こんくーる?
私が物心ついたころ、お母様はむかし有名なピアノ奏者だということを知った。
それは6歳のころだった。
当たり前のようにピアノを弾いていた私には正直それが意味することがよくわからなかった。
お母様は私のピアノの教師である優お母様だ。お母様と一緒にピアノを弾くのは楽しかったし、ピアノを弾かされているというより弾くことが普通だと思っていた。お父様はそんな私達を優しく見守ってくれていた。今思えばこの日常は私にとって、とっても幸せだった。
ある日、お母様は私にこんな話を持ちかけた。
「ねえ雪季。コンクールに出てみない?私が審査員をするのだけれど。」
「こんくーる?こんくーるってなにぃ、おかあさま。」
「コンクールっていうのは、とにかくピアノを弾くのよ。みんなの前で。」
「それはおかあさまも、ゆきのピアノをきいてくれるの?」
「うんそうだよ。私が雪季のピアノを聴くのよ。出てみない?」
「いいよ!ゆき、こんくーるでる!」
「じゃあ決まりね。」
コンクールなんてわけの分からないことは私にとってどうでもよかった。
ただ、お母様が私のピアノを聴きたいから出てというので出るのだ。コンクールにでる理由なんて
幼い私にはそれだけでよかった。嬉しそうに顔をほころばせるお母様を見て、私は無性に嬉しくなった。
コンクールの曲としてお母様は私にモーツァルトのキラキラ星変奏曲というものを教えてくれた。
お母様が喜んでくれる。お母様が私のピアノを喜んで聴いてくれるのがうれしかった。
もっとピアノを弾きたい。もっとお母様を喜ばしたい。それだけ、たったそれだけの理由で私はピアノを
弾いていた。1曲弾けるようになるたび母は喜び。私もうれしくなった。
これが神童、風間 雪季が生まれた物語だった。