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「撃ち殺せェ――――!」

「ひぃい」


 とある一言が原因だった。

 体育祭という文化が日本にはあるという話になった。それに興味を持ってしまった人がいた。


「次はあなたよ」

「ぼ、ボクは棄権する――」

「問答無用!」


 しょうがなく侍はその内容を説明する。

 どんなものか。どんな競技があるか。何が目的か。

 それ全てを話し終えると、目をキラキラさせ私たちもやろうということになった。


「くたばれ! 資本主義の犬!」

「くぅ、邪魔よ。共産主義の猿!」


 だから何をするのかの話になった。そのとき皆が興味を持ったものがあった。騎馬戦だ。

 これならある程度の臨場感もあるし代表的なものだと思い、詳しく説明していた大和だったが、まさかこうなるとは思っていなかった。


「ぜ、全然効かないじゃないのよ」

「ハハハハ、アタシの科学は世界一。これからは大砲塔時代だぜ」


 キュルキュルキュルキュル、という音を響かせながら現れた騎馬。そこには一切の生物的特徴などありはしなく、ただ武骨な金属でできていた。


 もちろん大和は抗議した。しかし、騎馬戦と言えばこれだろうと皆言ってくる。あまりの非常識さに頭を抱えたくなった。アウストリアが馬を持ってきたときにはほっとしたほどだ。


 しかし多勢に無勢。圧倒的多数決により、騎馬戦という名の戦争が幕を開けた。



 ――ドゥーン!



 開幕から大砲の音が聞こえてくる。

 くじ引きでチーム分けをし、互いにある程度距離を取ったところから始めたはずなのに、いきなりの開幕砲撃。


「さすがに届く分けな――」


 その言葉は途中で遮られた。となりにいたはずのアウストリアが宙を舞っていたからだ。ぎょっと目を見開き、その砲弾が飛んできたほうに視線を向けた。


「着弾確認」


 砲塔全面一八〇ミリ、車体前面一五〇ミリを超える装甲で覆われ、その砲塔は八八ミリに及ぶ。周りに比べると平たい形をしたそれは、相手の攻撃を躱すことなど一切考えておらず、相手の射程外からの砲撃を目的にした戦車。


 大戦期、連合国の戦車を圧倒し、世界で一番有名な戦車といっても過言でないそれの名は――。


「ティーガーⅡ……でござるか」


 ドイツが誇る超重戦車だった。


「あははは、やっぱり時代は大砲塔だよな」


 それを操るベロリナの高笑いがこちら側まで聞こえてくる。この攻撃によって、唯一この戦場で騎馬していたアウストリアが消し飛んでしまった。


「皆さん、回避行動をとってくださいまし。あれは鈍足ですから、素早く動けば当たりませんわ」


 あわてたようにブリタニアが叫ぶ。過去の記憶からか、あの戦車をとてつもない脅威と捉えているらしい。だが、そのおかげで対処法もわかっているようだった。


「くぅ、きたねえ真似を! 正々堂々闘え。ブタがッ」

「ブタ……ですって」


 それを見たベロリナは罵詈雑言を投げつける。そんな見え透いた挑発にブリタニアは乗ってしまう。


「わたくしに仕える最高の指導者の名を受け継いだ戦車で藻屑となってくださいまし。行きますわよ、ChurchillⅦ」


 キュィィィィィン、とまるでブリタニアの声に応えるかのようにそれはうなりを上げた。そしてTigerⅡに突撃していく。だが――。


「ちょ、ちょっと……ッ」


 ガツンガツン、とTigerⅡの砲撃が飛んでくる。直撃こそないが、爆風や破片がChurchillⅦに突き刺さる。


「射程外からの攻撃なんて卑怯よ」

「アタシはとっくの昔から射程内だ。卑怯もくそもない」


 ブリタニアは少しずつ前進しているが、もともと歩兵戦車で鈍足であるため、このままじゃたどり着く前に大破してしまいそうな勢いだった。


「Tigerを止めるわよ」


 そんな状況に現れたのは、自称世界のヒーローであるサミュエルだった。M4 Shermanで突撃していく。

 しかし、世界のヒーローでも車体の性能差はどうしようもなかった。だからサミュエルは用意した。


「いくわよ、No.2, No3」


 集団で囲みタコ殴りにするために部隊を。自立して動くM4 Shermanたちが二手に分かれベロニナを包囲する。そして。


「Sherman firefly」


 その一〇〇ミリもある装甲を打ち抜く砲撃を浴びせる。


「なんだと。あたしにダメージを与えるなんて」

「ふん。ブリタニアからパク――借りてきたのよ」

「いまパクリと言おうとしましたわね」


 一瞬見え隠れした本音にブリタニアがツッコミを入れる。それに冷や汗を流しつつも、どうするのと問いかけるサミュエル。


(このままじゃ不味いな。一台は屠れてもどの間にやられるだろうな。くそ、どうするか。)


 ベロリナが考えを巡らしていくが突破口は見えない。万事休すかと思ったとき、とある影が視界に飛び込んできた。ブ

 リタニアを助けるサミュエルがいるのなら、ベロリナにも助けてくれる戦友がいた。それもサミュエルと切っても切れぬ因縁を持つあいつが。


「藻屑となれ、資本主義の犬!」


 ヤパー教の創始者にして教祖であるやつがサミュエルに襲いかかる。


「きゃっ」


 かのドイツ軍にショックを与えた、大戦期の代表的傑作中戦車を乗り回すやつ。

 その装甲を斜めにし、見た目以上の防御力を発揮したそれが、砲弾飛び交う戦場を切り開いていく。


 その姿はグレーで無駄なものをすべて捨てたシンプル構造。その名はT-34。それを駆るのは、


「邪魔よ、共産主義の猿」


 真っ赤に染まることでおなじみのルーシだった。


「世界のために早く散ってくれ、サム」

「それはあなたがね」


 ガヂャン、と体当たりをしあう両者。使っているのは戦車だが、やってることはちゃんとした騎馬戦だった。


「あははは。あの時は敵だったが、味方となると頼もしいな。よっしゃ、行くぜ」


 邪魔者が消えたことで、TigerⅡの進行がまた始まった。周りのもはや戦車の形すらしていないものたちを蹴散らして進行していく。


「これはいけませんわね。侍、トゥッリタ。あなたたちも早く行きなさい」

「遠慮するでござるよ」

「ボクも同じく」


 ブリタニアからの指示が飛んでくるが、侍とトゥッリタはそれを拒否した。二人とも苦笑いを浮かべて目の前の戦場を見ている。


「なんでですのよ」

「なんでて言われても困るでござるな」

「ほら侍、持たざる者の気持ちは分からないってことじゃないかな」

「なるほどでござるな」


 二人が自分には理解できない会話で、二人だけ納得していることに不満が募ってくるブリタニア。


 とうとう我慢の限界だったか、直接理由を訊いてきた。


「まあ……」

「なんていうか……」

「「ボク(自分)たちがいっても瞬殺されるだけでからね(でござるよ)」」


 その回答にポカーンとするブリタニア。やっぱり、持っているものには分からないようだった。二人は、その顔を見て苦笑しつつ自分たちが乗り込んでいる車体に思いを馳せる。


 トゥッリタが乗っているのは、CV-33。

 装甲は一五ミリほどしかなく、最も薄いところは五ミリの始末。主砲も八ミリ重機関銃二挺のみという、なんとも心細い兵装。

 唯一の褒められるところは速度のみ。四十二キロも出る。付いたあだ名は豆戦車。ちょっと武装した自家用車くらいにした思われてない。


 対する侍が操るのは、九七式中戦車。

 CV-33よりはましな二五ミリ装甲。CV-33よりはましな主砲、五七ミリ戦車砲。CV-33にはない副砲、七・七ミリ重機関銃。CV-33よりも遅い三八キロの速度。

 付いた愛称はチハ。付いたあだ名は鉄の棺桶。正直に言おう、雑魚である。


「こんな民間車両を武装したようなもので行くより――」

「サム殿から盗んだバズーカをもっていったほうが強いでござるからな」


 自虐をしながら笑う。世界の歴史にネタとして名を残してしまった兵器しか二人にはなかったのだ。


「なんていう事ですの。はじめは侍が仲間になって喜んでいたのに、まさかの役立たずではありませんか」

「言われてるよ、侍。言い返さなくていいの」

「事実でござるからな。実際にサム殿から盗んだシャーマンが一番戦果を挙げたでござるし、せめて戦場が海であれば」

「侍は強いもんね」

「まあ、兵器だけでござるが」

「「あははははは……」」


 自虐ネタで盛り上がる二人。そんな二人をよそにブリタニアは頭を抱えていた。



 ――ちゅどーん。



 そんな中、耳をふさぐくらいの爆発音が戦場を包む。

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