうね、ダメだった・・・。気が付いたらタカを抱き締めていて・・・。なのにタカってさ、『桃花姉ちゃんも一緒に強くなろ?』って言うんだもん・・」


あ、あれ?視界が・・・。え、私泣いてる・・?


ふと横に居る伊津美を見ると、縫いかけのエプロンを握り締めて泣いていた。


いや、むしろ大泣き!号泣。


「で、その後は姉と母という違いはあれど、同じ人の死を悼む者としてお互いに頑張って来たのよ。〈他人(ひと)を守れる武士(おとこ)になれ!〉っていう祖父の言葉を胸に、タカは年下や困っている人には優しく自分には厳しく。そんなんだから、まあ、むしろ私の方が励まされてきたというか・・。」


「決めたーーーー!!!!」


いきなり伊津美が大声で叫んだ。


さすがにビックリするだろ、おい!


「私、タカ君のファンクラブ作る!!私に何が出来るか分からないけど、全力で彼の事を応援する!!」


この女は相変わらず突拍子もない事ばっかり言う!!


「じゃあ、会員番号1番はもちろん私ね?」


「え、あ、ズルいよ~!!!」


伊津美が反抗している。それはズルい、私も1番がいい!!


「それじゃあ、こうしよう!私たちは『ファンクラブ創始者特別会員』って事で、もし今後入ってくる様な人が居たらそこからナンバー付けていこうよ~?」


伊津美が出した代替案に、私と桃花も頷いた。


ちょうどその時に、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。


「は~い?」


「お昼ご飯出来たけど、今食べる?」


伊津美の返事に返って来た声はタカ君だった。


って、もうお昼?ええ~!!!


「ヤバい、私たち2時間以上もお喋りだけで終わっちゃった・・・」


「まあ、いいっしょ?とりま、お昼作ってくれたみたいだし、食べよ?」


桃花には悪いが、伊津美に賛成。時間は戻らないので仕方なし。


「あ、ファンクラブの件はタカには内緒でね?お願いね!」


「「もちろんよ」」


少し赤く目を腫らして、仲良し三人組はまた一つ約束をしたのだった。



今回主人公ほぼ出番なしです(笑)


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