そのぼっちは子守をする
今日は『手芸友の会』開催日なの。
私、宗方睦子がとても楽しみにしている日。
皆忙しかったり、出産があったりして暫く出来なかったから、数カ月ぶりに学生時代からの仲良し3人組が集まるの♪
・・ピンポ~ン
誰が一番に来たのかしら~?
「は~い、ちょっと待ってね~・・」
「おひさしぶり。あれ睦子、ひょっとして髪切った?」
「切った切った!春だからね~。桃花も切っちゃえば?大学以来切ってないでしょ?」
彼女は、佐々木桃花。
背は小さいけどしっかり者の美少女お姉さんタイプ。
そんな彼女が抱っこしている赤ちゃんは菜々実ちゃん。8カ月!
もう可愛すぎる!!天使!
「お待た~!お、もう二人揃ってんじゃん!」
後ろから入って来たのは、遠山伊津美。
お喋り好きなムードメーカーよ!
「伊津美~おひさ~!さ、上がって上がって・・・。恋ちゃんもこんにちわ~」
「こ、こにちわ・・・」
伊津美の娘、恋ちゃんが可愛く挨拶してくれる。
とりあえずは居間に入って貰おうかな。
「でさ、こうやって久しぶりに3人集まった訳だけどさ・・。桃花、話してた『例の人』はどうなったのよ?」
「ああ、それは大丈夫よ!さっきメール入ったから。もうすぐ着くと思・・・あ、と、・・はい!もしもし、うん・・表札は宗方。そう・・うん、私が玄関まで行くから・・。は~い」
通話をし終わった桃花がパタパタと玄関へ出て行った。
私も一応家主だし、行かなきゃ・・・。
「睦子、紹介するわ。私の甥っ子のタカ!高校1年生」
「初めまして、鏑木鷹正と言います。宜しくお願いします。」
「あ、はい・・。よ、よろし、く、ね・・」
玄関扉の前には、少し不愛想な・・何と言うか勝負前?みたいな雰囲気を漂わせた男性が立っていた。
「頼んでたおばさんが急用でね・・。そしたら彼が今日は学校休みで、何も用事無いって言うから・・ラッキー!って事でお願いしちゃった!」
桃花は嬉しそうに話しながら、甥っ子だという鷹正君の手を引いて居間へ入って行った。
「お~、助っ人到着だ・・・ね・・・・えっ?」
居間に入って来た男子高校生を見て、伊津美が固まった。
「彼が今日の助っ人さんのタカです!恋ちゃんも宜しくしてあげてね!」
桃花は、何故か少しテンション高めで伊津美と恋ちゃんに紹介している。
「鏑木鷹正です。よろしくお願いします」
さっきと同じ抑揚の無い声であいさつをしたタカ君は、そのまま恋ちゃんに近づいて行く。
片膝を付いて目線を合わせる様に下げたタカ君は、恋ちゃんの肩にソッと手を置いた。
恋ちゃんは、一瞬怯えた様な表情で伊津美の服を掴んでいる。
「初めまして、俺は鷹正。タカって呼んでくれたら良いよ。君は恋ちゃんって言うんだね?今日一日宜しくね!」
そう言ってタカ君は、優しく微笑んだ。
「う、うん・・」
「ありがとう」
タカ君は微笑んだまま、恋ちゃんの頭を軽く撫でていた。
・・なんだ?え?私までドキドキする様なこの微笑みは・・・。ギャップか、ギャップ萌えなのか?
おい、伊津美までタカ君の顔見つめたまま呆けてるんじゃねえぇぇぇ・・・。
「それと、桃花姉さん。菜々実のセットは?」
「あ、はいこれ!オムツと着替え。ミルクはこれと母乳のストックがあるけど、ダメなら二階で作業しているから連れてきてくれれば良いわ!」
「了解。で、恋ちゃんは好き嫌いとかアレルギーはあるのかな?」
首だけこちらに向けて桃花と話していたタカ君は、向き直り恋ちゃんにそう聞いている。
恋ちゃんは少し考えた後、フルフルと首を横に振った。
おい、伊津美!いつまで呆けてるんだ!
「おし、偉いぞ!あとは・・・すいません、宗方さん?」
突然振られて、私は焦ってしまう。
「ふぁ、ふぁい?」
「ミルクや食事を作るのに台所をお借りすると思いますが、大丈夫ですか?」
「え、ええ。ええ、全然大丈夫!」
うわ~、なに私。なんて返事してんのよ!!
そんな私が自己嫌悪に陥ってる間に、桃花は菜々実ちゃんをタカ君に預けて二階へと上がって行ってしまった。
私も早く上がって準備しなきゃ・・って、いつまで呆けてるんじゃ!伊津美のやろう!
「伊津美、ほら、行くわよ!」
「え、あ、うん・・」
ぼや~っとしている伊津美の手を引っ張って二階へと上がって行った。
「ねえ、桃花さん?」
「なに?睦子。なんで『さん』付けなのよ?」
二階へと上がってきて15分ほどで準備をした私たちは、それぞれが作業をしている。
私は今日は縫製作業をしているが、桃花は何やら小物を作っていた。
「タカ君?高校生だっけ?何となくだけど、子守慣れてない?」
「そりゃあ、物心付いた時から自分より年下の子達の面倒見てたら、慣れもするわよ?」
「え~、何それ~?どういう状況?」
そこで伊津美の声があがる。
いや、正直私も凄く興味がある。いくら子守に慣れているとは言え、相手は8カ月の赤ちゃんと2歳半の難しい年頃の女の子だよ?普通は嫌がるでしょう・・・。
「う~ん・・。2人だから話しても良いけど・・、あんまり楽しい話じゃないよ?」
桃花は作業していた手を止め、マグカップの麦茶を一口飲んでゆっくりと話し出した。
思ったよりボリュームが出てしまいました。